「せっかく公正証書遺言を作成したのに紛失した・・・」
「親の用意した公正証書遺言が見つからなくて途方に暮れている・・・」
「災害によって遺言書もなくしてしまった!どうしよう!」
近年、情報が得やすくなったことなどにより遺言書の作成件数がこの10年間増加傾向にあります。遺言書というものが身近な存在となってきているともいえるでしょう。
遺言書はご自身の大切な財産を死後どのように扱ってほしいなど最後の意思表示であると同時に、残されるご遺族にとっても相続がスムーズにできるといったメリットがあるなど、非常に重要な物です。
しかし、大事にしすぎるあまりどこにしまったかわからなくなってしまい、紛失してしまうという方も一定数いらっしゃいます。
人間ですからうっかりということがあっても仕方ありませんよね。
「うっかりなくした」という場合だけでなく、「火事などの災害によってなくしてしまう」ということも想定できます。
今回は、遺言書の中でも公正証書遺言を紛失してしまった場合の対処法についてお話しようと思います。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、簡単にいうと、遺言書を公文書として残すという方法です。
公正証書遺言は、証人2人以上の立ち会いのもとで遺言者が公証人に遺言の内容を口頭で伝え、それに基づいて公証人が遺言の内容を文章化して作成される遺言書です。
公正証書遺言は、公証人が作成する公文書であるため、一般的に信用性の高いものであると考えられています。
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、遺言書の破棄や隠匿、変造といったおそれがないというメリットがあります。
日本公証人連合会は、昭和64年1月1日以後に遺言をした人の遺言書作成年月日等をデータベース化し、遺言者が亡くなった後に相続人などの利害関係人から全国どの公証人に対しても照会があった場合、遺言の有無及び公正証書遺言を保管している公証役場等を回答するシステムが採用しているためとても便利であるといった点もメリットとして挙げられます。
合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
公正証書遺言を失くした場合の対応
公正証書遺言を失くした場合、再発行ができます。
公正証書遺言を作成した場合、遺言者に対して遺言書の謄本(※1)と正本(※2)が渡され、原本は公証役場に保管されます。
※1 謄本とは・・・遺言書の原本の内容をそのままに完全に写した書面のこと。
※2正本とは・・・謄本の一種です。原本と同じ効力を持つ書面のこと。
つまり、遺言者は遺言書のコピーを手元に保管しているにすぎず、遺言書の原本は公証役場において保管されているということです。
したがって、手元にある遺言書を紛失したとしてもコピーをなくしたにすぎず、原本は無事なので謄本や正本を再発行することは可能なのです。
手元にないとはいえ原本は存在するため書き直す必要もありませんし、遺言の効力にも影響はないので安心してください。
なお、公正証書遺言のほか、一般的に利用されるものとして自筆証書遺言というものがあります。自筆遺言証書を紛失した場合は、基本的には「遺言書は書かなかった」という状態になるため注意してください。
自筆遺言証書は遺言者が遺言の内容、日付、署名、押印まで自筆で作成し、全てご自身のみで作成するものです。
この自筆遺言証書は一般的にご自身で保管されることが多いです。
自筆証書遺言を紛失した場合、その遺言が全くないものとして改めて遺言書を書かず放置しておくと、万が一紛失した遺言書が見つかった場合、その遺言書が有効なものとして扱われる可能性があり、ご本人にとって不本意な相続の結果となる危険性もあります。
改めて遺言書を書いておけば、仮に紛失したと思っていた遺言書が発見されたとしても、基本的には日付の新しい遺言書が有効なものとして扱われます。
したがって、自筆証書遺言を紛失した場合には改めて書き直すことをおすすめします。
合わせて読みたい>>遺言書が2枚以上出てきたらどうする?複数枚の遺言の優先順位について行政書士が解説!
公正証書遺言の再発行の方法
ここからは、公正証書遺言の再発行方法について説明します。
公正証書遺言の再発行を請求できる人
公正証書遺言は再発行ができますが、誰でもできるわけではなく、基本的には遺言者本人または相続人などの利害関係人が請求できます。
利害関係人とは、法定相続人、受遺者、遺言執行者のことです。
法定相続人とは遺言者の財産上の地位を受け継ぐ一定の遺族のこと。配偶者・子(胎児を含む)・親・兄弟姉妹等をさします。
受遺者は、遺言者が遺産の全部または一部を特定の人に対して贈与することを生前の意思表示として遺言に残した場合にその贈与を受けとる人のこと。
遺言執行者とは、遺言の執行に必要な範囲で一切の行為を行う権利義務を有する者のことです。
しかし、遺言書はご本人の意思表示であると同時に、大切な個人情報なので例えご夫婦やお子さんであっても簡単に遺言書を再発行することはできません。
したがって、いつでも誰でもどうぞというわけにはいかないのです。
遺言者の生存中は遺言者本人のみ再発行できる
遺言者の生存中は遺言者本人のみ再発行することができます。
遺言書は個人情報満載の重要書類です。
また、遺言はご本人の意思を尊重しようとするものであり、相続開始前から遺言の内容が遺言者以外に知られて揉め事となると、ご本人の意思通りの相続とならない可能性があります。
その点を考慮して、遺言者の生存中はご夫婦やお子さんであっても勝手に遺言書の内容を知ることはできず、遺言者のみが請求できると決められています。
遺言者が亡くなった後は相続人などの利害関係人も再発行できる
遺言者が亡くなった後の場合であれば相続人などの利害関係人も遺言書の再発行を請求することができます。
遺言書は亡くなった後に効力を発するものです。
つまり、相続を開始するためには、相続人は遺言の内容を知る必要があるからです。
代理人でも請求できる
遺言者の生存中はご本人のみ、遺言者が亡くなった後は相続人などの利害関係人が請求することができましたね。
しかし、遺言者が入院中で公証役場に行くことができないなど、本人やご遺族が公証役場に足を運ぶことができないといった場合もあると思います。
その場合には代理人に委任して再発行を請求することはできます。
公正証書遺言再発行の請求先
遺言書の原本は作成した公証役場において保管されています。
原則として、保管されている公証役場でなければ再発行することはできません。
『作成した公証役場を忘れてしまった!わからない!』
そんなときは近くの公証役場で遺言検索システムを利用してみると良いでしょう。
遺言検索システムでは、全国どこの公証役場からであっても遺言書がどこに保管されているかを調べることが可能です。
ただし、この遺言検索システムを利用できるのは遺言者の生存中はご本人だけなので相続人などのご家族であっても検索することはできないので注意が必要です。
関連記事:遺言検索システムとは
なお、公正証書の保管期間については、20年間保管すると公証人法施行規則によって決められています。さらに、この規則には「特別の事由」によって保存の必要がある場合、その事由のある間は保管しなければならないとも定められています。
そして、公正証書遺言はこの「特別の事由」に該当すると解釈されています。
なぜならば、遺言書は遺言者がお亡くなりになった後に効力を発するものなのでお亡くなりになるまで保管されていなければ意味がありません。
そのため、遺言者がご存命の間はこの「特別の事由」にあたり、少なくとも遺言者が亡くなるまでは保管されることになっています。
公正証書遺言についての取り扱いは各公証役場によって異なります。
遺言者の死後50年、公正証書遺言を作成後140年または遺言者の生後170年、あるいは半永久的に破棄しないといった公証役場もあるようです。
したがって、「大昔に作成したからもう残っていないだろう・・・」と諦める必要はありません。
公証役場に保管されている可能性もありますので問い合わせてみましょう。
公正証書遺言の再発行に必要な書類
※a,又はbは、どちらか一つが必要となります。
遺言者本人が再発行の手続きをする場合 |
a,印鑑証明(発行3ヶ月以内のもの)と実印 または b,公官署が発行した写真入りの証明書 (例:自動車運転免許証・パスポート 等) |
遺言者の代理人が再発行の手続きをする場合 |
a,印鑑証明(発行後3ヶ月以内のもの)と実印 または b,公官署が発行した写真入りの証明書 (例:自動車運転免許証・パスポート 等) |
遺言者の死後、相続人などの利害関係人が再発行の手続きをする場合 |
a,印鑑証明(発行後3ヶ月以内のもの)と実印 または b,公官署が発行した写真入りの証明書 (例:自動車運転免許証・パスポート 等) |
遺言者の死後、相続人などの利害関係人の代理人が再発行の手続きをする場合 |
a,印鑑証明(発行後3ヶ月以内のもの)と実印 または b,公官署が発行した写真入りの証明書(例:自動車運転免許証・パスポート 等) |
公正証書遺言再発行の手数料
再発行するためには、1枚につき250円かかります。
郵送でも再発行を請求できる
保管している公正証書遺言が遠方の場合、例えば、北海道に住んでいるのに沖縄の公証役場に保管している!・・・なんてことになったらご本人様がお亡くなりになった後で様々な手続きがありドタバタしている中、とても大変ですね・・・
そんなときのために、2019年4月1日に制度が改正され、郵送でも再発行が可能となりました。
郵送の場合であっても1度お近くの公証役場に足を運ぶ必要はありますが、保管している公証役場に行く必要がなくなったのでとても便利になりました。
ただし、郵送で請求する場合には以下の手順が必要となります。
1、公正証書謄本交付申請書に署名認証を受ける
お近くの公証役場において公正証書謄本交付申請書にされた署名押印が申請者本人によってされたということを公証人に証明してもらう手続きです。
署名認証は1件につき、2,500円かかります。
2、請求先の公証役場に郵送で申請する
公正証書謄本交付申請書に署名認証を受け、必要書類と共に請求先の公証役場に郵送で申請します。
郵送書類 |
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3、謄本交付手数料を指定口座に振り込む
申請書類等が公証役場に届くと、公証役場から連絡があり、振り込み口座の指示があります。
謄本交付手数料を振り込む必要があります。
謄本交付手数料は1枚につき250円必要となります。
このような手続きを経て、公正証書遺言を再発行することができます。
詳しい手続きについては、最寄りの公証役場にご相談してみてください。
公正証書遺言は万が一紛失しても再発行できる
遺言書がなくなった!そんな重要な書類が手元にないとなると慌てますよね。
しかし、公正証書遺言であれば手間はかかりますが再発行は可能ですし、見つからない場合であっても検索システムを利用することで発見できる場合があります。
公正証書であれば公証人が関わるため遺言書の書式を間違えて遺言が無効となる心配も少なくなります。いろんな安心感が持てますよね。
一方、自筆遺言証書はご自身で用意できるため簡便であるといったメリットもあります。
遺言書はご自身の納得いく形で作成されることが大切だと思いますので、自身に合った遺言書の形式を選択されるのが一番だと思います。
遺言の作成について心配事やお悩みがある場合にはぜひ長岡行政書士事務所にご相談ください。
ご安心いただけるように精一杯ご協力できるよう努めます。
<参考文献>
常岡史子著 新世社 『家族法』