「銀行預貯金・株式を相続させる遺言書を作りたいけれど、書き方が分からない。」
「主な相続財産は預貯金だけれど、遺言書はどのように書いたら良いのか。」
「保有している株式の相続について、遺言書の具体的な記載例を知りたい。」
遺言書を作成しようとするとき、多くの人が思い悩むのは、具体的な「書き方」ではないでしょうか。
遺言書の「書き方」には、遺言書が有効となるにはどのように書くべきか、という形式的な要件があります。
しかし、その要件を理解したとして、では具体的に財産を相続させる内容についてどのように書いたら良いのか、ということについては、法律で書き方が決まっているわけではありませんので、わかりづらいかもしれません。
今回は相続のなかでも特に多い預貯金や有価証券等を相続させる場合の遺言書の具体的な書き方について説明していきたいと思います。
私は現在一人で暮らしており、妻はすでに他界しています。子どもは、成人して家庭を築いている長女と長男、次男の3人です。私も高齢になり、そろそろ遺言を書こうと思っています。遺言では自宅不動産を長男に相続させ、預貯金と株式については、長女と次男に等分して相続させたいと考えています。預貯金についてはややこしくてどのように書けば間違いがないか不安です。具体的な書き方を教えていただけるでしょうか。
今回の事例では、預貯金等の財産を相続させる場合の遺言書の具体的な書き方についてご相談を頂きました。預貯金や株式を相続させる場合、相続の仕方によって、遺言書の書き方もいくつかのパターンに分けられます。相続の仕方は、具体的には主に次の3種類が考えられます。
- 一人の相続人にすべての預貯金等を相続させるパターン
- 複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させるパターン
- 複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させるパターン
今回のご相談者様の事例は、預貯金等の金融資産を長女と次男で等分する内容ですので、③の「複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる」パターンと考えられます。
それでは、①から③まで、順番に書き方の具体例を挙げて説明いたしましょう。
目次
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書の書き方
まず一つ目のパターンは、一人の相続人にすべての預貯金や株式を相続させるケースです。
相続人は一人ですので遺言書の書き方は簡単かとも思われますが、すべての預貯金等を相続させるには書き方にポイントがあります。
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書のポイントは、次の3つです。
- 「一切の金融資産」と記載しておく。
- 換価換金処分の旨記載しておく。
- 「一切の債権」と記載しておく。
それでは、具体例をもとにみていきたいと思います。
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書の具体例
遺 言 書
遺言者〇〇〇は、本遺言により、次の通り遺言する。
第1条 遺言者が所有する下記の預貯金及び株式等含め一切の金融資産(←ポイント①)を換価換金処分した上(←ポイント②)、妻A(生年月日)に相続させる。 記 ①甲銀行松支店に有する一切の債権(←ポイント③) ②乙証券武支店に有する一切の債権〇〇〇〇〇〇 X年X月X日 |
ポイント①「一切の金融資産」について
1つ目のポイントは、一切の金融資産」についてという表現です。
遺言作成時に把握している口座や株式について限定的に記載してしまうと、万が一書き忘れた金融資産が出てきた場合、それは遺言によって指定されていない財産となってしまいます。
そのため、遺言に基づいて相続させることができません。
書き漏れた財産については法定相続が遺産分割協議で相続することになります。
合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
すべての預貯金や株式などの金融資産を相続させたい場合、すべての金融資産を相続させる旨の記載をしておくことが大切です。
ポイント②換価換金処分について
2つ目のポイントは、換価換金処分についてという表現です。
「換価換金処分した上」と記載しておくことで、株式については株式そのものを相続させるのではなく、売却し現金化して相続させることができます。
また、貸金庫に金を所有していた、というような場合にも、現金化して相続させることができるようになります。
ポイント③「一切の債権」について
3つ目のポイントは、「一切の債権」についてという表現です。
口座番号や口座種別を細かく記載する必要はありません。
このように「一切の債権」と記載しておくことで、例えば総合口座の中に普通預金、定期預金、貯蓄預金などが含まれていた場合も、すべて相続させることができます。
複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させる遺言書の書き方
次に、二つ目のパターンを見てみましょう。
二つ目のパターンは、複数の相続人に、それぞれ指定した金融機関の預貯金等を相続させる場合です。
この場合は一つ目の「一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる」パターンと異なり、どの相続人に、どの口座の預金を相続させるのか具体的に記載することになります。
ただし、記載に当たっては一つ目のパターンと同様のポイントもあります。
複数の相続人にそれぞれ指定した金融機関の預貯金等を相続させる遺言書のポイントは、次の2点です。
- 口座は細かく書きすぎない
- 財産の記載もれした金融資産があった場合の対策をたてておく
それでは例を見てみましょう。
複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させる遺言書の具体例
遺 言 書
遺言者〇〇〇は、本遺言により、次の通り遺言する。
第1条 遺言者が有する甲銀行松支店に対する一切の債権を長男A(生年月日)に相続させる。←(ポイント①) 令和X年X月X日 |
ポイント①金融機関の口座は細かく書きすぎない
1つ目のポイントは、金融機関の口座は細かく書きすぎないことです。
特定の金融機関の預貯金等を相続させる場合、具体的な支店名や口座番号、口座種別を記載する方法があります。また株式については、具体的な証券会社の口座番号や銘柄名、保有株式数などを記載する方法もあります。
けれども預貯金については、同じ口座番号に普通預金と定期預金が紐づいていることがあり、同じ支店に忘れてしまっている貯蓄預金や投資信託口座が開設されていることもあります。証券会社についても、株式の他に国債を保有していた、というような場合もあります。
それらを書き忘れた場合、書き忘れた財産については一つ目のパターンと同じく、法定相続や遺産分割協議による相続となってしまいます。
したがって口座を特定して相続させる場合でも、よほど細かく指定して相続させる場合でなければ、具体例のように各金融機関に有する「一切の債権」というような記載をした方が、書き忘れがなく希望通りの相続が実現されると言えます。
なお、この金融機関に対する「一切の債権」という記載の仕方は、一つ目のパターンでも説明しましたが、すべてのパターンに共通のポイントとなります。
口座番号や口座種別など、通帳に記載されている内容はつい書いておきたくなってしまいますが、具体的に細かく書くことで、かえって遺言による相続からもれてしまう財産がないよう、気を付ける必要があります。
ポイント②財産の記載もれした金融資産があった場合の対策
特定の口座を特定の相続人に相続させる場合、誰にどの口座を相続させるかが大きな関心ごととなりますので、メイン口座から外れている銀行口座や最近取引のなかった金融機関の口座等については、うっかり記載を忘れてしまうことも考えられます。
この場合も、書き忘れた金融資産は遺言による相続はできなくなりますので、そのようなことがないよう、他に金融資産があった場合誰に相続させるのか、具体例の「第3条 遺言者は、前二条を除く一切の金融資産について、次男Bに相続させる。」のように記載しておくとよいでしょう。
複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる遺言書の書き方
最後に、複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させるパターンの具体例をみてみましょう。二つ目の「複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させる」パターンと違うのは、すべての預貯金等の合計額を、各相続人に等分に相続させる点です。
複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる遺言書のポイントは、次の3点です。
- 「一切の金融資産」「換価換金処分」の文言を入れる
- 各相続人の持ち分を記載
- 「一切の債権」と記載
複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる遺言書の具体例
遺 言 書
遺言者〇〇〇は、本遺言により、次の通り遺言する。
第1条 遺言者が所有する下記の預貯金及び株式等を含め一切の金融資産を換価換金処分(←ポイント①)した上、長男A(生年月日)長女B(生年月日)次男C(生年月日)に各3分の1の割合で相続させる(←ポイント②)。 記 ①甲銀行松支店に有する一切の債権(←ポイント③) 令和X年X月X日 |
ポイント①「一切の金融資産」「換価換金処分」の文言について
前述したように、「一切の金融資産」とすることで遺言書に記載されなかった預貯金等についてもカバーし、「換価換金処分」とすることで、現金で等分できるようにします。
ポイント②各相続人の持ち分を記載することについて
各相続人に相続させたい割合を記載します。それぞれ異なる持分とすることもできますが、具体例の「長男A(生年月日)長女B(生年月日)次男C(生年月日)に各3分の1の割合で相続させる」という表現のように、全体の合計割合が1になるようにします。
ポイント③一切の債権について
前述したように、各金融機関に対する「一切の債権」と記載しておきます。
銀行預貯金・株式を相続させる場合も公正証書遺言で確実な遺言を作成
今回は、遺言書で預貯金や株式等を相続させる場合の具体的な記載方法について解説しました。
遺言書がある場合の相続手続は、遺言書を根拠に行うため法定相続や遺産分割協議に比べて必要書類が少なく済むことも多く、手続きにかかる負担は比較的小さいと言えます。
したがって、預貯金等を相続させたい場合も遺言書を作成しておくことが望ましいです。
今回具体例を挙げつつ説明した通り、遺言書作成の際には、記載もれによって遺言書による相続ができない預貯金等が出てきてしまわないようにすることが大切です。
この点、遺言の中でも公正証書遺言は、遺言者の口述をもとに公証人という法律の専門家が遺言書を作成してくれますので、遺言者の望む相続をより確かに実現する内容とすることができます。
合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
遺言書の作成は公正証書遺言ですることをお勧めいたします。長岡行政書士事務所でも公正証書遺言作成のサポートをしておりますので、遺言書作成をお考えの方は、ぜひ一度お気軽にご相談にいらして下さい。今回もお読みいただき、ありがとうございました。