配偶者の連れ子って遺産相続できるの?遺言書作成や相続手続きにまつわる質問の中で、意外と多いのがこの問題です。
実子であれば間違いなく相続人であることはわかると思いますが、連れ子となると、ん?と迷うと思います。
そこで今回は、連れ子の相続問題を行政書士の監修のもと、童謡風の形式で解説します。
吾輩は猫である。名前はまだない。
先日、野良猫のミケが、流れ者のトラ猫・トラジと再婚をした。ミケといえば、子だくさんの気丈夫母ちゃんで、吾輩のことも逐一気にかけてくれる。
やれ名前がまだないのだから名をつけろとか、そろそろ結婚しろだとか。
多少おせっかいがあるのだが、気立てのよいやつなので、吾輩も陰ながら嬉しく思っている。
おせっかいといえば、我が主もある意味相当な女傑だ。
ずいぶん以前に、とあることで行政書士の長岡とやらに相談をし、本人曰く「意気投合」したようで、今度は自分が行政書士の資格を取って一緒に働くことを夢見る中年だ。
そんなふうだから、資格もないくせに片っ端から知り合いの相続問題などに首を突っ込んでは、名探偵ならぬ名行政書士気取りで案件を持ち込むのだから、長岡とやらも気苦労が絶えぬであろう。
今回も、我が主がまた何か引っ張ってきたようで、吾輩もこうして長岡行政事務所に付き合わされているわけである。
目次
連れ子は法律上の親子関係ではないので相続権がない
我が主「…というわけでね、長岡センセ。あたしの知り合いが再婚をためらっているんですよ。なんでも相手が子連れで、遺産を相続するときにややこしくなるんじゃないかって」
長岡「なるほど。血のつながりのない父母の遺産を相続できるかどうか。これは昨今重要なテーマでもありますよね」
うむ。吾輩も以前新聞をこっそりのぞいたときに、日本の離婚率の記事があったのでいわんとすることはわかる。2019年の厚生労働省の調査だと、日本の離婚率は35%前後。約3組に1組の夫婦が離婚をしている計算になる。なんとも人間とは忙しいものだ。
長岡「民法における遺産相続の考え方は、血の繋がり、つまり血縁関係が基本となっていますからね」
連れ子(再婚相手の子)は法律上の親子関係ではないので相続権がありません。
再婚によって夫婦の戸籍が結ばれたとしても、再婚相手の子との親子関係が自動的に結ばれるわけではないのです。
連れ子に相続させる2つの方法
我が主「再婚した配偶者の連れ子は本人との間に血縁関係がないでしょ。法律上も親子関係がないわけですから、何もしないままでは遺産を相続できない。だから遺言がいる。そこまでは知り合いもわかってるみたいなんです」
長岡「さすが、資格を取ろうとしているだけあって、よく勉強なさってますね」
我が主「でへへへ」
何がでへへであろうか。参考書を開いてはすぐ眠たくなってしまうので、同じ場所を繰り返し読んで覚えてしまっただけではないか。
我が主「でもセンセ、再婚相手の連れ子に遺産を譲るためにどうすればいいか、そこまで勉強が進んでなくて…」
長岡「はい、ではご説明しましょう。連れ子に遺産を相続させるには2つの方法があります。
- 連れ子と養子縁組をして遺産を譲る
- 遺言を作成して連れ子に遺産を譲る
簡単にメモでまとめてみましたので、こちらをご参照ください」
連れ子と養子縁組をして遺産を譲る
まずは連れ子と養子縁組をすることが挙げられます。
- 養子縁組をすると法律上の親子関係が成立する
- 親子関係なので、連れ子にも相続権が認められる
- 養子と実子で相続できる割合(相続分)に違いはない
連れ子に相続権を与えられる養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」があります。それぞれ特徴がことなることは覚えておきましょう。
- 特別養子縁組を選択すると実親との親子関係は終了する
- 普通養子縁組では連れ子は、血縁関係にある実親と再婚相手の養親、ともに相続ができる(両親が離婚していても)
- 特別養子縁組では実親からの相続はできなくなり、養親からの相続のみ
参考:普通養子縁組をした子はどうなる?相続時の注意点を行政書士が紹介!
参考:特別養子縁組とは|行政書士が相続時の問題や制度のしくみを詳しく紹介!
遺言を作成して連れ子に遺産を譲る
養子縁組を結ばなくても、遺言を作成して連れ子に遺産を譲ることも可能です。
- 遺言書を作成することで、相続権がない人に対しても遺産を取得させられる(遺贈)
- 遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類がある
- 包括遺贈の場合は負債といったマイナスの遺産も承継してしまうので要注意
養子縁組を結ばないケースでは、連れ子に「遺贈」することになります。「特定遺贈」と「包括遺贈」も特徴が異なるため、どちらを活用するかは個別事例によって判断した方がいいでしょう。
合わせて読みたい>>包括遺贈とは?特定遺贈との違いやメリット・デメリット、受遺者の権利義務について行政書士が解説!
合わせて読みたい>>特定遺贈とは?包括遺贈との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説
連れ子への遺贈は自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらが適しているか
我が主「なるほど。連れ子への遺贈は、自筆証書遺言と公正証書遺言どちらがよいというのはありますか?」
長岡「連れ子のケースに限ったことではありませんが、やはり公正証書遺言がおすすめですね。公正証書遺言は自筆証書遺言に比べて費用が高くなりますが、後にトラブルが生じる危険性がかなり少なくなりますから」
我が主「うふふ、私の読みと同じです。さすがはセンセですわ!」
長岡「は、はあ……」
嘘をつけ。絶対に読んでないだろう。すまぬ、すまぬぞ長岡とやら。ほら、呆れてしまっている…。
合わせて読みたい:公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらがおすすめ?違いや選び方を行政書士が解説!
連れ子を養子にすることで相続税の節税にもなる
長岡「ともかく、税金や後々のトラブルの事も考えたら、養子縁組と遺言の両方を併用するのがいいでしょうね。また、相続に関わる税金をなるべく圧縮したり、相続時に他の相続人とトラブルに陥らないように注意することも大事ですね」
我が主「相続に関わる税金を圧縮というのはどういうことなんですか?」
長岡「いい質問ですね。養子縁組しないまま連れ子に遺贈をすると相続税額の2割加算の対象となってしまうんですよ」
我が主「それは痛手ですね。圧縮しなくては。ふとん圧縮袋みたいにぺったーんと」
なんだその例えは…?
長岡「…え、ええ。あとは、法定相続人の数が多いほど相続税の基礎控除額が多くなりますので、これを狙うという理由もあります」
我が主「どういうことなんですか?」
長岡「連れ子と養子縁組をすることで、そもそもの法定相続人の数が増えることになりますよね? すると、相続全体の相続税が軽減される可能性があるというわけなんです」
我が主「そうか! だったら、ひとりふたりとケチくさいこと言ってないで、10人くらいどかーんと養子にしちゃいましょう!」
昭和の大家族か…。そんな理由で養子にされたら、たまったものではないだろうに。
長岡「(笑) ですが、一般的な税法上、養子は原則として実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合には2人までしか法定相続人の数にカウントすることができません」
我が主「なあんだあ…。」
かりに実子が1人・養子が2人・合計3人の相続人がいるとしても、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×二人(実子一人+養子一人)=4,200万円」となります。
ただし「被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となっている人」については、税法上は実の子ども、つまり法定相続人の数に含まれます。連れ子を養子にするのであれば、税法上の養子人数の制限はなくなるということです。
先ほどの実子が1人・連れ子の養子が2人・合計3人の相続人であれば、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×三人(実子一人+連れ子の養子二人)=4,800万円」となります。
合わせて読みたい:相続の生前対策とは?民法上の対策と相続税法上の対策の概要を行政書士が解説!
遺言書で連れ子に遺贈した場合は遺留分侵害に注意
我が主「そうそう、あと、気になってたのがさっきの「遺贈」なんですけどね。連れ子のままで遺贈した場合は、何か注意が必要なんですか?」
長岡「遺言を書いて連れ子に遺贈として財産を取得させた結果、ほかの相続人の遺留分を侵害してしまう可能性が出てきますね」
我が主「遺留分…って、なんでしたっけ?」
長岡「遺贈などがあった場合でも、相続人が亡くなった人の財産の一定割合を確保することができる権利のことです」
我が主「そうだそうだ! 思い出した!」
長岡「遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合、相続人は遺贈によって財産を贈られる人に対して、金銭の支払いを求められるんです。ではこれを何というか覚えていますか?」
我が主「…財産差し押さえ?」
物騒な物言いをするんじゃない。遺留分侵害額請求権だ。いや、なぜ吾輩が知ってて勉強しているはずの我が主が知らんのだ…。
長岡「遺留分侵害額請求権ですね。遺留分を侵害するような遺贈は無効とはならないものの、遺留分を侵害された相続人によって遺留分侵害額請求権が行使されると深刻なトラブルになることもあるんです」
我が主「例えば? 斬ったはったの仁義なき戦いですかね」
法律というものを無視するな、我が主よ。
長岡「遺留分の支払いは金銭で行いますので、不動産中心で相続するような場合は現金の準備のため遺贈を受けた連れ子にとって負担になってしまう…などのケースですね」
合わせて読みたい:遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説
連れ子に相続させたくない場合の対策
ここまでは連れ子に財産を渡すための対策について紹介してきましたが、反対に「連れ子に相続させたくない」というケースもあるでしょう。
連れ子には相続権がありませんから、養子縁組もせず、遺言書で遺贈を指定しなければ、財産が渡ることはありません。
もし既に養子縁組をしているのであれば、離縁手続きすることで相続人から外すことができますが、相応の理由がなければ離縁が認められないこともあります。
もし離縁手続きをせずに、養子にした連れ子に財産を渡したくないのであれば、「連れ子へ遺産を渡さない」遺言書を書くことになります。
ただし、養子縁組をしているのであれば、連れ子にも遺留分が認められるため、先述した遺留分侵害額請求は考慮した方がいいでしょう。
連れ子の相続には遺言と養子縁組を用いる
我が主「連れ子へ財産を渡すときのトラブルは避けたいものですよね」
長岡「ごもっともです。再婚し、かつ連れ子が相続できるようにするためには、養子縁組と遺言の2つを用いて実子と同じ権利を創出してあげる必要があります」
我が主「二刀流ですね。大谷翔平くんだ!」
安易。実に安易、例えが。
長岡「まとめますと、税金や他の相続人との遺留分のことまで考えてあげるのであれば、養子縁組により相続税の圧縮ができますよね。それに、養子にして実子と同じ法的な立場になったあと遺言により遺産を遺してあげれば第三者に遺産を譲る遺贈ではなくなります。つまり?」
我が主「より連れ子の権利を守ってあげることができる!」
長岡「正解です! 実や親せきの中には「よそ者である連れ子になぜ遺産を渡すのか」、と感じる人がいるかもしれません。ですので、遺言書作成や養子縁組を合わせて、自分の思いを伝えておくことも大事です。遺言の中に付言事項という、法的な効力はないものの遺言者の想いを表した条項を入れることで、連れ子に対する理解を深めてもらう事も必要ですね」
我が主「ありがとうございます、センセ。知り合いにアドバイスしてみますね」
やれやれ、我が主ながら、今回もツッコミ疲れる。いっそ吾輩が行政書士の勉強をした方が早いのではないか…。いや、無理か。なにせ猫だからな。
横浜市の長岡行政書士事務所では、連れ子にまつわる遺言書作成もサポートしています。どのような遺言書内容にすれば自分の希望を法的な表現にできるのかお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料で対応しています。