遺産相続の事を考える年になると、もしかしたら年齢や病気により体のどこかが不自由になっているかもしれません。
遺言書は目が見えなくても、耳が聞こえなくても、または話すことができなくても作成することができるのでしょうか。
また、遺言書作成時にはどのような補助が期待できるのでしょうか。
今日は実際に目が見えない方の遺言書作成のお手伝いをされたことのある長岡行政書士様にお話を伺ってみようかと思います。
本日はよろしくお願いします。
遺産相続に関してのご相談に来る方は高齢の方というイメージがありますが、実際のところどのような年齢層なのでしょうか。
長岡:
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
そうですね、確かに高齢の方が多いです。加齢やそれに伴う病気により字が書けなくなってしまったり、言葉を発することが難しくなったり。また、発音が聞き取りにくくなる、目が見えなくなってしまうなど身体に不自由が生じてしまい、それが遺産相続の事を考えるきっかけとなりご相談いただくケースが多いですね。
先日も、脳梗塞を患い利き手が不自由となってしまった方から、「字を書くことができないのですが、遺言書を書くことはできますか?」というご相談をいただきました。
では、そのようなご相談に対して、長岡行政書士様としてはどうご返事差し上げてるのでしょうか。
目次
目、耳、口が不自由な場合は公正証書遺言を作成する
長岡:
はい、目、耳、口が不自由な方の場合は、公正証書遺言という方法をお勧めしております。
まず、遺言書の作成方法には自筆証書と公正証書という2つの方法があります。
合わせて読みたい>>遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
自筆証書遺言は、財産目録、これはつまりご自身の財産をまとめたリストの事なのですが、それ以外の全文を遺言者ご自身が書かなければなりません。
なるほど、まさしく自筆、ですね。
長岡:
そうですね、なのでこの自筆証書遺言では書くことが難しい方は残念ながら遺言を作成することができません。しかし、法律の専門家のもとで作成される公正証書遺言でしたら、身体上に不自由が生じご自身の意思を伝えることが難しい方でも、代替の方法で遺言書を作成することができます。
公正証書遺言ですか。公正役場とか公証人というのは聞いたことがあるのですが、少しまだどんなものかピンとこないのですが・・・
長岡:
確かに、なじみの薄い方も多いかもしれませんね。
公証人とは、法律の専門家であって、当事者その他の関係人の嘱託により「公証」をする国家機関です。通常は裁判官や検察官といった法務実務に長くかかわってきた方々の中から法務大臣が任命をします。お願いして法律のプロに文章を作ってもらいますので、ある意味公のお墨付きということで裁判所の判決に準ずる効力があります。また、公証役場とは、公証人が遺言、各種契約、定款や私署証書の認証、確定日付の付与などの職務を行う公の事務所の事を指します。
ざっくりとした理解で恐縮ですが、国が外部委託した公に認める機関、ような感じでしょうか。
長岡:
そう考えていただいて差し支えないと思います。そして公正証書遺言とは、その公証人に対して本人が口頭で告げたものを公証人が遺言書にしてくれたものです。
公正証書の作成方法
ここで、公正証書遺言の作成方法を定めた法律の条文を見てみましょう。
民法第969条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。(1.2.5は省略)
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
結構具体的に作り方が書いてあるのですね。
長岡:
更にわかりやすくまとめなおすと、下記のとおりです。
① 遺言者が遺言の趣旨を公証人に「口頭で伝える」
② 公証人が、遺言者が「口頭で伝えた」遺言内容を筆記する
③ 公証人が遺言者と証人に遺言内容を「読み聞かせる」
④ 筆記の内容が正確であれば、遺言書に「署名捺印を行う」
公証人が遺言者が口にした内容に沿って筆記してくれるので、遺言者は自筆証書遺言のように遺言書の本文を自書する必要がありません。また、遺言者は筆記した遺言書を閲覧するか読み聞くことにより、確認することができます。仮に遺言者の目が見えない場合、閲覧できなくても読み聞くことにより、本条の条件を満たすことができます。
また、遺言者の署名捺印が要求されますが、遺言者自身の氏名を署名するだけですので、目が見えない方でも対応が可能です。どうしても署名が難しい場合は、公証人に伝えることにより署名しなくても済みます。以上のように、目が見えない方でも公正証書遺言を作成できます。
合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
不自由な各状況による公正証書遺言の作成方法
だいぶ光が見えてきた気がしますね。
長岡:
それでは、公正証書遺言を用いることで身体上の不便をどう克服していくかを、以下の4つの具体的に沿って見ていきましょう。
- 目が見えない方の公正証書遺言
- 話すことができない方の公正証書遺言
- 耳が聞こえない方の公正証書遺言
- 字を書くことができない方の公正証書遺言
目が見えない場合 | 遺言内容を口頭で伝える 公証人に読み聞かせてもらう 公証人が代署、代印することも可能 |
話すことができない場合 | 遺言の内容を通訳人の通訳により口述する 公証人と筆談する |
耳が聞こえない場合 | 通訳人が通訳する 閲覧で済ませる 公証人と筆談する |
字を書くことができない場合 | 公証人が代署、代印することも可能 |
目が見えない方の公正証書遺言
目が見えない場合でも遺言内容を口頭で伝えることはできます。また、公証人に読み聞かせてもらうことも可能です。
署名、捺印が難しいかもしれませんが、公証人がその事由を記載して遺言者に代わって公証人が代署、代印することができます。
話すことができない方の公正証書遺言
遺言内容を口頭で伝えることが難しい場合は、遺言の内容を通訳人の通訳により口述する方式か、もしくは公証人と筆談する方式いずれかを選択すことができます。そして公証人がその旨を遺言書に記載します。
耳が聞こえない方の公正証書遺言
耳が聞こえないことで公証人の読み聞かせが難しい場合は、通訳人の通訳によるという方式か閲覧で済ませるという方式のいずれかを選択し、公証人がその旨を記載します。
字を書くことができない方の公正証書遺言
署名、捺印を行うことが難しい場合は、前もって公証人にケガや病気により署名が難しい旨を伝えておけば、公証人がその事由を記載して遺言者に代わって代署、代印することにより可能となります。
目、耳、口が不自由な方が公正証書遺言を作成する際の注意点
こうして教えていただくと、改めて、何らかの方法はあるのだなと理解しました。
字を書くことができない時に遺言書作成を詳しく知りたい方はこちら:病気等で署名ができない場合の遺言書作成はできるのか?
長岡:
そうですね。ただ、公正証書遺言を用いるときにはいくつか注意点があることはご認識ください。
たとえば、公正証書遺言は2人以上の証人立会いが必要なので、適切な証人をあらかじめ手配しておく必要があります。
また、公証人役場に出向くことが難しい場合には別途費用を負担すれば公証人が出張して来てくれることも可能ですが、関係者の都合や準備もあるので事前に相談して打ち合わせをする必要があります。
また、話すことができない人や耳が聞こえない人には通訳人が必要となる場合がありますが、手話通訳士の資格など特定の資格を有する人でなくても、遺言者の意思を公証人に伝えることができる人であれば構いません。
この通訳人は遺言者が選任することが原則ですが、公証人に依頼して公証人が選んだ通訳人のほうが、手続きが円滑に進む場合は公証人が選任することもあります。
まずは事前にしっかりと公証人と相談しておけば、色々一緒に考えていただけるのですね。
本日は色々教えていただき、どうもありがとうございました。
身体上の不自由があっても遺言書は作成できる
公正証書遺言を用いることで、身体上の不自由があっても遺言書を作るための色々なサポートが受けられます。
目が見えない場合 | 遺言内容を口頭で伝える 公証人に読み聞かせてもらう 公証人が代署、代印することも可能 |
話すことができない場合 | 遺言の内容を通訳人の通訳により口述する 公証人と筆談する |
耳が聞こえない場合 | 通訳人が通訳する 閲覧で済ませる 公証人と筆談する |
字を書くことができない場合 | 公証人が代署、代印することも可能 |
とはいえ、どのような段取りで進めていいか不安に感じることも多いと思います。そのようなときは是非長岡行政書士事務所にご相談ください。
誠実に寄り添うことをモットーとしており、全力でサポートさせていただきます。