特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意

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生前に親から多額の援助を受けた、これって相続に影響するの?特別受益とは何か

「生前贈与は相続で特別受益になると聞いたけれど、特別受益って何?」
「以前のコラムで特別受益の持ち戻しについて知った。でも、特別受益の内容についてもう少し詳しく知りたい。」
「大学院で長く研究をしていた。ここでかかった学費、特別受益になるの?」

 

以前、本コラムの関連記事で「特別受益の持ち戻し免除」について説明したことがあります。
→記事はこちら:生前に受けた贈与、相続の際どうなるの?~特別受益と持ち戻し免除~

 

そこでは、生前贈与などがあった場合に、その贈与額が相続財産に加算されて相続額が計算される、という仕組みと、それを免除する場合について説明しました。

今回は、その『特別受益』について焦点をあて、特別受益の基本についてより詳しく説明をしたいと思います。

長岡:「こんにちは!今日もよろしくお願いします。」

Aさん:「よろしくお願いします。」

長岡:「Aさん、以前のコラムで説明した『特別受益の持ち戻し』についての記事を覚えていますか?」

Aさん:「はい、住宅購入資金などの援助を受けた場合、相続の財産に含めて計算する、ということですよね。」

長岡:「その通りです。以前の記事では、主に特別受益の「持ち戻し」と「持ち戻し免除」について説明しましたが、今回はそもそもの『特別受益』についてよりくわしく説明していきたいと思います。」

Aさん:「たしかに、前回の記事では何が特別受益にあたるのか、具体的例はあまり挙げられていませんでしたね。」

長岡:「そうですね。順番が後になってしまいましたが、今回の記事で特別受益の基本を知っていただけたらと思います。」

Aさん:「わかりました!早速ですが、よろしくお願いします。」

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特別受益とは

被相続人(亡くなった方)から遺贈や生前贈与によって特別の利益を受けた相続人がいる場合、その相続人の受けた利益のことを「特別受益」といいます。

各相続人の相続分は、この特別受益の額を、相続開始時に残されている通常の相続財産と合算して決めなければなりません。

長岡:「今回の記事では特別受益の基本を押さえたいわけですが、押さえたいポイントとしては、次の3つです。

  1. 特別受益の対象となる人は誰なのか(特別受益者の範囲)
  2. 何が特別受益とされ、何が特別受益とされないのか
  3. 特別受益の評価(価額)はいつ時点でするのか

Aさん:「誰についてのどんな行為について、いつ時点の価額をもって特別受益とするのか、ということですね。」

長岡:「その通りです。」

特別受益者の範囲(特別受益の対象となる人)

ではまず最初に、特別受益の対象となる人についてしていきたいと思います。ここでもう一度、特別受益に関する法律の規定を挙げておきましょう。

民法第903条
1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2.遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3.被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

3.婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

前述した民法903条を読み取ると、特別受益の対象となるのは、相続人のみです。この「相続人」をもう少しくわしく言い表すと、「贈与時の推定相続人」となります。

 

推定相続人
ある人が亡くなって相続が始まる時に「相続人」になるであろう人のことをいいます。
例えば父・母・長男・次男の4人家族の場合で、父が亡くなると仮定した場合、
母・長男・次男が推定相続人になります。

したがって父親が長男に不動産を贈与したような場合、この贈与時に父親は亡くなっていませんが、子どもは推定相続人にあたるので、特別受益が認められることになるのです。

また、相続の際、相続人が亡くなっていた場合に「代襲相続人」が相続する場合がありますが、この代襲相続人への贈与は特別受益になるのでしょうか。

 

代襲相続人
代襲相続人とは、相続人である子や兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合に、その子(亡くなった人から見て孫や姪・甥)が相続人となる場合の呼び方です。

代襲相続人に贈与された場合、贈与時期によって特別受益となるかどうかが異なります。

  • 相続人である子の死亡の孫(代襲相続人)への贈与→孫(代襲相続人)は推定相続人ではないので特別受益は成立しません。
  • 相続人である子の死亡の孫(代襲相続人)への贈与→孫(被代襲相続人)はすでに推定相続人になっているので、特別受益の対象となります。

長岡:「以上が特別受益の対象となる人の範囲となります。」

Aさん:「贈与時に推定相続人だった人が対象なのですね。」

特別受益に該当する行為

長岡:「特別受益の対象となる人が分かったと思いますので、次に、どのような行為が特別受益に該当するのか、くわしく見ていきたいと思います。」

Aさん:「前回の記事では、『財産の前渡しの性質と言えるもの』という説明を受けた記憶があります。」

長岡:「覚えていてくれて嬉しいです。条文で定められている『生計の資本としての贈与』については、具体的にどのような贈与か明記されていませんので、財産の前渡しと言える性質のものかどうかで判断されるのです。」

長岡;「今回は、特別受益に該当する贈与について、具体的なケースをいくつか挙げてみていきたいと思います。」

遺贈

特別受益の対象となる遺贈は、「すべての遺贈」です。

ここで一度、「遺贈」と「相続」の違いを説明しておきましょう。

相続
亡くなった人の財産を、法律で定められた相続人(法定相続人)が引き継ぐことをいいます。
亡くなった人の財産を相続できるのは、法定相続人のみとなります。

 

遺贈
遺言書により、無償で財産を譲ることをいいます。
遺贈を受けることのできる人(受遺者)は、法定相続人以外の第三者でも可能です。
法人が受遺者になることもできます。

 

したがって、遺言書で法定相続人に財産を「遺贈する」のか「相続させる」のか、その言葉の違いにより取扱い方が大きく異なってきますので注意が必要です。「遺贈する」と記載した場合、特別受益に該当しますので、相続の際持ち戻しの対象となります。

養子縁組の費用

養子縁組のための贈与とは、養子縁組に際して、実親が持参金を贈与した場合、特別受益の対象となります。

 

生計の資本としての贈与

生計の資本としての贈与については、何が生計の資本としての贈与なのか、明確な定めがありません。

 

どのような贈与が該当するのか個別に判断していくことになりますが、判断の基準としては、その贈与が被相続人の扶養義務としての援助の範囲内と考えられる場合には該当せず、遺産の前渡しと言えるような場合には生計の資本としての贈与に該当すると考えられています。

 

遺産の前渡しと言えるかどうかについては、被相続人の生前の収入や資産、社会的地位などから総合的に判断することになります。

以下に、生計の資本としての贈与として問題となるケースを挙げてみましょう。

 

居住用の不動産の贈与

親が子に、住宅を購入する場合があります。
居住用の不動産は価額も高く、資産価値のある財産です。不動産の贈与を受けた相続人にとってとても大きな利益となりますので、生計の資本としての贈与として特別受益とされる場合がほとんどです。

 

金銭・有価証券・動産などの贈与

金銭や有価証券、金銭債権などの贈与は、すべての贈与が特別受益とされるわけではありません。
前述したように、被相続人の収入や社会的地位、生活状況などから、その贈与がとの程度の意味合いを持つのかを総合的に判断します。

 

小遣いやちょっとした生活費の援助などの目的で金額も少額であれば、扶養義務の援助の範囲内であると判断され、特別受益には該当しないケースが多いと考えられます。一方、小遣い等の範囲を超え、相続の前渡しと言えるような性質の多額の贈与であれば、特別受益に該当することになります。

 

学資

現代の社会では義務教育は中学校までですが、高等学校教育は現在の教育水準で考えると、ほぼ義務教育と同じ状態であるといえます。

したがって学資については、大学以上の教育や、留学などのさらなる教育のための学資が対象となると考えられます

 

ただし学資の特別受益についても、贈与した人の資産や収入、社会的地位などによって総合的に判断されることになります。被相続人の生前の資産や収入、社会的地位などに照らし、その程度の教育をすることが被相続人にとって普通である場合は、扶養の範囲内と認められ、特別受益とは判断されないことになります。

 

したがって、例えば共同相続人である子の全員が同じ程度の教育を受けている場合には、特別受益になるかどうかはほとんど問題になりませんが、一人だけが大学教育を受けたというようなケースには、その相続人については特別受益があると判断される場合があります。

土地や建物の無償利用

土地などの遺産を無償で使用する場合については、二つのパターンがあります。

 

  1. 遺産である土地上に相続人の一人が建物を建てて土地を無償で使用している
  2. 遺産である建物に相続人の一人が居住している場合

 

遺産である土地上に相続人の一人が建物を建てて土地を無償で使用している場合は、特別受益に該当すると判断されることがほとんどです。

なぜなら、もし相続人の一人がその土地を使用していなければ、その土地を貸し出して賃料を得ることができたわけですが、相続人の一人がその土地を無償で使用することで、得られたであろう賃料分の損失が他の相続人に生じているからです。

言い換えれば、土地を無償で使用している相続人は、賃料分の利益を得ているということになりますので、特別受益に該当すると考えられるのです。

 

遺産である建物に相続人の一人が居住している場合は、被相続人と同居していたかどうかで異なります。

相続人が被相続人と同居していなかった場合は、家賃相当額の特別受益とされます。

これは土地の場合と同様、もし建物を貸し出していた場合は賃料を得ることができたはずですので、その分が特別受益に該当すると考えられるからです。

 

一方、相続人が被相続人と同居していた場合は、得られるはずであった賃料収入という概念はありませんので、被相続人の財産は何も減少しておらず、特別受益には該当しないと考えられます。

 

特別受益に該当しない行為

Aさん:「特別受益と判断される贈与には、色々なケースがあるのですね。」

長岡:「そうですね。何だか何もかもが特別受益に該当するように思えてきてしまいますが、次に、特別受益とはされないものについて説明したいと思います。」

Aさん:「該当しないものもあると聞いて少し安心しました・・・。どのようなケースなのでしょうか。」

長岡:「おもに、生命保険金と死亡退職金、婚姻のための費用がありますが、それぞれ判断が分かれるケースがありますので説明していきましょう。」

生命保険金

生命保険は、原則として特別受益に該当しません。

生命保険金は保険契約に基づき保険会社から受取人に支払われるものですので、受取人の固有財産として扱われ、相続財産には含まれないと考えられているからです。

但し、遺産総額に対してあまりにも高額な生命保険金の場合、例外として特別受益に該当することもありますので注意が必要です。

死亡退職金

死亡退職金については法的性質が多様なため、特別受益に該当するかどうか、判断が分かれる場合があります。

死亡退職金が「賃金の後払い」と言える場合は遺産となるため、特別受益になる場合があります。
しかし「遺族の生活保障」と言える場合は、遺産ではないので特別受益にならないことになります。

死亡退職金の取得者と相続人の範囲、取得者の決め方や金額の算定方法などから、死亡退職金が特別受益に該当するか否かが総合的に判断されることになります。

婚姻のための費用について

婚姻のための費用とは、結婚の際の持参金や支度金、家財道具などが該当します
結納金や結婚式の費用は一般的に特別受益には含まれないと考えられています。

結納金や結婚式の費用が含まれないと考えられているのは、それらが慣習として親が負担するのが当然とされていたり、社交上の出費と捉えられている傾向が強いためです。

近年は価値観も変わり本人が負担する場合も増えてきていますので、金額や被相続人の経済状況、贈与の趣旨などを考慮し、その結果特別受益に該当する場合もあります。

特別受益の評価・算定時期

長岡:「最後に、特別受益の算定時期について説明して終わりましょう。」

Aさん:「算定時期とはつまりどのようなことですか?」

長岡:「被相続人から生前贈与を受けた場合、贈与時と相続開始時とで目的物の価値が異なる場合があり、そのようなとき、いつを基準として特別受益を評価するのか、ということです。」

Aさん:「なるほど。財産価値は変動するので、いつ時点の価額で評価するのか、ということですね。」

長岡:「そうです。この点、特別受益の評価は『相続開始時点』と考えられています。」

Aさん:「例えば1,000万円の土地を生前贈与されていた場合、相続開始時に1,500万円になっていれば、1,500万円の特別受益として評価されるのですね。」

長岡:「そうなります。その例とは逆に、相続開始時に価値が下がっている場合もありますが、下がっている場合でも相続開始時の価額で評価されることになります。」

生前贈与は特別受益となる場合があることを留意

親が子に、住宅資金の援助や婚姻費用、まとまった金額の資金援助などをするケースは比較的よく見受けられることです。

親にとっては子への扶養義務の援助のつもりであっても、金額やその他の状況から判断して、特別受益に該当し、相続の際にその特別受益が持ち戻されてしまう場合もあります。

 

生前贈与をする際には、金額や目的、そのほかの相続人との関係や状況を考慮し、その贈与が特別受益に該当する可能性を十分視野に入れて検討することが必要と言えます。

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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