相続人に未成年者がいる場合、相続手続きはどうなるのでしょうか。
そもそも、遺産をもらえる人には、法定相続人と受遺者という2つのパターンが存在します。
法定相続人とは民法で決められた相続人のことで、亡くなった人の配偶者と、状況により異なりますが子か親か兄弟姉妹などが該当します。
かたや受遺者とは、遺産を譲り受ける人として遺言の中で指定された人のことを言います。
法定相続人と受遺者の違いは遺言があるかどうかにあります。個人の遺志を尊重するため相続においては遺言が法定相続に優先します。
例えば法定相続では、複数人の子がいた場合、その子どもたちの間で均等に遺産を分けないといけません。
しかし、遺言を残しておくことで特定の子に多めに遺産を分けるなど故人の遺志に沿った相続が可能になります。
また、遺言によって法定相続人以外、例えば息子の配偶者等にも遺産を分けることも可能になります。
さて、ここまでざっくりと相続のことを話してきましたが、遺産を渡したい相手に未成年がいる場合は注意しなければなりません。
実は未成年者に財産を残したい場合は、遺言を残しておくことが特に有効です。
今日は相続人に未成年者がいる場合の相続手続きについて、注意点と遺言書の必要性を解説します。
目次
未成年が相続人になる場合の注意点
先ほど述べたとおり、遺言がないまま相続が開始されると法定相続に移行します。
この場合は、すべての相続人参加が原則の遺産分割協議を開き分割案につき合意に至らないといけません。
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そしてこの遺産分割協議は法律行為なので、未成年は参加することができないのです。
ここで民法第5条をみてみましょう、
民法第5条
1.未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない
2.前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3.第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
1項に書いてある通り未成年者は自分が遺産分割協議に参加できないので、法定代理人の同意を得る必要があります。
ここでは法定代理人とは基本的に親のこととなります。
相続人の中に未成年の子がいるような場合、次の2つのポイントを覚えておく必要があります。
- 親は遺産分割協議書で子どもの法定代理人になれない場合がある
- 特別代理人を選出する必要がある
親は遺産分割協議書で子どもの法定代理人になれない場合がある
親と未成年の子の間で利益が相反する場合は、親が法定代理人になれないのです。
例えば父が亡くなって相続人が妻と子の2人という場合で考えてみます。
妻が子の法定代理人をつとめたとすると妻一人ですべてを決めてしまうことになります。
子は未成年なのでどうせ妻が養うのだから問題はないのではと思うかもしれませんが、可能性として子の財産が侵害されるケースも否定できません。
法律上、相続人が妻と子の場合はそれぞれ財産の2分の1ずつもらう権利があるので、実の母と言えども子の2分の1の財産を自分のものにはできないのです。
このような親と未成年の子の間で利益が相反するケースでは、親は遺産分割協議書で子どもの法定代理人になれません。
特別代理人を選任してもらう必要がある
そこで、このように相続人に未成年がいて親が法定代理人になれない場合は、遺産分割協議を有効に成立させるために家庭裁判所に申し立てて特別代理人を選任してもらうことになります。
特別代理人とは、子どもの代理人となって代わりに相続の話し合いに参加する人で、このような状況下では有効な遺産分割協議書をつくるために必要な存在です。
この特別代理人を選任する申し立ては親権者及び利害関係人が申し立てることができます。
遺言書で未成年の相続を円滑に手続きできたケース
親と未成年の子の間で利益が相反するケースでは、家庭裁判所へ特別代理人の候補として親族や士業専門家を推薦し、その推薦された候補者が適切かどうかを家庭裁判所が判断します。
ただこの家庭裁判所に判断を仰ぐための書類も遺族が準備しないといけないなど、特別代理人選定の申請はなかなか負担が重いのです。
なにより先ほどの例のように、夫の死に悲しみにくれている中、家族の財産を妻と子で引き継ぐという「身内の話」にわざわざ外部の特別代理人を申請しないといけないというのはなにか釈然としない方も多いのではないでしょうか。
ここで仮に夫が遺言を残していてその中で「妻に全部相続させる」と指定していれば、未成年者である子供と遺産分割協議しなければならないという状況を回避できます。
遺言は故人のラストメッセージでもあるので、法による法定相続よりも遺言が優先されるのです。
先ほどは夫に先立たれた妻と子のケースを紹介し、遺言があればスムーズに妻に単独相続できることを説明しましたが、遺言書で未成年の相続を円滑に手続きできたケースを紹介します。
未成年が代襲相続人になる遺言
(妻の視点から見て)夫は既に亡くなっており、今回その夫の父、つまり義父が亡くなり未成年の子(義父からすると孫)3人が遺産を相続するケース。
―>遺言は世代を超えて孫の代にまで役に立つ
この相続は夫側の相続なので妻は義父の相続人ではないこと、また子供たちが3人とも未成年であるという点がポイントとなります。
妻は相続人ではないので、子との利害関係は相反せず子の代理人になれます。
しかし、代理人となれるのは3人の子のうち1人だけだと民法に決まりがあります。
なので残りの2人の子の為にそれぞれ特別代理人を家庭裁判所に申請しなければなりません。
もし義父が遺言を残してくれていて、その中で自分の孫3人に遺産を相続させる旨を述べていればこのような遺産分割協議と特別代理人の手続きは必要ありません。
離婚後の親権者が死亡し未成年が相続する
離婚をし、未成年の子の親権を取得したケース
―>自分に何かあっても、別れた配偶者に親権を渡さず信頼できる自分の家族に子を任せられる
2019年の時点で日本の離婚率は35%となっており、離婚を経験し親権を得て子供を引き取る方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな中、ふと自分に何かあったときにこの子はどうなるのだろうか、とお考えになることがあろうかと思います。
未成年者の親権者が亡くなった場合は親権者が不在となりますので、未成年の子については未成年後見が開始します(民法第838条第1号)。この未成年後見人とは未成年者の法定代理人であり、未成年者の監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行います。
裏を返せば、自分に何かあった時、子である未成年者の銀行手続きに祖父や祖母が行っても、未成年者の財産管理は未成年後見人が行うので受け付けてもらえないのです。
未成年後見人は遺言で指定する方法と、家庭裁判所に選任を請求する方法の2種類あります。
事情があり前の配偶者に親権を渡したくない、という方も多いでしょう。
遺言がないと前の配偶者も親権者変更の申し立てができるので裁判所が前の配偶者に親権を渡してしまう可能性があります。
遺言で自分の親や兄弟姉妹など安心して任せられる人に未成年後見人を指定しておけば、子供を守る意味でもより安心です。
未成年者への相続は遺言書作成が重要
遺言をうまく使うことで残された家族への負担を減らすことができ、特に未成年がいるときは有効に作用します。特別代理人を申請する手続きを排除できたり、また親権を信頼できる家族に渡すことで子の安心を図ることができます。
これを機に皆さまの身の回りを鑑みていただき、遺言の活用を検討されては如何でしょうか。
長岡行政書士事務所では遺言をはじめ各種相続のご相談を承っております。
皆様に寄り添って、一緒に答えを探していけたら幸いです。