「遺言にすべての財産を書き記したつもりだけれど、忘れている財産がないか心配。」
「遺言書にない財産が発見されることなんてあるの?」
「遺言に基づいて財産を処分したけれど、遺産整理をしていたら把握していなかった銀行の預金通帳が出てきた。どうすれば良いの?」
遺言書には遺言者ご自身の財産の処分などについて書き記しますが、このとき、遺言書がすべての財産を網羅していなかった場合、その書かれなかった財産(記載漏れ財産)の処分はどのようにされるのでしょうか。
今回のコラムでは、遺言書に書いていなかった財産が見つかった場合、その財産の処分はどうするのか、どのように相続するのかについて説明したいと思います。
長岡:「こんにちは。長岡行政書士事務所の長岡です。今日もよろしくお願いします。」
Aさん「よろしくお願いします!今日は遺言について先生に質問があります。」
長岡:「どのようなことでしょうか?」
Aさん:「先日両親と遺言作成について話していた時、両親から、『遺言を作ったはいいけれど、書いていなかった財産があったらどうなるの?』という質問を受けまして、先生にお聞きしようと思ったのです。」
長岡:「なるほど。遺言書に記載のない財産の扱いですね。」
Aさん:「せっかく遺言を書いても、そのようなことってあるのですか?」
長岡:「そうですね、例えば複数の銀行口座を持っていて、最近は使っておらず忘れていた口座に現金が残っていたときや、認識していなかった私有地の土地が昔からあった場合、というように、遺言書に書かれなかった財産が存在することはあることです。」
Aさん:「そうなのですね。そうなると確かに、遺言書に書かれなかった財産がどうなってしまうのか、気になります。」
長岡:「そうですね。それでは今回は、遺言書に書いていなかった財産があった場合について説明していきたいと思います。」
目次
遺言書に記載のない財産の処分方法は2種類
人が亡くなったとき、遺言書が残されていなければ相続は法律の定める法定相続か、相続人の話し合いによる遺産分割協議に則って行うことになります。
遺産は、もともとは亡くなった人(被相続人)の財産です。したがって被相続人が自分の財産の処分について遺言書で法定相続と異なる意思表示をしている場合には、その意思を尊重して遺言に従うべきであり、遺言書が優先されます。
しかし遺言書に記載されていない財産については、その財産について被相続人の意思表示はないわけですから、遺言の効力は及びません。
つまり、遺言書に記載のない財産の処分方法は次の2種類ということです。
- 法定相続
- 遺産分割協議
まずはそれぞれのパターン別に、相続方法を解説します。
法定相続
法律では、誰がどの割合で財産を相続するのかを定めており、これを法定相続と言います。
遺言書に記載のない財産については、まずはこの法定相続が検討されることになります
民法第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人ある時は、その相続分は、次の各号に定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
3,配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
では、具体的な事例をもとに見てみましょう。
・相続人は長男・次男の2人。
・遺言書の記載内容「土地・建物の不動産を長男に相続させ、預貯金を次男に相続させる」
・遺言者の死後、遺言書に記載のない現金200万円が自宅金庫から発見された。
この具体例のケースでは、遺言書に書かれていなかった現金200万円が発見されました。
この現金については、次のように相続されることになります。
- 遺言に書かれていない現金200万円については遺言の効力は及ばず、法定相続となる。
- 現金200万円については、法定相続により長男・次男それぞれ100万円ずつ相続することになる。
法定相続による場合は、遺言で決まっている割合が例えば長男と次男で2:1だからといって、あとから発見された財産も2:1で分けることにはなりませんし、遺言書で長男が有利な内容だからと言って、遺言書に記載のない財産を次男が多めにもらうようなこともありません。
あくまでも、法定相続分にしたがった割合で相続されることになります。
遺産分割協議
遺言書に記載のない財産については、前述の法定相続ではなく遺産分割協議によることもできます。
前項で挙げた例の場合では、例えば長男は50万円、次男は150万円を相続する、という内容の遺産分割にすることも可能です。
発見された財産が不動産など分割が容易でない場合は、遺産分割協議によって特定の相続人に相続させるようにした方が良い、というケースがあります。
あるいは財産が現金や預貯金などであっても、相続人の生活状況や様々な事情から、法定相続とは異なる割合で分割したり、ある特定の相続人のみが相続する必要がある場合もあります。
各々の事情により法定相続ではなく遺産分割協議によって決めることもできますが、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所での調停や裁判などに発展する場合がありますので、その点に留意することが必要です。
合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
財産の記載漏れのあった遺言書の効力について
たとえ財産の記載漏れがあったとしても、遺言書の要件を満たしてさえいれば、遺言書自体は有効です。
すなわち、遺言書に記載されている財産については、遺言書どおりに相続できるということです。
財産の記載漏れではなく、署名・捺印・日付が漏れている場合は遺言書自体が無効になってしまうため注意してください。
遺言書が無効になることを防ぐためには、行政書士などの専門家に相談しながら作成することをおすすめします。
横浜市の長岡行政書士事務所では遺言書作成の相談にも対応しているので、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。
遺言書に記載のないマイナス資産が見つかった時の対応
長岡:「ここまでで、遺言書に記載のない財産が見つかった場合の対応について説明してきました。」
Aさん:「そのような財産には、遺言の効力が及ばないのですね。遺言書があっても、法定相続や遺産分割など、なんとなく、相続手続きをやり直すような感覚になってしまいますね。」
長岡:「せっかく遺言書があってもさらなる手続きが必要になりますので、負担は増えますね。さらにここで触れておきたいのが、遺言書に記載がなく、後から見つかった財産が『マイナス財産』だった場合です。」
Aさん:「マイナス財産ですか?」
長岡:「はい。被相続人の『財産』は、プラス財産だけを指すのではありません。現金などのプラスの財産のほか、借金などのマイナス財産も含まれるのです。」
Aさん:「そうだったのですね!それでは確かに、マイナス財産が発見される場合もありますね。」
長岡:「そうですね。ここからは、マイナス財産が発見された場合の対応について説明しておきましょう。」
債権者との関係では法定相続となる
マイナス財産とは負債のことをいいますから、そこには債権者の存在があります。
債権者は、遺言書の内容にかかわらず法定相続人に対して、法定相続割合に従って債務の履行を請求することができます。(民法902条の2)
債権者は遺言書の内容を知り得ませんから、誰もが知ることのできる法律で決められた法定持分に基づいて債務の相続分を計算し、各相続人に請求することが認められているわけです。
相続人間では負担割合を決められる
一方、相続人間ではどのように扱われるのかというと、マイナス財産は遺産分割の対象とはなりません。遺産分割の対象は、積極財産(=プラス財産)とされているためです。
消極財産(=マイナス財産)は相続と同時に、法定相続分に従い各相続人に引き継がれることになります。相続開始と同時に法定持分により分割されるため、遺産分割の対象にはならないと考えられるのです。
参考裁判例:最判昭和34年6月19日民衆13巻6号757頁
参考URL:https:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54861
しかしそれでは相続人間で不公平となる場合や、事情により異なった負担としたいケースもあるため、相続人間で法定相続とは異なった割合で負担することを合意して定めることもあります。
遺産分割については、民法896条で「一切の権利義務を承継する」ということから、負債が遺産分割の対象となるかが問題となります。
確かに、同法で「義務も承継」とあるため、負債も遺産分割の対象となりそうです。
しかし、仮にこの負債が遺産分割の対象となり、債権者がこの分割内容に拘束されるとすれば、債権者があずかり知らないところで債務者が決めた合意により、資力が乏しい相続人にこの負債を相続することで、債権者の債権確保を困難にし、相続があったという事実のみによって、いわば債務の履行を回避すとことも出来てしまうことになります。
また、仮に回避することができてしまうと、別の制度である相続放棄で一切の財産を放棄した相続人と、遺産分割により負債を相続しないと決め、プラスの財産だけを引き継いだ相続人との間で公平の観念を欠いてしまいます。
したがって、相続時の負債は仮に相続人間で遺産分割をしたとしても、債権者はそれに拘束されないとされるのです。
このような趣旨から、マイナスの財産である負債は遺産分割の対象とはならないと解されます。
債権者への弁済と相続人間の求償
そのように相続人間で負担割合を決めて合意すること自体は有効ですが、前述したように、債権者にこの分割方法を主張することはできません。したがって相続人間で債務負担について合意したものの、法定相続分に従って債権者に弁済した場合には、相続人間で負担を超える分を請求することになります。
(求償権とは、他人の借金などを代わりに支払った者が、その代わりに支払った分を、本来払うべき者に請求する権利のことをいいます)
相続人はA、Bの2人
債務:400万円の借金
遺言による相続:Aには不動産を換価処分して3000万円、Bには預貯金1000万円
債務の分割について:遺言書の相続分と同じく、3:1で分け、A150万円、B50万円の負担とした。
この場合、債務の支払いについて債権者は法定相続分に基づいて請求してきますので、A、Bそれぞれに200万円請求し、各々200万円を一旦返済することになります。Bは債権者に200万円払ったことについて、Aに150万円自分に払うよう求償することになります。
記載漏れのない遺言書を作成するためのポイント
遺言の作成は日常的なものではありませんから、何をどう書こうか思い悩み、広い視野で自分の財産全体を把握しきれていないにもかかわらず、そのことに気づかずに作成してしまうことがあるかもしれません。
また、つい感情的になって、最も伝えたい財産処分だけについて書いてしまう場合もあるかもしれません。
せっかく書いた遺言であっても、書かれていない財産が発見されては、法定相続による手続きや遺産分割協議が必要となり、相続人の負担が大きくなってしまいます。
あるいは、その発見された財産をめぐって争いが生じる場合もあるかもしれません。
そのような事態を避けるためにも、遺言書を作成する場合は広い視野でじっくりと時間をかけ内容を検討し、財産の記載漏れを防ぐことが大切となります。
ここからは、記載漏れのない遺言書を作成するためのポイントをいくつか紹介します。
- 相続財産を調査する
- 財産目録の作成する
- 財産状況が変更したら遺言書を書き換える
- 記載漏れがあっても困らない決まり文句を追加する
相続財産を調査する
まずは相続財産を踏査しましょう。
行政書士などの専門家に依頼して遺言書を作る場合も、相続財産については自分で洗い出さなければなりません。
銀行口座や証券口座、不動産などのプラスの財産はもちろん、借金などマイナスの財産まで洗い出すことが重要です。
財産目録の作成する
洗い出した財産を正確に記録するためには、財産目録の作成をおすすめします。
財産目録についてはパソコンで作成できますが、各ページに署名捺印が必要です。
財産の内容は金融機関名や口座番号などを具体的に記載するようにしてください。
また、不動産であれば所在や地番、家屋番号まで記載するようにします。
合わせて読みたい>>遺言書の財産目録の記載例を解説!形式や様式・必要なケースを行政書士が紹介
財産状況が変更したら遺言書を書き換える
かりに財産状況が変更したら、記載漏れを避けるために遺言書を書き直した方が安心です。
たとえば遺言書を作成した後、あらたに不動産を入手したり、銀行口座を追加したりした場合、どの追加した財産の存在が遺言書にはありません。
遺言書は日付が新しいものが優先されるので、何度でも変更可能です。
合わせて読みたい>>遺言書が複数枚ある時はどれが優先される?要件・効力も合わせて解説
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記載漏れがあっても困らない決まり文句を追加する
万が一書き記されなかった財産があった場合を想定して、
「本遺言書に記載のない財産については、〇〇〇(氏名)が相続する」
というような文言を遺言に書き記しておくことも有効な方法です。
このような記載があることで、遺言書に書かれていなかった財産が発見された場合でも、その記載に基づき、財産を処分することが可能となります。
実務的な視点として、遺言書を作成する際は、仮に記載されていない財産があっても対応できるように、上述した記載内容や「預貯金含めその他一切の財産を相続させる」と記載することはよくあります。
実際に、預貯金の口座を新たに発見することがたまにありますので、これだけで遺産分割協議をしないといけないとすれば、せっかく遺言書を作って相続人の負担を軽くしようとする趣旨が損なわれてしまいます。
そのため長岡行政書士事務所でも、ご相続人の負担が無いように漏れがないように遺言書を作っております。
遺言書作成時は財産の洗い出しが重要
今回のコラムでは、遺言書に書かれていない財産が発見された場合の対応について説明しました。
遺言は残される大切な人を思って作成するものですから、残される人が後々困ることのない内容にしておきたいものです。
遺言書を作成する場合にはご自身の財産の把握や遺言書の書き方など、様々なことを慎重に検討することが大切となりますが、自分自身で最適な遺言を作成することはなかなか大変なことです。
遺言書の作成方法や記載内容に不安がある方は、弁護士や行政書士などの専門家に作成を依頼することを検討されても良いかもしれません。
横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言作成や相続のお悩みについて、たくさんのご相談をいただいております。
ご相談者様の立場に寄り添った親身な対応を心がけておりますので、遺言書の作成でお悩みのある方は、ぜひ一度ご相談にいらして下さい。