全財産を今まで共に人生を歩んできた妻に相続させたい。
自分がいなくなっても、妻に苦労はさせたくない。
特にお子様がもう大きくなり経済的に自立している場合、この想いは強くなるのではないでしょうか。
では、遺言書を作成して自分の全財産を妻に相続させることはできるのでしょうか?
答えを先に言うと、できますが、書き方に工夫が必要で注意すべき点があります。
この記事では、自分が亡くなった後に、妻に自分の全財産を相続させる遺言書の書き方と
注意点を解説していきます。
目次
妻に全財産を渡す遺言書の2つのポイント
遺言書は故人の最後のメッセージであり、その遺志は遺産相続において最大限尊重されます。しかし、遺言作成には守るべきルールがあり、そのルールが守られないとせっかく遺言書を作成しても無効になってしまいます。
遺言書の要件を守る
現在広く使われている遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言の2タイプです。
それぞれ要件があるので、個別に解説をしていきます。
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言はその名の通り自分で書く遺言書であり、自由度が高く費用もほとんどかからないので敷居が低いのですがその分要件をしっかりと守らないと無効になってしまいます。
自筆証書遺言の要件は以下の5点です。
- 遺言者本人が自筆で全文を書く(添付の財産目録以外)
- 作成した日付を正確に自筆で書く
- 氏名を自筆で書く
- 印鑑を押す
- 訂正には印を押し、欄外にどこを訂正したかを書いて署名する
1.遺言者本人が自筆で全文を書く(添付の財産目録以外)
遺言者本人が手書きで遺言書の全文を書く必要があります。
パソコンで書いたものや録音、録画、代筆は無効になります。
これは自筆の筆跡により、第三者による不正や偽造を防ぐためのものです。
ただし、法律の改正により2019年1月13日からは相続財産の全部または一部の目録を添付する場合は、その目録についてはパソコンで作成したものでも良いことになりました。
通帳の写しや土地の登記事項証明書を添付することもできます。
2.作成した日付を正確に自筆で書く
遺言書を作成した日付を「令和元年7月1日」「2023年7月1日」等と正確に書きましょう。
西暦でも和暦でもかまいませんが、誰が見てもはっきりと日付が特定できることが大切です。よって「2023年7月吉日」のような書き方では遺言書が無効になります。
3.氏名を自筆で書く
戸籍上の名前をフルネームで正確に手書きで書く必要があります。
いくら周りに通りがいいからといっても、旧姓や芸名等は遺言書に使用できません。
4.印鑑を押す
名前の横に印鑑を押します。
印鑑が不明瞭にならないよう、しっかりと押しましょう。 もし印鑑が消えていたり、印鑑がない場合は遺言書が無効になります。
公正証書遺言の要件
公正証書遺言は公証人に対し後述した内容を、公証人が遺言書の文章に落とし込んでくれるものなので、自筆証書遺言のような文章上の要件不備は発生しません。
適格な証人が二人必要であったり、口述ができない場合は通訳を準備する必要があったりしますが、基本的には事前に公証人や専門家と打ち合わせをしその指示に従う事で要件はクリアになります。
遺言書の作成に関しては下記のリンクも参考にしてください。
遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
「人」と「財産」を特定する
遺言書の中では財産を渡す相手(以下、受遺者)と財産を明確に特定する必要があります。もし受遺者や財産が特定できないと、その部分について遺言が無効になってしまいます。
受遺者についてどのように記載すべきという法律上の規定はありませんが、氏名、遺言者との続柄を明記することで特定を可能にします。
財産の記載にはより細心の注意が必要となります。例えば 遺言書に指定されていない財産があると、その財産をどう分けるかを相続人全員で話し合わなければなりません。遺言書作成時には財産の目録を作成し全ての財産が網羅されていることを確認し、それでも財産の書き漏らし、書き忘れがあった場合に備えて、遺言書に「記載していない財産は○○に相続させる」などと書いておけば万全です。
また、遺言書の記載の仕方も「私の保有するすべての預金」等と書いてしまうと相続人は遺言者の預金がどこの金融機関にあるのか調べなければならずかなりの労力が必要です。預金については、銀行名、支店名、普通預金・定期預金の別などを記載するようにします。他の金融商品についても同様です。
不動産は、住居表示ではなく、不動産登記簿に記載された所在や地番、家屋番号を用います。普段書きなれている住所では遺言書中は無効となります。また、土地と建物は別々の不動産なので、遺言書には土地と建物それぞれについて所在や地番、家屋番号を記入し、建物は種類や構造、床面積なども書く必要があります。
妻に全財産を渡す遺言書の3つの注意点
さて、妻に全財産を渡す遺言書を書く際は、次の3つの点に気をつけましょう。
- 遺留分に配慮する
- 夫婦共同遺言は無効になる
- 夫婦で互いに全財産を相続させたい時は予備的遺言も記載する
遺留分に配慮する
遺言書を作成すれば、特定の人に全財産を遺贈することもできます。しかし、それでは相続人でありながら遺産がもらえず、生活が脅かされるという事態も起こり得ます。こうした相続人に不利益な事態を防ぐため、民法では遺産の一定割合の取得を相続人に保証する遺留分という制度が規定されています。
相続人の遺留分を侵害する遺言も、当然に無効となるわけではありません。遺留分を取り返す権利を行使するかどうかは相続人の自由であり、自己の遺留分の範囲まで金銭の支払いを請求する遺留分侵害額請求権が行使されるまでは、有効な遺言として効力を有します。
この遺留分侵害請求権が行使されると、遺留分を侵害している者は、侵害している遺留分の額の金銭を遺留分権利者に支払わなければならず、手元に金銭がない場合はトラブルに発展する可能性があります。
妻以外に相続人がいる場合、妻に全財産を渡す旨の遺言書を書くと遺言自体は有効ですが、自分の死後妻に対し他の相続人から遺留分侵害の訴えが起こされる可能性があります。
生前に他の相続人に事情を話し遺留分を放棄してもらったり、付言事項という法的拘束力はないが故人の想いを遺言書中に書くことのできる条項を用いて遺留分を放棄するようお願いをすることはできますが、より確実にトラブルを避けるのであれば、遺留分を差し引いた遺産全額を妻に相続させるか、遺留分の金銭を妻の為に準備しておくべきです。
遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説
夫婦共同遺言は無効になる
いかに妻の為に全財産を残すためとはいえ、妻と一緒に遺言書を作成することは認められていません。理由は、遺言の撤回が自由にできなくなるためです。そもそも遺言書は一度作成しても、その作成した者の意思で撤回することができます。
遺言制度は「遺言者の最終意思の確保」を重要視するため、遺言を作成した者に撤回の自由を認めているのです。夫婦間にしろ、別の相続人とにしろ、共同で遺言書を作成することはこの撤回の自由の侵害にあたります。
ただ、無効になるのは「同じ紙」に遺言を書くことで、同時期に別の紙に遺言を作成することが禁じられているわけではありません。したがって、夫婦で一緒に遺言を作成しようという場合、同じ紙には書かず、それぞれが別の紙に書くよう注意する必要があります。
上記は自筆証書遺言の場合であり、公正証書遺言の場合ではそもそも公証人が夫婦共同遺言を受け付けてくれません。やはり夫婦別の2通の遺言書を作成する必要があります、また、公正証書遺言を作成する場合証人2名以上の立ち合いが必要とされますが、一方の配偶者は証人とはなることができず、また、立ち合いも禁止されております。
夫婦で互いに全財産を相続させたい時は予備的遺言も記載する
予備的遺言とは、相続人が遺言者より先に亡くなった場合に備えて、次に相続する人を指定しておく遺言です。妻に全財産を渡そうとしていても妻が先に亡くなってしまうと、遺言自体が無効となり法定相続のルールに従い遺産を分割せざるを得ず、遺言者の遺志が反映しきれなくなる場合があります。
例えば妻に全財産を遺すつもりだが、もし妻が先に亡くなってしまった場合は家に寄り付かない長男より介護をしてくれる長女に遺産を渡したい、というような場合はこの予備的遺言にその旨を記載すればきちんと長女に遺産が渡るようになります。仮に予備的遺言を書いておかないと、この場合長男と長女に2分の1ずつ法定相続分が発生し、長女に遺産を遺したいという遺志が達成されません。
夫婦で一緒に遺言を残す方法!いざという時に備えて第2順位の相続人まで指定できる?
妻に全財産を渡す遺言書の例
遺言書 遺言者山田太郎は次の通り遺言する。 遺言者は全財産を妻である山田花子(昭和XX年XX月XX日生まれ)に相続させる。 付言事項:長男 一郎へ。母の老後のことを考え相続は母に託しました。 母を看取った後は残りの財産は一郎が受け継いでください。 令和XX年XX月XX日 神奈川県横浜市XXX町XX-XX 遺言者 山田 太郎 ㊞ |
付言事項で子どもへの配慮を示し、なぜ妻である花子にだけ相続をさせたのか、子どもへの愛情や思いを記しておけばより理解を得やすくなります。
また、妻とだけの記載にすると前妻がいた場合はどちらにも該当してしまうので、きちんと氏名や生年月日を書き特定することが必要となります。
子どもがいない場合でも、妻に全財産を相続させるには遺言書が必要不可欠です。
遺言書を作成しないまま夫が亡くなった場合、夫の両親や祖父母が生存していると妻の相続分は、全財産の3分の2となります。また、両親や祖父母が亡くなっているが夫の兄弟がいる場合には、妻の相続分は4分の3となります。
妻に全財産を渡す遺言書は行政書士へ相談を
妻に全財産を遺すには遺言書の作成が必要ですが、遺言書の要件や遺留分など注意すべき点があります。
もし少しでも不安に感じられた場合は相続の経験豊富な長岡行政書士事務所にご相談ください。