数年前に遺言書を作成していて、Aさんに包括遺贈をしてほしいと遺言書に記載していました。
しかし、半年前にAさんが亡くなってしまったのです。
Aさんの他にもう一人、包括遺贈の受遺者としてもうBさんを指定しています。
彼にもとてもお世話になったので、Aさんに受け取ってもらえないのであればBさんに受け取ってほしいと思っています。
遺言書をこのままにしておいてもAさんの遺贈分までBさんが受け取ることはできるのでしょうか?
今回のご相談は、遺言書をすでに用意されているものの、包括遺贈の受取人が死亡してしまい、他の包括遺贈者の受け取る財産は増えるのか?といったご相談でした。
結論から申し上げますと、Aさんがお亡くなりになったからといって同じ包括遺贈者であるBさんの取り分が増えるということはありません。
今回は、包括遺贈者が遺言者よりも先に死亡した場合その遺言はどのような取り扱いになるのかをご説明します。
目次
遺贈とは?
遺贈とは、遺言書によって遺産の全部または一部を法定相続人や法定相続人以外の人に対して無償で財産を受け継がせることです。
遺贈の特徴は、相手が誰であっても承継させることのできるということです。
つまり、身内ではない人に対してはもちろん、企業や団体であっても財産を承継させることもできます。
遺贈の種類は一般的に2種類
全ての財産を遺贈することを包括遺贈(ほうかついぞう)といい、一部の財産を遺贈することを特定遺贈(とくていいぞう)と言います。
特定遺贈と包括遺贈について詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:包括遺贈とは?特定遺贈との違いと包括受遺者の権利義務について解説行政書士が解説!
そして、遺贈を受け取る人のことを受遺者(じゅいしゃ)と呼びます。
受遺者について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:受遺者とは?2つの種類を行政書士が分かりやすく解説!
遺贈と相続の違い
遺贈と相続の一番の違いは、当然に財産を受け取る権利がある人かどうかということです。
遺贈は遺贈者の意思で指定することで受遺者が財産を引き継ぐことができるものです。
一方で、相続によって被相続人の財産を引き継ぐことができるのは、法定相続人(※1)のみとなります。
※1 法定相続人とは・・・
民法では「誰が相続人になれるのか」を定めています。
この相続をすることができる権利を有する人のことを「法定相続人」と呼びます。
相続と遺贈の違いについて、詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:遺言書で相続人に対しても遺贈できる?相続との違いを行政書士が解説!
包括遺贈と法定相続人の違い
包括遺贈により遺贈を受ける人のことを包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ)と呼びます。
包括受遺者の権利義務について、以下のような法律の定めがあります。
民法 第990条 包括受遺者の権利義務
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
つまり、包括受遺者は法定相続人と同じ権利義務を有しています。
しかし、以下の2点のついては相続人とは異なるため注意が必要です。
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以下で詳しくご説明します。
包括受遺者には代襲相続が発生しない
法定相続人の場合、遺言者が亡くなった時に対象となる相続人がすでに亡くなっていたとしても、その対象となる相続人の子どもや孫が代襲相続する権利が発生します。
一方、包括受遺者の場合は代襲相続の権利は発生しません。
したがって、遺言者が死亡した時点で包括受遺者がすでに亡くなっている場合には、受遺者の子どもや孫などには代襲相続する権利は発生しません。
つまり、包括受遺者の場合には、受遺者たる地位は子どもや孫にまで承継されるものではなく、指定された受遺者本人にのみ権利が生じます。
合わせて読みたい:相続人が同時に死亡した場合の相続はどうなる?同時死亡の推定と代襲相続の関係について解説
他の相続人が相続放棄をしても影響を受けない
相続人の中で、相続の放棄があった場合、法定相続人の場合には他の相続放棄をしていない相続人の取り分が増加します。
一方、包括受遺者による受遺者の場合にはその割合が増えることはありません。
つまり、包括受遺者の場合、他の人の動向に関係なく受け取る財産に変更はないということです。
合わせて読みたい:相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説!
遺贈の効力は遺言者の死後に生ずる
遺言の効力の発生時期について、以下のような法律の規定があります。
民法985条1項 遺言の効力の発生時期
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
つまり、遺言は原則として遺言者が死亡した時から効力が生じると規定されています。
したがって、遺言によって遺産を引き継ぐ見込みのある人、つまり遺言書によって受遺者として指定されている人や法定相続人であっても、遺言者が亡くなるまでは遺産に対して何ら権利はないのです。
受遺者が遺言者よりも先に死亡した場合には遺贈の効力は失われる
遺贈の効力について、民法に以下のような規定があります。
民法 第994条1項 受遺者の死亡による遺贈の失効
遺贈は、遺言者の死亡時以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
つまり、この規定は遺言者よりも先に受遺者が亡くなっていた場合には、その遺贈をする旨の遺言は”無効”になってしまうということです。
この”無効”とは、遺言全体が無効となるわけではなく、当該死亡した受遺者に遺贈するはずであった部分についてのみ無効になるという意味です。
したがって、複数人に対して遺贈する遺言の場合、先に死亡した受遺者の部分のみ無効となり、それ以外の部分については有効な遺言として取り扱われます。
つまり、他の受遺者には何ら影響はなく、取り分が増えるということも生じません。
受遺者の死亡により無効となった部分は法定相続人が相続する
受遺者が先に死亡したことにより遺贈が無効となる場合、遺贈の対象物は相続人が相続することになります。
遺贈が無効となった場合について民法に以下のような規定があります。
民法995条 遺贈の無効又は執行の場合の財産の帰属
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。
被相続人が有していた財産については、原則として遺言書に記載がない限り法定相続人が遺産分割協議に基づいて相続することになります。
つまり、遺贈が無効となった場合には、遺贈として指定されていた財産については遺言によって指定されていない財産という扱いになるため、遺産分協議の対象となり、法定相続人が相続するということになるのです。
生存している他の包括受遺者が相続人の場合は例外
法定相続人が受遺者として指定されている場合には、”遺贈分+遺産分割協議によって相続する財産”を受け取ることになります。
そのため、包括受遺者が遺言者よりも先に亡くなっていた場合、その人に対して指定されていた財産については法定相続分に含まれることになるため包括受遺者とはいえ受け取る財産は増加します。
なお、相続人が受遺者となる場合、特別受益が問題となる可能性があります。
特別受益については以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意
受遺者の死亡に対応するためには予備的遺言がおすすめ
遺言者よりも先に受遺者が死亡すると遺贈は無効となりますが、遺言書に第二希望の意思表示を記載することができます。
これを”予備的遺言”と呼びます。
予備的遺言については以下のリンクよりご確認ください。
合わせて読みたい:相続人が先に亡くなった場合どうなるの?予備的遺言について解説!
予備的遺言を遺言書に記載しておくことで、遺言者よりも先に受遺者が死亡していたとしても、該当の財産が指定のない財産として法定相続分となるわけではなく、遺言者の意思を反映することができます。
遺贈の遺言書を作成する場合には注意が必要
せっかく作った遺言書でも包括受遺者が先に死亡してしまった場合、その部分について無効となってしまいます。
また、他の包括受遺者が存在したとしても取り分が増えるということではなく、あくまでも該当の財産については無効であるとして遺産分協議の対象とされてしまいます。
遺言書に予備的遺言などの工夫をすることでご本人の意思を反映させることもできます。
遺言書の作成の際にご心配ごとがある場合には、長岡行政書士事務所にご相談ください。
<参考文献>
常岡史子/著 新世社 『ライブラリ今日の法学=8家族法』