遺産相続における財産の分割って、ややこしいイメージがありますよね。
特に生前に財産を受け取っている場合は、なかなか計算するイメージがつかないという声もよくあります。
そこで今回は、遺産相続における現金・預貯金の取り扱いについて、クイズ形式で解説していきます!
本記事は、通常の法律の文章は難しいことから、楽しくわかりやすくお伝えするためにクイズ形式にしています。
そのため、法律的な表現が少し変、厳密に言うとこうだ!等あるかと思いますが、そこは温かい心で読んでいただきつつ、ぜひ遺言書作成のご参考にして頂ければと思います。
目次
遺産分割の対象となる財産
では、クイズ形式で出題しますので、家族やご友人とチャレンジしてください。さあ、あなたのまわりで、遺産相続クイズ王になるのは誰だ⁉
今回も、司会の私と、解説の行政書士長岡さんでお届けしいたします! 長岡さん、よろしくお願いします!
では、第1問です!
Q:3人兄弟のAさん、Bさん、Cさん。長女であるAさんはが結婚資金として父から多額の金銭を受け取っています。兄弟姉妹の間の公平を保つため、Aさんの結婚資金として受け取った資金を差し引いて、Bさん、Cさんに遺産分割することはできるでしょうか?
A:相続分に応じた分割がなされるから、Aさんにも平等に受け取る権利がある
B:Aさんが平等に受け取ったらやはり不公平なので結婚式ぶんは差し引かれるべき
C:回答Bに見せかけてAと思いきや、案外Bだった
従来のルールでは預貯金は遺産分割の対象ではなかった
正解は、Cです! なかなかのフェイント問題ですね!
長岡「これクイズとして成立してますか?(笑)ともかく、公平の観点から生前に特別に利益を受けている人については、その受けた利益をも含んだ総額を分割するという相続を行うことは可能です」
これがBの回答の範疇ですよね。
長岡「でも、今までは預貯金については相続開始と同時に当然分割するというルールになっていました」
そう、これがAの範疇。
長岡「でもでもでも、遺産分割は相続人間の公平を図るためという趣旨であるにもかかわらず、そのような従来のルールでは不公平が生ずる可能性があるといった観点もあります。そこで現在ではルール変更がなされ、預貯金も当然に分割するのではなく、遺産分割の対象とするという扱いになっているんです」
いやあ、もうわけわからないです!
長岡「ゆっくり解説していきましょう。まずは一般的な相続の効力についてです。民法896条では、故人の有する権利義務が一身専属の権利を除いて一切の権利義務が遺産分割の対象となると規定されています」
一身専属の権利というのは?
長岡「特定の人だけが持つことのできる、他人が代わって行うことのできない性質の権利ですね。例えば、子育て、絵を描く義務、講演をする義務などです」
今回の問題では、証券や土地・家などの不動産ではなく現金になっていますね。
遺産分割における預貯金と現金の違い
長岡「そうですね。実は様々な種類の財産の中でも、最も多いのが現金なんです。現金に似たものとして、預貯金がありますが、相続における現金と預貯金の違いは「権利であるか、実物であるか」という違いです。
どちらもお金ですから実物ではないんですか?
長岡「現金は目の前にあるモノではありますが、預貯金は銀行口座に入っていて、目の前にモノとして存在しませんよね。通帳に記載されている残高は現金のようなモノではなく、口座にいくら入っているかという情報にすぎません。なので、預貯金は被相続人の口座から現金を引き出す権利ということになるんです」
つまり、現金と預貯金は似て非なるものなのですね!
長岡「従来のルールでは、現金は遺産分割の対象となっていたが、預貯金については遺産分割の対象とはならなかったんですよ。ですが、ルール変更に伴い、現在ではどちらも遺産分割の対象となっています」
なるほど。ではここで問題です!
Q:相続財産は、被相続人がお亡くなりになると同時に相続が開始されますが、遺産分割の手続きが終了するまでは相続人全員の共有財産であると法律で規定されています(民法898条1項)。では、相続時の現金を保管する際の注意点として、間違っているものは次のうちどれ?
A:とりあえず金額がバレないように、相続人全員で団結して隠匿する
B:保管していない人が、保管している人に対して、現金の金額を明らかにするよう求める
C:保管している人は相続人全員の共有物である現金を勝手に使ってはいけない
相続時の現金を保管する際の注意点
正解は、Aです! 隠匿なんてやっちゃダメ!
長岡「これはけっこう大事なポイントでしてね。現金を隠匿するようなことがバレたら、最悪の場合刑事罰に問われる可能性もあります。もしくは税務署の調査で指摘されると、ペナルティが課される可能性も出てきます」
恐いですね…。
長岡「ペナルティが課されたら、延滞税や過小申告加算税のほか、財産隠しとみなされると重加算税も徴収されますからね。けっこう大きいですよ」
では実際、どうやって保管するのが良いのでしょう?
現金も相続人全員の共有財産
長岡「先ほどの選択肢Bのとおり、保管していない人は保管している人に対して、現金の金額を明らかにするよう請求することができますし、保管方法についても意見を述べることができます」
公平な感じがしますよね。
長岡「一方、保管している人は、選択肢Cにあるように、相続人全員の共有物である現金に手を付けず、大事に保管する役割があります」
合わせて読みたい:遺言に書かれた金額が足りない場合・多い場合どうする?決まった額の現金相続について行政書士が解説
従前の遺産相続における預貯金の取り扱い
現金についてはよくわかりましたが、問題は預貯金ですよね。
長岡「そうですね。先ほど、預貯金のルール変更があったと話しましたが、変更があったのは平成28年12月なんです」
けっこう最近の話なんですね。
旧法の預貯金は可分債権(当然に分割される財産)
長岡「平成28年12月以前は、預貯金は可分債権、つまり、分けられる債権として考えられていました。他の相続人と行う遺産分割協議などの相談も合意もなく、それぞれが法定相続分である取り分を自動的に取得することができ、さらに銀行などから払い戻しを受けることができていたわけなんですね」
※銀行実務では、実際に各相続人からの個別の請求に応じていたことは多くないと思われます。私、長岡も直面したことはありません。
割と緩かった感じなんですね。
合わせて読みたい:先般の相続法改正について!! 相続時の預貯金払戻し制度とは
旧法が抱えていた問題点
長岡「しかし、今回の問題に出てきたように、兄弟姉妹のうち1人が被相続人から多額の資金を受け取っているようなケースも多くありました。兄弟間で公平にするためには全く受け取ることができないといった場合であっても、預貯金であれば当然に受け取ることができるなんて特例があると不公平ですよね?」
確かに。総額で考えると、受取額が少ない兄弟姉妹は納得しきれませんよね。
長岡「もちろん以前の法律でも、家裁実務上は『相続人全員の同意がある場合には遺産分割の対象とすることができる』としてきましたし、銀行等金融機関でも相続人全員の同意がない限り、原則として応じない対応をおこなっていたのですが…」
あくまでも相続人全員の同意がある場合ですから、ややこしくなりやすい…と?
長岡「その通り!相続人のうち一人でも反対するときは、理由のいかんを問わず、調停・審判の対象とすることはできなかったのです」
つまり、声を上げれば勝ちという強引な力関係がまかりとおっていたわけですか。
長岡「はい。相続に十分な知識があり、ご自身が生前に受けた利益が大きいことを認識している相続人であればあるほど、遺産分割の同意をする可能性は低くなります。遺産分協議を行うと、「すでに利益を受け取っているのだから」と預貯金についても受け取ることができなくなってしまうリスクがあるので、そもそも協議がスムーズには進みにくい」
新法では預貯金が遺産分割の対象となった
そこで、ルール変更が行われたのですね。ではここで最後の問題です!
Q:平成28年に最高裁判所は「預貯金を遺産分の対象とする」という決定をし、現在では預貯金も遺産分割の対象とするルールに代わりました。預貯金を遺産分割の対象とすると判断した理由について、次の3つのうち1つだけ該当しないものはどれでしょう?
A:預貯金は現金に近いこと
B:ケンカが増えて裁判の数が増えるので裁判所職員がきっちり休暇をとれなくなること
C:遺産分割の趣旨は、共同相続人間の実質的公平を図るというものであること
預貯金が遺産分割の対象となった理由
正解は、Bです! もちろん働き方改革の一環として、裁判所職員の皆様にもしっかりと休暇を取ってほしいものです!
長岡「まったくですね。預貯金を遺産分割の対象とすると判断した理由は、この2つです」
預貯金が遺産分割の対象となった理由
- 遺産分割の趣旨は、共同相続人間の実質的公平を図るというものであること
- 預貯金は現金に近いこと
長岡「この裁判所の決定によって、預貯金については現金と同様の扱いとなりました。平成28年12月以降、預貯金は当然分割ではなく、遺産分割の対象となり、相続人間の公平を図れるようになったのです」
めでたしめでたし、ですね。
遺言書と預貯金の注意点
長岡「そうですね。でも本当の意味でのめでたしめでたしにするためには、気を付けないといけないことがあります。遺言書を作成する際、意外と現金についての記載を忘れている場合があり、そうなると記載がない場合は遺産分割の対象となるんです」
遺言書に記載する場合の注意点
・預貯金は「この金融機関から引き出せます」という権利であり現金ではない。したがって、遺言書に預貯金と記載しただけでは現金は含まれないことになる
・遺言書に「金融資産(預貯金債権、信託受益権、有価証券等)を相続させる」と明記し、現金と記載しなかった場合、「金融資産」に現金を含むか否かがグレーになる。したがって、金融資産に現金を含めるのか、除外するのかをしっかり明示する
・遺言書に「その他の財産」と書くことで、現金はもちろん、見落としていた相続財産についても含まれることになり、記載漏れが防ぐことができる。しかし高額な財産や不要な財産まで含まれる可能性もあるので、しっかりと「現金」と書くことが重要
長岡「従前のルールでは公平性に欠けるという観点などから、現金も預貯金も遺言書に指定がない場合には遺産分割の対象となっていましたが、平成28年以降のルール変更が案外知られていなかったりするんです」
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預貯金の相続は遺産分割でも遺言書でも重要
それは危ないですよね。遺言をご検討の方はぜひ長岡さんのような行政書士に相談なさるべきですね。
長岡「はい。ご自身の財産の相続において、ご家族がトラブルになるということは誰もが望むことではないと思いますからね」
長岡「それにせっかく遺言書を作ったのに、預貯金の指定が無いことからそこだけ相続人間での話し合いになってしまっては、遺言者も報われないですよ」
そうですね、どうせ作るならしっかりしたものを作りたいものです。
長岡さん、ありがとうございました!
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