「遺言書を書きたいのだけれど、どうすればよいのだろう」
「自筆証書遺言とはどのような遺言書なの」
「遺言書について詳しく知りたい」
上記のような疑問や悩みを抱えている方がいらっしゃるのではないでしょうか
遺言書と言っても、数種類あると聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは、3種類(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)の遺言書のうちの自筆証書遺言について基礎から詳しく解説いたします。
自分がどのような遺言書を作る必要があるかの参考にしていただければ幸いです。
では、一緒に見ていきましょうね。
目次
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、自分自身で書く遺言書のことです。
自筆証書遺言は、必ず自分自身で書く必要があり、代筆は許されません。
もし、仮に自分以外の人が代筆した場合は、その遺言自体が無効となりますので注意が必要です。
また、遺言書は民法という法律で定められています。
民法967条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
と定められていて、上記の3種類の遺言は、「普通方式」による遺言の種類と呼ばれいます。
つまり、自筆証書遺言は、普通方式の中の1つといえます。
次に、民法968条では、自筆証書遺言に関して定められおり、
以下条文を記載いたします。1つずつ見ていきましょう。
民法968条1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
とされており、民法に定められた要件を満たさなければ有効な遺言書として認められません。
つまり、自筆証書遺言とは、簡単に言えば全文(財産目録を除く)を自書で書く遺言書といえますが、その他にも、方式や要件(必要な条件)を満たす必要があるので注意が必要です。
次に、財産目録について記載がある、民法968条2項についてみていきましょう。
民法968条2項 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
と定められています。
以前は全文自書でなければ自筆証書遺言を作ることができませんでしたが、2019年の民法改正の際、新たに2項の規定が出来たため財産目録については、自書が不要になりました。
次に、自筆証書遺言の訂正が書いてある、民法968条3項をみていきましょう。
民法968条3項 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
と加除その他の変更について定められています。
3項に関しては、後ほど自筆証書遺言の要件⑤で記載致しますので、ここでは割愛させて頂きます。
この条文は2019年に改正された、新しいものです。
ここで、2019年に民法が改正されましたがその際の自筆証書遺言に関する改正はどの様なものであったか、おさらいをし、振り返ってみましょう。
まず、1つ目は、パソコン入力した財産目録を添付出来る様になりました。(上記条文の968条2項)
次に、2つ目は、法務局で、遺言書を保管できるようになりました。
最後に、3つ目は、法務局に保管されている遺言書は、家庭裁判所での検認は不要です。
検認とは、相続人に対して遺言の内容およびその内容を知らせるとともに検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための一種の検証手続きおよび証拠保全手続きのことです。
なお、法務局に保管されている遺言書は紛失・改ざんのリスクを避けることはできますが、遺言内容の有効性は保証されないことに注意が必要です。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言の保管方法を行政書士が解説!
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自筆証書遺言に必要な5つの要件
まず、自筆証書遺言が有効な遺言として成立するためには、5つの要件を満たす必要があります。
- 全文を自書すること
- 日付を自書すること
- 氏名を自書すること
- 遺言書へ押印すること
- 加除その他変更の方法について
以上のような、要件を全て満たす必要があります。自筆証書遺言を作成する際には、以上のような要件をご確認の上、作成することをお勧め致します。
それぞれについて詳しくみていきましょう。
全文を自書すること
自筆証書遺言1つ目の要件は、全文を自書することです。
自筆証書遺言を作成するには、遺言者は原則として遺言書の全文を自書しなければなりません。
すなわち、全てを自書する必要があり、一部でも他人が書いた場合には、その遺言書は無効になります。
自書が要件とされるのは、「筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保証できるから」であるとされています(最判昭62・10・8民集41巻7号1471頁)
つまり、筆跡によって、本人が書いたものと判断でき、自書自体で遺言者の真意が確認できるからというのが、自筆に関しての要件といえます。
では、全文の自書とは、どの様なことでしょうか?
遺言者は、原則として遺言書の全文、日付、氏名を自書しなければなりません。
自筆証書遺言の全文とは、遺言書の実質的内容である遺言事項を書き表した部分の事であり、言い換えれば本文であるとされています。
つまり、本文を全て自書する必要があります。
さて、他人の代筆による遺言書は遺言としての効力をもつのでしょうか?
その点、「遺言者自身の依頼によって行われたり、遺言者が口述するのを逐次筆記したというときであっても」遺言としての効力は生じないとされています。(遺言執行者の実務;発行民事法研究会30頁)
最近では、パソコンを使用した文字も多く使われていますが、自筆証書遺言は「自書」である必要があるので、パソコンで作成した、遺言書は自筆証書遺言としては認められません(財産目録は除く)。
また、カーボン複写は「自筆」として認められるのでしょうか?例えば、過去の判例では、カーボン複写は自書と認められています。
カーボン複写の方法によって記載された自筆の遺言は、民法九六八条一項にいう「自書」の要件に欠けるものではない。出典;裁判所ウェブサイト(平成5年10月19日最高裁判所第三小法廷)
として自書とみとめた例があります。
日付を自書すること
次に自筆証書遺言2つ目の要件「日付を自書すること」をみていきましょう。
自筆証書遺言では、証人も立会人もいない為、日付の自書は不可欠になります。
日付の「自書」が必要なので、日付印などを使用したものは無効です。
日付の記載が要求されるのは、遺言の成立の時期を明確にするためです。
また、日付の自書は、遺言作成時に作成者が遺言を作成する能力があったのかを判定するので、必要です。
では、日付を「吉日」と記載した場合はどうでしょうか?
例えば、日付を「昭和○○年○月吉日」と記載した自筆証書遺言が有効かという裁判例を見ると、暦上の特定の日を表示するものとはいえないから無効である(最判昭54・5・31民集33巻4号445頁)とされました。
次に日付の記載についてみていきましょう。
例えば、自筆証書遺言の年月日のうち、年月の記載はあるが日の記載がないときは、日付を欠いていることになり、その遺言は無効である(最判昭52・11・29家月30巻4号100頁)という裁判例もあります。
このようなことから、日付の自書の際はきちんと年月日まで記載する必要がありますが、日付は暦日で示されていなくても、例えば遺言者自身の「還暦の日」であるとか「70歳の誕生日」など、日の特定の出来る記載であれば有効になります。
氏名を自書すること
自筆証書遺言3つめの要件は、「氏名を自書すること」とあります。
氏名の自書が要求されるのは、誰の遺言なのかを明らかにするためです。
氏名は、遺言者が誰であるかについて疑いのない程度の表示があれば足りるとされています。
したがって、この氏名は、戸籍上の氏名である必要はありません。
それでは、ペンネームで遺言書を書いてもいいのでしょうか?
この点は、通称やペンネームでもよいとされています。
ただし、本人と識別できることが必要です。(尚、法務局保管制度を使用する場合には、通称、ペンネームは不可。)
また、財産目録を作成する際には、署名の自書が必要なのでしょうか?
この点については、本文を自書し、財産目録を添付する方式では、目録自体の自書は不要ですが、目録の各頁(目録が両面である場合には両面)への署名が必要です。
遺言書へ押印すること
自筆証書遺言4つめの要件は、「押印」です。
遺言者は、遺言書に押印をしなければなりません。
ちなみに、印は印鑑登録した実印に限らず、認印や指印でもよいとされています(最判平元・2・16民集43巻2号45頁)。
また、遺言への押印が必要とされる理由として、
A;遺言の全文等の自書と相まって遺言者の同一性および真意を確保すること
B:重要な文章については作成者が署名したうえ、その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することがあげられます。
(最判平元・2・16民集43巻2号45頁)。
加除その他変更の方法について
自筆証書遺言の5つ目の要件は「加除その他変更の方法について」です。
遺言書への加除や訂正は可能なのでしょうか?
遺言書の加除・訂正(変更)は可能ですが、遺言書に加除その他の変更を施す場合には、
遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつその変更箇所に押印しなければ変更の効力が認められない(民法968条3項)。
とされています。
つまり、訂正印を押して、欄外に訂正の内容や加えた文字、削除した文字等を記載して行います。
なお、この方式に則っていない訂正等は無効になりますが、遺言までは無効にはなりません。また、この加除訂正の方法は、自筆証書遺言の目録にも適用されます。
合わせて読みたい>>遺言の一部だけ修正できる?部分的な変更と全部撤回について行政書士が解説!
自筆証書遺言のメリット
次に自筆証書遺言はどのような特徴があるのか、自筆証書遺言のメリットについてみていきましょう。
- 他の方式に比べて作成が簡単である
- 遺言の内容やその存在を秘密にできる
- 費用がかからない
- 証人の立会いがいらない
などのメリットがあります。これをみると自筆証書遺言は比較的に簡単に作成できることが特徴ですね。
他の方式に比べて作成が簡単である
自筆証書遺言は、他の方式に比べて作成が簡単です。
思いついたその場で書くことも可能ですので、気軽に遺言作成できることはメリットといえるでしょう。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言書の正しい書き方|失敗例から注意点を学ぼう!
遺言の内容やその存在を秘密にできる
自筆証書遺言は、自分1人で作成できます。
そのため、他の誰にも遺言内容を知らせなくて構いません。
費用がかからない
自筆証書遺言は、紙とペン、ハンコがあれば作成できます。
公正証書遺言のような手数料がかからないこともメリットです。
証人の立会いがいらない
公正証書遺言は証人2名の立会いが必要ですから、気軽に作成する訳にはいきません。
その点、自筆証書遺言は、証人の立会いも不要です。
自筆証書遺言のデメリット
次に自筆証書遺言のマイナス点はあるのか、デメリットについてみていきましょう。
- 方式が厳格
- 遺言の変造、偽造、隠匿、紛失
- 自書が手間
- 検認が必要
それぞれのデメリットの詳細は次のとおりです
方式が厳格
自筆証書遺言は方式が厳格であり、方式に沿わない遺言は無効になるおそれがある。
遺言の変造、偽造、隠匿、紛失
変造、偽造、隠匿、紛失のおそれがあることも、自筆証書遺言のデメリットです(自筆証書遺言に関する遺言の保管制度を利用している場合を除く)
公正証書遺言と比べると、不安が残ります。
自書が手間
自書が手間となることも、自筆証書遺言のデメリットといえます。
相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録について、各葉に署名押印はいるものの、全文を自書することを要しません。
しかし、それ以外の部分については全文を自書する必要があります。
検認が必要
遺言書保管所に保管されていない自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認の手続きを経る必要があります。
そのため、遺言を執行するまで時間がかかることがあります。
自筆証書遺言の2つの方式
次に自筆証書遺言はどの様な方式があるのかについてみていきましょう。
自筆証書遺言は、次の2つの方式があります。
- 全文を自書する方法
- 自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する方法
全文を自書する方法
全文を自書する方法は、遺言をしようとする者が遺言書の全文、日付及び氏名を自筆で書いて(自書)押印する方式です。
自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する方法
自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する方法は、本文を自書し、自筆証書に一体のものとして、相続財産の全部または一部の目録を添付する方法があります。
財産の目録については自書でなくても構いません。
目録について、民法968条2項は、自書によらない財産目録について特段の方式を定めておらず、具体的には、遺言者またはその他の者が自筆やパソコンで作成した財産目録、預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書等を添付することができます。
自筆証書遺言を作る流れ
それでは、自筆証書遺言の実際の作成方法について記載していきます。
- 遺言書の内容を検討する
- 必要な登記簿、戸籍及び住民票などを取得する
- 上記資料を見ながら、内容に応じて遺言書の下書きを作成する
- 下書きを見ながら遺言書の全文を自書する
- 作成後、遺言書を金庫やわかるところに保管する(又は、法務局の保管制度を利用する)
自筆証書遺言・財産目録の文章例
- 遺言書本文(全て自書しなければならないものとする。)
遺言書 遺言者佐藤 太郎は以下に示す遺言を定める。 第1条 遺言者の別紙目録記載第1不動産を、長男佐藤一郎(令和○年○月〇日生)に相続させる。 第2条 遺言者の所有する別紙目録記載第2預貯金を、次の者に遺贈する。 住 所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目番地〇 氏 名 鈴木 花子 生年月日 昭和〇〇年〇月〇日 第3条 遺言者は、上記1条及び2条の記載の財産以外の預貯金、有価証券その他一切の財産を、妻佐藤花子(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。 第4条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。 住 所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地〇 職 業 行政書士 氏 名 甲野 太郎 生年月日 昭和〇年〇月〇日
令和2年2月22日 住所 神奈川県〇〇市〇〇区〇丁目〇番地〇 名前 佐 藤 太 郎 印 |
上記が遺言書の見本例です。ご参考にしてみてください。
なお、下記が財産目録の見本例です。
- 別紙目録(署名部分以外は自書でなくてもよいものとする)
財 産 目 録 第1不動産 1 土地 所 在/神奈川県〇〇市〇〇区〇丁目〇番地〇 地 番/〇番〇 地 目/宅地 地 積/〇〇平方メートル
2 建物 所 在/神奈川県〇〇市〇〇区〇丁目〇番地〇 家屋番号/〇番〇 構 造/鉄筋コンクリート造2階建 種類 / 居宅 床面積/1階 〇〇平方メートル 2階 〇〇平方メートル 第2 預貯金 1.〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇 2.△△銀行□□支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇 第3 自動車 1.横浜〇〇 あ12-34 車体番号 〇〇〇〇 2.横浜〇〇 い12-34 車体番号 〇〇〇〇
佐 藤 太 郎 印 |
出典;法務省ホームページ「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」
自筆証書遺言を作成する場合の注意点について
自筆証書遺言を作成する場合の注意点としては、次の2つが挙げられます。
- 自筆証書遺言の要件を守る
- 失くさないよう保管する
自筆証書遺言の要件を守る
自筆証書遺言の要件は、民法で厳格に定められており、要件を1つでも満たしていないと無効になりますので、作成する際は、要件を理解し作成する点に注意が必要です。
失くさないよう保管する
自筆証書遺言を失くさないよう保管することも重要です。
自筆証書遺言の保管方法は、次の3つが考えられます。
- 自宅で保管する
- 誰かに預ける
- 法務局の保管制度を利用する
まずは、自宅で保管する方法です。自宅で保管するには自宅のどこに保管するかも大事です。
遺言者の死後、遺言書が発見されなければ、せっかくの遺言書の遺言者の意思が実現されず、残念ですので、
信頼のおける誰かに遺言書の場所と存在を伝えておくのもよいでしょう。
遺言書を誰かに預ける方法もあるでしょう。
この場合、例えば親族などに預ける場合には、紛失、隠蔽などが起こらないように、信頼のおける人物を選ぶ必要があります。
専門家(弁護士・行政書士)などに預ける場合は、貸金庫などで保管してくれるケースが多いので、安心といえます。
また依頼する専門家には様々な専門家がいるので、自分と相性のあった、専門家に依頼することをお勧めします。
自宅で保管する、誰かに預ける以外の方法は、法務局の保管制度を利用する方法です。
紛失や改ざんのリスクがなく安心ですが、法務省令で定める遺言書の様式を満たす必要があります。
また、事前に申請が必要です。保管申請には事前の予約が必要とされており、電話や窓口予約のほか、
インターネットからも法務局手続き案内予約サービスにアクセスして予約を行うことが可能です。
自筆証書遺言はメリット・デメリットも理解し要件を守り作成しよう
今回のコラムでは、自筆証書遺言について、解説してまいりました。
自筆証書遺言は、手軽に作成しやすい一方で要件を満たさなければ、無効になるリスクがあります。遺言者は、作成した遺言書が無効にならないように要件を理解しておくことが大事です。
長岡行政書士事務所では、遺言作成や相続について親切・丁寧な対応を心がけておりますので、相続や遺言書の作成に悩みや不安などがある方は、ぜひ一度長岡行政書士事務所にご相談ください