よく巷で遺言書を作成した方が良いと聞いたことはあると思います。でも、今のところ、私の所は仲がいい家族なので必要が無い!という方々も多いでしょう。
家族が仲良しでも、遺言書を作成した方がいいケースも存在します。
そこで今回は、遺言書を作成した方が良いケースを、行政書士の監修のもと、昔話風の形式で解説します。
むかしむかし、あるところに三匹のこぶたがいました。
一番上の兄ぶたは石の家、弟ぶたは木の家、末っ子ぶたはワラの家を作って育ちました。
今日も兄弟ぶたたちは、母ぶたのお手伝いをしながら、家族仲良く暮らしていました。
そこへ、隣村に住む行政書士見習いである赤ずきんちゃんと漁師さんが遊びに来ました。
赤ずきん「どう? 最近は、あの悪いオオカミはちょっかいかけてきてない?」
そう、今まで兄弟ぶたや母ぶたを食べてしまおうと、オオカミがあの手この手で皆をだまそうとしていたのでした。
そのたびに兄弟ぶたたちの団結力と、赤ずきんちゃんの知恵と機転で追い払ってきたのでした。
母ぶた「ありがとうね。おかげさまで、最近は平和で過ごせているよ」
赤ずきん「それはそうと、母ぶたさん、以前に遺言書を書くと話していたけど、進んでる? 困ったことない?」
母ぶたは少し困った顔で、赤ずきんちゃんに言いました。
母ぶた「書こうと思ったんだけどねえ…そもそもうちは家族みんな仲がいいし、そんなに相続財産があるわけでないし…何よりなんだか難しそうでねえ」
確かに、ぶたさん一家は大の仲良し。どんな問題でも話し合って、しっかりと解決できてきました。しかし、本当にそんな家族だから遺言書を書かなくていいのでしょうか?
目次
トラブルがない家族でも遺言書を書いた方がいい理由
赤ずきん「トラブルがない家族なら遺言書は書かなくていいのでは?というお気持ちはわからなくもないけど、それでも書いたほうがいいわね。」
トラブルがない家族でも遺言書を書いた方がいい理由としては、次の2点が挙げられます。
- 金銭トラブルを防げる
- 遺産分割協議が不要になる
金銭トラブルを防げる
赤ずきん「みんな、自分の胸に問いかけてみて。相続のときお金がらみの問題がでてきたら、絶対に今と同じでいられると思う?」
兄ぶた「うーん、お金は生活や将来設計に関わるから、絶対とは言えないかも」
赤ずきん「そうでしょ。世の中、仲のいい兄弟や家族でも、お金がもとで関係が壊れる話なんてごまんとあるでしょ。お金って、それだけ怖いの」
末っ子ぶた「オオカミより怖い?」
赤ずきん「場合によってはね。でも母ぶたさんの遺言があれば、残されたみんなも、「お母さんの最後の意思だから大切に守ろう」って同じ気持ちになれるんじゃない?」
弟ぶた「確かにそうかも」
赤ずきん「そう。しかもね。財産が少ないからトラブルにならないなんてことはないのよ。相続トラブルは財産の多い少ないは関係ないと思った方がいいわね。」
母ぶた「そうなのかい?」
赤ずきん「家庭裁判所の司法統計資料によるとね、調停や審判などの争いになった相続案件のうち約3割が…財産が1000万円以下の家庭なの。そして、約4割が1000~5000万円以下の家族なのよ」
弟ぶた「5000万円以下が7割って、意外だったよ! どうしてそうなるんだい?」
赤ずきん「例えば、財産が母ぶたさんの住んでいた家だけだったとしましょう。分ける財産が家しかないけど、家は当然ながら3つに分けたりできないよね? もし兄ぶたさんに何かお金の事情があって、家を売ってお金に変えたいと思っていたら、何とかして2人に相続分のお金を払ってほしいと言うかもしれない」
兄ぶた「そうだね」
赤ずきん「こうやって揉めていくの。いま、3人には大きな問題がないかもしれないけど、いつどこでどうなるかがわからないのが人生…いや、豚生じゃない?」
遺産分割協議が不要になる
赤ずきん「遺言がないまま母ぶたさんがお亡くなりになったら、遺産分割協議という会議をしなくちゃいけないの。相続人である兄弟ぶたさんみんなで話し合うのね。そこで、遺産の分割案を決めるのよ。このときもめごとになりやすいの」
兄ぶた「それを食い止めるのが遺言書なんだね」
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遺言書があれば遺産分割協議を経ずに、相続手続きを進められます。さらに遺言執行者を決めておけば、よりスムーズに遺言内容を実現できるのです。
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遺言書の作成がとくに必要な6つのケース
次のようなケースでは、たとえ家族仲がいいとしても遺言書を作成しておいた方が安心です。
- 子供がいない場合
- 離婚した相手との間に子どもがいる
- 判断能力のない相続人がいる場合
- 法定相続人以外に財産を渡したい人がいる
- 内縁の配偶者がいる場合
- 自分の意思で相続財産の配分を決めたい場合
それぞれのケース別に、遺言書が役立つ理由を紹介します。
子供がいない場合
赤ずきん「まずは夫婦の間に子供がいない場合ね。ぶたさん一家の場合は立派な息子さんが3人もいるけど」
末っ子ぶた「てへへ」
赤ずきん「もし子供がいなければ、遺産の相続人は、残された配偶者や義理の父母、義理の兄弟になるの。
配偶者と義理の親族、このメンバーで遺産分割協議を行うとき、例えば自宅や預金を配偶者名義に変更するときにも義理の両親または兄弟の同意が必要になってしまいますよね?」
弟ぶた「そういうルールなんだものね」
赤ずきん「でも、みんな仲がいい親族ばかりでもないかもしれないし、相談しにくいという場合も出てくるかもしれないよね。遺言を書くと、まずこのような親族とのやりとりの気まずさやトラブルの起こる可能性を避けやすくなるわけ」
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離婚した相手との間に子どもがいる
赤ずきん「次に、離婚した相手との間に子供がいる場合も、遺言書を作っておいた方が安心ね」
兄ぶた「このケースはけっこうありそうだね」
赤ずきん「ええ、親権がなかったり、長い間音信不通であったとしても、自らの子供はれっきとした相続人。もし、そのときに自分に後妻やその間の子どもがいたら、そうした人たちが皆顔を合わせて遺産協議をしなくちゃいけないの」
弟ぶた「気まずい…なんだか、とっても気まずい…」
赤ずきん「でしょ。つまり感情的なしこりができてるかもしれないから、協議をしても、簡単には合意できなくなるかもしれないよね」
母ぶた「そうでしょうね」
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判断能力のない相続人がいる場合
兄ぶた「ねえ、赤ずきんちゃん。質問だけど、相続人の中に認知症などの人がいたらどうするの? ちゃんと判断できないよね」
赤ずきん「いい質問ね! 相続人のうち1人でも判断能力のない方がいると遺産分割協議はできないの。認知症だけでなく何らかの障がいでも、判断能力の有無は重要なファクターなのよ」
末っ子ぶた「ということは話が前に進まないってことになっちゃう…?」
赤ずきん「それじゃ困っちゃうわよね。なので、代わりに遺産分割協議に参加してもらう成年後見人を立てるの」
弟ぶた「つまり、法的に認められた代理の人ってこと?」
赤ずきん「そういうことね。成年後見人については、私の先生である行政書士の長岡真也さんが本を出しているの。よかったら読んでみてね」
末っ子ぶた「しれっとCM入れてきた(笑)」
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赤ずきん「えへへ。話を戻すけど、成年後見人がつくまでは遺産分割協議ができないから、遺産には手を付けられなくなるよね。では葬儀費用とか、急ぎでまとまったお金が必要なときはどうなると思う?」
兄ぶた「ツケ?」
赤ずきん「昭和のスナックじゃないんだから。いまは遺産分割前の預貯金払戻しが認められて一定額がおろせるけど、基本的に臨時の用立て金レベルね。故人の預金を解約したりはできないの」
弟ぶた「成年後見人にはギャラは必要ないの?」
赤ずきん「芸能人じゃないので、一般的には「報酬」という言い方をするんだけどね。もちろん支払わなくちゃいけないわ。ボランティアじゃないから」
末っ子ぶた「いくらかかるんだい?」
赤ずきん「年間数十万円くらいかな」
兄ぶた「そこそこの出費だね」
赤ずきん「でも遺言があれば?」
兄ぶた「そうか! 遺言分割協議を避けられるから、家族に判断能力のない人がいても安心というわけだね」
法定相続人以外に財産を渡したい人がいる
弟ぶた「もうひとつ質問なんだけど、子供に配偶者がいたらどうなるの? たとえば、兄さんにお嫁さんができたとするよ。いつになるかわからないけど」
兄ぶた「モテなくてごめんよ…」
弟ぶた「母さんの遺産について、そのお嫁さんも相続人になるのかな?」
赤ずきん「みんな、だんだん掴んでいてるわね。実は子供の配偶者は法律で定められた相続人ではないの。例えばの話だけど、母ぶたさんより先に、兄ぶたさんが亡くなったとして、妻ぶたさんが残されたとするわね」
弟ぶた「なんだか兄さんが落ち込み始めてるけど…」
赤ずきん「例えばの話だってば(笑) 妻ぶたさんが母ぶたさんの介護を一生懸命がんばった。でも、一定の親族に特別寄与料として請求できる制度はあるものの、基本は遺言がないと妻ぶたさんには財産を譲れないの」
母ぶた「そんないいお嫁さん、早く来てくれないかしら」
兄ぶた「……えっと」
赤ずきん「兄ぶたさん、いまここでマッチングアプリをインストールしなくてもいいわよ(笑) ほかにもお世話になった知人友人に感謝の気持ちとしての財産を譲りたいということがあるかもしれないよね。でも相続人が「自分たちの受け取り分を渡したくない」となったら、実現しなくなっちゃう」
弟ぶた「なるほどね。遺言を残すことで遺志が明確になり、きちんと生前に決めておいた人に財産を渡すことができるようになるわけか」
赤ずきん「あと、遺言の形式には負担付遺贈というタイプもあってね。残された配偶者の介護をしてくれることを条件に財産を贈るといった条件を付けることもできるわ」
内縁の配偶者がいる場合
赤ずきん「似たようなケースで、内縁の配偶者がいる場合も遺言はあるに越したことがないのよ」
兄ぶた「つまり籍は入れてないけど、事実上の夫婦みたいな感じだね?」
赤ずきん「そう。でも、どんなに長年一緒に生活していても、婚姻届を提出していないと内縁の配偶者は遺産を相続できないわ。事実婚の関係だけじゃ相続の権利が発生しないのよ」
自分の意思で相続財産の配分を決めたい場合
末っ子ぶた「ねえ赤ずきんちゃん。相続財産の配分って、自分の意思で自由に決められるの?」
赤ずきん「この人には多くして、この人には少なくしたい…というようなこと?」
末っ子ぶた「うん、そう」
赤ずきん「遺言にその旨を遺言に書いておけば実現できるわ。会社を子供のうちのひとりに継いでもらうような事業継承の場合にも、この遺言による相続財産の配分決定が実際に役に立つこともあるのよ」
弟ぶた「どうして事業継承に役立つの?」
赤ずきん「例えば、会社の株や重要な経営資源を分散させてしまっては会社の存続にも影響が出ちゃうでしょ?」
遺言書を用意する時の注意点
ここまでの記事を読んで、遺言書を残そうと決意した方もいるかもしれません。
しかし、いきなり遺言書を書き始めると、思わぬトラブルを起こしてしまう可能性もあります。遺言書を用意する時は、次の点に注意してください。
- 遺言書の要件を守らないと無効になる
- 遺留分にも配慮する
- 遺言書に書く表現は法律用語を使う
- 遺言書の保管場所を家族に伝えておく
それぞれの注意点について解説します。
遺言書の要件を守らないと無効になる
遺言書にはいくつかに種類があり、一般的には「自筆証書遺言」もしくは「公正証書遺言」のどちらかの形式で作成します。
自筆証書遺言はその名のとおり、自分自身で書く遺言書のことです。有効な遺言として成立するためには、5つの要件を満たす必要があります。
- 全文を自書すること
- 日付を自書すること
- 氏名を自書すること
- 遺言書へ押印すること
- 加除その他変更の方法についても形式に則っている
たとえばパソコンで記載している、日付を特定できない(吉日などの表記)、押印されていない等の場合、遺言書が無効となっているため注意しなければなりません。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言とは?5つの要件やメリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説
一方、公正証書遺言とは「公証人」という法律の専門家が作成に関与する形式の遺言書です。内容の不備が生じづらく、自筆証書遺言のように無効になる心配はほどんどありません。その代わり、公正証書遺言の作成には費用がかかります。
公正証書遺言とは?要件や注意点・メリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説
長岡行政書士事務所では公正証書遺言での作成を推奨しており、遺言内容の書き方や公証役場との調整もサポートしています。
遺留分にも配慮する
遺言書を書くときは、遺留分にも配慮した方が安心です。
遺留分とは、一定範囲の法定相続人に対して、遺産を最低限受け取れる法律で保障された割合です。たとえば配偶者の遺留分は「1/2」とされています。
合わせて読みたい>>遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!
この遺留分に配慮した遺言書を作成しておかないと、不要なトラブルを招きかねません。たとえば夫婦二人きりの家族で、夫が「支援している○○団体に全財産を遺贈する」と遺言書に記載したとしても、妻は遺留分を請求できるのです。(遺留分侵害額請求といいます。)
たとえ公正証書遺言を作成するとしても、公証人は遺言内容まではチェックしてくれないので注意してください。
長岡行政書士事務所へ遺言作成相談する場合は、このような遺留分についてもご説明さしあげます。
遺言書に書く表現は法律用語を使う
遺言書に書く表現は法律用語を使うよう注意してください。
たとえば「任せる」「委託する」「託す」などの表現では、遺産を譲るのか、それとも財産を管理してもらいたいのか、相続手続きを任せたいのか、意図が不明瞭になってしまいます。
相続人に遺産を渡したい時は「相続させる」、相続人以外に遺産を渡したい時は「遺贈する」など、法律用語を使って遺言書を作成した方が、間違いのない内容となります。
合わせて読みたい>>「任せる・委託する」など曖昧な表現で書かれた遺言書の効力について行政書士が解説!
遺言書の保管場所を家族に伝えておく
せっかく遺言書を用意しても、自分の死後に見つけてもらえなければ意味がありません。とくに自筆証書遺言を作成した場合は、遺言書の保管場所を家族に伝えておきましょう。
自筆証書遺言の保管方法は、次の3つが考えられます。
- 自宅で保管する
- 誰かに預ける
- 法務局の保管制度を利用する
誰かに預ける場合には、紛失・隠蔽などされないよう、信頼できる方に依頼しなければなりません。行政書士など法律の専門家に預ける場合は、貸金庫などで保管してくれるケースが多いので安心です。
法務局の保管制度を利用する方法もありますが、法務省令で定める遺言書の様式を満たす必要があり、申請も必要など少々手間がかかります。
なお、公正証書遺言を作成した場合には、遺言書の原本が公証役場に保管されるため、偽造・変造・紛失の心配はありません。
トラブルのない家族でも遺言書は作成した方が良い
母ぶた「なるほどねえ…。故人が遺言書を残しておけば、残された家族への負担が減る。まさに愛する家族への最後の贈り物ね。やっぱりちゃんと遺言書を書かなくちゃね」
赤ずきん「そうね。よければお手伝いするから、遠慮なく言ってね」
兄ぶた「ぼくは…はやくお嫁さんを探そう…」
末っ子ぶた「まだ引きずってる(笑)」
家族が仲良しだとしても、不要なトラブルを避けるためには遺言書を用意しておいた方が安心です。
また、遺言書を用意しておけば遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められるため、死後の各種手続きがスムーズなことも覚えておきましょう。
横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言作成から相続手続きまで、一貫して対応しています。
相続にまつわる不安を解消したい方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料で対応しています。
この記事を詳しく読みたい方はこちら:トラブルのない家族でも遺言を書くべきか?遺言を書くべき背景と理由を説明!