
「遺言書を作るけど、銀行名を書かずに財産目録を作ることはできる?」
「銀行口座が多くて、遺言書に全部書くのが大変。全部書かなくても問題ない?」
「遺言書に銀行名を書かない場合の注意点を知りたい。」
遺言書の作成時には不動産や株式など、所有されている財産を誰に、どのように分配するのか記載するために「財産目録」を作成します。
この時、銀行・信用金庫等の預貯金口座も記載しますが、もしも銀行名を書かなかったら、なにか問題になるのでしょうか。
本記事では遺言書に銀行名を書かない場合のメリット・デメリットや、知っておきたい注意点をわかりやすく行政書士が解説します。
目次
預貯金口座の基本的な記載方法
銀行口座が複数ある場合、すべてを正確に書くことは面倒に感じるものです。
しかし遺言書を作成する際は、次の基本を守るようにしましょう。
- 金融機関名・支店名などを正確に記載する
- 金融機関名を省略することも不可能ではない
金融機関名・支店名などを正確に記載する
預貯金口座を遺言書に記載する際には、金融機関名・支店名・口座番号・口座の種類(例・定期など)まで正確に書くことが大切です。
正しい記載があれば遺言書を見た相続人が戸惑うことなく口座を特定できるため、その後の相続手続きを迅速に進められます。特に複数の口座を持っている場合は、どの口座を誰に相続させるかを明確にすることが重要です。
金融機関名を省略することも不可能ではない
あくまでも金融機関名・支店名などを正確に記載するのが基本ですが、「銀行口座一式」といった文言のみを記載し、金融機関名・支店名を省略する記載も可能です。
この方法なら細かく金融機関名等の情報を記載しなくてよいため、簡潔に遺言書を作成できます。ただし、手続きの際に「どの金融機関に、いくつ口座あるのか」が明確ではないため、相続人の間で確認作業が必要となるおそれもあります。
遺言書内で金融機関名を省略するメリット
遺言書内で金融機関名を省略するメリットとしては、手間を省略できる点が挙げられます。
「預貯金口座一式を相続させる」などとまとめて記載すれば、遺言者が持っている金融機関口座が多くても、遺言書の作成に手間がかかりません。
また、口座の増減や変更があっても、内容をその都度書き換える必要がないため、一定の柔軟性もあります。
遺言書内で金融機関名を省略するデメリット
遺言書内で金融機関名を省略することには、留意すべきデメリットもあるため注意してください。
- 口座の特定が困難になる
- 遺言書そのものの効力に疑問が持たれる可能性がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
口座の特定が困難になる
省略するデメリットとして、「預貯金口座一式」という表現だけでは、どの銀行やどの口座を指すのかが明確でないため、口座の特定が困難になる点が挙げられます。
通帳やカードが手元にある場合は調査に時間がかかりませんが、ネットバンキングのように通帳がない契約の場合、相続人が調査しても見つけられない可能性があるのです。
一から口座の所在を調べ、各種手続きに時間がかかると、相続税の申告期限にも影響するおそれもあるため注意しなければなりません。(相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日から10か月以内です)
遺言書そのものの効力に疑問が持たれる可能性がある
また、預貯金口座やその他の財産にも不明瞭な記載が多い場合、「本当に遺言者の意志で作られたのだろうか?」と相続人が疑問に思う可能性もあります。
遺言書に疑問や不安を抱えてしまうと、遺言書そのものの効力を争うトラブルに発展するおそれもあるため、注意が必要です。
預貯金額は明記しないのが基本
金融機関や口座については明記することが望ましいですが、具体的な預貯金額までは明記しないのが基本です。
預金残高を遺言書に書いてしまい、本人死亡時に預金残高が増えていた場合は、その超過部分について遺言書に記載のない財産という扱いになってしまいます。この超過分については、別途相続人全員による遺産分割協議が必要となり、遺言書だけで相続手続を完結させられません。
また、実際の預金残高が遺言書の預金残高より少なかった場合も、相続人間で不満の種になる可能性があります。
いずれにしても、預貯金額まで明記するメリットが薄いため、金融機関や口座まで明記しておくのが望ましいのです。
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金融機関名を省略して遺言書を作る方法
金融機関や口座まで明記するのが望ましいとはいえ、金融機関名を省略して、簡潔な遺言書を作りたいという方もいるかもしれません。
そのような場合は、安全な遺言書作りを意識することが大切です。では、どのように記載しておくと安全でしょうか。ポイントは次のとおりです。
- 「包括遺贈」を活用する
- 「付言事項」で意図を明確にしておく
- 財産目録を別紙で添付する
- 専門家に相談して遺言内容をチェックしてもらう
1.「包括遺贈」を活用する
まず1つ目は、「包括遺贈」を活用する方法です。
「包括遺贈」とは、遺言書で財産の全部または一定の割合をまとめて特定の人に遺すことを指します。例として、以下のような文章が考えられます。
- 「私の全財産を妻に遺贈する」
- 「財産の3分の1を長男、3分の2を長女に遺贈する」
この場合、預貯金・不動産・株式などを一つずつ列挙しなくても、大切な財産を引き継ぐことが可能です。ただし、包括する財産にはマイナスの財産も含まれるため、債務がある場合は注意が必要です。
■特定遺贈との違いは?
包括遺贈とよく比較されるのが「特定遺贈」です。特定遺贈は、遺言書で特定の財産を特定の人に遺す方法を指します。たとえば、「A銀行の口座を次男に遺贈する」「自宅の土地を妻に遺贈する」といった具合に、個別の財産を明確に指定するため、口座名を明確に記載することが一般的です。
関連記事:包括遺贈とは?特定遺贈との違いやメリット・デメリット、受遺者の権利義務について行政書士が解説!
2.「付言事項」で意図を明確にしておく
2つ目は、「付言事項」で遺産を渡すに至った経緯と意図を明確にしておくことです。付言事項を使って、単なる財産の配分だけでなく、なぜこのような遺産の分配にしたのか明確に示しておきましょう。
たとえば、「長男には複数の銀行口座を一式相続させます。これは、これまで家業を献身的に支えてくれたこと、また病気がちであった私の生活を長年にわたりサポートしてくれたことへの感謝の気持ちです。」
といったように、財産の分け方に込めた具体的な経緯や意図、お礼の言葉を添えます。
付言事項を活用することで、形式的な遺言に理由を添えることができ、相続人が遺産の配分理由を理解しやすくなるため、感情の行き違いによるトラブルを防ぐ効果もあります。
関連記事:付言事項の文例とは?ケース別に具体的な記載例を行政書士が解説!
3.財産目録を別紙で添付する
3つ目は、財産目録を別紙で添付する方法です。遺言書内には記載せず、添付する財産目録で口座を記載します。遺言書の本文には「別紙財産目録のとおり」と記載し、預貯金口座や不動産、株式などの詳細を目録として別紙にまとめておく形です。
自筆証書遺言の場合、本文は自筆で記載する必要がありますが財産目録は2019年以降、ワードなどの書式で作成できるようになりました。パソコンで作成できるため、負担感が少ないでしょう。ただし、財産目録の各ページに署名押印は必要となるため注意が必要です。
財産目録は、相続税の申告時にも参考にできます。相続税申告の際には財産の詳細を調べ、申告書に記載する必要がありますが、財産目録があれば転記できるため便利です。
関連記事:遺言書の財産目録の記載例を解説!形式や様式・必要なケースを行政書士が紹介
4.専門家に相談して遺言内容をチェックしてもらう
最後の4つ目は専門家に遺言内容をチェックしてもらうことです。遺言書に書く文章の違いによって、法的効力が変わってしまうことがあります。
たとえば、「相続させる」と「遺贈する」では意味が異なり、受け取る人の立場や手続き方法に影響するおそれがあります。自分では正確に書いたつもりでも、法律的に見ると曖昧な表現になっているケースは少なくありません。
行政書士や弁護士など、相続に詳しい専門家に内容を確認してもらうことで、形式上の不備や文言の解釈ミスを未然に防ぐことができます。また、財産や家族関係の状況に応じて、「どのような書き方ならトラブルを避けられるか」や「将来的な変更にも対応しやすい方法」など、実務的なアドバイスも受けられます。
遺言書の細かい記載に悩んだら横浜市の長岡行政書士事務所へ相談!
金融機関口座を多数お持ちなど、財産の種類が多い人は遺言書の書き方に悩みやすいものです。「どこまで書けばいいのか」「省略しても大丈夫か」と迷ったときこそ、専門家に相談しましょう。
横浜市の長岡行政書士事務所では、豊富な実務経験をもとに、依頼者一人ひとりの財産状況や家族関係に合わせた遺言書作成サポートを行っています。遺言書の細かい記載や表現に不安がある方は、まずはお気軽にご相談ください。








