ペットを飼っている場合、自分が亡くなった後の世話に対して不安を感じることもあるでしょう。ペットに直接遺産を相続させることはできませんが、面倒を見てもらうことを遺言で指示することは可能です。
この記事ではペットと遺言書の関係について、猫を主人公にした物語形式で紹介します。
吾輩は猫である。
名前はまだな…いや、最近、となりのかわいい娘が、タマと呼び始めたのでそれでよかろう。
最近、わが主が横浜市港南区の行政書士と仲良くなり、まあいろいろと相談している。
どうも遺言書について知れば知るほどおもしろくなっているようで、今度は自分の遺言書を準備しようかなどと言い始めた。
まだ50代ではあるが、鉄は熱いうちに叩けなどと言っている。意味があっているかどうかは、吾輩にはとんと関係がないが。
まいってしまうのが、安いカリカリしか用意しないケチのくせに、一応は、吾輩を溺愛していると自称していることだ。
挙句の果てに「あなたは私をちゃんと見送ってから逝くのよ。じゃないと寂しくて、わたし死んじゃうからね」などとのたまう始末だ。
わが主に、一度、「矛盾」という意味を検索してもらいたいところだ。
仮に主が80歳で亡くなるとしても、あと何十年かかることか。吾輩はもう5年生きているので、そんなに長く生きられる生命体ではないことを、誰か教えてやってくれ。
とはいえ、吾輩の心配をするその愛情だけは買ってやらんでもない。
そんな主が、とうとう行動に出た。遺言書に吾輩のことを書くために、くだんの行政書士長岡とやらに相談に来たのだ。
「長岡先生はあなたのことを気に入ってるんだからね。愛想よくしてちょうだいよ」
ふん、まったく。世話の焼ける主だ。
目次
飼い主が亡くなった後のペットの世話は遺言で対策できる
長岡「こんにちは。おや、今日も猫ちゃんとご一緒なんですね」
しぶしぶだ、しぶしぶ。
わが主「先生、私、遺書を書こうと思うんです。あ、健康ですよ、まだ。でももし万が一何かあったら、この子のことが心配で心配で。遺言書は財産の処分について記載するって聞きましたけど、ペットのことは書けるんでしょうか?」
長岡「残されるペットの世話を誰かにお願いしておきたいということですね? ええ、遺言書である程度の対策をとることはできます。
飼い主が亡くなった後のペットの世話について対策する方法は、次の2つが代表例です。
- 付言事項への記載
- 負担付遺贈
付言事項でペットの世話について記載
例えば、付言事項への記載ですね。まずはこちらを見てください」
- 遺言書の付言事項とは、遺産の処分などの「法律行為以外」のこと
- 遺言書には、自分自身の財産を誰にどう相続させるのかという法定遺言事項を記載するのが一般的
- 法定遺言事項は、遺言として法的な効力を持つ
- 付言事項は法的効力がないものの、相続人の納得を得るために必要な情報である
わが主「なるほど、要するに付言事項はメッセージのようなものですね」
長岡「ええ、遺言者が遺言書を書くに至った経緯や、なぜそのような内容にしたのかという思いを伝えるために使われます」
ふむ、理屈はわかる。経緯や事情を説明しなければ、いきなり「猫、よろしくね」も何もない。だが、法的効力がないならば、預かったところでポイと捨ててしまうのではないか。預けられる相手が、わが主の度合いまで猫好きだとは限るまい。
長岡「そうなんですよ、猫ちゃん」
ぎくり。やっぱりこの男は、我が心中を解しているのか…?
長岡「付言事項で記載しておく場合には、事前にお願いしたい人と話し合い、ご自身の気持ちを伝えることが大事です。そして何より、きちんと了承を得ておくことが大切なんですよ」
わが主「なるほど、よくわかりました」
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負担付遺贈でペットの世話を義務(条件)として記載
長岡「もうひとつ、負担付遺贈とよばれる方法があります。これは遺言によって財産を受ける人(受遺者)に義務の負担などの条件をつけて財産を譲ることですね」
わが主「この子の世話をお願いする代わりに、私の財産を遺贈するということですか?」
長岡「はい。この負担付遺贈では負担と遺贈がセットになっていますので、遺贈を受ける場合は負担を引き受けることになります」
待ちたまえ。ということは、財産によって答えが変わるのではないか? こう言っては何だが、わが主に財産と呼べるものはさしてない。先日もブタの貯金箱をあけては、転がり出てきた数百円でポテチを買っていたほどだ。吾輩は見たぞ、主よ。
長岡「とはいえ、付言事項と異なり、財産の遺贈は法定遺言事項ですし、法的効力を持ちますので、実現してもらえる可能性が高いですね」
ふむ、そうか。なら少し安心だ。法とやらも、なかなか見どころがあるじゃないか。
長岡「負担付遺贈でペットの世話をお願いしたい場合、2つ大切なことがあります。まずひとつめは世話をお願いする相手の了承を得ておくこと。法的な効力をもつからといって、受遺者が必ずその遺言の内容を実現しなければいけないわけではないんです。遺産を受け取らない代わりに負担を引き受けないという選択もあるんです」
なんだと。それだと吾輩、流浪の身となってしまうではないか。わが主の財産をなめないでほしいものだ。負担を引き受けたいと思えるほどの額ではないことは、吾輩、たいそう自信がある。なんとかならぬのか、長岡とやら。
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ペットの世話を実現するために遺言執行者の指定をしておく
長岡「でもそれでは、残されるペットを心配し、遺言まで作成した思いを果たせませんから、しっかりとお世話をお願いする人と話をつけておくことが必要なんです。そして大切なことのふたつめ。それは、遺言執行者の指定をしておくことです」
わが主「遺言執行者? つまり、遺言の執行をきちんと見届けてくれる監督のような人ですよね。それなら姉がいるから、お願いしようかしら。姉はとにかく気が強いから。遺言執行者を指定していないとどうなるんです?」
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…自分より姉が長生きをすることが前提になっているのが、わが主らしいところだな。
長岡「財産は受け取ったのにペットをなかなか引き取らない、面倒をみないなど遺産の引き渡しとペットの受け入れがスムーズにいかない場合、きちんと負担を履行するよう注意を与えてもらえます。それでも改善されない場合には、遺贈の取り消しを家庭裁判所に請求してもらうこともできます」
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吾輩のごとくかわいい…いや、ありがたい存在の面倒を見ない人間がいるなど信じられないが、昨今のペット問題を考えると、あながち他人ごとではないな。
長岡「遺言執行者は、未成年者と破産者以外であれば誰でも指定することができるんです。でもより確実な執行を望む場合には、弁護士や行政書士など、専門家に依頼するのがいいでしょうね」
わが主「あら、ということは長岡先生にお願いすることもできるのかしら! それなら一番安心できるわね。だってホラ、この子が一番なついているんですもの」
何をもって、なついていると言っているのだ…? とはいえ、長岡とやらを遺言執行者にする選択肢は悪くはない。シュッとしていて、吾輩の次にいい男であることは認めているからな。喜ぶがいい、長岡とやら。吾輩を守るという、栄誉あるこの役目を任せてやらんでもないぞ。
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ペットに関する負担付遺贈は公正証書遺言がおすすめ
わが主「でも、遺言で負担付遺贈をするとして、遺言書はどのように作成するのかしら?」
長岡「遺言書については、法律で形式的な要件が定められています。もし自筆証書遺言を作成なさるなら、ご自身がそれらの定められた要件をきちんと理解して、要件を満たした遺言書を作成しなくてはいけません。どうです、できそうですか?」
自筆証書遺言が有効な遺言として成立するためには、5つの要件を満たす必要があります。
- 全文を自書すること
- 日付を自書すること
- 氏名を自書すること
- 遺言書へ押印すること
- 加除その他変更の方法に関する要件
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わが主「できなーい、むーりー♡」
うへえええ…猫かぶって、妙な猫なで声を出すんじゃない…。吾輩でもそんな声はだせぬぞ。
長岡「わかりました、大丈夫ですよ。実は、この場合、遺言書の保管についてもネックでしてね。自分で保管するか、法務省の遺言書保管制度を利用することになりますが、自分で保管する場合は紛失や改ざんのリスクがあります。それに、死後、遺言書の存在が気づかれないこともありえます」
わが主「ということは、どこかに預けられる方法があれば一番いいんですね」
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長岡「ええ、一般論としては公正証書遺言と言う方法があります。もちろん当事務所では、関与した自筆証書遺言を保管することもできますので、安心はしていただきたいですが」
わが主「公正証書遺言は、確か代理で遺言を書いてもらうやり方…だったかしら?」
長岡「よくご存じですね。その通りで、法律の専門家である公証人が遺言書を作成し、公証役場で遺言書原本の保管を行う方法です。作成には多少の費用と公証人とのやり取りという手間がかかりますが、形式不備による無効や改ざん・紛失の恐れはありませんし、相続人や受遺者にも、間違いのない有効な遺言になります」
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ふむ。ということは、まとめると、吾輩を相続してほしい相手に事前に了承を得て、負担付遺贈の遺言を公正証書遺言で作成するのがよいというわけか。なかなかよくできているじゃないか。
負担付遺贈の遺言書で気を付けたい遺留分侵害
長岡「負担付遺贈の遺言書の場合、ひとつ気を付けてほしいことがあります。負担付遺贈では、遺贈の額が多く、最低限相続できる取り分(=遺留分)を侵害してしまう可能性も出てきます。遺言書で財産の分け方が書かれていても、取り分を侵害されていたらその分の額を請求できるのです(遺留分侵害額請求)」
なるほどな。遺留分侵害額請求が認められた場合、受遺者が負担付遺贈により取得する財産は少なくなる。つまりは、減少した分の義務の負担も少なるというわけか。ということは…。
長岡「そう、減らされた財産に見合っただけのペットの世話しかなされない可能性が出てきます。ですから、負担付遺贈でペットの世話をお願いする場合の遺贈の額については、遺留分に留意して決定してほうがいいんです。おわかりいただけましたか?」
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遺言書にペットのことを書く時は行政書士などの専門家へ相談
…やはりこの長岡とやらは、吾輩の考えが読めるようだな。だったら吾輩も長岡に頼んで遺書を書いてもらうということはできぬのだろうか。いずれにせよ、この長岡とやらに興味が出てきた。よし、またこの事務所に来た時に聞いてみよう。わが主よ、長岡とやらに負担付遺贈の遺言書を頼むんだぞ。
わが主「はーい、わかりました♡」
うむ。これは間違いなくわかってないな…。
ペットの世話を遺言で対策する方法としては、 次の2つが考えられます。
- 付言事項への記載
- 負担付遺贈
このうち、確実にペットの面倒を見てもらいたいのであれば、法的効力のある負担付遺贈がおすすめです。
ただし、負担付遺贈でペットの世話を条件とする場合は、遺留分に気を付けなければなりません。また、遺言書としての要件が守られていることも重要です。
長岡行政書士事務所ではペットの世話に関する遺言書作成相談にも対応していますので、横浜周辺の方はぜひ一度ご相談ください。