「遺言で私道部分の相続について触れられていないことが分かったんだけど、どう対処したらいいのでしょうか」
「他の相続人達と仲が良くないのだけど、遺言書に漏れていた部分の相続は彼らと相談しないといけないのかな」
「遺言書の記載漏れを防ぐにはどうしたらいいの」
完璧に作った遺言のつもりでも、往々にして記載漏れが発生しています。
そして記載漏れが発覚するのは遺言を作成した人間が亡くなってしまった後、つまり、残された相続人では遺言書の書き直しはできません。
本日は遺言書の記載漏れがなぜ発生するのかと、その対処法を学んでいきましょう。
目次
遺言書は有効でも記載漏れは防げるわけではない
遺言書には大きく分けると自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。
自筆証書遺言はその名の通り自分で作成することが可能でコストもかかりませんが、内容や形式に不備があったときに無効な遺言書になってしまう可能性があります。
公正証書遺言は少なくとも公証人の関与があり、遺言書自体が無効になってしまうということはまずありません。
ところがです!
自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言書自体は有効であってもちょっとしたミスが後の問題の種になってしまうことがあります。
合わせて読みたい:遺言書を作成する場合は、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを選べばよいのか?
遺言書の記載漏れの背景
よくある例として、親が亡くなった時に、遺言により自宅建物を相続しても「私道部分」(家の建つ土地に隣接した土地であり、道路として利用されている私有地)が遺言の中で触れられておらず相続をしてないケースが挙げられます。
私道部分は近隣の方々と共有で持ち合っているケースが多く、普段は自分の権利が存在すると気にもしない方も多いのではないでしょうか。
また、私道が公衆用道路として自治体に認められている場合は固定資産税が課税されておらず、故人が私道を所有していたことを家族も認識していないケースがあります。
そのような場合、家を建替えたり不動産を売却する段になって初めて記載漏れが発覚して困窮する事態や、それが原因で近隣とトラブルに発展してしまう事態も起こり得ます。
特にいわゆる「旗竿地」のような地型であれば私道がないと売却時の値段が大幅に下がるばかりか、再建築不可物件として売却に大いに支障をきたすおそれがあります。
また、相続が終了してから時間が経つと、その時に相続した人が死亡してしまい相続権が下の代に移り、結果として相続人が増えてしまい相続人全員からの了承を得ることが難しくなります。
これはどういうことかというと、たとえば、相続人がなくなると相続する権利は相続人の子どもに受け継がれます。これを代襲相続と言います。
例えば相続発生時に3人だった相続人が、時間が経ち私道部分の記載漏れが発覚したために相続人全員で遺産分割協議をしないといけなくなった場合、その3人の相続人のうち誰かが死んでしまっていた場合は代襲相続が発生しその子どもが相続人となります。
どんどん下の代に受け継がれていくので、ねずみ算的に相続人が増え、全員の合意を得て遺産分割協議書をまとめるのが難しくなります。
遺言書の記載漏れを防ぐ方法
遺言書を作る立場からすると、まずは遺言書を作る前にしっかり資料を準備しておくことが大切になります。
具体的には、以下の資料を確認することになります。
権利証(登記済証)
権利証は故人(被相続人)が不動産を取得した際に発行された権利証から、被相続人の所有不動産を確認することができます。
非課税証明
非課税証明書は相続不動産を管轄する税務課で取得できます。
前述のように持ち分のある私道でも公衆道路とされている場合は非課税扱いとなります。課税証明だけでなく非課税証明も確認するようにしましょう。
不動産登記簿の共同担保目録
共同担保目録は法務局で取得できます。
共同担保目録とは、一つの債権(例:住宅ローン)の担保として複数の不動産に設定された抵当権を一括して記載した登記事項のことです。
私道の共有権が存在する場合はこの共同担保目録から読み取ることができます。
公図(法務局で取得)
公図とは、法務局に備え付けられている土地の位置や形状を確認するための法的な地図のことです。
公図上では、公道には地番がないため「道」と書いてあることが多く、道路のような形をしていて地番がついている土地は私道であることが多いです。
遺言書で一切の財産と記載することで漏れを防ぐやり方
また、遺言書の文言を包括的に書くことで記載漏れを防ぐことができます。
例えば不動産を取得する人が一人であれば、「その他一切の財産を相続(又は遺贈)させる」を記載すれば、後から私道部分が出てきた際も「一切の財産」の中に含めることができます。
記載漏れが発覚した場合の対処法
それでは、相続を受ける相続人の立場から見て、万が一記載漏れが発覚した場合はどう対処したらいいのでしょうか。
遺言書の原本を再確認する
まずは遺言の記載内容のままで漏れた部分の相続登記が可能かどうかを再確認します。
当時の遺言書が公正証書遺言で作成されていれば、仮に原本が見付からなくても公証役場で遺言公正証書の再発行が可能です。
前述の通り包括的な文言等の解釈が可能であったりと、元の遺言書のままで漏れていた部分の相続登記が可能であればこれで問題は解決となりますが、この遺言内容で対応できない場合は改めて遺産分割協議で対応せざるを得なくなります。
遺言書の原本で対応できない場合は遺産分割協議をする必要がある
せっかく遺言があっても記載漏れがあり対応ができない場合、気づいた時点で相続権がある親族全員で改めて遺産分割協議をする必要があります。
まず、地方や海外に居んでいる相続人がいると、連絡及び書類のやり取りに手間と時間がかかります。
親族の居場所が分からなくなっていれば、所在調査から始めなければなりません。専門家に遺産整理業務の一環として調査を依頼することができても、費用の負担が発生します。
更に、相続人の中に認知症や病気により判断能力が著しく低下している親方がいると、法的に有効な遺産分割協議ができない可能性があります。その場合はその親族に成年後見人を就けることで対処可能です。
相続権のある親族の中に非協力的な親族がいる場合は厄介です。
財産的な価値のない私道部分についての遺産分割協議に“はんこ代”としてお金を払わざるを得なくなる可能性があります。
合わせて読みたい:遺言書と異なる遺産相続はできる?ポイントと注意点を解説!
遺言書作成時には必ず専門家に確認を依頼することが必要
遺言に漏れがあると、後々手間とコストがより増大します。
結論としては、遺言書を作成する場合は必ず専門家が関与してもらいましょう。
自筆証書遺言でも公正証書遺言でも同じです。
遺言書は本来将来のトラブルを未然に防いだり、相続人がスムーズに遺産承継できるように遺言者が最後に残してあげる気配りです。
専門家に頼むとコストは発生しますが、大切な家族のために確実なものを残してあげるようにしましょう。
長岡行政書士事務所は相続の経験が豊富にあります。
皆様に寄り添った相続のお手伝いができれば幸甚です。