
「そろそろ遺言の作成を考えているが、夫婦一緒に作成するにはどうしたら良いのか。」
「長年夫婦二人でやりくりしてきたので、遺言書も共同で作成したい。何か方法はあるの?」
「子どもに伝えたい内容は夫婦で同じ。一通の遺言書を夫婦連名で書いても良いの?」
長年連れ添ったご夫婦の一方の方が遺言書の作成を検討されているとき、もう一方の配偶者の方も「ではこの機会に、自分も一緒に書いてしまおう。」と思われる場合があるかと思います。
あるいは長年生計を共にしてきたご夫婦で、例えばお子さんに遺言を残したいとき、お子さんに伝えたい気持ちは一緒だから夫婦二人で書き記したい、という場合もあるかもしれません。
しかし結論としては、「夫婦共同遺言」は無効となってしまうため、注意しなければなりません。今回は、夫婦が一緒に遺言書を作成するときの注意点を解説いたしますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺言書の様式は2種類
夫婦で一緒の遺言書を作成することについて考察する前に、まずそもそも、遺言書はどのように書かれるものなのか、遺言書の様式について要件はあるのか、説明しましょう。
遺言書には自分自身で書いて作成する自筆証書遺言と、公証人が作成する公正証書遺言があります。
それぞれの作成方法については法律で定めがありますので、その定めに則って作成することが必要です。
合わせて読みたい>>遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説! – 横浜で遺言のご相談
自筆証書遺言の様式
自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、押印します。自書とは、自筆(手書き)することをいいます。法律では、民法第968条第1項で以下のように定められています。
(民法第968条第1項)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない
自書ですので、本文や氏名をパソコンなどで作成することは認められていませんので注意が必要です。
なお、添付する財産目録についてはパソコンでの作成も認められています(財産目録の各頁にする自筆による署名と押印は必要)。これは、以前は認められていなかったものが2018年7月に成立した改正相続法で方式が緩和されたものになります。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言書の正しい書き方|失敗例から注意点を学ぼう! – 横浜で遺言のご相談
公正証書遺言の様式
公正証書遺言は、以下のように作成されます。
- 証人2人以上の立会いがあること
- 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させる
- 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認したのち、各自が署名し、押印する。
- 公証人が署名・押印する
(公正証書遺言)
第九百六十九条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。
3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第一項第二号の口授に代えなければならない。
2 公証人は、前項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に記載し、又は記録しなければならない。参考:e-GOV 法令検索
公正証書遺言の証人とは、遺言書の作成の際に立会い、以下のことを確認する役割をもっています。
- 遺言が間違いなく本人のものであること
- 認知症などにかかっておらず。正常な判断のもと作られていること
- 遺言の内容が、遺言者の真意を正しく反映したものであること
また、証人を誰にするのかは遺言作成者が決めることができますが、誰でも良いというわけではありません。証人になることのできない人を「欠格者」と言いますが、欠格者は法律で以下のように定められています。
- 未成年者
- 遺言で財産を譲り受ける人、その配偶者、その直系血族
- 公証人の配偶者、四親等以内の親族、公証役場の職員など
- 遺言書の内容を読めない、確認できない人
合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
夫婦共同で作成する遺言(夫婦共同遺言)は無効
前述した説明の通り、自筆証書遺言も公正証書遺言も、遺言者が署名・押印することが必要です。
それでは夫婦が一緒に遺言を作成したい場合、一通の遺言書に各々が書きたい遺言内容を記し、夫婦連名で署名・押印することはできるのでしょうか。
このように夫婦連名で作成した夫婦共同遺言は認められているのかどうか、次項で説明していきたいと思います。
一通の遺言書を夫婦連名で作成する夫婦共同遺言は、結論から述べると認められていません。
共同遺言については、民法第975条で以下のように定めがあります。
(民法第975条:共同遺言の禁止)
遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。
これは夫婦に限らず遺言自体を共同で作成することを禁止するものですので、例え夫婦であっても同じ遺言書を共同で作成することはできないということになります。
この規定に反して2人以上の者が共同して作成した遺言は、無効になります。
夫婦共同遺言のパターン
2人以上の者が共同して作成した遺言は無効になるわけですが、夫婦で共同して作成する遺言にはいくつかのパターンがあります。
| 種類 | 説明 | 具体例 |
| ①単純共同遺 | 2人以上の者が同一の用紙を使用しているが、内容的にはそれぞれ関係なく独立して遺言をする場合 | 夫婦が同一の用紙に、それぞれ財産の処分に関し別々の遺言を書く |
| ②双方的共同遺言 | 2人以上の者が同一の用紙を使用して、お互いに遺贈し合う内容を定める場合 | 夫婦が同一の用紙に「先に死亡した者が他方に財産を相続させる」と書く |
| ③相関的共同遺言 | 2人以上の者が同一の用紙を使用して、お互いに相手の遺言を条件とするような内容の場合 | 夫婦が同一の用紙に、「夫の遺言が失効すれば妻の遺言も執行する」と書く |
夫婦共同遺言が禁止される趣旨
ではなぜ、共同で遺言を作成することが法律で禁止されているのでしょうか。
その理由は、以下のように考えられています。
『共同遺言は、法律関係が複雑になり、自由な遺言の撤回もできないから』
遺言は一度書いたとしても、遺言者の意思で自由に撤回したり、訂正することができます。
(民法1022条「遺言の撤回」)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる
合わせて読みたい>>遺言書の訂正方法|誤字や遺言内容の不備があった場合の対処法
しかし共同遺言を認めてしまうと、どちらか一方の当事者が撤回や訂正をしたくても、もう一方の当事者がそう思っていなければ、自由に撤回や訂正ができなくなる恐れがあるのです。
また遺言の撤回を定めた民法1022条では、連名による場合を定めていません。したがって連名でされた遺言の場合、片方から撤回できるのか、共同で撤回する必要があるのか、法律の規定がなく問題が生じてしまうのです。
さらに、夫婦一方の遺言が有効であってももう一方の遺言が無効の場合、遺言全体をどう扱うのかという問題も生じ、法律関係が複雑になり、解決が難しいものになってしまいます。
このような趣旨から、共同遺言は禁止されているのです。
仲の良い夫婦であっても、遺言を作成したのち意見が変わる可能性は十分あり得ます。
そのため、たとえ夫婦であったとしてもこの定めの例外はなく、共同で遺言書を作成することはできないとされているのです。
夫婦共同遺言が問題となる具体例
ここで、夫婦共同遺言が問題となるのはどのような遺言書の場合なのか、具体例を見てみましょう。
一方の遺言に方式違反がある場合(最判昭和56年9月11日判決)
同一の証書に二人の遺言が記載されており、そのうち一方に氏名を自書していないという方式違反があってその者が記載した遺言が無効となった場合、他方の遺言は無効となるのかという問題についての事案。
この点判例では、共同遺言として扱い、方式違反がないもう一方の遺言も有効とはされませんでした。
参考文献:判例タイムズ454号84頁
独立した自筆証書遺言が同一の封筒に入れられている場合
この場合、同一の証書に遺言が書かれているわけではなく、入れられている封筒が同じというだけですので、共同遺言には該当せず、有効です。
判例はありませんが、有効とされる封入の仕方まで法で定めているわけではありませんので、当然の解釈であると言えます。
共同遺言の形式でも実質的には単独遺言と評価できる場合(東京高裁昭和57年8月27日決定)
夫が一人で自分の遺産の処分内容を書き、同じ紙に妻の遺産の処分内容も書いた場合で、妻はこの事実を知らなかったという事案。
妻の遺言部分については妻自身が書いていないため無効となったが、夫自身の財産処分についての内容は有効とされました。
このケースは形式的には共同遺言ですが、実質的には夫の単独遺言であると評価されています。
つまり、共同遺言であるかどうかは、夫婦連名などの形式的な側面だけではなく、遺言の作成にいたる経緯や遺言内容を考慮して実質的に判断すべきとされたものです。
参考文献:判例タイムズ483号155頁
別々の用紙に記載された遺言書が一通に綴られている場合(最判平成5年10月19日)
4枚の用紙を綴り、1~3枚目まではA名義で作成、4枚目はB名義で作成された遺言であった事例。
4枚が一体となって閉じられているため、これを同一の証書とみれば共同遺言に該当し、無効となります。
しかし判例では同一の証書であっても、両者が容易に切り離すことができる場合には、共同遺言には該当せず有効としました。
参考文献:判例タイムズ882号168頁
夫婦が一緒に遺言を作成する方法
ここまでで夫婦共同遺言について具体例を挙げつつ説明してきました。
具体例からも分かるように、一見したところ共同遺言に見えても、実質的には単独遺言と評価されることもあり、遺言全体が完全に無効とならない場合もあります。
しかしどのような場合は遺言が有効となるのかどうかは、裁判によって判断されることになります。
相続人らが裁判を行う負担や無効になるリスクを考えると、夫婦であっても共同で遺言を作成することは避けるべきと言えます。
それをふまえ、夫婦が一緒に遺言を作成するときには、ぜひ次のポイントを意識してみてください。
- 夫婦それぞれ別々の遺言書を作成する
- 予備的遺言を作成する
- 付言事項を活用する
それぞれ詳しく解説します。
夫婦それぞれ別々の遺言書を作成する
多少の手間と、公正証書遺言の場合には2通分の手数料がかかることになりますが、夫婦で遺言を作成する場合には、それぞれ別々の遺言書を作成することが必要とされます。
夫婦別々の遺言書を作成する場合、自筆証書遺言と公正証書遺言どちらの遺言でも可能ですが、より確実に有効とされる遺言を残したい場合には、公正証書遺言で作成することをお勧めいたします。
合わせて読みたい>>妻に全財産を渡す遺言書の書き方!注意点を行政書士が解説
長岡行政書士事務所では公正証書遺言作成の相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
予備的遺言を作成する
夫婦が一緒に遺言書を作成する場合、夫は「妻に全財産を相続させる」、妻は「夫に全財産を相続させる」などと記載することも珍しくはありません。
しかし現実的には、夫婦のどちらかが先にお亡くなりになります。たとえば夫が先に亡くなった場合、「妻に全財産を相続させる」という遺言書は実現します。しかし妻の「夫に全財産を相続させる」と書いた遺言書は、実現できません。
もちろん、夫が亡くなったタイミングで、新たな遺言書を作成することも可能ですが、何回も遺言書を作成するのは大変でしょう。
このようなケースに備えて活用したいのが、予備的遺言です。
たとえば『仮に夫が遺言者(妻)よりも先に亡くなった場合、財産は長女に相続させる』といった予備的遺言を含めることで、遺言者の意思に沿うように万全を期すことができるのです。配偶者が先に亡くなった場合に備えた予備的遺言書の記載例を紹介します。
| 第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の配偶者A(昭和○年○月○日生)に相続させる。 第2条 上記妻Aが遺言者より以前に死亡(同時に死亡した場合も含む)したときは、遺言者は前条で上記妻Aに相続させるとした財産全部を、遺言者の子、長女B(平成○年○月○日生)に相続させる。 令和5年1月1日 氏名 印 |
このように『配偶者Aが先に亡くなった場合には長女Bに相続させる』と付け加えることで、予備的遺言を作成できます。
この際、誰に相続させたいのか確実に判断できるように、例えば『子』と明記するのではなく、長女(名前)や生年月日まで入れると良いでしょう。
なお、公正証書遺言で予備的遺言を記載する場合、予備的遺言に入れる方の名前、生年月日、住所、遺言者との続柄などがわかる書類が追加で必要となる可能性があります。
| 必要書類 例 |
|
行政書士などの専門家にサポートを依頼している場合、これらの書類準備も任せられるため安心です。
付言事項を活用する
遺言書には、財産の分配方法などの他に、相続人への思いを「付言事項」として記すことも可能です。
妻に全財産を相続させるときの遺言書を例に見てみましょう。
遺言書 遺言者山田太郎は次の通り遺言する。 遺言者は全財産を妻である山田花子(昭和XX年XX月XX日生まれ)に相続させる。 付言事項:長男 一郎へ。母の老後のことを考え相続は母に託しました。 母を看取った後は残りの財産は一郎が受け継いでください。 令和XX年XX月XX日 神奈川県横浜市XXX町XX-XX 遺言者 山田 太郎 ㊞ |
付言事項で子どもへの配慮を示し、なぜ妻である花子にだけ相続をさせたのか、子どもへの愛情や思いを記しておけば、より理解を得やすくなるのです。
夫婦で一緒に遺言書を作成するときは行政書士へ相談!
せっかく夫婦で遺言書を作成したのに、それが共同遺言とみなされ無効になってしまうのは、非常に悲しいことです。
たとえ夫婦であっても、遺言書はそれぞれが作成するという前提を把握し、1通ずつ作成するようにしてください。もちろん、遺言書の内容については、夫婦でお互いに話し合っていただいて構いません。
だし、公証人に直接依頼して公正証書遺言を作成する場合、内容のアドバイスはもらえないことは知っておきましょう。公証人は中立の立場のため、相続人間の公平や有利・不利についての助言などはしてくれないのです。
もし、遺言書の内容について専門家にアドバイスをもらいたい場合は、行政書士などへ相談してみてください。もちろん当事務所でもご相談を承っており、家族構成や財産状況、特別な思いなどを踏まえた遺言書作成をサポートさせていただきます。
公証役場との調整もお任せいただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で対応しております。








