
「遺言書には、預貯金についてどう書けばいいのでしょうか」
「遺言書に残高を書くとなにか不都合があるのでしょうか」
「口座残高のある一定の割合を特定の相続人に譲りたい場合はどう書けばいいのでしょうか」
ほとんどの方が、「預貯金」という財産を保有しています。
そのため遺言を書いている、または書こうとしている方からよくいただく質問が、「遺言書に預貯金はどう記載するのか」「遺言書に預金残高まで書いておくべきか」です。
そこでこの記事では、遺言書に預貯金を記載するときの文例や、残高まで書いておいたほうがいいのかを、横浜市で遺言書作成をサポートしている行政書士が解説します。
ただし預貯金を遺言書に書く際は、ケースバイケースで注意すべき点も存在するため、この記事はあくまでも例として、実際に遺言書を作成する際はぜひ当事務所のような専門家へご相談ください。
目次
遺言書に預貯金を記載する方法
それでは早速、遺言書に預貯金を記載する方法について見ていきましょう。
ほとんどの場合、次のいずれかの方法で記載します。
- 銀行ごとに相続人を指定する
- 口座ごとに相続人を指定する
- 預貯金全てを合計して割合で指定する
また、銀行ごと、口座ごとではなく、相続人を基準に考えたいという方もいるでしょう。たとえば次のようなパターンです。
- 一人の相続人にすべての預貯金を相続させる
- 複数の相続人に特定の金融機関の預貯金を相続させる
- 複数の相続人にすべての金融機関の預貯金を等分して相続させる
どの方法も可能ですが、それぞれ注意すべき文言があるため、実際に作成するときは当事務所へご相談いただくのがおすすめです。
ここからはイメージをつかんでもらうために、代表的な文例を紹介します。
銀行ごとに相続人を指定する遺言書の文例
まず紹介するのは、複数の相続人に、それぞれ指定した金融機関の預貯金等を相続させる場合です。
複数の相続人にそれぞれ指定した金融機関の預貯金等を相続させる遺言書のポイントは、次の2点です。
- 口座は細かく書きすぎない
- 財産の記載もれした金融資産があった場合の対策をたてておく
それでは例を見てみましょう。
遺 言 書 遺言者〇〇〇は、本遺言により、次の通り遺言する。 第1条 遺言者が有する甲銀行松支店に対する一切の債権を長男A(生年月日)に相続させる。←(ポイント①) 令和X年X月X日 |
1つ目のポイントは、金融機関の口座は細かく書きすぎないことです。
特定の金融機関の預貯金等を相続させる場合、具体的な支店名や口座番号、口座種別を記載する方法もあります。
ただし口座まで指定する書き方だと、同じ支店に忘れてしまっている貯蓄預金口座があった場合、その口座が遺言書から漏れてしまいます。そして書き忘れた財産については、やはり法定相続や遺産分割協議による相続となってしまいます。
そのため「銀行ごとに」相続させたい場合は、口座を指定するのではなく、金融機関に対する「一切の債権」という記載にするのです。
また、ポイント②の「~~を除く一切の金融資産について」という箇所は、これも記載漏れした金融資産があった場合の対策です。
このような銀行ごとに相続人を指定する書き方にしておけば、たとえ遺言書を作成したタイミングから預金残高が増減しても、スムーズに相続手続を進められます。
口座ごとに相続人を指定する遺言書の文例
場合によっては、銀行よりもさらに細かく、口座ごとに相続人を指定することも可能です。
遺言者 ○○○○は、本遺言により、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、死亡時に有する下記の口座を長男△△△△に相続させる。
A銀行B支店 普通預金 口座番号 ×××××××
第2条 遺言者は、死亡時に有する下記の口座を次男□□□□に相続させる。
C銀行D支店 普通預金 口座番号 ×××××××
令和X年X月X日
神奈川県横浜市X区X町X丁目X番
遺言者 ○○○○ ㊞
預貯金全てを合計して割合で指定する遺言書の文例
各口座の増減の影響をなくす方法としては、預貯金全てを合計して、割合で指定することも可能です。
遺言者○○○○は、本遺言により、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者が死亡時に有する全ての預貯金の合計額の2分の1を長男△△△△に、同じく2分の1を次男□□□□に相続させる。
令和X年X月X日
神奈川県横浜市X区X町X丁目X番
遺言者○○○○ ㊞
また、預貯金を割合で指定しながら最低限の金額レベルを特定の相続人に保障することも可能です。
遺言者○○○○は、本遺言により、次のとおり遺言する。
遺言者が死亡時に有する全ての預貯金の合計額の3分の2を長男△△△△に、3分の1を次男□□□□に相続させる。
ただし、長男が相続する預貯金が300万円以下になる場合には、300万円を長男に相続させ、残りの預貯金の金額を次男に相続させる。
令和X年X月X日
神奈川県横浜市X区X町X丁目X番
遺言者 ○○○○ ㊞
ただ、上記のように遺産を特定の相続人に集中させるときは各相続人の遺留分に注意する必要があります。
あわせて読みたい>>>遺留分とは何か?遺留分の割合と遺留分侵害請求について解説!
一人の相続人にすべての預貯金を相続させる遺言書の文例
ここまでは複数人の相続人を指定する文例でしたが、遺言書を使って、一人の相続人にすべての預貯金を相続させることも可能です。
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書のポイントは、次の3つです。
- 「一切の金融資産」と記載しておく
- 換価換金処分の旨記載しておく
- 「一切の債権」と記載しておく
たとえば次のような遺言書です。
遺 言 書 遺言者〇〇〇は、本遺言により、次の通り遺言する。 第1条 遺言者が所有する下記の預貯金及び株式等含め一切の金融資産(←ポイント①)を換価換金処分した上(←ポイント②)、妻A(生年月日)に相続させる。 記 ①乙証券武支店に有する一切の債権(←ポイント③) ②~~~~~~~ ③~~~~~~ X年X月X日 |
ポイントの1つ目、「一切の金融資産」についてという表現は、相続手続をスムーズに進めるための文言です。
相続手続を進める際、万が一、遺言書に書き忘れた金融資産が出てきた場合、それは「遺言によって指定されていない財産」となってしまいます。
この書き漏れた財産(遺言書で指定がない財産)については、遺産分割協議で相続方法を決めなければなりません。これではせっかく遺言書を残しておいた意味が薄れてしまいます。
しかし、遺言書に「一切の金融資産」と入れておけば、すべての金融資産について指定していることになるため、スムーズに相続手続を進められるのです。
2つ目のポイントは、換価換金処分についてという表現です。
「換価換金処分した上」と記載しておくことで、銀行の貸金庫に金を所有していたというような場合にも、現金化して相続させることができます。(※株式などを有していた場合も、換金して相続することになるため、株式のまま相続させたい場合は別の文言にしなければなりません)
3つ目のポイントは、「一切の債権」についてという表現です。
口座番号や口座種別を細かく記載する必要はありません。
このように「一切の債権」と記載しておくことで、例えば総合口座の中に普通預金、定期預金、貯蓄預金などが含まれていた場合も、すべて相続させることができます。
遺言書に預貯金残高は記載しない
さて、遺言書を書く際に、預貯金残高まで記載したほうがいいのか、という悩みを抱えている方も多いでしょう。
しかし結論としては、ここまでの文例から分かるとおり、遺言書に預金残高は記載すべきではありません。
そもそも遺言書を書く大きなメリットの一つは、遺産分割協議を避けられることです。
遺産分割協議では相続人全員が集まって遺産の分割案を協議し、相続人全員が合意に至らないといけません。
どんなに仲良い家族でもお金絡みの話となると意見が合致せずトラブルになったり、家族がバラバラになってしまったりと思わぬ結果を招きかねません。
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しかし預金残高を遺言書に書いてしまい、本人死亡時に預金残高が増えていた場合は、その超過部分について遺言書に記載のない財産という扱いになってしまいます。
そして、その超過分については、別途相続人全員による遺産分割協議が必要になります。
では、実際の預金残高が遺言書の預金残高より少なかった場合はどうなるのでしょうか。
このときは、遺言書作成時より死亡時に預貯金額が少ない場合は民法1023条2項によりその差額が生前処分として撤回されたと解釈することができます。
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
ただし、遺言書の書き方によっては他の遺産より補填する可能性があります。
しかし他の遺産が、既に他の相続人に割り振られていたら、そこから持ってくることはできません。
状況にもよりますが預金残高が不足したまま相続を進めることとなり、相続人間で不満の種になる可能性があります。
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もちろん遺産分割協議が揉めるとは限りませんが、全員の参加と同意が必要なので相続人にとって大きな負担になる可能性があります。
このように、預貯金額が遺言書記載の額より増えていても減っていても、相続手続が大変になるため、基本的には遺言書に預貯金額を記載しないのがセオリーです。
遺言を書く時は行政書士などの専門家のサポートを利用
このコラムで紹介した通り預金を相続させる書き方がいくつかありますので、ご自身の状況に応じて使い分けなければなりません。
しかし、自分の希望を叶えるために、法律的にはどのような文章を書けばいいのかは、かなり難しい作業だといえます。
そのため遺言書を作成するときは、行政書士などのプロへ相談するのがおすすめです。
横浜市の長岡行政書士事務所は、これまで何人もの遺言書作成をサポートしてきました。初回相談は無料ですので、ぜひ遺言書作成を検討している方は、お気軽にお問い合わせください。








