「夫婦が同時に亡くなったら相続はどうなるの」
「なぜ法律にわざわざ同時に死亡した場合のことが書かれているの」
「遺言書に具体的にどう書いておけばいいのでしょうか」
通常私たちが考えられる相続は、親が先に亡くなり、その次に子供亡くなる等のパターンや、
また不幸にして、その逆のパターンもあり得ます。
もちろんどちらも悲しいことではありますが、上記いずれの場合においても、
親の相続を終えて、次にその子供の相続を終えていくというイメージだと思います。
上記のようにどちらが先に死亡していたとしても、法定相続に従い手続きをしていくことはイメージが付くと思います。
では、同時に死亡した場合はどうでしょうか。
交通事故や災害のようにどちらが先に亡くなったとき、どのような順番でやるのかということになると中々イメージつかないのではないでしょうか。
本日はこの同時に死亡した場合の相続と遺言との関係についてお話しいたします。
目次
なぜ相続人が同時に死亡したと「推測」するのか
同時に亡くなったことを証明することは、時として非常に困難をともないます。
例えば夫婦が同じ車に乗っていて不幸にも交通事故に遭い2人とも死亡してしまったような場合、妻の方が即死でも夫の方は病院に運ばれるまで生存していたかもしれません。
洪水等の災害で相続人が複数行方不明になった場合は、実際に各人がいつ死亡したのか、どちらが先に死亡したのかを確認することは非常に難しいと言えるでしょう。
また、災害時にそのような確認作業に時間を割くことは現実的とは言えません。
そして、この死亡時刻の前後が相続においては大きな意味をもっています。
相続は死亡の順番により遺産の額が大きく変わる
例えを用いて説明します。
両親と子の3人家族がいて、父の両親は存命、母の両親はどちらも他界、子はまだ独身だとします。そして父と子が交通事故に遭い亡くなってしまいました。
救急隊員が駆け付けた時に父は即死、子の方が病院に運ばれてから死亡した場合は、父が死亡した時点で遺産は母と子に半分ずつ相続され、その後子が死亡したことで子が相続した半分も母に相続となる、つまり全額母が相続することになります。
逆に子が即死しており、父が病院に運ばれてから死亡した場合は子が既に亡くなっているので子に相続は発生せず、母が3分の2,父の両親が3分の1の遺産を相続します。
このように、死亡の前後により誰にどれくらい遺産が相続されるかが大きく変わります
そしてこの死亡の前後は時間の長短には関係ありません。
父の後、子が1分後に亡くなっても母が全額相続になります。
同時死亡の推定という条文が民法に存在する
先ほどの例ではまだ死亡日時の前後を確認できましたが、大規模災害の場合はどうでしょう。
悲しいことですが大規模災害の場合は多くの人が亡くなり、また現場は混乱します。
どちらが先に亡くなったかを確認する余裕はありません。
そして、どちらが先に亡くなったかはっきりしないとその後の相続がすすめられないという事になると、残された家族は大いに困窮します。
遺産があればその後の生活の立て直しもしやすくなるでしょう、ただ、死亡の前後が不明なためいつまでたっても遺産が使えない状態はとても不合理です。
法律には、このように相続人死亡の先後の判断が難しい場合に対応するための条文が存在します。
民法第32条の2(同時死亡の推定)
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
この同時死亡の推定の条文により、相続人の死亡の先後が不明な場合であっても同時に死亡したものと推定し相続手続きを先に進めることができます。
当サイトの別コラムでもこの同時死亡の推定を解説していますのでご覧ください。
代襲相続という、上記例で子にさらに子がいた場合(父母からすると孫)に相続がどうなるかまでを解説しています。
あわせて読みたい>>>相続人が同時に死亡した場合の相続はどうなる?同時死亡の推定と代襲相続の関係について解説
遺言書がある場合の同時死亡の推定
それでは、このように同時死亡の推定が起きた場合にもし当事者が遺言を遺していたらどう影響するかを解説します。
同時死亡の推定で遺言書の内容が無効になる
先ほどの例を用い、父と子が同じ車で交通事故に遭い同時死亡の推定が働いたとします。
もし父が「私の全財産を妻(この例では母)に相続させる」という遺言を遺していた場合は、父が死亡した時に子も死亡していますが母は無事なので、遺言による財産配分に影響はありません。
しかし父が「私の全財産を子に相続させる」という遺言を遺していた場合は、子も同時に死亡してしまっているので遺産を渡す相手が存在せず、遺言が存在しないのと同じ扱いになります。
よって法定相続分に則り、母が3分の2,父の両親が3分の1の相続となります。
あわせて読みたい>>>新人補助者ひまりの事件簿② 法定相続人の範囲~配偶者と両親編~
実際の遺言は通常もっと多くの内容を含みます。
仮に「妻(母)には家と土地、子にA銀行にある預金すべてを相続させる」という遺言を父が遺していた場合はどうなりますでしょうか。
母は無事でも同時死亡の推定により子が同時に亡くなった、つまり存在しないものとして扱われますので、子について述べられている部分が足を引っ張り遺言全体が無効になってしまいます。
よって母が受け取るべき家と土地もいったん白紙となり、母と父の両親により法定相続分に従って遺産を分けるか、遺産分割協議を行い分割割合を決めるかの話し合いを持たなければいけません。
あわせて読みたい>>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
同時死亡の推定と予備的遺言
せっかく遺言を書くのですから、どんな時にも有効にすることはできないのでしょうか?
実は遺言には「予備的条項」といって万が一に備えた書き方があります。
例文を見てみましょう。
1. 私、Xが有する現金や預貯金、不動産及びその他一切の財産を妻Aに相続させる。
2. 妻Aが私Xの死亡より以前に死亡した場合(私と同時に死亡した場合も含む)は、私が有する現金や預貯金、不動産及びその他一切の財産を妻の妹であるB(東京都○○区○○町 昭和○○年〇月〇日生)に包括遺贈する。
3.この遺言の執行者として次の者を指定する
住所 神奈川県横浜市△△区△
行政書士 XXX XXX
このように、元々相続させる予定の人間が自分より先もしくは同時に死亡した場合はどうするかまでを遺言の中に書いておけば、同時死亡の推定が発生しても遺言は無効にはなりません。
また、遺言の内容を執行してくれる人(遺言執行者)を遺言の中で指定することができますので、できるだけ普段からやりとりのある法律の専門家にお願いしましょう。
なぜなら同時死亡の推定が発生するような状況というのは緊急事態であると推測されますが、専門家であれば緊急事態にも動じず粛々と遺言内容の実行をしてくれます。
更に普段からやり取りがある方であればご家族の事情にも明るいので、より相続人に寄り添った相続のサポートが可能になるからです。
最後に気を付けていただきたいのは、このような同時死亡の推定を踏まえた遺言を書く時は夫婦や家族を交えて遺言を書く場合が多くなると思いますが、そのときは絶対に夫婦や家族の連名の遺言にはしないでください。連名の遺言書は無効になってしまいます。
あわせて読みたい>>>相続人が先に亡くなった場合どうなるの?予備的遺言について解説!
遺言書を書く時は受遺者の死亡の順番まで考慮
同時死亡の推定は、死亡の前後が不明な事故や災害があった際に、同時に死亡したと推定することで相続手続きを推し進めるための民法の条項です。
もちろんそのような事故や災害は悲しいことですが、遺された家族や親族といった人たちの生活の事も考えなければいけません。そのために設けられた法律による救済と言えます。
しかし、同時死亡の推定を使っても遺言が対応していないと遺言が無効となってしまい、遺言を作成した故人の遺志を十分にくみ取ることができません。
遺言作成時には相続人が先に亡くなってしまう、もしくは同時に亡くなってしまう場合も考えて予備的条項を入れ、遺言執行者も指定してしっかりと執行してもらうようにしましょう。
遺言作成時に限らず、相続に不安や不明点が生じた場合は是非長岡行政書士事務所にご相談ください。
我々は相続の経験が豊富にあり、遺言の作り方から遺言書の種類、遺言執行者の就任まで執り行うことで皆さまの円滑な相続を支えさせていただきます。
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