包括遺贈とは?特定遺贈との違いやメリット・デメリット、受遺者の権利義務について行政書士が解説!

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包括遺贈とは?特定遺贈との違いと包括受遺者の権利義務について行政書士が解説!

一口に「遺贈」といっても、種類があることをご存知でしょうか。知らずに遺贈を受けてしまうと、思わぬトラブルに発展してしまうかもしれません。

この記事では遺贈の中でも注意すべき「包括遺贈」の権利義務について、特定遺贈との違いやメリット・デメリットと合わせて解説します。

ご相談者様:50代女性

こんにちは。先日、遺贈を受けるお話をいただき、相談に参りました。

遺贈をしてくださるのは、ご近所に住む知人女性です。

 

彼女のご主人がお亡くなりになった後、一人暮らしをされていたため、よく一緒に買い物へ行ったり私なりに気にかけてきました。

彼女はとても感謝してくださっていたようで、遺言書に、財産の3分の1を私に遺贈する旨の記載があったそうです。

そんな話を聞いたこともなく、突然のことに驚いています。

せっかくのご厚意ですからお受けしたいと思っているのですが、遺贈を受けた場合どのような手続きが必要なのかということや、効果があるのかといったこともわからず、不安になり相談に参りました。

遺贈を受けることによって、どのような効果が生じるのかなど、総合的に判断して遺贈を受けるのかを決めたいと思っています。

回答:長岡行政書士事務所 長岡

今回のご相談者様は、知人女性から遺贈を受けたけど、どのような手続きや効果があるのかなど総合的に判断したいということでご相談にいらっしゃいました。

『遺贈』と一言で言っても、『特定遺贈』と『包括遺贈』の2種類があります。

そして、それぞれ遺贈を受けることによって生じる権利義務についても異なります。

 

今回のご相談内容は包括遺贈についてのようですね。

では、以下で包括遺贈について説明していきたいと思います。

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『遺贈』とは他人に財産を譲ること

遺贈とは、「遺言」によって遺産の一部又は全てについて相続人や、相続人以外の人(団体なども可能)に無償で自己の財産を譲る行為のことをいいます。

 

そして、遺贈をする人のことを『遺贈者(いぞうしゃ)』といい、遺贈によって財産を受け取る人のことを『受遺者(じゅいしゃ)』といいます。

 

遺贈は、相続人以外の人へ財産を承継させたい場合などに活用されるケースが多いです。

遺贈の効力は遺贈者の死亡時から発生する

遺贈は、無償でできるとともに、相手方の同意を必要としない単独でできる行為です。

 

有効な遺言書によって遺贈がなされると、効力は遺言者の死亡時から発生します。

そして、遺贈の対象となっている権利は遺贈の効力発生と同時に受遺者に移転します。

 

つまり、遺言者が死亡した時に効力が発生するとともに、遺贈の目的物は受遺者に権利が移転します。

遺贈は「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類

遺贈は、大きく分けて『特定遺贈(とくていいぞう)』と『包括遺贈(ほうかついぞう)』の2種類に分けられます。

『特定遺贈』と『包括遺贈』は、指定方法によって分類されます。

  • 特定遺贈 ⇨ ”甲土地”のように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。
  • 包括遺贈 ⇨ 財産の”全部”や”半分”などのように、割合を指定して遺贈する方法です。

特定遺贈とは、遺贈したい財産を具体的に指定して行う遺贈です。

例:長男Aに甲建物と乙土地を遺贈する

  次男Bに時計のコレクションを遺贈する

  長女Cに〇〇銀行の〇〇口座の預貯金を遺贈する 等

特定遺贈では遺贈する財産を具体的に指定します。

そのため、遺言者が指定しない限りはマイナスの財産が引き継がれることはありません。

 

遺言書に書かれた財産がそのまま受遺者に承継されることになります。

 

特定遺贈について、詳しくは以下のリンクからご確認ください

合わせて読みたい:特定遺贈とは?包括遺贈との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説

特定遺贈とは?包括遺贈との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説

 

一方、財産の”全部”や”半分”、”3分の1”などのように、割合を指定して遺贈することを『包括遺贈』と言います。

例:長男Aに全財産を譲る

  長男Bに財産の3分の1、長女Cに3分の2を譲る 等

包括遺贈については、以下のような特徴があります。

  • 包括受遺者はプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も承継してしまう
  • 財産内容が変わっても遺贈は無効とはならない
  • 遺産分割協議に参加する必要がある
  • 包括遺贈の放棄をする場合、原則として3ヶ月以内にしなければならない

特定遺贈と包括遺贈の違い

遺贈には『特定遺贈』と『包括遺贈』の2種類があり、どちらの方法が良いかは、状況やどのような形で承継して欲しいかによって異なると思います。

特定遺贈と包括遺贈の違いは以下の通りです。

包括遺贈特定遺贈
遺言書で財産の全部または一部の割合を包括的に指定して遺贈する方法遺言書でどの財産を承継させるか特定して遺贈する方法

これらの特徴をふまえると、包括遺贈と特定遺贈の実務的な違いは次の4点です。

  • 遺産分割協議への参加について
  • 遺贈の放棄ができる期間について
  • マイナス財産の承継について
  • 死亡時までの財産変更について

遺産分割協議への参加について

包括遺贈特定遺贈
遺産分割協議への参加が必要遺産分割協議への参加は不要

遺贈の放棄ができる期間について

包括遺贈特定遺贈
相続の開始があったことを知ってから3ヶ月以内に放棄が必要

(家庭裁判所への申立てが必要)

相続放棄の意思表示に期限はない

(相続人に対して相続放棄の意思表示をすることで放棄可能)

マイナスの財産の承継について

包括遺贈特定遺贈
遺言書で指定された割合について、承継する具体的に遺言書で指定がなければ承継しない

死亡時までの財産変更について

包括遺贈特定遺贈
遺贈を割合で指定するため、減った財産に合わせて承継する額が減るが無効となるわけではない遺贈の対象となる財産を具体的に指定するため、財産が消滅すれば無効となる恐れがある

包括遺贈のメリット

ここまで紹介した特徴をふまえると、包括遺贈のメリットは次の3点です。

  • 財産内容が変わっても包括遺贈は無効とはならない
  • 割合を指定するだけで遺贈できる
  • 遺贈対象を柔軟に決められる(遺産分割協議に参加できる)

それぞれのメリットについて解説します。

財産内容が変わっても包括遺贈は無効とはならない

包括遺贈は、財産のうち具体的に指定せず遺贈することができます。

つまり、遺贈者が”死亡時に有する全財産のうちの何割”といった指定ができます。

例えば、遺言時の財産は1億円だったが、亡くなる際は5000万円に減っていても指定された割合を承継することができます。

一方、遺贈の対象を『甲土地』等、具体的に指定していた場合、状況の変化によって指定した物が消滅したような場合には受遺者は財産を承継することができません。

しかし、包括遺贈であれば『死亡時における全資産のうちの何割』という指定なので資産の増減にも対応することができます。

合わせて読みたい:遺言書に書いた財産を生前に処分した場合はどうなるの?その効果について解説!

財産処分によって遺言は撤回される?生前処分による遺言の一部撤回について行政書士が解説

割合を指定するだけで遺贈できる

遺言者は遺贈する割合を決めればいいだけなので、特定の財産を指定する特定遺贈よりは、遺言者の負担が少ないこともポイントです。(表裏一体として、受遺者側の負担は増えてしまいます)

遺贈対象を柔軟に決められる(遺産分割協議に参加できる)

包括遺贈は受け取る財産の割合が決まっているだけなので、どの財産を受け取るかや遺産分割協議によって柔軟に決められます。

(こちらもメリットの裏返しとして、受遺者側の負担は増えてしまいます)

包括遺贈のデメリット

包括遺贈には一定のメリットもありますが、次のデメリットについても考慮しなければなりません。

  • 包括受遺者はマイナスの財産も承継してしまう
  • 遺産分割協議に参加する必要がある
  • 包括遺贈の放棄は3ヶ月以内にしなければならない

それぞれのデメリットについて解説します。

包括受遺者はマイナスの財産も承継してしまう

包括遺贈は、プラスの相続だけではなく、承継する財産の割合でマイナスの財産も承継してしまう可能性があります。

 

まずは包括遺贈の受遺者の権利義務について、民法990条に定めがありますので、確認をしておきましょう。

 

 民法 第990条
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する。

 

この規定の通り、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を負うため、相続と同様にプラスの財産も受け継ぎますが、全財産に対する割合に応じたマイナスの財産も承継してしまいます。

 

このように、プラスの財産を承継するだけではなく、マイナスの財産も指定された遺贈の割合に応じて承継されることになるのが包括遺贈の大きな特徴です。

 

包括遺贈によって財産を承継する場合には、亡くなった方に借金などのマイナスの財産がないかどうか、しっかりと確かめてから承認、あるいは放棄の選択をすることをおすすめします。

遺産分割協議に参加する必要がある

包括遺贈では受遺者がどの財産を承継するかは決められていません。

そのため、他の相続人と同様に遺産分割協議に参加する必要があります。この点は、受け取る財産を柔軟に決められるメリットとしても紹介しました。

 

受遺者も血縁関係にあるなど、他の相続人等と関係が良好であればあまり問題はないかと思います。

しかし、相続人と受遺者の関係が良好とは言えないような状況では遺産分割協議がスムーズに進まない恐れもあり、場合によってはトラブルに発展する可能性もあります。

包括遺贈の放棄は3ヶ月以内にしなければならない

包括遺贈を放棄することは可能ですが、放棄することのできる期限が定められています。

 

民法 第915条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

 

包括遺贈で受遺者になったっものの、亡くなった方に借金などのマイナスの財産がある場合など、いずれの場合においても放棄する場合には原則として3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。

 

突然受遺者になりましたと知らされ、3ヶ月以内に考えてください、とはなかなか大変なことだと思いますが、よく検討してから”承認”あるいは”放棄”のご決断することをおすすめします。

 

遺贈の放棄について、詳しくは以下のリンクからご確認ください

合わせて読みたい:遺贈は放棄できる?遺贈の放棄と注意点を行政書士が解説

遺贈は放棄できる? 遺贈の放棄と注意点を行政書士が解説

 

包括遺贈の活用がおすすめなケース

包括遺贈のメリットやデメリット、特定遺贈との違いをもとに、包括遺贈がおすすめなケースをご紹介します。

  • 全ての財産を一人の人に承継して欲しい場合
  • 遺言書の作成後、財産内容に変更が生じる可能性が高い場合
  • 借金がなく、将来的にも借金をするつもりがない場合
  • 受遺者にも遺産分割協議に参加して欲しい場合

包括遺贈の特徴は、相続人と同一の権利義務を負うという点です。

 

つまり、遺産分割協議に参加することも可能であったり、借金などのマイナスの財産を承継してしまう可能性もあります。

 

他の相続人との関係が良好であったり、トラブルに発展することがなさそうな場合には包括遺贈は有効な手段ということができると思います。

包括遺贈の注意点

包括遺贈をする場合の注意点を3つ紹介します。

  • 遺留分を考慮した遺言書を作成する必要がある
  • 受遺者が亡くなった場合の対策が必要・遺言執行者を指定しておくと安心
  • 遺留分を考慮した遺言書を作成する必要がある

遺留分を考慮した遺言書を作成する必要がある

包括遺贈を行う際には、相続人等の遺留分を侵害しない形で遺言書を作成する必要があります。

遺留分とは一定の範囲の相続人が相続財産から一定の割合で権利を請求できることを法律上確保する制度です。

遺留分について、詳しくは以下のリンクからご確認ください

合わせて読みたい:遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!

遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!

遺留分が侵害された部分の遺言書については無効となる可能性がありますのでご注意ください。

また、遺留分が侵害された相続人は受遺者に対して『遺留分侵害額請求権』を行使することができます。

 

トラブルを避けるためにも、遺留分を侵害しないような遺言書の作成をする必要があります。

受遺者が亡くなった場合の対策が必要

本来であれば法定相続人になるはずの方が既に亡くなっている場合などには、相続人であれば子供に相続権が発生する、代襲相続をすることができます。

しかし、遺贈を受け取る受遺者の場合、代襲相続は発生しません。

 

遺贈者よりも先に受遺者が亡くなってしまった場合、包括遺贈が無効となってしまう恐れもあります。

そのため、「先に受贈者が亡くなってしまった場合には、その受遺者の子供であるAに対して遺贈する」というように、予備的に遺言を記載しておくと良いでしょう。

合わせて読みたい:相続人が先に亡くなった場合どうなるの?予備的遺言について解説!

遺言執行者を指定しておくと安心

包括遺贈うを行う際には、遺言書の作成だけではなく遺言執行者の選任もしておくことをおすすめします。

 

遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実現するための代理人です。

遺言執行者を選任しておくことで、遺言執行者に相続手続きを任せることができます。

遺贈の場合は相続人と受遺者、それぞれの関係が良好ではないことも考えられますから、第三者の立場から遺言内容を実現してくれる専門家を指定しておくと安心です。

遺言執行者について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。

合わせて読みたい:遺言執行者の権限を遺言書に明記するポイントについて解説

遺言執行者の権限を遺言書に明記する書き方|行政書士が分かりやすく解説!

横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言執行についても対応しています。

包括遺贈の特徴をしっかり理解してから利用することが大切

包括遺贈の特徴は、メリットがある反面、デメリットもあります。

包括遺贈のメリット

  • 財産内容が変わっても包括遺贈は無効とはならない
  • 割合を指定するだけで遺贈できる
  • 遺贈対象を柔軟に決められる

包括遺贈のデメリット

  • 包括受遺者はマイナスの財産も承継してしまう
  • 遺産分割協議に参加する必要がある
  • 包括遺贈の放棄は3ヶ月以内にしなければならない

そのため、個別の事案ごとによく検討してから『特定遺贈』か『包括遺贈』を選択する必要があります。

 

双方の制度について、違いをよく理解した上で遺贈しなければトラブルに発展する可能性もあります。

 

また、包括遺贈で受贈者として指定された場合にも、よく検討してから『承認』あるいは『放棄』を決める必要があります。

受遺者が亡くなった場合の対策など複雑な事案もありますので、専門的な知識を有する行政書士に相談しながら安全な方法で行うことをおすすめします。

 

相続についてご心配などがあるときは、横浜市の長岡行政書士事務所へ一度相談にいらしてください。初回相談は無料で対応しています。

 

<参考文献>

常岡史子著 新世社 『家族法』

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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