「親が亡くなったけどそもそも遺言があるかどうかもわからない。」
「遺言書を生前に作っていたらしい!でもどこにあるかわからない・・・」
「遺言を探したいけどどうしたらいいの?必要なものは?」
相続は人が亡くなると同時に始まります。
相続は亡くなった方の持っている財産を分配するものなので、ご本人の意思に沿うものであることが好ましいとされています。
遺言書がある場合には基本的には遺言書の通りに、遺言書がない場合にはご家族で話し合いが必要となります。
つまり、遺言書の有無で相続の形は大きく変わります。
したがって、遺言書があるのか、ないのかということを確認することはとても大事なことなのです。
でも遺言書を誰の目にも見えるように置いているという方はなかなかいませんね。
遺言者本人から遺言書の保管場所を聞いている場合でなければ探し出すのは至難の技です。
そこで、今回は遺言書の有無をどうやって確認するのか、遺言書をどうやって探すのかを紹介します。
また、自筆証書遺言と公正証書遺言それぞれの探し方についてお話ししますので、ぜひ参考にしてください。
目次
遺言書は種類によって探し方が異なる
『遺言書』と一言で言っても遺言書には一般的に2種類の遺言書があります。
その遺言書の種類によって取り扱いが異なるので、まずはその遺言の種類についてお話ししておこうと思います。
遺言書は主に2種類、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は被相続人が全文を自ら手書きで作成された遺言書です。
基本的にはご自身で保管される場合が多いです。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言の保管方法を行政書士が解説!
その他、法務局に自筆証書遺言を保管している遺言の制度もあります。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言書保管制度の証明書は2種類!遺言書が見つからない場合に活用
さて、つづいて公正証書遺言について説明します。
公正証書遺言とは、公証役場において、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成した遺言書です。
公正証書遺言の原本は公証役場において保管されます。
この自筆証書遺言と公正証書遺言という遺言書の種類によって、探す方法は変わることを前提として知っておきましょう。
遺言書を探す手順
さて、遺言書の保管場所も教えてもらっていれば、遺言書を探すのは簡単です。
困るのは遺言書を残しているとだけ聞いていたり、そもそも遺言の有無が分からなかったりする場合です。
このようなケースで遺言書を探す手順について、全体像を紹介します。詳しい制度内容は後述するので、まずは流れを知っておきましょう。
- 関係者に遺言書の有無について聞いてみる
- 公証役場で遺言書の有無を確認する
- 法務局で自筆証書遺言保管制度の利用有無を確認する
- 自宅を探してみる
- 銀行なども確認してみる
遺言書の有無が分からない場合、まずは亡くなった方が付き合いのあった関係者に、遺言書について何か聞いていないか確認してみましょう。
もしかしたら、自分で遺言を書いた・行政書士に遺言書作成を相談した、などの世間話を覚えているかもしれません。関係者の誰かから遺言書の情報をもらえれば、探す目途がつきます。
遺言書を作っていそうだけど、自筆証書遺言なのか公正証書遺言なのか分からない場合は、公証役場で遺言書の有無を確認してみましょう。
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されているため、最寄りの公証役場に確認すれば遺言書の有無が分かります。ここで遺言書が見つからなければ、公正証書遺言を作成している可能性を消去できるということです。
公証役場で公正証書遺言が見つからなければ、自筆証書遺言の有無を探ります。自筆証書遺言保管制度を利用していれば法務局へ預けているため、試しに問い合わせてみてください。(遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合、遺言者が希望していれば法務局から通知が届きます。)
公証役場にも法務局にも遺言書がないということになれば、自宅を探してみましょう。鍵付きの引き出しや仏壇、金庫などが自筆証書遺言の保管場所としてありがちです。
自宅でも見つからなければ、取り引きのあった銀行の貸金庫に保管されているかもしれません。相続手続きと合わせて、遺言書を預かっていないか確認してみてもいいでしょう。
自筆証書遺言の探し方
さて、自筆証書遺言の探し方についてより詳しく見ていきましょう。
先述したとおり、自筆遺言証書であっても保管方法は2パターンあります。
- 遺言書を作成したご本人が保管しているケース
- 法務局に預けているケース
それぞれの保管方法によって、自筆証書遺言の探し方は異なります。
本人が保管していた場合
基本的に自筆証書遺言はご本人が保管されている場合が多いです。
この場合は、遺品の中から探し出します。
金庫や貸金庫、専門家が預かっているケースなどもあります。
自筆証書遺言保管制度を利用している場合
自筆遺言証書であっても自筆証書遺言保管制度によって法務局(遺言書保管所)に保管されている場合があります。
すでにお話ししましたが、遺言書を探すことは保管場所を聞いていない限り至難の技です。
しかし、遺言書の保管場所を安易にお話しすることは遺言書の偽造などの危険が生じる原因となります。
遺言書は内緒にされている方が多いと思います。
残されたご家族がそもそも遺言書の存在を知らず、遺言書はあるのに遺品の中から発見されないまま相続が終了したり、遺言がないものとして相続の手続きを行なっている途中で遺言書が発見されて相続手続きが無駄なものになってしまったというケースもありました。
そこで、これらの事案の発生を少しでも減らすために2018年の法改正に伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が制定され、公的機関である法務局に遺言書の原本の保管を委ねることができるようになり、自筆遺言証書であっても残されたご家族などが遺言書の把握をすることができるようになりました。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」によって、自筆遺言証書を預けた場合、原本に加えて画像データとしても長期間管理されます。
(原本:遺言者死後50年、画像データ:遺言者死後150年)
家の中を探してもない場合には法務局に問い合わせをしてみてください。
『遺言書保管事実証明書』を発行することができ、遺言書が保管されているかどうかの確認をすることができます。
また、遺言書を作成したご本人があらかじめ通知を希望している場合、遺言書保管所において遺言者の死亡の事実が確認できた場合に相続人等の方々の閲覧等を待たずに遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言保管制度の遺言書情報証明書とは?行政書士が解説します!
公正証書遺言の探し方
公正証書遺言であれば、遺言証書の原本が公証役場に保管してあります。
したがって「遺言検索システム」で遺言書があるかどうか検索することができます。
遺言検索システムは、『日本公証人連合会』が運用する公正証書遺言のデータを管理する仕組みのことです。
公正証書遺言を作成すると、次の情報が公証人から日本公証人連合会に報告され、公証役場において管理されます。
- 遺言書を作成した人の氏名
- 生年月日
- 遺言書の作成年月日
この管理されている情報を一定の条件を満たす人であれば検索することが可能です。
日本公証人連合会では、昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言についてデータ化して管理しています。
なお、遺言検索システムで検索できるのは、公正証書遺言のみです。
自筆遺言証書は検索することはできません。
また、この検索システムで検索できるのは遺言書が保管されているかどうかだけです。
遺言の内容まで確認することはできません。
遺言検索システムで検索をして、公正証書遺言が登録されている場合には「遺言検索システム照会結果通知書」が交付されます。
遺言検索システム照会結果通知書の記載事項 |
・遺言作成日 ・証書番号 ・遺言作成役場 ・作成公証人 ・所在地 ・電話番号 |
遺言書の内容を確認するためには、この通知と必要書類を保管されている公証役場に行くことによって閲覧または謄本の交付が請求できます。
遺言検索システムの使い方
ここからは、遺言検索システムの使い方について解説します。
遺言検索システムを使える場所
公証役場で検索することができます。
公証役場は全国にありますので、各公証役場で公正証書遺言に関する情報を検索することができます。
参考:日本公証人連合会HP
検索はどの公証役場からもどこに保管しているかわかるシステムとなっています。
遺言検索システムを使える人
公正証書遺言を遺言検索システムで検索できるのは利害関係人のみです。
ここでいう利害関係人とは、
・法定相続人
・受遺者
・遺言執行者
・上記の代理人
が該当します。
法定相続人とは、被相続人がお亡くなりになった時点で生存している配偶者、子(胎児含む)、親、兄弟です。
受遺者(じゅいしゃ)とは、遺贈を受ける人として遺言書で指定されている人のことをいいます。受遺者は、遺言者の死亡時に生存していなければなりません。
遺言執行者とは、遺言の執行に必要な範囲で一切の行為を行う権利義務を有する人のことです。
合わせて読みたい>>遺言執行者の権限を遺言書に明記する書き方|行政書士が分かりやすく解説!
検索可能な対象者とされている場合であっても、遺言書を書いたご本人が生存している場合には検索することができません。
ご存命の場合には遺言を作成したご本人だけが利用することができます。
遺言書の有無や内容は大切な個人情報です。
たとえお子さんやご夫婦であったとしても遺言者が存命中であるかぎり利用することはできません。
つまり、検索システムを本人以外が利用可能となるのは遺言を作成したご本人がお亡くなりになった後だけということです。
遺言検索システムを使用するために必要なもの
検索システムを利用する場合には、利用する方に応じていくつか書類が必要となります。
不安な場合は、利用したい公証役場に問い合わせをして必要書類などを確認しておくと安心ですね。
委任状についても公証役場のHPからダウンロードすることが可能です。
遺言書を作成したご本人が利用する場合
・遺言者の本人確認資料
利害関係人が利用する場合
必要書類 | 例 |
・遺言者本人の死亡を証明する資料 | 被相続人(※)の戸籍(除籍)謄本など |
・請求者が利害関係人であると証明する資料 | ご家族であれば戸籍謄本など |
・請求者の本人確認書類
| パスポートや運転免許証 (確認資料は公的機関が発行した顔写真入りの身分証明) |
・認印 | ※本人確認書類が印鑑証明の場合 実印+遺言者本人の死亡を証明する資料(被相続人の戸籍(除籍)謄本など) ※印鑑証明書は発行3ヶ月以内のものであることが必要 |
※被相続人とは、相続がある場合に、亡くなった方のことを指します。
代理人が利用する場合
必要書類 | 例 |
遺言者本人の死亡を証明する資料 | 被相続人の戸籍(除籍)謄本など |
請求者が利害関係人であると証明する資料 | ご家族であれば戸籍謄本など |
請求者本人作成の委任状 | ※請求者の実印を押してあることが必要 (公証役場のHPからダウンロード可能) |
請求者本人の印鑑証明 | |
代理人の本人確認資料 | パスポートや運転免許証 (確認資料は公的機関が発行した顔写真入りの身分証明) ※なければ印鑑証明+実印が必要 |
代理人の検索を委任する場合には委任状がなければなりません。
公証役場からしたら委任状など確認できるものがなければ全く関係のない他人がきたと思ってしまいます。
他人は請求できないので注意が必要です。
検索システムの利用料
遺言書の検索・・・無料
謄本の交付・・・250円
遺言書の閲覧・・・200円
遺言検索システム利用時の注意点
遺言検索システムはどこの公証役場であっても利用可能です。
しかし、公正証書遺言を実際に閲覧することや、公正証書遺言の交付は、原則として遺言書を作成した公証役場へ赴く必要があります。
遺言書を作成なさった方が遠方にお住まいの場合には、利用した公証役場が遠くて不便かもしれませんね。でも大丈夫!
そんなときのために2019年4月1日から、遠方の公証役場が保管する遺言の謄本を郵送で取得することができるようになりました。
この場合、最寄りの公証役場で手続きが可能です。
最寄りの公証役場へ相談してみましょう。
遺言書を探す際の注意点
探していた遺言書が見つかると、つい嬉しくて開封してしまうかもしれません。しかし公正証書遺言以外の遺言書、つまり自筆証書遺言や秘密証書遺言を見つけてもその場で開封することは禁じられています。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は家庭裁判所で「検認」しなければなりません。
遺言書の検認とは、遺言書の保管者や発見者が遺言者の死後に家庭裁判所へ遺言書を提出し、相続人立会いのもと遺言書の内容を確認する手続きのことです。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言の検認って何のこと? 検認の目的と具体的な流れを解説
検認を怠ると5万円以下の過料が課せられる可能性があり、さらに他の相続人から偽造を疑われる原因にもなります。
遺言捜索時は、勝手に開封しないことを念頭に置いておきましょう。
遺言書の取扱いに不安を感じる方は、相続手続きに慣れた行政書士などの専門家に相談してみてください。横浜市の長岡行政書士事務所でも、遺言作成・相続手続きの相談に対応しています。
遺言書の内容は内緒!でも保管場所は家族で共有するといいかも?
ご家族からしたら、相続で揉めたくないと思われることは当然だと思います。
残される事になる家族、またはご本人と遺言書の内容に沿ってあらかじめ話し合って決めておきたいと思われることもあると思います。事前に心構えできれば安心ですよね。
遺言書はご本人の意思であるため偽造など他の人が書き換えることがあってはなりません。
そのため、簡単に目に入らない場所に保管したい方が多いでしょう。
しかし、そもそも発見してもらえなければ遺言書の通りに相続してもらえず、遺言書として残す意味がありません。
遺言書の内容を秘密にすることは大切だと思いますが、ご家族に「遺言書があること」や「公正証書にしたから公証役場で検索できるよ」ということだけは伝えておくといいですね。
公正証書であれば遺言検索システム、自筆遺言証書であれば法務省の遺言書保管所へ問い合わせることによって簡単に見つけることができるかもしれません。
書類などを揃える必要があり手間はかかりますが、広い家の中から見つけるよりは難易度はグッと下がると思いませんか?
もし、ご家族が遺言書作成を検討している際には「こんな制度もあるよ」と教えてあげることでお互い将来のためにもなるかもしれませんね。
また、公正証書遺言の場合、遺言作成者ご本人に対して正本と謄本が交付されます。
ご本人に了承をいただくことがベストではありますが、病気などで聞くことができない場合には、ご本人がご自宅でこれらを保管している可能性がありますのでどうしても必要な場合には重要な書類をしまっている場所などを探してみることも一つですね。
横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言作成にまつわる相談を受け付けています。それぞれのケースに合った遺言作成方法を提案していますので、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料です。
参考文献
・常岡史子 新世社 『家族法』
・潮見佳男 有斐閣 『民法(全) 第3版』