「とても思い入れのある車なので、ぜひ長男に相続してほしい。遺言書にどのように記載すれば自動車を相続させられるのか?」
「父の車について相続人として指定された。手続きはどのようにしたら良いの?」
「父が車を残したまま亡くなった。そのまま使用するか手放すか悩んでいる。どのような方法があるの?また、それぞれ手続きに違いはあるの?」
自動車は大切な資産の一つであり、お亡くなりになった後も大切にしてほしいとお考えの方もいらっしゃると思います。
ただ、相続による自動車の名義変更などは一般的な自動車の名義変更よりも少々複雑になっています。
今回は自動車を相続してもらうための『遺言書の書き方』と、自動車の『相続の手続き方法』について必要書類や注意点などについても併せて解説していきたいと思います。
目次
遺言書で自動車を相続させる書き方
まず、自動車の相続にあたってご本人様ができる対策として、遺言書によって相続人を指定することが挙げられます。
遺言書により相続人を指定する事は、
- ご本人にとっては「この人に相続してほしい!」と思った人に受け継いでもらうことができる。
- 残された相続人にとっては遺産分割の話し合いを省くことも可能。
このようなメリットがあります。
ここからは、遺言書で自動車を相続させる書き方について紹介します。
まずは遺言書の書き方を見ていきましょう。
<遺言書 例>
遺言書
遺言者、〇〇は次の通り遺言する。
第1条 遺言者は下記の自動車を長男A(生年月日)に相続させる。
記
登録番号 横浜〇〇 て〇〇 種 別 普通 用 途 家庭用 車 名 BMW 型 式 〇〇〇〇 車体番号 〇〇〇〇〇〇
令和〇年〇月〇〇日 神奈川県横浜市港南区港南○丁目○番◯号 遺言者 氏名 印 |
自動車を遺言書に記載する注意点
遺言書に自動車について記載する際は、以下の3点に注意してください。
- 第○条と記載し、一つずつ記載する。
- 『長男A(生年月日)』、自動車の『登録番号』、『車体番号』といったように、誰に・何を相続させたいと明確にわかるようにする。
- 遺言書を作成した日付、氏名、押印を忘れない。
誰に・何を相続させたいか明確にわかるように記載しておかないと、違う人に別の物が相続されてしまう等、ご本人の意思とは違う結果になりかねません。
例えば、『娘に・・・』と記載していたとしても娘さんがお二人いた場合、ご本人がどちらに相続してほしいのかが分からず、相続人間の話し合いで決定される可能性もあります。
また、遺言書を作成した日付、氏名、押印については遺言書が成立するための要件です。
これらの記載漏れがある場合には、遺言書と認めてもらえない可能性があります。
せっかく、たくさんの思いを込めて作成した遺言書です。
ご本人の意思に則った相続が成立するために以上の点にご注意ください。
合わせて読みたい>>自筆証書遺言とは?5つの要件やメリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!
合わせて読みたい>>公正証書遺言とは?要件や注意点・メリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!
自動車の相続手続きの流れ
では次に、自動車を相続した場合に必要となる手続きを見ていきましょう。
まずはおおまかな手続きの流れを確認しておきたいと思います。
自動車の相続手続きの流れ <step 1> 自動車の名義人を確認する <step 2> 自動車の相続人を確認する <step 3> 自動車の相続に必要な書類を用意する <step 4> 運輸局で名義変更手続きをする |
では、おおまかな流れを確認したところで相続手続きの具体的な内容を見ていきましょう。
自動車の名義人を確認する
自動車の名義人とは、現在の自動車の所有者のことです。
名義人は、車検証の『所有者の氏名又は名称』の欄に記載されています。
車検証は自動車に備え付けておくことが義務付けられていますので車内を探してみると良いでしょう。
なお、車検証が見つからない場合、運輸局で『登録事項等証明書』を発行してもらうと、名義人等を確認することができます。
名義人が被相続人ではない場合、次のように対応します。
自動車の名義人がリース会社
故人が乗っていた自動車があっても名義人がリース会社である場合には、リース会社との契約を更新する必要があります。
リース会社に確認をしてみましょう。
名義人が信販会社やディーラーの場合
該当の自動車をローンで購入しているような場合、名義人が信販会社やディーラーになっている可能性があり、相続人がローンを返済することになります。
ローンを完済しなければ所有権を解除することができず、名義を相続人に移すことはできません。
自動車の相続人を確認する
遺言書に相続人が記載してある場合、その相続人が相続をします。
まずは遺言書を確認してみましょう。
遺言書に記載がない場合、一般的には相続人全員で遺産分割協議が必要となります。
合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
その遺産分割協議の中で自動車を誰が引き継ぐのかを決めることになります。
なお、遺言書がない場合には、遺産分割協議などの手続きが終わるまでは、その自動車は相続人全員の共有となります。
誰か一人が相続するという形にはせず、そのまま全員の共有名義として残すことも可能です。
自動車の相続に必要な書類を準備する
自動車を誰が相続するか決定したら、運輸局で名義変更の手続きをすることになります。
その際、戸籍謄本や車庫証明等が必要となりますので、事前に必要書類を用意しておきましょう。
たとえば車庫証明は、申請から発行まで数日必要となります。
警察署で必要事項を記載し、車庫証明を申請しましょう。
<申請先> |
|
<必要書類> |
|
<発行に必要な期間> |
|
また、名義変更は、『相続人が複数いる場合』・『単独で相続する場合』等、自動車の種類によっても必要となる書類が異なりますのでご注意ください。
相続人が一人だけでその人が相続する場合
<必要書類> |
|
複数の相続人のうち一人だけが相続する場合
<必要書類> |
|
複数の相続人で共有して相続する場合
<必要書類> |
|
さらに、相続による車の名義変更手続きで、書類を揃える際に見落としがちな注意点があります。
見落としたまま運輸局へ出向いてしまうと、書類不備として出直すことになりかねません。
事前にしっかりと確認をしておきましょう。
○例
相続人の姓名に変更があった場合
相続人の姓名が婚姻などにより変更されていると、必要書類が追加となる場合があります。
例えば、被相続人の戸籍の全部事項証明書を発行して家族構成の証明とした場合、婚姻のために本籍を移し、除籍していた場合には姓名が変更されたという履歴が記載されず旧姓のまま記載されているというような場合があります。
婚姻などの理由で姓名が変更されているような場合、遺言書や遺産分協議書に記載されている姓名とは異なるため、別途姓名の変更履歴が確認できる書類(戸籍謄本あるいは姓名の変更が記載された住民票等)が必要となります。
運輸局で自動車の名義変更手続きをする
名義変更の手続きは、『そのまま利用する場合』あるいは『売却する場合』いずれの場合も、例外を除いて必要な手続きとなります。
必要書類が揃ったら、運輸支局で名義変更手続きを行います。(運輸支局とは旧陸運局のことです。現在は陸運局と海運局が統合され、運輸支局となっています。)
申請先は、ご自身が自動車を使用する住所の管轄である運輸支局に行う必要があります。
下記『全国運輸支局等のご案内』よりご確認ください。
<運輸局で取得する書類> |
|
印紙の販売窓口で名義変更の登録手数料を支払い、印紙を購入したら『手数料納付書』に添付します。
あらかじめ揃えた書類と手数料納付書、自動車税・自動車取得税申告書、申請書を窓口に提出し、不備がなければ新しい車検証が交付され、名義変更手続きが完了です。
なお、車検切れの自動車は手続きができません。
車検の期限にはご注意ください。
手続きについては、運輸支局の窓口で案内してもらえますから、特段心配なさることはないと思いますのでご安心ください。
ただ、運輸支局は平日の限られた時間しか営業していません。
行くのが難しい方は行政書士等に依頼することも検討されてはいかがでしょうか。
その場合には『委任状』をご用意いただく必要があります。
相続した自動車が軽自動車だった場合、手続きをする機関が異なります。
なお、相続した自動車が軽自動車だった場合は手続きをする機関が異なり、軽自動車検査協会に書類を提出します。
普通自動車とは異なり、遺産分割協議分協議書などを添付する必要がありません。
したがって、普通自動車よりも簡単に名義変更を行うことができます。
○軽自動車の名義変更の際、一般的に必要な書類
<必要書類> |
|
※以下のHP、又は窓口で入手可能です。
参考:軽自動車検査協会 HP
相続した自動車の名義変更をしない場合のトラブル
親族がお亡くなりになって、車を譲り受けた家族が名義変更をしないまま車を使用している場合、後に面倒なトラブルが発生しやすくなります。
- 売却・廃車にできない
- 余計な手間がかかる
このようなトラブルに見舞われないためにも、相続した自動車の名義変更は早めに対応しましょう。
売却・廃車にできない
自動車を売却や廃車をしたいと思った場合であっても、相続人に名義変更をしていないといずれもできません。
先延ばしにしていて数年後に車を売却・廃車使用と考えたときに急いで名義変更をしたとしても、すべての相続人の必要書類が揃わず、名義変更できないというトラブルは起こりやすいようです。
ただし、例外として名義変更をしなくても売却できる場合があります。
所有者が亡くなってからすぐに車の保管場所等の関係から早めの売却を予定されているのであれば、名義変更をせずに必要な書類を揃えることで売却することができます。
余計な手間がかかる
相続人が引越しで本籍地が遠くなってしまうと、本籍地でしか必要書類を揃えることができないこともあったりと、書類の取り寄せなどに手間がかかってしまうことがあります。
相続後に名義変更を怠ったことで多くのデメリットが発生します。
車の相続手続きで使用する書類は、銀行などの他の手続きで使用する書類と共通しているものが多いです。
同じタイミングで行うことによって、書類を収集する負担が小さくなります。
そのため、相続による車の名義変更は可能な限り早めに行うことをおすすめします。
相続した自動車の名義変更期限
相続した自動車は、15日以内に名義変更の申請をする必要があります。
名義変更をしない場合のトラブルについてご紹介いたしましたが、そんなトラブル絶対起こらないから大丈夫!と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ただ、自動車の相続手続きは道路運送車両法第13条において義務とされています。
道路運送車両法 第13条
新規登録を受けた自動車について所有者の変更があったときは、新所有者は、その事由があった日から十五日以内に、国土交通大臣の行う移転登録の申請をしなければならない。
義務とされてはいますが、相続手続きを怠った結果として罰せられることは一般的ではないように思われます。
ただし、『所有者に変更があったときは、15日以内に名義変更をすることが義務である』と法律で規定されているということには留意しましょう。
時価100万円以下の自動車は相続手続きを省略できる
相続する自動車の時価が100万円以下の場合、遺産分協議書に代えて『遺産分協議成立申立書』という簡易な書類で手続きができます。
『確認できる査定書』又は『査定価格を確認できる資料の写し』等を添付する必要があります。
自動車の時価が100万円以下の場合、実際に遺産分協議書に記載がなくとも良いことや、代表者1名で名義変更の手続きを行うことが可能です。
遺産分割協議書の作成には多くのケースで時間がかかります。
遺産分割協議成立申立書は、代表者1名の印鑑証明の添付と比較的簡易な書類で手続きが可能です。
そのため、簡易かつ迅速に車両の処分や売却が可能となります。
相続によって自動車の新しい所有者になった後の手続き
ここからは、相続した車を今後どのようにしていきたいかによってするべきことが異なります。
- 相続した自動車に乗り続ける場合
- 相続した自動車を売却する場合
- 相続した自動車を第三者に譲渡する場合
- 廃車手続きをする場合
それぞれのパターンを見ていきたいと思います。
相続した自動車に乗り続ける場合
相続をした自動車に乗り続ける場合には、保険の引き継ぎ・変更が必要になります。
自動車の任意保険に関して、相続した自動車に乗り始める前に必ず引き継ぎ・変更を行いましょう。
自動車保険の被保険者が被相続人のままの場合、万が一事故が起きたらと考えると安心して車に乗れませんよね。
また、自賠責保険については、車両に付帯する保険で強制的に加入することが法律で定められていますので変更が必要です。
相続した自動車を売却する場合
相続した自動車を売却する場合、以下の2つの方法により売却することができます。
- 名義変更してから売却する方法
- 名義変更をせずに第三者に売却する方法
名義変更をしてから売却する場合
相続手続きを行い、名義を変更してから売却する方法です。
名義変更をする場合、必要書類と共に運輸支局で手続きを行なった後、売却手続きに移ることができます。
名義変更をせず第三者に売却する場合
相続人が必要な書類を揃えて、所有者を故人としたまま売却する方法です。
所有者が亡くなってからすぐに車の保管場所等の関係から早めの売却を予定されているのであれば、名義変更をせずに必要な書類を揃えることで売却することができます。
必要な書類は、相続人が単独なのか、複数なのかによって異なります。
<必要書類>
<普通自動車の場合> | <軽自動車の場合> |
|
|
被相続人がお亡くなりになった後すぐに売却をお考えの場合は自動車の販売店などに相談してみると良いでしょう。
相続した自動車を第三者に譲渡する場合
自動車を第三者に譲渡する場合、譲渡証明書を作成する必要があります。
譲渡手続きについても運輸支局で行うこととなります。
必要書類を揃えて、新しい所有者の近くの運輸支局で手続きを行うことができます。
廃車手続きをする場合
廃車にする場合も名義変更は必要となります。
必要書類を揃えて運輸支局で手続きをしましょう。
廃車手続きを大きく2つに分けられます。
①事故や災害で価値がなくなってしまった自動車を処分する場合
⇨ 永久抹消
②一時的に車の使用をやめ、自動車税の支払いを止める場合
⇨ 一時抹消
それぞれ必要書類が異なります。
運輸支局のHPでご確認ください。
自動車相続後の名義変更は行政書士に相談
<ポイント>
- 誰に相続してほしいと決まっている場合は遺言書に残すと良い。
- 遺言書は『誰に』、『何を』相続してほしいと明確にわかるように記載する。
- 自動車の相続はその後の使用方法によって手続きが違うため専門家へ相談すると安心。
自動車の相続は、通常時に自動車を取得する場合と異なる書類や手続きが必要となります。
運輸支局は平日の限られた時間しかやっていないことなど、手間もかかりますが、名義変更をしないまま放置しておくと後々困ったことが生じかねません。
自動車の名義変更は、預貯金の解約など、他の相続手続きと同じ書類で手続きができるものです。
できるだけ早めに手続きを行うことをおすすめします。
自動車の相続も長岡行政書士事務所でお待ちしております。