「本当に困ってます! うちのおじいちゃん、遺言書を書きたいと言うんですけど、高齢で思うように手や体を動かせなくて、ペンを握るのもままならないんです…。無理に書いても全然読めなくて…」
なるほど、それは問題ですね。遺言書を書きたくても書けない状態では、ご家族のみなさんもさることながら、ご本人が一番焦ってしまいますよね。
でも安心してください。自筆で遺言書を残す以外にも、方法はあるのです。
この記事を詳しく読みたい方はこちら:病気等で署名ができない場合の遺言書作成はできるのか?
いまご相談者のあなたが考えている「自分で手を動かして遺言を書く」のは、自筆証書遺言というものです。
- 遺言を残したい本人の手で書くこと
- すべての内容を本人が明確に書ききること(お手伝いで加筆するのはNG)
- 本人が署名・押印すること
自筆証書遺言には、こうした「自筆」という条件があります。自筆ですから、パソコンやスマホで書くのも認められません。
「まあ、うちのおじいちゃんはパソコンやスマホ、まったく使えませんけど。だから、自分がしゃべる内容を、家族に記録してほしいって言うんです…」
はい、そこで今回ご紹介したいのが、秘密証書遺言、もしくは公正証書遺言なんです。
この両者の違いは、大前提として「自分で名前が書けるかどうか」がポイントになります。
目次
秘密証書遺言と公正証書遺言のどちらを選択するべきか
「自分で名前が書けるかどうか」によって、秘密証書遺言と公正証書遺言のどちらを選択するべきか変わります。おじい様は、どうですか?
「どうでしょう? そこまでは確認できてなかったです」
では、まず自分で名前が書けるか確認をしてみてください。もし名前が書けたら、秘密証書遺言か公正証書遺言の作成が可能です。
秘密証書遺言は最終的におじい様が署名・押印をして、それ以外の本文は代筆をすることもできますし、パソコンで作成することも認められているんです。
「ということは、それをお役所(公証役場)に持っていけば、遺言として認められるわけですか?」
そうなります。
秘密証書遺言で注意すべきポイント
ただし、秘密証書遺言の場合、封筒などに入れてきちんと封をして、押印に使ったものと同じ印鑑で封印しなくてはいけません。クリアファイルとかではダメですよ。
まずは秘密証書遺言の説明をしていきますね。
本文をパソコンで作成し署名押印した遺言書を公証役場に持って行き、公証人に「これは秘密証書遺言である」と証明してもらえば、遺言として効力を持つようになるんです。
「それならうちの家族で協力すれば作れそうですね」
ただ、秘密証書遺言にはいくつか気を付けてほしいことがあります。ポイントをメモにまとめてみました。
- 公証人が証明するのは、「秘密証書遺言として存在している」という点のみで、中身(内容)までは証明していない
- 遺言書が要件を満たしていなかったり、意図不明な内容があったりすると無効になる
- 公証役場に支払う手数料がかかり、2名の証人が必要となる
- 自分で遺言書を保管しなくてはいけないので、紛失リスクがある
以上のことから、良い面もある反面、実務では秘密証書遺言をあまり活用されていないのが実情です。
公正証書遺言で注意すべきポイント
では、次に私たちもよく携わる公正証書遺言について見ていきたいと思います。
「なるほど…もしも、おじいちゃんが自分で名前を書けなかったら、どうしたらいいんですか?」
そのときは、公正証書遺言がいいでしょう。簡単に言うと、遺言書の作成を家族ではなく、公証人にお願いするという方法です。遺言のプロに、外部発注すると考えればいいでしょう。
アウトソーシング(外注)ですから、どうしても手数料がかかってしまいますが、公証人が法律の様式に従って作成するので、作成遺言の形式や要件を間違える心配はありません。原本は公証役場で保管してくれますから、紛失の心配もないんです。
「その場合も自筆の署名は必要なんですよね…?」
そこが、大きなポイントなんです。原則としては、その遺言書が本人の意思によって作成されたことがわからないといけませんから、公正証書遺言も本人の署名が必要とされています。
でも、その場合においても「きれいに書けなくても判読できる程度であればよい」「まったく書けなければ署名せずともよい」とされています。
- 判読できる程度:戸籍上は複雑な漢字であるときなどでも、普段から使っている簡単な文字、またはかな字でもよい
- 署名せずともよい:遺言者が字を書くことができないことを、公証人が公正証書に記載すれば署名に代えることができる
また、公正証書遺言は末尾に本人が署名することが原則ですが、絶対に署名が必要というわけではありません。
おじい様の手が震えるなどで署名ができない場合は、この署名の代わりにその旨を遺言書に記載するとともに、「病気のため手が震える」などとその理由も付記し、公証人の職印を押すことにより、遺言者の署名に代えることができると法律で認められているんですよ。
したがって、手が震えてまったく署名ができない場合でも、公正証書遺言は作成できるんです。
遺言書の署名の可否を自分たちで判断できない場合は専門家に相談
ちなみに、署名ができる場合とできない場合の判断は、手が不自由で動かせず書くことができないなど、「誰がどう見ても無理です」という場合は「できない」と見なされます。
ですので、もし署名ができる場合は、やはり自分で著名したほうがいいでしょう。ここを曖昧にして作成してしまうと、遺言書の有効性が疑われることになります。中には裁判にまでなったケースもありますから、気を付けたいですね。
「うわあ…そんな風にはなりたくないですね。あの、我が家にとって、どういう方法が一番いいか、行政書士のお立場から、アドバイスをいただけませんか?」
はい、もちろん喜んでご協力させていただきます。安心してくださいね。
遺言書のことでお困りのかたは長岡行政書士事務所にお任せください。