
相続人が生前に受けた贈与等の利益を「特別受益」といいます。
そして、相続人の権利である「遺留分」は、実は遺産だけではなく、生前贈与された財産(特別受益)も対象になることをご存知でしょうか。
つまり多額の生前贈与があると、思った以上に遺留分の対象となる財産額が多くなることもあります。
今回は、どのような生前贈与なら遺留分の対象となり、どのような贈与なら遺留分の対象とならないのか、詳しく解説します。
目次
遺留分とは
まずは前提知識として、遺留分について解説します。
一定範囲の法定相続人には、最低限の相続分が保障されています。この法律で保障されている相続分が「遺留分」です。
たとえば「全財産を愛人に相続させる」のような遺言書が残されていたとしても、配偶者や子どもは遺留分で保障された額を請求できます。
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遺留分請求は生前贈与も計算対象(特別受益の持ち戻し)
さて、記事冒頭で紹介したとおり、生前贈与された財産(特別受益)も、遺留分の対象となります。
たとえばAさんは、兄と弟の3人兄妹で、先日お父様を亡くされ、ご両親ともに鬼籍に入られたそうです。遺言は次のような内容だそうです。
・兄に不動産(1500万円相当)を相続させる。
・兄弟3人に預貯金1500万円を500万円ずつ相続させる。
ですが、お父様の遺言に従って相続手続きを始めたはいいものの、どうにも内容に納得できないそうで…。
というのも、お兄様は、5年前に600万円の事業資金の贈与をお父様から受けており、相続分が不公平だと感じているとか。
この場合、遺留分の請求はできるのでしょうか?
まず遺留分がいくらなのかを算出するためには、相続財産がいくらなのか決定して計算の基礎とする必要があります。
そして遺留分計算のポイントとなっているのは、お兄様の生前贈与分。
この事例ように生前に財産を贈与されていた場合、その相続人の受けた贈与等の利益を「特別受益」といいます。
この特別受益については、相続財産への「持ち戻し」という仕組みがあり、生前贈与された金額を相続財産に加算して計算することができます。遺留分の算定は生前贈与(特別受益)を持ち戻す、ということです。
ただ、遺留分の計算にあたっては、この持ち戻しは必ずしも遺留分計算の基礎額に含まれると断定はできないのです。
ということは、お兄様の特別受益が持ち戻しされるかどうかが、不公平感解消の分かれ目になるのです。
そもそも特別受益は、遺産の前渡しのような性質を持ちます。
たとえば住宅購入代金の贈与、営業資金の贈与、婚姻費用の贈与などが、生前贈与による特別受益として代表的なところでしょう。
合わせて読みたい>>特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意
今回のAさんのケースでは、お兄様が多額の贈与等を受けているので、この贈与を考慮せずに財産を分けると確かに差が出てしまい、不公平になります。
では、特別受益をどのように計算すれば公平な贈与になるのでしょうか?実は特別受益の持ち戻しの計算は、「法定相続」と「遺言書がある場合の相続」で異なります。
法定相続の場合の計算
今回のケースが法定相続だった場合は、生前贈与も合わせた相続方法は以下のような計算式になります。
相続分を算出する際の財産額:1500万円(不動産)+1500万円(預貯金)+600万円(兄への生前贈与)=3600万円
↓
一人当たりの法定相続分:3600万円×1/3=1200万円
↓
Aさん・弟の相続分:各1200万円
兄の相続分1200万円-600万円(生前贈与分)=600万円
遺言書がある場合の特別受益の計算
一方、遺言による遺産相続が遺留分を侵害しているとき、つまり不公平な状態になってしまっている場合、侵害されている側は、遺留分として妥当な金額を請求することができます(遺留分侵害額請求)。
Aさん兄弟一人当たりの遺留分は、相続財産の1/2を、相続する子供の人数(3人)で割った、1/6です。
つまり、Aさんのお弟さんは、お兄様に、遺留分として財産総額の1/6の金額の請求ができるわけなのです。
さらに特別受益も加味した遺留分の具体的な計算方法は次の通りです。
相続分を算出する際の財産額:1500万円(不動産)+1500万円(預貯金)+600万円(兄への生前贈与)=3600万円
↓
相続人一人あたりの遺留分:3600万円×1/6=600万円
↓
今回、遺言書の中で「不動産は兄が相続、預貯金は500万円ずつ相続」とあるため、遺留分600万円のうち100万円が侵害されていることになる
↓
結論:Aさん、弟は兄に対して各々100万円の遺留分侵害額請求をすることができる
特別受益の持ち戻しの計算期間は相続開始前10年間
先ほど、特別受益の持ち戻しを加味した遺留分計算について紹介しました。
しかし、特別受益が遺留分計算に影響を与えるのは、あくまで生前贈与が、相続開始前10年以内だった場合です。
特別受益には時効はありませんが、2019年7月1日施行の法改正により、遺留分を計算する際の特別受益の持ち戻しについては、相続開始前10年以内の贈与に限られるという規定が新設されました。
つまり、相続から10年以上経過した状態だと、この記事で紹介している相続事例の生前贈与の600万円は持ち戻されず、相続人一人あたりの遺留分は「3000万円×1/6=500万円」となります。
Aさん、兄、弟に残された遺言書には次のように書かれていたことを思い出してください。
・兄に不動産(1500万円相当)を相続させる。
・兄弟3人に預貯金1500万円を500万円ずつ相続させる。
つまり、贈与から相続まで10年以上経過しているのであれば特別受益の持ち戻しは発生せず、弟は遺留分である500万円はきっちりもらえるため、遺留分侵害にはならなくなるのです。ここ大事ですよ。
特別受益の持ち戻し免除の意思表示は遺留分計算では原則として無効
もっとも、特別受益の持ち戻しについては、免除の申請もできます。
生前贈与をした場合、その贈与をした人(つまり遺言者)が、将来の相続の際、その贈与した財産を相続時の財産に入れずに計算してほしいと望む場合などです。
遺言書などによって被相続人が持ち戻し免除の意思表示をすると、相続分の算定にあたって生前贈与はなかったことになります。
不公平と言えば不公平に見えなくもないですが、本来、相続財産は被相続人の財産です。その財産をどうするのかは、被相続人が自由に決められるという視点で見ると、相続する側がどうのこうのいえる問題ではないようにも見えます。
でも一方で、遺留分制度の趣旨は、被相続人の財産処分の自由に一定の制限をすることで、遺される相続人の生活保障を図る点にあります。ここ、大事なポイントです。
持ち戻し免除の意思表示を優先し、遺留分算定の基礎財産に含めないとすると、相続人が確保できる財産割合が少なくなってしまいます。
これは遺留分制度の趣旨を害してしまうことから、持ち戻し免除の意思表示については、遺留分算定の基礎財産には含まないものとされるのです。
つまり、特別受益の持ち戻し免除の意思表示は、遺産分割(法定相続)の計算では有効ですが、遺留分計算では原則として無効(考慮されない)なのです。
遺言書作成の際は生前贈与と遺留分を考慮に作成する
生前贈与や遺言書の作成を行う場合には、「遺留分」も含め将来の相続の際に問題になるような点をよく考慮することが大切です。
しかし遺留分は制度が複雑で分かりづらく、さらに生前贈与した金額も加味するとなると、どのような計算となるのか分からないという方もいるでしょう。
そのような場合には、弁護士や行政書士など、専門家にぜひ相談してみてくださいね。
横浜市の長岡行政書士事務所では、生前贈与と遺留分を考慮した遺言書の作成相談にも対応しています。初回相談は無料なので、お気軽にお問い合わせください。








