遺言で私道部分の相続について触れられていないことが分かった…いったい、どう対処したらいいのでしょうか?
完璧というのは難しいもので、何度も見直した遺言でも、記載漏れが発生することはよくある話。
記載漏れが発覚するのは遺言を作成した人間が亡くなってしまった後ですから、もちろん遺言書の書き直しなんてできやしません。
でも、遺言書の記載漏れが発覚してしまった場合、対処しなくてはいけないのもまた事実。
そこで今回は、遺言書の記載漏れの発生原因と対処法を、行政書士の監修のもと、落語調のストーリー形式で解説します。
目次
遺言に相続人を書き漏らしてしまうとどうなる?
おかみ「あんた、ちょっと聞きたいんだけどさ」
ご主人「どうしたい? 干し柿の出来具合ならまだもう少し先だぞ」
おかみ「干し柿のことじゃないよ。あたしゃそんなに食い意地張ってないさ。いやね、うちの目の前の私道があるだろう?」
ご主人「おう、私道というか、いまや我が家が皆様に使っていただいている道路だあな」
おかみ「あの相続って、どうなってるのさ?」
ご主人「は? 相続? 道路なのに?」
おかみ「バカだね、あんた。皆が使ってる道路っていったって、うちの私有地じゃないのさ。ホラ、こないだ死んだおじいちゃんが遺言残してたろ?」
ご主人「ミミズが這ったような字で読みにくいったらなかったな。だからお茶こぼしたのを拭いて捨てちまったよ」
おかみ「は?あんた何やってんだい! あの中に、うちの不動産のことが書いてあったけど、私道については何にも書かれてなかったろ?」
ご主人「どうだったっけな。でもそれがどうしたってんでい?」
遺言書の記載漏れは私道等でたまにある
おかみ「角の乾物問屋さんが言うんだよ。家を建替えたり不動産を売る段になって記載漏れが発覚したら困窮しちまうとか、近隣ともめごとに発展しちまうかもってさ…」
ご主人「そんな大げさな…」
おかみ「大げさでもないんだよ。特にうちは私道の奥に家の敷地がある旗竿地だろ? 私道がないと売るときに値崩れしちまうし、売れないことだってあるんだよ!」
ご主人「私道は私道、うちのもんだろうが。売れないなんてことが…」
おかみ「あるんだよ。だって遺言に書いてなかったんだから、あんたが正式に相続したってどうやって証明するんだい?しかもその遺言書はもうないし。まったくボンクラってのはこういうことを言うんだね」
ご主人「いや、その、そりゃあ…」
遺言書に記載がない財産は相続人の話し合い
おかみ「おじいちゃんは子だくさんで、あんたの兄弟は7人、それぞれ2~3人ずつ子供がいるから、相続人はどんどん増えちまうだろ?代襲相続って言ってね、どんどん下の代に受け継がれていくので、ねずみ算的に相続人が増えちまう。つまり話し合いでまとまりにくくなっちまうんだよ」
ご主人「…で、私道の相続人がわからなかったら、うちの土地の値段が…。そりゃいけねえ! どうすりゃいいんでえ?」
おかみ「やっぱりだ。そんなこったろうと思って、そうだと思って、横浜市にある行政書士の長岡屋さんのところに使いを出したんだよ。そろそろ来てくれるはずなんだけど…ああ、長岡さん、こっちこっち!」
長岡「こんにちは。早速ですが、遺言書の書き漏らしがあったそうで」
おかみ「まったく困っちゃいますよ。いったいうちはどうしたらいいんです?」
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記載漏れが発覚した場合の対処法は?
長岡「今回のように記載漏れが発覚した場合、まずは遺言の記載内容のままで漏れた部分の相続登記が可能かどうかを調べるところから始めます」
ご主人「盗賊陶器?」
おかみ「そうそう、かの太閤殿下が愛用した異国の陶器を盗賊が奪っていくから盗賊陶器…ってバカ! 石川五右衛門じゃないんだよ。相続、で、登記。相続登記」
ご主人「お前ものってたじゃねえかよ…」
遺言書の記載の仕方で相続登記できることもある
長岡「もしも当時の遺言書が公正証書遺言で作成されていれば、原本が見付からなくても公証役場で遺言公正証書の再発行ができます」
おかみ「再発行をしてもらって、どんな書き方になっていたか調べるんだね?」
長岡「そうです。包括的な解釈ができたり、元の遺言書のままで漏れていた部分の相続登記が可能であれば一件落着です」
ご主人「でもそうじゃなかったら?」
長岡「その遺言内容で対応できない場合は、改めて遺産分割協議で対応せざるを得なくなります。相続権がある親族全員で」
おかみ「ってことは、ひいふうみい…いったい何人になるんだい。うちにそんな大勢は入りきりゃしないだろ。湯飲み茶碗だって足りやしないよ」
地方在住者、行方不明者がいる場合は要注意
長岡「まあまあ、場所はともかく。地方や海外に居んでいる相続人がいますか?」
ご主人「…大勢いるな。こないだもジョン万次郎と一緒にメリケンに行くって、何人か行っちまったよ」
長岡「親族の居場所が分からなくなっていたりは?」
ご主人「…するな。秘境を超えて黄金を探しに何人か行って、もう何年も帰って来てねえ」
おかみ「あんたの一族はインディ・ジョーンズかい?」
長岡「状況はなかなかに複雑ですね。地方や海外に居んでいる相続人がいると、連絡したり書類のやり取りに手間と時間がかかりますし、親族の居場所が分からなくなっていれば、所在調査から始めることになります」
ご主人「そりゃ困ったな…。専門家に任せちまうことはできねえのかい?」
長岡「遺産整理業務の一環として調査を依頼することができても、費用の負担が発生しますね。あと、相続人の中に認知症や病気により判断能力が著しく低下している方はいますか?」
おかみ「あ、そりゃウチの旦那ですよ。いつもぼけーっとしてるし、肝心な時に優柔不断だし」
ご主人「おい! …でもそれもいるな」
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認知症などの相続人には成年後見人を
長岡「法的に有効な遺産分割協議ができない可能性がありまが、まあこれはこれで成年後見人を就けることで対処可能です」
ご主人「成年後見人? そういえば、どっかでそんな本を読んだな…、おおこれだこれだ! 『図解ポケット 成年後見制度がよくわかる本』(長岡真也監修/秀和システム)。こいつで成年後見制度のことはバッチリ頭に入ってるぜ」
長岡「それなら何よりです(笑)」
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遺言書の記載漏れを防ぐポイント
おかみ「ねえ長岡さん。たらればの話なんだけどさ。もし遺言書を作る前に戻れるとしたら、どうやって記載漏れを防ぐんだい? 人間、どうしても忘れちまうことあるだろ?」
長岡「そういう場合は、いくつか別の資料を見ることになりますね。たとえばこんな資料です」
- 権利証(登記済証)…被相続人の所有不動産を確認できる
- 非課税証明書…公衆道路とされている場合に非課税かどうかを確認できる
- 不動産登記簿の共同担保目録…私道の共有権を確認できる
- 公図(法務局で取得)…法務局に備え付けられている土地の位置や形状を確認できる
遺言書の記載漏れは各種資料を正確に確認すること
長岡「または、遺言書の文言を包括的に書くといいでしょう。例えば不動産を取得する人が一人であれば、「その他一切の財産を相続(又は遺贈)させる」を記載すれば、後から私道部分が出てきた際も「一切の財産」の中に含めることができます」
ご主人「ほう、言葉ってのはなかなか便利なもんだな」
おかみ「感心してる場合じゃないだろ」
長岡「ともあれ、遺言書を作成する場合は必ず専門家が関与したほうがいいですね。ご主人が遺言書を書くときは、気を付けてくださいよ」
ご主人「おう、そう思って早速書いてみたいんだけどな…俺っちの字は、モズクが這ったような字で読めやしねえんだよ」
おかみ「モズクは美味しくいただくもんだよ、バカだねぇ」
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