遺産相続における現金・預貯金の取り扱いとは?遺言書の注意点を行政書士が解説

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ご相談者様:60代女性

先日父が亡くなりましたが、遺言書などは見つからず、家族で遺産分割の話合いをしています。

その話し合いの中で、私たち3人兄弟のうち長女である姉が結婚資金として父から多額の金銭を受け取っていたことが判明しました。

他の兄弟はそのような資金は特段受け取っておらず、私と弟は不公平であると考えています。私は弟は、兄弟間の公平のために姉が結婚資金として受け取った資金を差し引いた遺産分割をしたいと姉に申し出ました。

姉が結婚資金として受け取った金額は多額であったため、本来受け取るはずの相続財産から差し引くと姉の相続財産はほとんど残りませんが、姉は土地建物については兄弟間の公平のために仕方がないと承諾してくれました。

しかし、「預貯金については相続開始と同時に当然に相続分に応じた分割がなされるものであるから、自分にも受け取る権利がある」と言っています。

例え不公平であってもそのような結果になるのでしょうか?

回答:長岡行政書士事務所 長岡

ご相談ありがとうございます。

すでに生前に財産を受け取っているにもかかわらず、現金や預貯金について、ご兄弟全員に当然に受け取る権利があるのか?といったご相談ですね。

おっしゃる通り、公平の観点から生前に特別に利益を受けている人については、その受けた利益をも含んだ総額を分割するという相続を行うことが可能です。

預貯金などについて、従来はお姉さまのおっしゃる通り預貯金については相続開始と同時に当然分割するというルールになっていました。

しかし、遺産分割は相続人間の公平を図るためという趣旨であるにもかかわらず、そのような従来のルールでは不公平が生ずる可能性があるといった観点から現在ではルール変更をし、預貯金も当然に分割することはなく遺産分割の対象とするという扱いになりました。

今回は遺産相続時の『預貯金の取り扱い』、また、預貯金に似た『現金』の取り扱いについてお話ししたいと思います。

 

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遺産分割の対象となるもの

まず、民法に定める一般的な相続の効力を確認しておきたいと思います。

民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りでない。

このように、お亡くなりになった方の有する権利義務は、一身専属の権利を除いて一切の権利義務が遺産分割の対象となると法律で規定されています。

 一身専属の権利とは、ある特定の者だけが持つことのできる権利のことを指します。他人が代わって行うことのできない性質の権利が一身専属の権利であると考えられ、相続の対象とならないと規定されています(民法896条)。例:子育て・絵を描く義務・講演をする義務 等

 

さて、遺産の中には、証券や土地・家などの不動産など、様々な種類の財産があると思います。

その中でも多いのが『現金』です。

また、現金に似たものとして、『預貯金』があります

現金と預貯金は遺産相続における性質が違う

現金と預貯金は似ていますが、相続における現金と預貯金の違いは『権利』であるか、『実物』であるかという違いです。

同じお金なのに何が違うの?と思うかもしれませんが、預貯金は「被相続人の口座から現金を引き出す権利」と考えると想像しやすいのではないでしょうか。

 

このように、現金と預貯金は似て非なるものとして考えられているため、以前は現金と預貯金とでは相続分の取り扱いが異なっていました。

 

従来のルールでは、現金は遺産分割の対象となるが、預貯金については遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に当然分割され、各相続人に帰属するというものでした。

※当然分割とは、遺産分割などを経ることなく、当然に法定相続分に従って共同相続人の間で分割して承継することを指します。

 

そのため現金と預貯金について、それぞれを分けて考える必要がありましたが、ルール変更に伴い、現在ではどちらも遺産分割の対象となりました。

つまり、現在では現金と預貯金の取り扱いはほとんど同じだと考えていただいて問題ありません。

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遺産相続における現金の取り扱い

まずは遺産相続における現金の取り扱いについて解説します。

お亡くなりになった方の財産は、通常、相続人全員が参加する『遺産分割協議』において、『誰が、何を、どれくらいの財産を相続するか』ということを全員の同意に基づいて決められ、分配されます。

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相続財産は、被相続人がお亡くなりになると同時に相続が開始されますが、遺産分割の手続きが終了するまでは相続人全員の共有財産であると法律で規定されています(民法898条1項)。

 

現金は金銭ではあるものの、あくまでも動産であると考えられています。

そのため、現金もこの遺産分割協議を経て相続されるまで、相続人全員の財産ということになり、全員の同意が得られるまでは相続財産である現金を手にすることはできません。

 

さて、次は実際の遺産相続が起きた際の現金を補完する際の注意点を見ていきましょう。

こちらは、現に保管している人、保管していない人に分けてみていきます。

各相続人はどのようなことが請求できるのか、一緒に確認していきましょう。

 

保管していない人は保管している人に対して、現金の金額を明らかにするよう請求することができます。

また、保管方法についても意見を述べることができるとされています。

 

一方、現金を保管している人は、その現金を勝手に使ってはいけません。

例え手元に現金があったとしてもそれはあくまでも相続人全員の共有物です。

つまり、その現金は保管している人のお金であると同時に、みんなのお金をを預かっているのです。

家族とはいえ、人のお金を勝手に使うということは許されません。

 

相続前の現金を勝手に使うということはもちろん許されませんが、現金を隠匿するようなことがあった場合には最悪の場合刑事罰に問われる可能性もあります。

 

刑事罰とまではいかなくとも、税務署の調査で指摘されるとペナルティが課される可能性もあります。

ペナルティが課される場合、延滞税や過小申告加算税のほか、財産隠しとみなされると重加算税も徴収されます。

税務署からの指摘の前に隠さずに必ず申告するようにしましょう。

遺産相続における預貯金の取り扱い

遺産相続における預貯金について、平成28年12月以降遺産相続についてルール変更がありました。

改正前の預貯金の取り扱いと、改正後の取り扱いの違いを見ていきましょう。

 

平成28年12月以前は、預貯金は可分債権、つまり、分けられる債権として考えられていました。

 

民法427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

 

ここに引用した民法427条は、可分債権について定めた法律です。

可分債権とは、性質や価値を損なわずに分けられる債権のことを意味します。例えば、お金や土地が挙げられます。

 

相続の対象となる預貯金についてもこの可分債権の考え方と同様に、「相続人が複数人いる場合、その相続財産中に可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共有相続人がその相続分に応じて権利を承継するものとする。」と考えられてきました。

※ここで言う相続分とは、法定相続分を意味します。法定相続分とは、被相続人がお亡くなりになった時点で生存している配偶者、子(胎児含む)、親、兄弟が相続する割合です。

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この考え方から、可分債権である預貯金については、各相続人は法定相続分に応じて承継するのだから、遺産分割の対象とはならず、また、単独で預貯金を払い戻す権利を行使することができるというものでした。

 

つまり、預貯金債権については他の相続人と行う産分割協議などの相談も合意もなく、それぞれが法定相続分である取り分を自動的に取得することができ、さらに銀行などから払い戻しを受けることができたのです。

 

本来、遺産分割の仕組みは、共同相続人間の実質的公平を図ることを目的とするものです。

 

しかし、今回のご相談のように、兄弟のうち1人が被相続人から多額の資金を受け取っており、兄弟間で公平にするためには全く受け取ることができないといった場合であっても、預貯金であれば当然に受け取ることができるといったルールは不公平を認めるようであるとは思いませんか?

 

そこで、家裁実務上は『相続人全員の同意がある場合には遺産分割の対象とすることができる』としてきました。

また、銀行等金融機関でも相続人全員の同意がない限り、原則として応じない対応をおこなっていました。

 

ただし、これもあくまでも『相続人全員の同意がある場合』なのです。

相続人のうち一人でも反対するときはその理由の有無を問わず、これを理由に協議が整わないからといって調停・審判の対象とすることはできませんでした。

 

つまり、相続に十分な知識があり、ご自身が生前に受けた利益が大きいことを認識している相続人であればあるほど、遺産分割の同意をする可能性は低くなります。

遺産分割協議を行うと、「すでに利益を受け取っているのだから」と預貯金についても受け取ることができなくなってしまう可能性が高くなってしまいます。

 

同意しないことについて理由もなくていいのであれば、「いやだ」と言うだけでさらに財産を受け取ることができるのですから、同意しない可能性は高いですよね。

 

このように、従来の預貯金は遺産分割の対象とならないという考え方について、預貯金の性質を考えても学者などの間では多くの批判がありました。

そこで、平成28年に最高裁判所は「預貯金を遺産分割の対象とする」という決定をし、現在では預貯金も遺産分割の対象とするルールが変更されました。

 

この預貯金を遺産分割の対象とすると判断した理由は、次の2つです。

  • 遺産分割の趣旨は、共同相続人間の実質的公平を図るというものであること
  • 預貯金は現金に近いこと

この裁判所の決定によって預貯金については現金と同様の扱いとなり、平成28年12月以降、預貯金は当然分割ではなく、遺産分割の対象となり、相続人間の公平を図ることができるようになったのです。

現金・預貯金を遺言書に記載する場合の注意点

最後に、現金・預貯金を遺言書に記載する場合の注意点を紹介します。

遺言書を作成する際、意外と現金についての記載を忘れている場合があります。

遺言書に記載がない場合、その記載のない部分は遺産分割の対象となります。

「確実に現金を相続させたい!」という場合には注意が必要です。

遺言書に預貯金と記載しても現金は含まれない

預貯金の相続については、金銭自体を指すのではなく、「この金融機関から引き出せます」という権利のことを指します。

 

預金というと、一般的には銀行などの金融機関に預け入れた金銭を指すことをイメージするかと思いますが、法的に預貯金とは、金銭そのものではなく、『債権の一種』と考えられています。

 

つまり、預金口座を指定して相続させようという場合、現金を相続するのではなく『指定された金融機関の口座から現金を引き出す権利』を相続するということになり、現金そのものとは異なります。

したがって、遺言書に預貯金と記載しただけでは現金は含まれないので注意が必要です。

遺言書に「金融資産」と記載しても現金が含まれない可能性がある

金融資産とは、一般的に現金・預金・株式、株式以外の国債や投資信託などの証券などを広く指します。

 

しかし、遺言書に記載する際、『金融資産(預貯金債権、信託受益権、有価証券等)を相続させる』と明記し、現金と記載しなかった場合、「金融資産」に現金を含むか否かが争いの元となる可能性があります。

したがって、金融資産に現金を含めるのか、除外するのかをしっかり明示することをお勧めします。

遺言書に「その他の財産」と書いた場合は現金が含まれる

その他の財産とは、指定したもの以外の全ての財産を指します。

したがって現金はもちろん、見落としていた相続財産についても含まれます。

 

その他の財産と書くことで記載漏れを防ぐことができる一方で、高額な財産や不要な財産まで含まれる可能性もあるため注意が必要です。

現金・預貯金は遺言書でしっかり記載することが大事

  • 相続において、平成28年以降預貯金の取り扱いが変更された
  • 遺言書に指定がない場合、現金も預貯金も遺産分割協議が必要
  • 現金を確実に相続させたい場合には『現金』としっかり明記することが大切

 

いかがでしたでしょうか?

従前のルールでは公平性に欠けるという観点などから、現金も預貯金も遺言書に指定がない場合には遺産分割の対象となるとして、平成28年以降取り扱いが変更されていますので注意してください。

 

現金や預貯金について、トラブルを回避しつつ確実に相続をさせたい場合には遺言書を作成して『現金』や『預貯金』と明確に記載しておくことをお勧めします。

ご自身の財産の相続において、ご家族がトラブルになるということは誰もが望むことではないと思います。

ご自身のため、また、ご家族のためにも遺言書を作成してみませんか?

<参考文献>

二宮周平 著 新世社 『新法学ライブラリ9 家族法 第5版』

常岡史子 著 新世社 『家族法』

雨宮則夫・寺尾洋 編著 日本加除出版 『Q&A 遺言・信託・任意後見の実務 公正証書作成から税金、遺言執行、遺産分まで』

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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