よくドラマやテレビなどで観る「遺言書」。この遺言書の内容についても色々と書き方があります。例えば、相続人に財産を渡す時に使う「相続させる」や相続人以外の受遺者に渡す「遺贈する」などがあります。今回はこの受遺者に渡す場合、受遺者の情報をどこまで書くかについて「短編小説風」に解説していきます。遺言書の受遺者の情報の書き方について分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
世の中には時間をさかのぼるという奇妙な体験をする人がいるという。
そう、タイムリープ。時間を飛び越えるということだ。都市伝説界隈でも話題になりやすいこの手の話…嫌いではないが、本当に自分がタイムリープするとなったら話は別だ。
白状すると、私は10年後の未来からやってきた。
父は数年後に遺言書を書いて死ぬのだが、財産を受け取るべき受遺者である私への記述が不正確だったあまりに、ちょっとした混乱が生じてしまったからだ。
だから、私は父に、正しく遺言書を書いてもらう…時をさかのぼって、帰ってきたというわけだ。
信じるか信じないかはお任せする。実際、対面した父と現時点での「わたし」は、未来から来た「私」の姿に、腰を抜かさんばかりに驚いた。
これは、そんなタイムリーパーの体験した、奇妙な出来事の記述である。
目次
遺言書の受遺者と法定相続人
大切な財産を未来に託す遺言書には、財産を受け取る方を書き遺すことが可能です。財産を受け取る受遺者について、正しく遺言書の中に記載していくようにしましょう。
未来の私「……というわけで、昭和のギャグマンガレベルに驚いてひっくりかえってるが大丈夫か?」
父「まだ信じられんが、そのアホ面は間違いなくワシの息子…」
現在のわたし「おい、それ俺にも失礼だぞ」
未来の私「受遺者として正しく書いてくれていなかったら、相続人との間で将来困るんだよ。『現在のわたし』も、そんなネガティブな予言は嫌だろ」
現在のわたし「予言というか、今のままだと絶対そうなるってことじゃん! ノストラダムスより精度ありすぎの予言じゃん!」
父「まあ話は分かった。要するに書き方を間違えず、ちゃんとやれってことだろ。聞くから、最初から説明をしてくれんか? そもそも受遺者ってなんなんだ?」
受遺者とは遺言書で遺贈される人
財産を相続人以外(相続人も可)に遺贈する場合、遺贈された財産を受け取る方を「受遺者」と言います。
未来の私「受遺者には2種類あってな。こんな感じだ」
特定受遺者…遺贈する遺贈者が、あらかじめ財産を特定した上で遺贈を行う相手。特定された財産以外は受け取れない。
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包括受遺者…相続財産の全て、あるいは相続財産を割合化した一部を受け取る相手。ラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含まれる。
合わせて読みたい:包括遺贈とは?特定遺贈との違いと包括受遺者の権利義務について行政書士が解説!
現在のわたし「なるほど。特定受遺者には例えば家だけとか車だけとか指定できる、包括受遺者は丸ごと全部だけど借金とかがあればそれも含まれるわけだな」
受遺者と法定相続人の違い
父「借金はないから安心しろ。でもな、これ法定相続人とどう違うんだ?」
未来の私「受遺者は相続人じゃないこともあるから、受遺者としての立場で先に亡くなっている場合に代襲相続が発生しないんだよ。それに受遺者以外に相続人がいる場合、相続放棄があったとしても受け取れる財産が加算されたりもしない。他のこまかいところはこんな感じだ」
- 法人による相続財産の受取:受遺者にはあるが、法定相続人にはない
- 財産の放棄:受遺者も法定相続人も、ともにできる
- 遺産分割協議への参加:受遺者は包括受遺者のみ参加が必要、法定相続人は参加が必要
現在のわたし「なあ、法人による相続財産の受取について、受遺者は「あり」となってるが、団体も受遺者になれるのか?」
未来の私「法定相続人は血族関係(法定血族含む)や被相続人の配偶者しかなれないけど、遺言書に記載すれば団体などが受遺者になることもできる。例えば、個人である相続人へは不動産、団体である法人(受遺者)に現金を受遺させるとかな」
受遺者の情報を正しく遺言書に記載する方法
遺言書に受遺者の情報を詳しく記載するには、実際にどのように記載すれば良いのでしょうか。
未来の私「ここからが特に重要なんだが、受遺者のことを遺言書に書くときには、絶対に『相続させる』とは書かないでくれよ。『遺贈する』としてほしいんだ。相続人と遺贈を混在させるなら、なおさら明確に分けなきゃいけないぞ!一応書き方はこういう風に書いてくれよな」
遺言書に受遺者を記載する際の具体例
遺 言 書 遺言者 長岡太郎は、次の通り遺言する。 第一条 遺言者は長男長岡次郎(平成○○年○○月○○日生)に現金3,000万円を遺贈する。 第二条 遺言者は第1条に記載した財産を除く、一切の財産を私の配偶者長岡花子に相続させる。 第三条 遺言者は、この遺言の執行者として次の者を指定する。 行政書士 長岡 真也(昭和59年12月8日) 日付 ○年○月○日 氏名 長岡 太郎 印 |
※区別するために「遺贈」と「相続」を色分けしました
現在のわたし「なあ親父。団体へ財産を遺贈させたい気持ちはあるのか?」
父「お世話になった介護施設へのお礼はしたいなあ」
未来の私「団体へ遺贈させたい場合には、正しい団体名と住所を記載し、遺言執行者を指定しておいてほしい。そのときには『遺留分』に注意してな。遺留分に考慮しない遺贈をしてしまうと、俺たち相続人との間でトラブルになるかもしれない」
現在のわたし「そりゃ困る。なあ、ほかにトラブルってどんなのがあるんだ?」
遺言書で受遺者を指定する際の注意点
大切な財産を託す場合には、受遺者を指定する際にトラブルが起こらないような配慮が必要です。
未来の私「例えば、受遺者が遺産分割トラブルに巻き込まれる場合だな」
現在のわたし「なんかドラマみたいな話だな」
未来の私「特に包括受遺者に指定する場合には、遺言内容によっては遺産分割協議に参加する可能性もある(相続人がいないなどのケースでは不要)。遺留分に配慮が無い場合には、遺留分の侵害を受けた相続人が訴えを起こしてくる可能性があるんだ」
父「なるほどな。お前らをそういう厄介ごとに巻き込むわけにはいかんな…」
未来の私「さっき親父は借金はないと言っていたが、包括受遺者がマイナスの財産を受け取るとき、財産の全てを放棄する可能性もある。ほかにも遺言で不動産を遺贈する場合には、登記手続きが通常の相続よりも複雑になる」
父「つまり?」
未来の私「相続人以外への遺贈の場合、遺言執行者が居なければ、遺贈による不動産の登記の申請に、「相続人全員の同意」を得る必要がある。負担の大きい不動産そのものの遺贈が本当に望ましいのか、まじめに考えないといけないよな」
遺言書で遺贈する時は行政書士などの専門家へ相談を
現在のわたし「そうだよな…。なあ親父。将来の俺もこう言ってんだ。ちゃんと専門家に相談しとかねえか? 俺の経営するカフェによく来る長岡さんって行政書士さんがいんだけど、聞いてみようぜ」
父「そうだな。で、未来のお前は、どうやって未来に帰るんだ?」
未来の私「…それも長岡さんが解決してくんねーかな」
父・現在のわたし「さすがに無理だろ」
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