相続人不存在でも財産を国庫帰属させない!共感する団体へ遺贈する遺言書作成方法

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相続人が不存在とは、いったいどういう事でしょうか。

相続が「争族」、つまり遺産相続をめぐって親族同士で争う事態になったという話はよく聞きます。争族という造語ができたこと自体がこのようなトラブルが一般的になっていることを示していると言えるでしょう。ただ、誰も相続する人がいないというのはこの争族とは真逆の状態です。

誰も受け継がない遺産はいったいどうなってしまうのでしょうか。

更に、遺産を受け継ぐ人がいないので自分の強く共感する団体に寄付をするという方も増えていると聞きました。その場合はどのような手続きが必要で、なにか注意すべき点はあるのでしょうか。

 

相続にお詳しい長岡行政書士様に、本日はお話をうかがってみようかと思います。

 

お忙しい中お時間いただき、誠にありがとうございます。

さっそくですが、まずは相続人がいないというのはどういう状態なのでしょうか。

あまりピンとこないのですが・・・

 

長岡:いえ、こちらこそお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。

相続人がいないというのは、文字通り亡くなった方(被相続人と言います)の財産を受け継ぐ人がだれもいないという状態です。

原因としては少子高齢化で独居老人が増えていることや、未婚率が上昇していることが挙げられます。亡くなるときに身寄りがいない高齢者様が増えているのです。

財産を受け継ぐ人がいない場合、その財産は国のものになります。2021年の統計では日本政府の国庫に帰属された遺産は600億円を超えると言われています。

今後も相続人不存在が相次ぎ、国庫に帰属される財産は増えるかと思われます。

 

そんなに多くのお金が国庫に帰属してるのですか!

方や遺産を巡って争いがある一方、誰も引き継ぐ人がいない遺産もそんなにあるとは、なんか複雑な気分ですね・・・

ただ、私のような相続に詳しくない人間からすると、「とはいっても誰か一人くらいは引き継ぐ人はいるのではないの?」 と思ってしまいますが。

 

長岡:わかりました、では、相続人不存在の定義と相続人がいない場合にどういった手続きを踏んで財産の行き先が決まるのか、わかりやすくご説明します。

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相続人不存在になりうるケース

まず、遺言がない場合の相続から説明からいたします。

遺言書は亡くなられた方の最後の意思表示で、通常は遺産の分割方法や譲渡先などが書かれていますが、その遺言がないと法定相続という民法で定められた方法で相続を勧めることになります。

この法定相続において決められた相続人がいない状態、もしくは法定相続人がいても何らかの理由で相続しない状態が相続人不在となります。

 相続人不存在になりうるケースは、次の3パターンです。

  • 相続時に法定相続人がいない
  • 相続放棄で相続人がいない
  • 欠格・排除で相続人がいない

相続時に法定相続人がいない

まず、民法においては法定相続人を以下のルールで定めています。

 

配偶者は常に相続人

第1順位:子(が亡くなっている場合には孫)

第2順位:親(が亡くなっている場合には祖父母)

第3順位:兄弟姉妹(が亡くなっている場合には甥姪)

 

これはどういうことかと言うと、例えば亡くなった方に夫と子と自分の親がいた場合は夫と子に遺産が相続されますが、子が第1順位なので第2順位の親には相続は行われません。

また、配偶者と子がなく自分の親と兄弟姉妹のみの場合は親だけが相続となります。

カッコ内の「亡くなってる場合は孫」の意味は、代襲相続という制度で、子に相続されるべき遺産だがもし子が既に亡くなっていて孫がいる場合は、子を飛び越えてその孫に相続が引き継がれる、ということです。

よって、第一順位から第三順位までの人と、代わりに代襲相続できる人がいない場合に『法定相続人がいない』状態、つまり相続人不存在となります。

 

なるほど、わかりました。

遺言がないと法律通りに相続をすることになり、この法定相続には順番と範囲がきめられているのですね。

相続放棄で相続人がいない

長岡:法定相続人がいる場合でも、その相続人たち全員が相続放棄をした場合には相続人不存在となります。相続放棄とは、その名の通り遺産の相続を放棄することです。

相続財産に亡くなった人の借金など負債が多い場合や、単純に疎遠になっていたから財産はいらないという場合、経営の安定のために次期社長の長男に株式を集約させるため他の兄弟が放棄するといった動機が考えられます。

 

ちょっと待ってください。

疎遠になっていたので相続を遠慮するとか、家業の安定のために株式を放棄するというのはわかりますが、借金などの負債が多い場合とはどういう意味でしょうか?

 

長岡:相続の仕方にもよりますが(後述)、実は相続はプラスの財産だけでなくマイナスの財産も受け継ぐことなる場合があります。亡くなった方の立場を受け継ぐ、とお考えください。

借金の方がはるかに大きい場合、「であればもう相続は放棄します」と考える方もいらっしゃいます。

欠格・排除で相続人がいない

長岡:法定相続人が欠格・排除に該当する場合には相続人不存在となります。この欠格・排除とは、簡単に申し上げると亡くなった方、つまり被相続人に対して悪いことをした人に相続する権利を与えないようにするという民法の制度になります。

欠格の理由として、被相続人や他の相続人の殺害やそれに手を貸すなどすること、被相続人を脅して自分に有利な遺言を書かせることなどがあります。

排除は、被相続人の生前の意思で行われます。相続人による虐待や侮辱行為を被相続人が家庭裁判所に申立て、それが認められればその相続人の相続権は失われます。

法定相続人がいたとしても、その人が欠格・排除に該当し相続人から除外され、他に相続人がいない場合には相続人不存在となります。

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なんとも物騒ですが、確かにそのような人には遺産は渡したくないですね・・・。

相続人以外に遺産を遺す方法

ところで、たとえ法的に相続の権利がなくても、なにか自分に尽くしてくれた人や大切な人に遺産を遺す方法はないのでしょうか。国庫に返してしまうのも一つの社会貢献かとは思いますが、自分の遺志で自分の身の回りにの人に感謝の気持ちを伝えるのも大切かと。

 

長岡:そのとおりだと思います。

このあとご説明しようかと思っていた遺言を使った相続は、今まさにおっしゃっていただいた自分の遺志による大切な人・団体への恩返しが可能になります。

もちろん法定相続人以外にも遺言により遺産を贈ることは可能です。

相続人以外に遺産を遺す方法としては、次の3つが挙げられます。

  • 特別縁故者
  • 国庫帰属
  • 遺贈寄付

特別縁故者

実は特別縁故者という制度があります。

特別縁故者は簡単に言うと、相続人としての権利を主張する人がいない場合に、法定相続人ではないけれど特別な貢献をしたと主張する人、つまり内縁の配偶者や業務でなく療養介護を行っていた人などへ財産を残す方法です。

家庭裁判所に相続財産分与を申立てて相続財産の全部または一部を取得することができます。

ただ、この特別縁故者制度は誰も法定相続人がいない場合にその他の人が手を挙げる、ということなので、ここに亡くなった方の積極的な遺志は存在しません。

 

そうですね。介護を長くしてあげたんだからせめて遺産を少しほしい!というイメージでしょうか。でも、できれば「介護をしてくれてありがとう」という形で故人から遺言で贈った方がより感謝の気持ちが伝わると思います。

国庫帰属

長岡:あと、相続人がいない場合で遺産を国庫帰属させる手続きも、国がやってくれるわけではないのでなかなか大変です。

細かい説明は避けますが、国庫帰属では利害関係人が家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てをし、選ばれた相続財産管理人が税金や医療費、債務などの清算をしないといけません。

また、相続財産の管理収集や必要に応じての換価、特別縁故者が名乗り出てきた場合の調査もこの相続財産管理人が行います。

なので、あとあとの事も考えると、やはり遺言を遺しておくべきでしょう。

遺贈寄付

長岡:それでは、自分の財産を所属する団体に贈るための「遺贈寄付(いぞうきふ)」という方法をご説明します。もちろん自分が所属してはいないけど活動に共感できる団体、例えばボランティア団体等にもこの遺贈は可能です

「遺贈寄付」は「遺贈」と「寄付」を組み合わせた言葉です。

遺贈だけですと遺言によって財産を無償で譲与することを指しますが、遺贈寄付は公益的な活動をする団体へ相続財産を譲与することにより、その団体の活動を支え、社会的課題の解決や社会貢献につなげるという意味になります。

 

遺贈寄付には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類の遺贈を使った寄付があります。

包括遺贈とは、財産内容を指定せずに行う遺贈です。たとえば「全財産をAに遺贈する」「遺産のうち2分の1をBに遺贈する」などとすると、包括遺贈となります。

ただ、包括遺贈の場合はプラスの資産もマイナスの資産もまとめて遺贈されますので、マイナスの資産がある場合は良かれとおもって遺産を団体に遺贈したのに、自分の死後その団体に債務者から請求が行ってしまうという可能性があります。そのような事態を避けるため、そもそも包括遺贈を受け付けない団体もあります。

一方で特定遺贈であれば負債を引き継ぐというリスクはありません。たとえば「A銀行の預貯金100万円をBに遺贈する」という遺言では負債は関係ないからです。ただし不動産に関しては、特定遺贈をするとその贈り先団体に不動産取得税がかかりますので注意してください。

 

あげるだけだから、と軽く考えたらいけないのですね。

マイナスの遺産や税金のことまでは頭がまわりませんでした。

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共感する団体へ遺贈する際の注意点

共感する団体へ財産を遺すためには、遺言によって「特定遺贈」をするのが良いことは分かりました

あと他にはどんな点を注意すべきでしょうか。

長岡:そうですね、遺言による寄付が確実におこなわれるようにすることも大切です。

  • 遺言執行者を指定する
  • 公正証書遺言を用意する

遺言執行者を指定する

遺贈寄付は本人が亡くなった後に実行されるので、仮になにか不測の事態が起きても本人は関わることができません。

遺言書の中で、遺言内容を実現するために権限を与えられた遺言執行者という役割の人間を指定することで、本人が亡くなった後も遺言寄付の実現を託すことができます。

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公正証書遺言を使う

また、遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類あります。

遺贈寄付では、公正証書遺言の方が安心です。

自筆証書遺言はその名の通り自分で書くことができるので費用も安く遺言を書く敷居が低いのですが、例えば必要な形式が守られておらず無効になってしまったり、また遺言書の保管場所を誰も知らずせっかく書いても日の目を見ないまま相続が終了してしまうケースがあります。

合わせて読みたい>>自筆証書遺言書の正しい書き方|失敗例から注意点を学ぼう!

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遺言書を書く理由の一つとして自分の遺志が死後も伝わるという安心感がありますので、ここは費用がかかってもより安心の度合いの高い公正証書遺言を使うべきです。

合わせて読みたい>>公正証書遺言の作成費用はどのくらい?行政書士が具体例を解説!

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この公正証書遺言とは公証役場で作成する遺言書のことで、公証人という専門家に作成してもらうので高い信用力が期待できます。また、公正証書遺言は公証役場で保管されるため、遺言書を見つけてもらえないというリスク対策にもなります。

合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説

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多少の費用がかかってもより安心を買うべき、という感じでしょうか。

これまでのご説明、よくわかりました。ありがとうございます。

遺言寄付の遺言書

最後に、実は私遺言書というのを見たことがないので、どんな感じというイメージを共有させてもらうためにも実例を見せていただけませんでしょうか。

 長岡:わかりました。遺言書を見慣れてる方というのも少ないかと思いますので・・・簡単ではありますが下記の様に例文をご提示いたします。

ちなみに文中の付言事項というのは、法的な効力はないのですが遺言者の想いを遺すために自由に書く事ができる条項になります。なぜ遺言寄付をするに至ったのかの気持ちがわかり、周囲の理解が得やすくなるはずです。

 

遺言書

 

遺言者○○○○は、この遺言書により次のとおり遺言する。

 

1.遺言者は、遺言者の有する次の財産を公共財団法人 日本ユニセフ協会にに遺贈する。

三菱UFJ銀行 ○○支店 (口座番号XXXXXXX)

みずほ銀行 ○○支店 (口座番号XXXXXXXX)

 

2.遺言者は1に記載した以外に遺言者の有する財産があった場合、かかる財産の一切を公共財団法人 日本ユニセフ協会に遺贈する。

 

3.遺言者は、遺言執行者に次の者を指定する。

 

神奈川県横浜市港南区港南5-1-32  港南山仲ビル202

長岡行政書士事務所

行政書士

長岡 真也

 

4.付言事項

私は、日頃より子供の幸せのために活動するユニセフに強い共感を覚えておりました。なので財産全額を公共財団法人 日本ユニセフ協会に遺贈します。

少しでも、今後の活動に役立ててください。

 

平成○年○月○日

○○県○○市○○町○丁目○番地

遺言者 ○○○○ 印

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相続人不存在であれば遺言書で遺贈寄付することも有効

少子高齢化や未婚率の上昇など、相続人がいない状態になる理由は様々です。相続人がいないと財産は国庫に帰属することになります。国に託すのも一つの社会貢献かもしれませんが、もしご自身で共感できる団体があり自分の財産を遺贈寄付することで役立ててもらいたいと願うのであれば、公正証書遺言を活用し自分の想いを団体に託すことができます。

もしこれまでの説明に不明な点があったり、遺言書作成にあたり不安を感じる場合は、ぜひ長岡行政書士事務所にご相談ください。

皆様の想いと共に寄り添っていければ幸いです。

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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