相続人が同時に死亡したような時、一体だれが相続人なのでしょうか。
色々と調べてみても「難しくて理解できない、、」という方も多いかもしれません。
この記事では、相続人が同時に死亡した時の相続関係について、「3匹のこぶた物語」風に解説します。相続人が同時に死亡した場合の相続関係について分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
なぜ相続人が同時に死亡したと「推測」するのか?
むかしむかし、あるところに三匹のこぶたがいました。
一番上の兄ぶたは石の家、弟ぶたは木の家、末っ子ぶたはワラの家を作って育ちました。
三匹のこぶたたちは、やがて大きくなってそれぞれ巣立っていくのですが、それはもっと後のお話。
こぶたたちがまだそれぞれの家で暮らしていたある日、なんと大きな地震に見舞われてしまったのです。
ぐらぐらぐら…!
「うわあ、大きいよ、お兄ちゃん!」
「みんな大丈夫かい?」
「母ちゃん、みんな無事だよ」
幸い、地震はすぐに収まりましたが、村中が大騒ぎになっていました。
「またいつ地震がくるかもわからねえから、避難してきたべ」
隣村に住む、赤ずきんちゃんと漁師さんも、こぶたたちの村にやってきていたのでした。
赤ずきん「みんな無事でよかったわ」
母ぶた「赤ずきんちゃんもね。うちの子たちもケガもなくて何よりだったわ」
兄ぶた「うちの村は大丈夫っぽいけど、大きな地震でぼくたちに何かあったらと思うと、母さんのことが心配でね」
弟ぶた「うん、兄弟みんないなくなってしまったら、残された母さんが大変だ」
母ぶた「お前たち…」
漁師「うっうっ…感動する親子愛ずら」
赤ずきん「漁師さんったら、涙もろいんだから」
母ぶた「でも、通帳を抱えて逃げ出そうとしていてふと思ったのよね。うちには大きな財産はないけど、この子たちにもし万が一のことがあったら、私の死後、家や財産はどうなるんだろう…って」
末っ子ぶた「そうだね、誰がどうしてくれるんだろう? 赤ずきんちゃんは、行政書士の試験を受けるために、先生のもとで勉強してるんでしょ? 何か知ってる?」
赤ずきん「そういえば、ちょうどこの前、先生がそんな相談を受けていたわ。交通事故や災害などで同時に相続人が死亡した場合、どのような順番でやるのかとか」
兄ぶた「それとっても大事そうな話だね?」
赤ずきん「うん、せっかくの機会だから、少し話しておこうか」
赤ずきん「実は、同時に亡くなったことを証明するって、すっごく難しいの。例えば、AさんとBさんが馬車に乗っていて、ガケから落ちてしまったとするでしょ? Aさんは即死だったけど、Bさんはしばらく生きていたかもしれない」
弟ぶた「確かにそうだね」
死亡の順番により相続額が大きく変わる
赤ずきん「でも相続だと、この死亡時刻が大きな意味を持ってくるのね。つまり死亡の順番によって、相続額が変わってきてしまうのよ」
末っ子ぶた「順番…うーん、よくわかんないや」
赤ずきん「例えば、パパ、ママ、息子の3人家族を想像してみて。パパの両親は存命、ママの両親はどちらも他界、息子はまだ独身という設定ね」
兄ぶた「うん」
赤ずきん「不幸にも、パパと息子が交通事故に遭ってしまった…。助けが駆け付けたとき、パパは即死、息子は病院に運ばれてから30分後に死亡した…。多少の時間差があるよね?」
弟ぶた「あるね、確かに」
赤ずきん「この場合、パパが死亡した時点で遺産は母と子に半分ずつ相続されるわけでしょ。そのあと、30分後に息子が死亡したことで、パパから息子が相続した半分がママに相続されるの。つまり30分間の間に、全額ママが相続する流れになっちゃうの」
兄ぶた「なるほどね、じゃ逆に息子が即死していて、パパが30分後に死亡した場合は?」
赤ずきん「子が既に亡くなっているので子に相続は発生せず、母が3分の2、父の両親が3分の1の遺産を相続するのよ」
母ぶた「相続内容が全然変わってくるのね…」
相続人死亡の先後の判断が難しい場合は「同時死亡の推定」
末っ子ぶた「でもさ、さっきみたいな地震のときはどうなの? たくさんの人が混乱しているから、精確な時間はわからないよね?」
赤ずきん「いい質問ね。相続人死亡の先後の判断が難しい場合に対応するための条文が、民法には存在するの。つまり、相続人の死亡の先後が不明な場合であっても同時に死亡したものと推定して、相続手続きを先に進めることができるのよ」
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人が同時に死亡する状況としては、次のような例が挙げられます。
- 交通事故
- 自然災害など天変地異
このようなケースでは死亡の先後の立証が難しいにも関わらず、先ほど紹介したとおり死亡の順番により相続額は変わってしまいます。
そこで民法では数人の者が死亡した場合、一人が他者の死亡後も生存していたことが明らかではない時は、これらの方々が同時に死亡したものと推定するという期待があるのです。
相続手続きは、同時に死亡したと推定して進められます。
遺言書がある場合の同時死亡の推定
兄ぶた「もしもだけど、同時死亡の推定がなされるとき、当事者が遺言書を残していたらどうなるの?」
赤ずきん「じゃ、さっきの交通事故の例で説明するね。」
遺言書がある場合も死亡の順番により相続額は変わる
赤ずきん「もしパパが「全財産を妻に相続させる」という遺言を遺していた場合は、今回ママは無事なので、遺言による財産配分は変わらないの」
弟ぶた「もし子に相続させると書いてあったら?」
赤ずきん「息子も同時に死亡してしまっているので遺産を渡す相手が存在しないことになるわね。ということは、遺言が存在しないのと同じ扱いになるってわけ。つまり、法定相続分に則り、母が3分の2、父の両親が3分の1の相続ね」
末っ子ぶた「でも、実際に遺言書にはもっとたくさんのことが書かれているものだよね? だったら、すっごく複雑になっちゃうよね」
「同時死亡の推定」となる場合は遺産分割協議になる
末っ子ぶた「でも、実際に遺言書にはもっとたくさんのことが書かれているものだよね? だったら、すっごく複雑になっちゃうよね」
赤ずきん「そうね。遺言が存在しないのと同じ扱いになる場合は、遺産分割協議で分割割合を決める話し合いをしなくてはいけなくなるわね」
合わせて読みたい:遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
仮に遺言書を残していたとしても、同時死亡の推定によって相続手続きを進めるケースも存在します。
同時死亡の推定と予備的遺言
母ぶた「せっかく遺言書を書くのだから、どんな時でも有効にできる書き方はないのかしら?」
赤ずきん「そういう書き方もできるの」
赤ずきん「予備的条項といって、万が一に備えた書き方があるの。こんなふうに」
合わせて読みたい:相続人が先に亡くなった場合どうなるの?予備的遺言について解説!
1.私、Aが有する現金や預貯金、不動産及びその他一切の財産を妻Bに相続させる。
2.妻Bが私Aの死亡より以前に死亡した場合(私と同時に死亡した場合も含む)は、私が有する現金や預貯金、不動産及びその他一切の財産を妻の妹であるC(神奈川県横浜市○○区○○町 昭和○○年〇月〇日生)に包括遺贈する。
3.この遺言の執行者として次の者を指定する
住所 神奈川県横浜市△△区△
行政書士 赤ずきん
兄ぶた「なるほど、元々相続させる予定の人間が、自分より先もしくは同時に死亡した場合はどうするかまでを遺言の中に書いておけばいいのか」
母ぶた「遺言執行者まで指定しておくと、より安心ね」
赤ずきん「そうね。できるだけ普段からやりとりのある法律の専門家に相談しておくといいと思うわ」
弟ぶた「専門家は、クールな印象があるから、動じなさそうだよね」
赤ずきん「ちなみに、同時死亡の推定を踏まえた遺言を書く時は、絶対に夫婦や家族の連名の遺言にはしないこと。連名の遺言書は無効になっちゃうからね」
母ぶた「災い転じて、知識となすって感じね。赤ずきんちゃん、漁師さん、ありがとう!」
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同時死亡の「推定」は覆る可能性もある
ここまで同時死亡の「推定」について紹介してきました。この同時死亡の「推定」は覆る可能性もあります。
法律上、「推定」と「みなす」は別々の意味です。
「みなす」とは事実に関わらず、その事実があったものとすることです。たとえば相続において、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」という条文があります。つまり、相続においては「お腹の中にいるという事実」に関わらず、「赤ちゃんは生まれている一人の人間」とみなして考えるということです。
一方、推定とはあくまでも推定ですから、事実によって反証することができます。違う時間に死亡したこと(異時死亡)を証明しさえすれば、同時死亡の推定の効果は失われることは覚えておきましょう。
仮に 異時死亡が証明されると、同時死亡の推定によって相続財産を得た方(受益者)は不当利得となりますから、正しい相続分に従って返還しなければなりません。
遺言書作成時は同時死亡の推定を踏まえて予備的条項を作ることが大事
この記事で紹介したとおり、交通事故などの事情でご家族複数人がほぼ同時に死亡してしまう可能性もゼロではありません
このようなケースでは同時死亡の推定によって相続手続きを進めることになりますが、遺言書の内容によっては意図通りに相続させられないケースもあります。
そのため遺言書作成時は、同時死亡の推定を踏まえて予備的条項を作ることが必要なのです。
ただしここまでご覧いただいたとおり、想定しうる事態は複雑で、どのような法律的表現であれば意図通りの遺言書になるか分からない方も多いのではないでしょうか。
どのような状況にも備えられる遺言書を作成したい方は、ぜひ横浜市の長岡行政書士事務所へご相談ください。相続・遺言書作成のエキスパートとして、お手伝いさせていただきます。