遺言書は故人の遺志を伝える大切なものです。誰しもが遺言書に関わることがありますが、
難しい法律用語が多くて苦手意識を持っている方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、3種類の遺言書の特徴やメリット・デメリットを童話「花咲かじいさん」の登場人物を交えて、行政書士が分かりやすく解説します。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
正直者で人がいいおじいさんとおばあさんでしたが、子供はおらず、飼い犬のシロをたいそうかわいがって暮らしていました。
隣の家にも、おじいさんとおばあさんが住んでいました。隣のおじいさんとおばあさんは、欲ばりで人の不幸を願ってばかりいて、シロをいつもいじめていました。
おじいさんは、いつものように畑に行き、いつもと変わらず一生懸命働いていました。
すると、ついてきたシロが畑の隅に行き、「ここ掘れわんわん」となきました。
おじいさんが鍬を入れてみると、どういうわけか、ざくざく小判が出てくるではありませんか。
おじいさんとおばあさん、そしてシロは、あっという間に大金持ちになったのでした。
隣の欲張りおじいさんとおばあさんは、その様子を見て、ひどくやっかみました。
「あの犬をちょっとばかり痛めつけて、わしらも小判を掘り当てるんじゃ。なあに、小判が出てくるまで、きつくとっちめてやるだけさ」
ある日、おじいさんが畑仕事に行こうと家の外に出ると、霧のようなものがふわりとおじいさんとおばあさん、そしてシロを包み込みました。
霧が晴れると、不思議なことに、隣の家がなくなっているではありませんか。欲張りでいじわるなおじいさんたちの姿も、きれいさっぱりなくなっていたのです。
「こりゃ不思議なこともあるもんだ。隣のうちは、いつもシロをいじめていたから、神様が助けてくれたのかのう? よかったな、シロや」
「わんわ…そうだね、おじいちゃん」
「おじ…シロ、お前、ことばを話せるようになったのかい?」
なんとびっくり。シロが人間になっていたのです。
「おじいちゃん、おばあちゃん、これからはしっかり孝行するよ」
それから、おじいさんとおばあさんは、息子となったシロを大切に育て、十年後、シロに見守られながら天国にいきました。
しばらくして、シロが畑の前で考え込んでいました。
「財産があるんだから、畑じゃなくてビルでも建てたほうが儲かるんじゃないかな」
そんなことをぼんやり考えていると、ふと、十年前に小判を掘り当てた場所が気になり始めました。
「へんだな、いつもは気にならないのに…」
気になる場所を掘ってみると、古びた箱が出てきて、その中から1枚の紙が出てきたのです。
「遺言書って書いてある…これ、なんだろう?」
シロは自分が手にしているのが遺言書だとはわからなかったのです。そこで、シロは村長さんのところに行き、遺言書について教えてもらうことにしました。
目次
そもそも遺言書とはどんなもの?
シロ「村長さん、実はおじいさんが残した遺言書というのが見つかったんです。遺言書って聞いたことがないんですけど、どういうものなんですか?」
村長「おお、あの小判を掘り当てたおじいさんが遺言書を残しておったのか…。うむ、遺言書とはな、おじいさんが最後の意思をつづった書面のことじゃ」
シロ「サンゴの石? 硬くてまずそうですね」
村長「…そうじゃない。ほら、ここを見なさい。おじいさんがな、自分の財産をシロに相続させると書いてあるじゃろ? こういう書面で残しておけば、おじいさんの意思を汲んで、ちゃんとシロに財産が残るようになるんじゃ」
シロ「遺言書が書かれていなかったらどうなるの?」
村長「シロは兄弟がいないが、兄弟姉妹がいる場合は、誰が財産を継ぐかでけんかになったりするんじゃ」
シロ「いなくなった欲張りおじいさんたちみたいだ」
遺言書には3種類ある
村長「さて、この遺言書は、自筆証書遺言じゃのう。おじいさんが自分で書いているからな」
シロ「遺言にもいろいろあるんですか?」
村長「うむ、よい質問じゃ。全部自分で書く自筆証書遺言と、公証人という人たちに書いてほしい内容を伝えて代わりに書いてもらう公正証書遺言というのがある」
シロ「不思議だなあ。なんで自分のことなのに他の人に書いてもらったりするんだろう?」
村長「もしシロが病気で手が不自由になっていたら、自分では書けないじゃろ?」
シロ「シッポで書きます」
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村長「…もうシッポないがな。あと、秘密証書遺言というのもあるな。これは遺言の内容を秘密にしつつ、遺言書があるということだけ公証人に記録してもらう方法じゃ」
シロ「さっきから公証人という人が出てきますけど、どんな人なんですか?」
村長「公証人というのはな、要するに遺言のプロじゃ。だから公証人に任せておけば、遺言が無効になるようなことはないし、公証役場で遺言書を保管してくれるから、無くしたり盗まれたりすることもないんじゃな」
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3種類の遺言書のメリット・デメリット
シロ「遺言のプロが作ってくれるのだったら、公正証書遺言が一番じゃないですか」
村長「確かに公正証書遺言が最も間違いがないものにはなるじゃろうが、まあ、そこは目的にもよるので、一概には言えんのう」
村長「自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言には、それぞれいいところもそうでないところもあるんじゃ。ここからは、3種類の遺言書のメリット・デメリットを紹介してやろう」
シロ「あの…メリットとデメリットって外来語、世界観、崩しませんか?」
村長「…そこには触れるな。大人になりなさい、シロや…」
自筆証書遺言のメリット
- 他の方式の遺言に比べて作成が簡単
- 遺言の内容や存在を秘密にしやすい
- 費用がかからず、証人の立会いがいらない
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自筆証書遺言のデメリット
・方式が厳格で、方式に沿わなければ無効になるおそれがある
・変造、偽造、隠匿、紛失のおそれがある(自筆証書遺言の保管制度を利用している場合を除く)
・全文を自書することは、要しないが、それ以外の部分については、自書する必要がある(相続財産の全部または一部の目録を添付する場合を除く)。
・遺言書保管所に保管されていない自筆証書遺言については、家庭裁判所で検認手続きを経る必要があり、遺言を執行するまでに、時間がかかりやすい
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公正証書遺言のメリット
- 公証人に相談でき、遺言内容の確認を受けられる
- 原本が公証役場に保管されているため変造のおそれがない
- 家庭裁判所での検認の手続きが不要
- 自書できない者も作成が可能、署名できなくても作成できる
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公正証書遺言のデメリット
- 費用がかかる
- 証人二人以上の立会が必要であり、遺言を秘密にできない
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秘密証書遺言のメリット
- 遺言書全文は自書する必要がなく、ワープロ等で作成してもよいし、他人による代筆でもよい
- 遺言の内容を秘密にできる
- 遺言の変造、偽造を防ぐことができる
秘密証書遺言のデメリット
- 方式が複雑で、方式の不備により、遺言が無効になるおそれがある
- 隠匿、紛失のおそれがある
- 家庭裁判所での検認の手続きを経る必要があり、遺言を執行するまでに時間がかかりやすい
- 秘密証書作成の公証人手数料1万1000円がかかる
遺言執行をする遺言執行者
シロ「そっかあ、意思をちゃんと残すために、遺言にはいろいろ決められてるわけなんですね」
村長「そうじゃ。そして遺言を正しく執行するための制度を遺言執行制度といって、そのために選ばれた遺言執行者という人がおるんじゃ」
シロ「遺言執行者って、なんだかかっこいい響きだな」
村長「遺言の実現自体は、相続人が行うべきなんじゃ。今回のおじいさんの例でいえば、シロ、お前が相続人になる」
シロ「相続人より、遺言執行者のほうがかっこいいから、そっちでお願いします」
村長「…かっこいいとかの問題ではない。話を続けると、遺言の内容によっては、相続人間で利害が対立することがあるのはさっき言ったな?」
シロ「けんかになるかもしれないってことですね」
村長「だからこそ、遺言執行の目的のために、特に選ばれた人間が必要なんじゃ」
シロ「すごい、ぼくもなりたい! どうやったら遺言執行者に変身できるんですか? 変身ポーズとかあるんですか?」
村長「…畑はどうするんじゃ。そして、たぶんお前のイメージ、だいぶ違ってるぞ」
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村長「さて、ここからは肝心なお金の話じゃ。遺言執行をするためには、費用がかかる」
シロ「うちは大金持ちだから楽勝ですよ」
村長「…嫌われるぞ。遺言の執行に関する費用は、相続財産から負担するように決まっているんじゃ。具体的には、遺言書の検認費用、相続財産の管理費用などじゃな」
シロ「とりあえず、いろいろかかるということだけ、今日は覚えておけばいいですか?」
村長「そうじゃの。おじいさんの残した財産から支払われるから、シロが新たに何かお金を払わなくてはいけないことはないんじゃ」
シロ「そうかあ。遺言は、おじいさんが残してくれた大切なものだから、遺言書をもとに正しく手続きをしないといけないですね」
村長「ものわかりがいいの」
シロ「そういうことを具体的に相談したいときは、誰に相談すればいいんですか?」
村長「わしも今日くらいのことは教えてやれるが、もっと詳しくとなると行政書士がいいじゃろうな。相談してみるとよい」
シロ「はい、ありがとうございます。これでおじいさんとおばあさんも浮かんできますね」
村長「浮かばれる…な。浮かんで来たら、ただのどざえもんじゃからの…」
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