大切な人が亡くなり相続が発生し、相続人同士が仲が悪かったり対立したりすることはあるかと思います。なぜ、円満に解決するはずの遺産分割協議が対立するのでしょうか。そして遺産分割協議の対立をを防ぐにはどうすればいいでしょうか。この記事では、遺産分割協議が対立する理由とその対策について「ドラクエ風」に解説します。この記事を読むことで遺産分割協議が円満に解決する一助になれば幸いです。ぜひ最後までご覧ください。
ここは現世から遠く遠く離れた、魔王が支配する異次元世界。
なんと現世で行政書士をしていた男が、ひょんなことから転生してしまい、勇者として活躍するハメに。
戦士、魔法使い、僧侶、そしてこれまたひょんなことから懐いてきて仲間になってしまったスライムとの珍道中。
さて、今日はどうやらとある冒険者のお墓の前でひと悶着あるようですが…。
相続の際の遺産をめぐって相続人が争うことを「争族」と呼ぶことがあります。
実はこれ、ダジャレのように見えますが、とっても深刻な問題。それだけ世の中で一定数の相続争いが絶えないことの表れです。
親族が相続について争族になるという、もうダジャレでもややこしい状態になる前に、やはり遺言書を書くのが一番。
ここでは相続争いの典型的なケースをご紹介し、原因や対策をお伝えしていきます。
目次
遺産分割協議が対立しそうなときはどうすればいい?
戦士「俺たちが魔王を倒す旅に出て久しいけど、それにしても世の中には相続や遺言の問題が多いもんだな」
僧侶「まったくね。魔物を倒す数より、勇者さんが前世の行政書士の知識を活かして解決した案件の数のほうが多いんじゃないの?」
スライム「でもそのおかげでボクは勇者さんのパーティに入れたんですから」
魔法使い「おや? あれはなんじゃ? 丘の上の冒険者の墓場の前で何やら不穏な者どもがおるぞ」
僧侶「魔物かしら?」
戦士「おうい、お前さんがた。どうしたんだ? 魔物にでも襲われてるのか?」
若者「違います、出たんですよ! 族が!」
僧侶「魔族? でもここにいる人たちはみんな人間だけど」
若者「魔族ではなく…争族です。遺産の分割でモメてまして、かくかくしかじかというわけなんです」
相続が対立する前に遺言書を書く
僧侶「なるほど。あなたのお父さんがダンジョンの宝箱から金銀財宝を見つけた。でもお父さんは遺言書を残しておらず、遺産分割協議になった。で、モメにモメて、親族で争族になっちゃった…というわけね」
魔法使い「まったく…人の恨みつらみは魔族よりもたちが悪いからのう」
スライム「なんか…すんません」
僧侶「確かに遺言書が残っていないのは問題ね。勇者さんが言うには、遺言があれば争族のリスクがだいぶ軽減されるのは間違いないそうだし」
スライム「遺言は故人の最後の意思表示ですものね。相続においては最も重視されるのはボクも勉強してきました」
戦士「ま、もっとも遺言の通りに遺産を分けられるケースばかりでもないしな。相続人の取り分を考慮する遺留分だってあるわけだし」
若者「私が放蕩息子だっただけに、親族皆納得してくれなくて。親父のように真面目に冒険者をやっていれば、皆の見る目も変わったのかな…」
魔法使い「放蕩息子か…いったい何をやって浮ついていたんじゃ? このおじいちゃんに話してみよ」
若者「踊り子ちゃんたちの尻を追いかけまわして…」
魔法使い「……」
僧侶「…おいジジイ、なに友情を感じ合ってハグしてんのよ」
遺産分割協議が対立する理由とは
戦士「やれやれ…。とはいえ、なあ勇者さん。遺産分割協議がまとまらない原因って、例えばどんなものがあるんだ?」
僧侶「主に以下のものがあるみたい」
- 相続人が寄与分を主張してくる
- 既に特別受益を受けている相続人がいる
- 被相続人が再婚をしている
- 相続人の誰かが音信不通(行方不明)になっている
- 相続財産の中に不動産がある
- 最初の遺産分割が終わる前に次の相続が始まった
相続人が寄与分を主張してくる
僧侶「勇者さんが言うには、寄与分は、故人(=被相続人)がまだ生きていたときに特別の貢献をした相続人に対し、貢献の度合いに応じた相続分をプラスすることができる制度なんですって」
若者「貢献の度合いか。例えば踊り子ちゃんにどれだけ貢いできたかとかですか?」
魔法使い「うむ、それ大事」
僧侶「…違います。例えば、お父さんの介護を一手に担っているとか、そういう場合よ」
戦士「勇者さんが言うには、親の介護を行っていた子は多めの遺産を「寄与分」として主張するかもしれないけど、他の子は平等な分配を主張するかもしれないんだってさ」
スライム「つまり、その寄与分の度合いをどう計算すべきかが争点になる可能性があるってわけですね!」
魔法使い「まいったぞ…わし、算数苦手じゃ…」
僧侶「ねえ、見て! 勇者さんの魔法の地図が光りはじめたわよ。寄与分と認められる可能性が高い要件が浮かび上がってきたわ!」
合わせて読みたい:親の介護を頑張った!相続の時には寄与分として考慮されるの?
寄与分と認められる可能性が高い要件
- 長期間の献身があったか
- 専念しなければならなかったか
- 被相続人との関係性から期待される以上の程度を越えた献身があったか
- その献身に対して対価が支払われていないかどうか
戦士「ふうん。で、勇者さんの説明によると、法に判断をゆだねると寄与分を主張する相続人の感情との間にずれが生じることもあるそうだ」
僧侶「ということは、寄与分を認めてもらうのって簡単じゃないってこと?」
戦士「らしいな。寄与分を主張する相続人は、遺産分割協議のときに、自身の献身の記録(日記、かかった費用のレシート等を準備しておくほうがいいらしい。まあ、証拠ってやつだな」
スライム「確かに他の相続人に納得してもらうことができて遺産分割がまとまる可能性も高くなりますよね」
既に特別受益を受けている相続人がいる
戦士「なんだって、勇者さん? 特別受益を受けているとモメやすいって?」
魔法使い「なんじゃ、それは。袖の下か?」
僧侶「そうじゃなくって、特別受益は、相続人の中に既に被相続人から利益を受け取っている場合の、利益そのもののことなのよ。ね、勇者さん」
合わせて読みたい:特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意
特別受益の具体例
戦士「例えば2人の子どもがいて、父親の生前、長男が何かしらの理由で1,000万円を既に受け取っていたとする。で、その父が亡くなったとき、3,000万円の遺産が残った。一般的には長男と次男で1,500万円ずつ分け合う形になるけど、それだと先に1,000万円もらっている長男のほうが多くもらうことになる。ってことは、次男はこの遺産分割案に反対する可能性あるってわけだ」
魔法使い「…脳みそ筋肉だとばかり思っていたんじゃが、お前、賢いのか?」
戦士「ふ…一言一句勇者さんの言っていることをパクっただけよ」
僧侶「うちのパーティって、偏差値低すぎるわね…」
スライム「この場合の解決策は、長男に500万、次男に2,500万円という分け方をすると平等になるってことですか?」
僧侶「そういうことになるかもしれないけど、長男にも事情があって、より多くの遺産が欲しい場合は自分の権利を主張するわよね。となると、すんなり特別受益を認めないかもね」
スライム「仮に次男も大学の学費を父に出してもらっているような場合は今度は長男が不公平だと感じるかもしれませんしね」
戦士「要するに範囲の問題だな。なあ、勇者さん、前の世界の判例ではどういうときにが特別受益になってきたんだ?」
判例により特別受益の範囲として争われた事例
- 結納金、結婚持参金を既に受け取っていた→〇(認められた)
- 家の購入資金援助を受けていた→〇
- 事業を始めるための開業資金を援助してもらった→〇
- 借金を肩代わりしてもらった→〇
- 扶養の範囲を超える生活費を援助してもらった→〇
- 扶養の範囲内で生活費の援助をしてもらった→×(認められなかった)
- 結婚式費用を出してもらった→×
- 生命保険の死亡保険金を受け取っていた→×
魔法使い「これ、たぶん自分ひとりでは判断できないから、勇者さんのような行政書士に相談したほうが早いじゃろうのう…」
被相続人が再婚をしているケース
若者「あの、素朴な疑問なんですが、オヤジって初婚の妻…つまり私の母と死別して、別の人と再婚してるんですけど、その場合どうなるんですか?」
僧侶「勇者さんが言うには、仮に先妻との間で子がいて再婚し新たに子が生まれた場合、先妻の子と後妻の子はどちらにも等しく相続権が発生するんだって」
戦士「子の相続権には優劣はない…つまり子はともに平等ってわけだな。なあ勇者さん、再婚がらみで問題になりやすいのはどんなときなんだ?」
再婚後の配偶者と他の相続人間で問題になりやすい具体例
- 前妻の子が音信不通になり、相続人が全員参加しないといけない遺産分割協議ができないとき
- 前妻と後妻の家族との折り合いが悪く、前妻の子が相続放棄を迫られたとき
- 遺言書はあるが前妻の子への相続の配慮がなく、前妻の子から急に遺留分侵害請求を受けているとき
戦士「あと、勇者さんが言うには、後妻に連れ子がいる場合は養子縁組をしないと法律上の親子関係は成立しないんだってさ」
スライム「つまり、相続を受けさせてあげることができないってわけですね!」
魔法使い「それもさることながら、再婚がらみだと、遺産分割協議で前妻と後妻が顔を合わせるハメになるころもあるじゃろ? …なんだか身震いするほどの修羅場が待っていそうじゃ…」
戦士「…ジイさんの場合は、いろいろありそうだな…」
相続人の誰かが音信不通(行方不明)になっている
スライム「ねえ、勇者さん。相続手続きの中でまず最初にやらなければならないのってどんなことですか?」
僧侶「ふむふむ、まずは相続人を確定させること…そりゃそうね」
戦士「でもよ、誰が相続人になるかって、事前にわかりきっていそうなもんだけどな」
僧侶「意外なところから相続人が出てくることもあるんだって。そうなると、相続がやり直しになることもあるそうよ」
若者「そ、そんなの困ります! 実際、「あんた誰?」みたいな人も出てきてるし…」
僧侶「勇者さんが言うには、被相続人の戸籍を生まれたときから全て集めて配偶者・子供・両親などを漏れなく確認したほうがいいって。相続人をしっかりと確定させることが重要ってわけね」
スライム「確定しても連絡が取れなかったりしたらどうなるんでしょう?」
戦士「相続手続が止まってしまうようだな。遺産分割協議は相続人全員の合意が必須だから、まあ仕方がないと言えば仕方がないよな、勇者さん」
僧侶「やはり生前に推定相続人全員の連絡先を確認しておくことや、興信所に依頼して相続人を探してもらう可能性もあるわね。家庭裁判所に申し立てて失踪宣言を出してもらうこともできるようだけど、手間も時間も書かるからやはり遺言書を作って遺産分割協議をしなくて済むようにするのが一番ってところになるわね」
合わせて読みたい:不在者財産管理人とは?相続人が失踪し見つからない時の相続を行政書士が解説!
相続財産の中に不動産がある
若者「あと、今回モメている原因の一つに、不動産があるんです」
僧侶「それは厄介ね。土地・建物といった不動産は分割ができないので、遺産を相続人の間でどう分割するかが問題になりやすいから」
戦士「ああ。遺産の大部分が不動産だったりしたら、どう分けるかの選択肢が限られてしまうみたいだしな。なあ、勇者さん、不動産の相続の対処法ってどういうものがあるんだ?」
相続で不動産がある場合の対応方法
- 代償分割…不動産を相続した相続人が他の相続人に対価を支払う
- 換価分割…不動産を現金化し現金を相続人間で均等に分ける
僧侶「勇者さんが言うには、代償分割の場合は対価として現金を払わなくてはいけなくて、不動産を相続した相続人が現金の準備ができない場合は負担になっちゃうかもしれないんだってね」
スライム「これを見ると、換価分割が一番公平な気がします」
戦士「でも売却までに時間がかかったり、思い出深い実家を売るという心理的抵抗を感じたりという難しさもあるんだってさ。難しいもんなんだな、勇者さん」
最初の遺産分割が終わる前に次の相続が始まった
魔法使い「なんだか難しすぎて、わしにはついていくのがやっとじゃが…相続が終わる前に相続人が亡くなってしまうようなことはありえんのかのう?」
戦士「たまにはいい質問するな。勉強疲れで、なんだかジイさんが一番ぽっくり生きそうな顔してるけどな」」
魔法使い「うっせー」
僧侶「勇者さんの話によると、これはけっこうややこしくなりやすいケースらしいわよ。相続が重なることを数次相続といって、相続人が増えたりそれぞれの事情が複雑になるので遺産分割がまとまらなくなる可能性が出てくるんだって」
合わせて読みたい:数次相続とは?代襲相続・再転相続との違いや相続手続き・相続放棄の注意点を解説
遺産分割協議の対立を防ぐには遺言書を検討
戦士「そうだよなあ…」
若者「遺言が大事かあ…。今回はもう父は亡くなってしまっていますけど、私が将来財産を築いたら、必ず遺言書を書くようにします」
魔法使い「そうじゃ。勇者さんがちゃんと面倒を見てくれるし、ホレ、ワシらもこうやって貢献をしたんだから、多少は財産を残すとちょろっと書いておいてくれれば…」
僧侶「何言ってんのよ、銭ゲバジジイ。若者さん、何かあったら遠慮なく私たちを呼んでね。勇者さんの移動魔法ですぐ飛んでくるから!」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:なぜ遺産分割協議はまとまらないのか?ケースごとに原因を行政書士が解説!