こんにちは、横浜市の長岡行政書士事務所代表、長岡です。
もしも身近なモノにもキモチがあるとしたら、どんなことが起きるでしょうか?
大切に使ってくれてありがとうと感謝してくれたり、粗雑に扱われて寂しい気持ちになったり。
もしかしたら、これからあなたが書く遺言書にもキモチが宿るかもしれませんね。
今回は、自分が支持する団体へ遺贈するための遺言書作成について、遺言書との会話風に解説します。
目次
相続人不存在のケースにおける遺産の取り扱い
相続人不存在でも、遺言書があれば団体などへ寄付できることをご存知でしょうか。おや、ある方の遺言書が語りかけてきましたね。
長岡さん、こんにちは。私は、Aさんの遺言書です。
Aさんが心を込めて書いてくださろうとしていますが、実はまだ私は書きかけの状態…。
なぜならば、Aさんにはひとつ、悩みがあるからなんです。
Aさんは事業に大成功し、一代で大きな財産を築き上げました。
彼には家族はもとより親類縁者がいません。法定相続人のいない、いわゆる天涯孤独の身というものです。
<法定相続人とは>
配偶者は常に相続人の対象となる
第1順位:子(亡くなっている場合には孫)
第2順位:親(亡くなっている場合には祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)
※()内の「亡くなってる場合は孫」の意味は、代襲相続という相続が引き継がれる制度の対象者
なぜ天涯孤独の身となっているかはAさんのお気持ちを察して、ここでお伝えするのは控えておきます。
いずれにせよ、遺産を受け継ぐ人がいないため、自分の強く共感する団体へ寄贈することを考えているのです。
相続人がいない今のままだと、国庫に帰属するのはわかっています。
Aさんの気持ちを汲むべく、団体へ寄贈をするためにどのような手続きが必要で、何に注意したほうがいいのか…。
私を通じて、彼の悩みを長岡さんに聞いてほしかったのです。
長岡「わかりました。誠心誠意、お答えしますね。」
合わせて読みたい:相続人が不存在な場合の遺産相続手続き、どのような制度があるか解説!
相続人不存在の場合は国庫帰属する
長岡「相続人が不存在の場合、残された財産は国庫に帰属すると思っている方も多いでしょう。
遺言がないと、法定相続という民法で定められた方法で相続をしていくことになります。例えば被相続人が第3順位の兄弟姉妹にのみ相続をさせたいと考えていたとしても、遺言での指定がない限りは法定相続の順位に従って財産を受け継ぎます。
そして配偶者、および第1順位~第3順位の相続人がいないと、相続人不存在という状況になります
相続人不存在になると、財産は国庫に帰属するのですね。
遺産を国庫帰属させる手続きは、かなり大変なので、そこから先に説明します。国庫帰属のための手続きのポイントは、次のとおりです。」
- 国ではなく利害関係人が手続きを行う
- まず利害関係人が家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てを行う
- 相続財産管理人が選任されたら、その人が税金や医療費、債務などの清算を行う
- 相続財産の管理収集や必要に応じての換価、特別縁故者が名乗り出てきた場合の調査もこの相続財産管理人が行う
長岡「2021年の統計では日本政府の国庫に帰属された遺産は600億円を超えると言われており、今後も相続人不存在が相次ぎ、国庫に帰属される財産は増える可能性が指摘されているんです
相続人不存在でも遺言書があれば団体などへ寄付できる(遺贈寄付)
長岡「ただし、国庫帰属はそもそも手続きが大変ですし、どうせ相続人がいないなら被相続人が共感する団体に寄付をしたいという相談も増えてきています。
相続人不存在でも、遺言書があれば団体などへ寄付できます。もしも国庫帰属ではなく、NPOなどの団体へ財産を残したいのであれば、遺言書を残すようにしましょう。
自分の財産を所属する団体に贈るにはどうしたらいいか? まず検討したいのが遺贈寄付という方法です。これは、例えばボランティア団体など自分自身は所属してはいないけど活動に共感できる団体へ贈ることができます」
普通の遺贈と違い、寄付という言葉が入っていますね。
長岡「自分の財産を所属する団体に贈るにはどうしたらいいか? まず検討したいのが遺贈寄付という方法です。これは、例えばボランティア団体など自分自身は所属してはいないけど活動に共感できる団体へ贈ることができます」
普通の遺贈と違い、寄付という言葉が入っていますね。
長岡「遺贈だけですと遺言によって財産を無償で譲与することになります。でも遺贈寄付は公益的な活動をする団体へ相続財産を譲与することにより、その団体の活動を支えるという意図になるんです。ですから、社会的課題の解決や社会貢献につなげていくのが遺贈寄付なんです。」
合わせて読みたい:遺産を団体に遺贈寄付したい時はどうすればいい?長岡行政書士に聞いてみた
相続放棄や欠格・廃除で相続人がいなくなるケースもある
長岡「少し余談になりますが、今回のAさんの例とは違った理由で相続人不存在となるケースが2つあります」
- 相続放棄
- 欠格・廃除
相続人全員が遺産の相続を放棄した場合には相続人不存在となります。被相続人の借金などマイナスの資産負債が多い場合もあれば、単純に疎遠になっていたから財産はいらないという場合もあります。一族経営の企業であれば、経営の安定のために次期社長の長男に株式を集約させるため、ほかの兄弟が放棄するということもあります。
また、法定相続人が欠格・廃除に該当する場合でも相続人不存在となります。欠格・廃除とは、被相続人に対してよくない行いをした人に相続権利を与えないという制度です。例えば、被相続人を脅して自分に有利な遺言を書かせた、相続人から虐待や侮辱を受けていたなどです。被相続人が存命中、自分の意思により家庭裁判所に申立て、認められればその相続人の相続権はなくなります。
遺贈寄付の種類
遺贈寄付の種類としては、包括遺贈と特定遺贈の2種類の遺贈を使った寄付があります。この2つは特徴がことなるため、目的によって使い分けることになります」
包括遺贈とは
- 財産内容を指定せずに行う遺贈(例)「全財産をAに遺贈する」「遺産のうち2分の1をBに遺贈する」など
- プラスの資産もマイナスの資産もまとめて遺贈される
- マイナスの資産がある場合、自分の死後その団体に債務者から請求が行く可能性がある
- マイナス資産のリスクを避けるため包括遺贈を受け付けない団体もあり
マイナスの資産があると、遺贈しても相手に負担がのしかかってしまうので、注意が必要ですね。
合わせて読みたい>>包括遺贈とは?特定遺贈との違いやメリット・デメリット、受遺者の権利義務について行政書士が解説!
特定遺贈とは
- 財産内容を指定して行う遺贈(例)「A銀行の預貯金100万円をBに遺贈する」など
- 包括遺贈のように負債を引き継ぐというリスクはない
- ただし不動産に関しては、贈り先団体に不動産取得税がかかる
合わせて読みたい>>特定遺贈とは?包括遺贈との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説
遺贈寄付を指定する遺言書作成時の注意点
長岡「そしてあと2点大切なことがあります。遺言執行者を指定することと、できれば公正証書遺言を使うことです」
遺言執行者を指定したほうがいい
遺贈寄付は本人が亡くなった後に実行されるので、不測の事態が起きても本人はどうすることもできません。ですから、遺言執行者を指定して、遺言による寄付が確実に行われるようにするのが理想です。
合わせて読みたい:遺言執行制度と遺言執行者の義務について行政書士が解説
公正証書遺言を使ったほうがいい
自筆証書遺言は必要な形式が守られなければ無効になってしまいます。また遺言書の保管場所を誰も知らず、紛失状態になることも珍しくありません。公正証書遺言は多少費用はかかりますが、公証役場で公証人という専門家に作成してもらうので高い信用力があります。また公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの恐れもありません。
つまり、ここまでをまとめると、遺贈寄付をする上でお勧めなのは、「公正証書遺言を使い特定遺贈をする」ということですね。
合わせて読みたい:公正証書遺言を作成する流れとは?手続き、必要書類、手数料等を行政書士が解説!
団体ではなく人へ財産を残すなら特別縁故者制度を使える
長岡「もし法定相続人がいない場合、法律上では相続権利がないものの、恩義を感じる人や大切な人に遺産を残したい場合、遺言による遺贈が最も使いやすいと言えますが、特別縁故者という制度もあります」
相続人としての権利を主張する人がいない場合、法定相続人ではないが特別な貢献をしたと主張する人(内縁の配偶者や無報酬の療養介護を行っていた人など)が、家庭裁判所に相続財産分与を申立てることができ、相続財産の全部または一部を取得することができる制度。ただし、法定相続人がいない場合に別の第三者が主張することができるという制度なので、被相続人の遺志とは異なる結果になることもあります。
ご説明ありがとうございました、長岡さん。
私は直接Aさんに説明はできませんが、きっとこの思いは伝わり、長岡さんのような専門家に相談したいと考えてくれるようになるでしょう。
団体へ遺贈寄付するなら公正証書遺言で遺言執行者を指定する
最後までお読みいただいてありがとうございました。改めまして、長岡です。
遺言書のキモチ、私が責任をもってAさんに届けさせていただきました。
人の思いは十人十色。それだけ遺言書のキモチも数あります。
今回の記事の内容をまとめると、団体へ遺贈寄付するなら公正証書遺言で遺言執行者を指定する方法がもっともおすすめです。
横浜市の長岡行政書士事務所では、公正証書遺言の作成、遺言執行者としての業務の双方に対応しています。団体への遺贈寄付をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料で対応しています。