「遺言で遺言執行者に選任されていることを知り困惑しています」
「遺言執行者を一度は受諾したのだけど、やはり肩の荷が重すぎて代わってもらえないか」
「遺言執行者の復任権ってどういうことなのでしょうか」
・・・
遺言執行者と聞いてパッと思い当たる人は少ないかもしれませんね。
まずは遺言執行者とは何かの解説をし、もし遺言執行者に選任されている場合別の人に代わってもらうことは可能か、そして近年の法改正がどう影響したのかを論じます。
目次
まずは遺言執行者とは何かを理解
遺言は故人が生前に書面で作成しますが、遺言書に書いてある内容は実現しようとしても遺言が効力を生じる時点で遺言者はすでに死亡しているので、誰が遺言の内容を確実に具現化するのかが問題となります。
せっかく遺言を遺しても、自分の死後遺言内容が反故にされてしまうのでは遺言の意味がありません。
この、遺言の内容を遺言者本人に代わって実現する職務を行うのが遺言執行者です。
遺言執行者には強力な権利が与えらえるが、義務も生ずる
遺言の執行には様々な思惑や利害が交錯します。
遺言執行者がいちいち相続人や利害関係者から許可をとっていたのでは、職務が滞ってしまいます。
そのため、民法では遺言執行者に強い権限を与えています。
民法1012条
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
具体的な遺言執行の手続きとしては、遺言内容の確認や相続財産の保全管理など、遺言の内容に応じて単純なものから複雑なものまで多岐にわたります。
ただ手続きを粛々と進めるだけでなく、遺言により利益を受ける人と不利益を受ける人が出てきて納得が得られないような場合は、相続人同士の紛争に巻き込まれて遺言執行者が訴訟の原告や被告になったりする場合もあります。
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遺言執行者は相続人への通知義務がある
また、先の民法の条文で「一切の権利義務」と書いてある通り、遺言執行者に法律上いくつかの義務が発生します。
例えば、遺産の管理義務や、相続人への通知義務、財産目録調整義務などが挙げられます。
この法律上の義務を遺言執行者が怠り相続人に不利益を与えた場合には、相続人から賠償請求される可能性があります。
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遺言執行者を最初から受けないという選択肢もある
いかに強い権利を与えられても義務も発生するし、そもそも遺言執行手続きに詳しくないから、やっぱり遺言執行者になりたくないと考える方もいるかと思います。
実は遺言書で遺言執行者に選任されていたとしても、承諾しなければ辞退することができます。
後に説明しますが、一度引き受けてしまったあとの辞任に必要な「正当な事由」や「家庭裁判所の許可」は必要ありません。
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遺言執行者になることを引き受けてしまったら辞任や交代はできるのか?
引き受ける前であれば、たとえ遺言で選任されていても自分の意思表示で辞退することが可能という事は学びましたが、それでは一度引き受けてしまったらどうなるのでしょう。
復任権によって他の人に任せることが可能
遺言執行者の職務を包括的に他の人に委ねる権利のことを復任権と言います。
令和1年7月1の法改正前は「やむを得ない事由」がある場合に限って復任が可能でした。それが、改正後は「やむを得ない事由」がなくても、遺言執行者の責任・裁量で復任することができるようになりました。
民法の条文を見てみましょう。
民法1016条1項
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
この復任の際には他の相続人や受遺者の同意は不要です。
また、遺言執行者の職務のうち個々の行為だけを復任することも可能です。
例えば、預貯金の手続きだけ、登記手続きだけ、など個別の具体的な行為だけを第三者に委ねることができます。
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復任しても遺言執行者としての責任が免除されるわけではない
注意すべき点として、復任し第三者に職務を交代してもらっても、本人は依然として遺言執行者のままであることです。
そして、交代してもらった第三者の職務の行い方に非がある場合は、これを選んだ本人の責任を相続人から問われる可能性があります。
先ほどの民法1016条の2項を見てみましょう。
民法1016条2項
前条本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
このように、復任を行う時はしっかりとした専門家を選ぶことをお勧めします。
遺言執行者を辞任することもできるが理由が必要
それでは、一度引き受けた遺言執行者を辞任することは可能でしょうか?
結論から述べますと、一度遺言執行者への就任承諾をした以上は簡単にやめることはできません。
遺言執行者が辞任をするには、「正当な事由」が必要です。
民法1019条2項
遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
遺言執行者を辞任する正当事由
それでは、正当な事由とはどのようなものがあるのでしょうか。
個々に家庭裁判所が判断するので一概に言う事は難しいですが、一般論としては長期の病気や長期の出張、多忙な職務が正当な事由として認められる場合が多いです。
逆に正当な事由として認められないのは執行意欲の喪失、つまりやる気がなくなってしまうことですが、相続人間の調整が難航し「にっちもさっちもいかない状態」に陥ってしまった場合は正当な事由として積極的に見てめられる可能性もあるようです。
遺言執行者を辞任する際は家庭裁判所へ
この辞任の申し立ては相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行う必要があります。
家庭裁判所が調査し申立てを相当と認めれば、「辞任許可審判書」が出て辞任の手続き終了となります。
辞任が認められた場合、遺言執行者がいない状態になってしまいますので、必要であれば相続人その他の利害関係者は新たな遺言執行者の選任を家庭裁判所へ申し立てることができます。
民法1010条
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
遺言執行者へ就任の選択、就任した後も代わることは可能
遺言で遺言執行者に選任されていても、引き受ける前であれば辞退することができます。
また、一度遺言執行者を引き受けても、復任することで他の専門家等に任せることができますが遺言執行者の責任から解放されるわけではありません。復任以外にも正当な事由がある場合は辞任することも可能ですが、家庭裁判所に申し立てを行い認めてもらう必要があります。
遺言が発効されているということは、身近な方が亡くなってしまったという事です。
悲しみに暮れる間もなく、相続の手続きを進めなければいけない現実が待っています。
医者の様に日ごろから話ができるかかりつけの法律家を持ち、自身の遺言や仮に遺言執行者に選任されたらどうするか等の相談をすぐに行える環境を持つことは大切です。
長岡行政書士事務所は相続の経験が豊富であり、皆様に寄り添った相続をモットーとしております。
ご不明点や不安な点がありましたら、是非ご相談ください。