テレビのCMで、金融機関の遺言信託サービスのことを知ったと言う人も少なくないのではないでしょうか?
遺言といえば、行政書士などの士業に依頼するものだというイメージが強いでしょうから、「えっ、金融機関でも対応してるの?」と思われるかもしれません。
では、専門家に頼む遺言書の作成と、金融機関の遺言信託サービスはどのように違うのでしょうか?
そこで今回は、金融機関の遺言信託サービスに頼もうとしているAさんと、専門家に頼もうとしているBさんをお迎えして、語り合っていきましょう。
目次
金融機関が提供する遺言信託はどんなもの?
みなさま、こんにちは。今日はよろしくお願いします。
A「よろしくお願いします。先日お付き合いのある銀行の方から遺言信託というサービスを教えてもらって、いいなあと思ってるんですよ」
B「確かに最近よく聞きますよね。でも実態がどういうものか、いまいちわからないんだよなあ…」
遺言信託はサービスを組み合わせたパッケージ商品
ではまず、遺言信託というものにつてお話をしましょう。遺言信託は、サービス名ではなく、法律用語なんです。
B「そうだったんだ」
遺言を遺す人が信頼できる人に、特定の目的に従って財産の管理してもらえるよう定める信託のことなんです。
でも、金融機関が商品名に「遺言信託」と名付けたために、「商品としての遺言信託」と広まってしまっているんですよ。
A「じゃ、今日はその商品としての遺言信託を教えてもらえますか」
B「そうだな。長岡さんのような専門家の仕事とどう違うのか、気になるよ」
金融機関の提供する遺言信託の主な内容
実は、金融機関の「遺言信託」商品は、私のような行政書士や税理士といった専門職による遺言書の作成やアドバイス業務と、基本的に同じなんです。
A「じゃ、金融機関じゃないとできない何かがあるわけじゃないんだね」
そうなのです。遺言信託の内容は主に次の通りです。
遺言書作成とコンサルティング業務
- 遺言を検討している人にヒアリングを行う
- 担当するのは金融機関及び顧問弁護士や顧問税理士
- ヒアリング後、どのような遺言を作りたいかをすり合わせる
- すり合わせ時に、今後の人生設計や生前贈与等を含めた遺産承継対策全般のアドバイスも受ける
- 遺言書を作成する段階で、金融機関職員と共に公証役場に行き公正証書遺言を作成
- 証人の手配は金融機関が担ってくれる(公正証書遺言には2名以上の証人が必要)
遺言書の保管
- 作成した公正証書遺言書を金融機関で保管してくれる
- 保管期間中は毎年、財産状況や遺言内容に変更がないかの確認がくる
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遺言の執行
- 本人が亡くなったら金融機関が遺言執行者となる
- 遺言執行者の権限に基づき、公正証書遺言の内容の執行を行う
- 遺言の執行には、遺産の目録作成や名義変更、換金処分、引き渡しが含まれている
- ただし、相続税申告が必要な場合には税理士に支払う費用が、不動産の名義変更が必要な場合には司法書士に払う費用が別途発生する
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金融機関に遺言書作成を依頼した場合のメリットデメリット
A「いま説明してくれた3つの内容を見るだけでも、なかなかいいと思うんだけど」
そうですね。もちろん商品としてのメリットは十分にあると思います。先ほど専門家の行う遺言書の作成やアドバイス業務と基本は同じと話しましたが、金融機関商品にはメリットに加えて、デメリットもあるので、その点は理解しておいた方がいいでしょう。
金融機関に遺言書作成を依頼した場合のメリット
まずはメリットから見ていきましょう。
【誰もが知っている金融機関ならば安心感がある】
有名な金融機関に相談に乗ってもらえたり、相続の手配をしてもらえるので安心を感じられる
【資産活用に関するアドバイスを受けられる】
金融機関のネットワークを活用して様々な専門家のアドバイスを受けられる。例えば相続税に関してであれば、金融機関から税理士を紹介してもらえるなど。
【個人の専門家に比べて長期的なサポートが期待できる】
個人事務所に比べて、金融機関は組織も大きく、会社としての永続性に信頼がある。遺言書を作成して年月が経っても変わらず存在してくれる安心感がある。
A「とにもかくにも安心感ってところに尽きるね。個人だと永続性が気になるという人はいそうだな」
そうですね。その安心感は、有名金融機関ならではでしょうね。では、次にデメリットを見ていきましょう。
金融機関に遺言書作成を依頼した場合のデメリット
【サポート内容は均一になりがち】
- 個人の判断で臨機応変に動く専門家と違い、組織として動くためマニュアルは必須
- 例えば細かに連絡をくれたり、顔を合わせて話をしながら最近の状況を伝えたり、といったことは求めにくくなる。
【専門家と比べて費用が高くなりがち】
- 金融機関は実務を専門家に依頼するが、専門家へ直接依頼するより2~10倍の手数料がかかる
- また別途専門家に対する報酬も発生し、すべて依頼人の負担となる(最低でも100万円以上の費用を見ておく必要がある)
- 遺言者が生前に契約した高額な遺言執行費用を回避するため、金融機関に遺言執行者を辞退してもらうなどを考えた場合、手間やトラブルが発生する可能性がある
【公正証書遺言を銀行に保管してもらう意味はない】
- 公正証書遺言書は公証役場に原本が無料で保管されるため、公正証書遺言書の謄本と正本を金融機関に保管してもらう意味はない
- 日本公証人連合会が構築した遺言検索システムも無料で使用できるため、どの公証役場にて保存されているか不明にはならない
【資産をすべてさらけ出すことでリスクを伴いがち】
- 株式会社で金融機関に資産状況をすべて開示すると、個人情報が筒抜けになる
- 不要な金融商品を勧められたりする可能性も否定できない
【遺言者本意の遺言書が作れない可能性がある】
- 金融機関からすると、遺言執行者としてトラブルや訴訟に巻き込まれるのを避けたがる
- 相続人が遺言書の内容に納得せず、遺言書についての訴えを起こすときには、トラブル発生のリスクがついて回る
- 遺言書を作成する段階で、トラブルを避ける内容になるよう恣意的にアドバイスされる可能性が否定できない
- 結果、遺産の内容が元々本人の考えていたものとは違うものになる可能性がある
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遺言書の作成は自分の気持ちを実現してくれるところに依頼する
B「まあ、そりゃそうだって感じだな。だって金融機関だって商売でやってるわけなんだから」
数億円を超えるような規模の資産活用のアドバイスが必要な場合などは、金融機関の遺言信託サービスを受けるのも良いと思います。
しかし、費用、手間、ご家族の負担、後日の契約トラブルなどを総合的に考えると、はじめから専門家に相続の依頼をした方が、困ることが少ないと言えますね。
特に「遺言者本意の遺言書が作れない可能性がある」という点には気を付けたいですね。遺言は、遺言者が最後に遺せるものですので、死後、自分の本意ではない流れにはしたくありませんからね。
A「そうだな。金融機関の商品には安心感はあるけど、やはり自分の意思をしっかりと伝えていきたいものな」
B「長岡さん、ありがとうございました。とても参考になりました」
いえいえ、ご不明な点があれば、いつでもお気軽にご連絡くださいね。
この記事を詳しく読みたい方はこちら:金融機関に遺言書作成を依頼する場合のメリットとデメリットを知りたい!