「うちは家族みんな仲いいから遺言書なんて書かなくていいんじゃないかな」
「そもそも相続財産なんてほとんどないよ」
「相続で揉めてしまうとしたらどんなケースがあるんだろう」
・・・
遺言書を書くとなると、ちょっと敷居が高く感じますよね。
遺言書を書きなれてる人(!)は少ないでしょうし、そもそも法律にかかわる文書を書くことに気おくれしてしまう方も多いのではないでしょうか。
今日はトラブルのない家族でも遺言書を書くべきかの考察を、いくつかの書くべき家族のケースを交えながら解説いたします。
目次
相続で家族が絶対に揉めない保証はない
さて、遺言がないまま家族が亡くなってしまうとどうなるのでしょうか。
実は遺産分割協議という会議を残された相続人の間で行う必要があります。そして、この遺産分割協議は相続人が全員参加することが前提で、全員が遺産の分割案に同意する必要があるのです。
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相続の際にお金絡みの問題が出てきたとき同じく円満でいられるか
お金が絡んでも関係が変わらないと言いきれますでしょうか?
お金は生活や将来設計に直結します。
極端な例かもしれませんが「金の切れ目が縁の切れ目」という昔の言葉はお金が人間関係に与える恐ろしさを端的に物語っていると言えます。
遺言があれば、残された家族も故人の最後の遺志なので遺産の分割に納得しやすくなります。
また、仮に納得ができなくても遺言には法的拘束力がありますので従う必要があり、少なくとも他の相続人を恨んだりする心理的なしこりを残すことは避けられます。
相続財産が多い少ないは関係ない
そうは言ってもうちは大して財産がないから揉めようがない・・・と考える方がいるかもしれません。
実は財産の多い少ないは相続のトラブルに関係ありません。
家庭裁判所の司法統計資料によると、調停や審判などの争いになった相続案件のうち30%超が財産が1,000万円以下、40%超が1,000万円超から5,000万円以下になります。
つまり、財産が5、000万円以下の家庭が相続トラブルの7割以上を占めているのです。
また、仮に父が亡くなって残された家族が母と子二人、財産が両親が住んでいた家のみという場合を考えてみましょう。
分ける財産が家しかありませんのが、家は当然ながら物理的に分割することができません。
母に住み慣れた家に住み続けてもらうとして、もし子のうち一人が借金に苦しんでいたり他の家族と関係が悪かったらどうなるでしょうか。
もしかしたら家を売って自分の相続分の金銭を払うよう要求してくるかもしれません。
このように、遺言を残すことは転ばぬ先の杖であり、仲のいい家族だからこそ今後も仲よくし続けてもらうためにも遺言を残すことは大切なのです。
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将来相続でトラブルに見舞われそうなケース
それでは、将来相続トラブルに発展するリスクのあるケースを紹介します。
夫婦間に子供がいない
夫婦の間に子供がいない場合、遺産を相続する権利は残された妻(夫)と義理の父や母、もしくは義理の兄弟達が相続人になります。
もし遺言がないと全員で遺産分割協議を行う必要があるので、自宅や預金を妻(夫)名義に変更するのにも義理の両親または兄弟の同意が必要になってしまいます。
義実家と普段は仲よくしていても、このような事態になると関係が変わってしまうかもしれません。また、夫(妻)とは仲良しでも義実家とはちょっと・・・という方もいるでしょう。
そのようなリスクを回避するため、夫婦間で相手にすべてを相続させるという内容の遺言を書き合っておくご夫婦も少なくありません。
あわせて読みたい:子どもがいない夫婦の遺言書の書き方!ポイントを分かりやすく解説
離婚した相手との間に子どもがいる
離婚した相手との間に子供がいる場合、親権がなくても、また長い間音信不通であったとしてもその子供は相続人の一人になります。
よって遺言がない場合、再婚されている方の現在の配偶者は(再婚者との間に子供がいる場合はその子供も含む)自分が離婚した相手とその子供との遺産分割協議を行わなければいけません。
相続人同士の関係を考えると、遺産分割協議で容易には合意に至らない可能性が高いと言えます。また、現在の再婚相手にとって自分の離婚した相手と会わなければいけないのは心理的な負担だと言えます。
離婚した相手との間の子供に相続させたくない場合や、相続財産の分け方を調整したい場合は遺言を書く必要があります。
判断能力のない相続人がいる
遺言がない場合に開かれる遺産分割協議において、相続人のうち一人でも判断能力のない方がいると遺産分割協議ができません。
認知症や障がいによって判断能力に問題がある人は遺産分割協議に参加できないのです。
代わりに遺産分割協議に参加してもらう人を成年後見人といい家庭裁判所に選んでもらう必要がありますが、成年後見人を選んでもらうための申立準備から遺産分割をはじめるまでは1年程度かかることもあります。
その間遺産には手を付けることができないので、例えば葬儀費用といった緊急の用立てのため故人の預金を解約したりすることができません。
(ただし、法改正により遺産分割前の預貯金払戻しが認められて一定額が下せるようになりました。詳しくは下記リンクをご覧ください)
合わせて読みたい:先般の相続法改正について!! 相続時の預貯金払戻し制度とは
また、成年後見人に対しては報酬を支払う必要があるので、年間数十万円単位の費用が発生してしまいます。
遺言があればそもそも遺言分割協議を避けることができますので、家族に判断能力のない人がいても安心です。
法定相続人以外に財産を渡したい人がいる
実は子供の配偶者は法律で定められた相続人ではありません。
例えば子が先に亡くなってしまって、子の配偶者が献身的に介護をしてくれたような場合でも、遺言を残さないと財産を譲ることができません。
その他にもお世話になった知人友人に感謝の気持ちとしての財産を譲りたい方もいると思いますが、他の相続人にお願いしておくだけでは本当に実現できるか不確かです。
また、財産をもらう人からしても本当にもらっていいものか不安に感じる方もいるでしょう。
遺言を残すことで遺志が明確になり、きちんと生前に決めておいた人に財産を渡すことができるようになります。
※法改正により、子どもの配偶者等の一定の親族に特別寄与料として請求できる制度ができました。詳しくは下記リンクをご覧ください)
合わせて読みたい:親の介護を頑張った!相続の時には寄与分として考慮されるの?
内縁の妻(夫)がいる
どんなに長年一緒に生活していても、婚姻届を提出していないと内縁の妻(夫)は遺産を相続することができません。
事実上の婚姻関係だけでは内縁の妻(夫)に相続の権利が発生しないのです。
内縁の妻(夫)に遺産を渡したい場合は遺言を書く必要があります。
合わせて読みたい:婚姻届けを出していない事実婚でも遺産相続する方法は?行政書士が解説
自分の意思で相続財産の配分を決めたい
例えば妻はもう歳で働けないから遺産を多く残したいが、独立した子供たちには遺産を少なめに、などと自分で遺産の配分を決めたい場合は遺言にその旨を遺言に書いておけば実現できます。
また、会社を子供のうちのひとりに継いでもらうような事業継承の場合にも、この遺言による相続財産の配分決定が大いに役に立ちます。
会社の株や重要な経営資源を分散させてしまっては会社の存続にもかかわるからです。
遺言の形式には負担付遺贈というタイプもあり、これは残された配偶者の介護をしてくれることを条件に財産を贈る、といった条件を付けることができます。
このようにうまく遺言を作成することで、自分が亡くなった後のことまである程度は手配をすることができます。
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トラブルがないからこそ遺言書を書く必要性
故人が遺言書を残してくれていれば、残された家族への負担が大幅に減少します。
親がいたからバランスを保っていた、親を中心として関係を築いていたという話はよくあることです。そして多くの場合は親が死んでから問題が表面化します。
また、仮に取り分が少ない相続人でも、遺言に従ったという名分があれば自分を納得させやすくなります。
遺言書を作って損をするような人はいません。
愛する家族への最後の贈り物として、遺言を書きましょう。
長岡行政書士事務所は依頼人様に寄り添った相続を心がけています。
少しでもご不明な部分があったり不安を感じられた場合は、お気軽にご相談ください。
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