「認知症になった家族は相続を受けることができるのでしょうか」
「成年後見という言葉を聞いた事はあるのですが、具体的にどういうものかがわかりません」
「認知症になる前にやっておくべきことは何でしょうか」
・・・
認知症とは様々な原因により記憶や思考といった認知の機能が低下し、日常生活や社会生活に支障が出ている状態の事を指します。
そして、認知症になると単独で契約を結ぶといった法律行為ができなくなります。
では、家族に認知症になった人がいる場合、その人は相続を受けることができるのでしょうか?例えばですが、認知症の母がいる家族で父が亡くなった、というような場合です。
お金を受け取るだけなら認知症になってもできそうだけど、そもそもお金を受け取ったことがわからないのではないか・・・
相続するのが預貯金に比べて登記などを必要とする不動産だったらどうなるのだろう・・・
せっかく相続しても悪人に騙されてしまうのではないか・・・
このように、家族であればこその心配の種は尽きませんよね。
このコラムでは認知症になった家族が相続を受けられるのかどうか、そしてその場合の対処法について解説いたします。
目次
相続の大まかな流れを理解する
亡くなった方が遺言を遺してくれている場合は、基本的に相続の内容は遺言に従います。
例外として、財産を受け取る相続人全員が遺言とは別の分け方で合意した場合は遺言分割協議が優先しますし、また遺言とは別に法律で認められた遺留分という権利もありますので完全に遺言で相続の全てを決めることはできませんが、遺言は故人の最後の遺志として最も尊重されていると言えます。
そして、遺言がない場合は法律に則って遺産を分割する法定相続か、相続人全員が参加して遺産分割について話し合う遺産分割協議のどちらかを選ぶことになります。
ここでまず問題になるのは、認知症の家族は遺産分割協議に参加することができないことです。
合わせて読みたい:遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
認知症になると遺産分割協議に参加できない
遺産分割協議は相続人全員で合意する必要がありますが、相続人のうちひとりでも認知症などで判断能力が低下していると遺産分割協議自体に参加することはできません。
つまり、遺産分割協議を完了させることができなくなります。
これは認知症の家族本人以外の相続人にとっても大変不便なことです。
故人の遺産は凍結され原則的に銀行預金は降ろせなくなり不動産も処分できなくなっているので、葬式費用といった急に必要となった金銭も誰かが立て替える必要が生じてきます。
また、相続税の申告・納付期限は10カ月ですが、その期限までに遺産分割協議を終わらせないと相続税の申告・納付ができずペナルティが発生する可能性があります。
遺産分割協議を行うためには成年後見制度を利用するしかない
では、相続人に認知症の人がいると遺産分割協議はできなくなり、相続を進めることが不可能になるのでしょうか。
実は1つだけ方法があります。それは、成年後見制度を利用することです。
成年後見制度とは
成年後見制度は、一人で法律行為をすることが不安、もしくはできなくなった人の為に、家庭裁判所が成年後見人を選んで本人を保護してくれる制度です。
具体的には、この成年後見人が本人に代わって財産管理や重要な契約を行ってくれます。
仮に本人が騙されて契約してしまったりしてもその契約は無効となるので、本人の利益を守ることが可能です。
成年後見制度に関しては私が監修した書籍がありますので、よろしければ参考にしてみてください(成年後見制度がよくわかる本~長岡真也監修本出版のお知らせ~)
最初の例の通り認知症の母がいて父が亡くなった場合を考えると、父が亡くなる前から母の成年後見人が選任されている場合には相続発生後に成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することになります。
一方、成年後見制度を母の為にまだ使っておらず父の死後急いで遺産分割協議を進めるために母の成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てた場合、手続きには1~3カ月ほどかかってしまいます。
相続税申告の期限は10カ月であることを考えると、あまり時間的に余裕はありません。
なるべく早めに成年後見制度を利用するかの検討を始めるべきでしょう。
合わせて読みたい:成年被後見人になったら遺言書を作ることができるの?ポイントと対策も行政書士が紹介!
成年後見制度で注意すべき点
このように、成年後見制度は本人の利益を守るための公の制度ですが、注意すべき点も存在します。
親族以外が成年後見人に選ばれる可能性がある
成年後見人は本人の資産状況を把握したり、家庭内の事情も知る必要がある場合があります。
プライベートを考えると成年後見人に親族が選ばれてほしいと希望する方もいますが、ここ数年間の傾向では家庭裁判所によって成年後見人に選任される人は親族の割合は下がり、外部の弁護士や司法書士、行政書士といった専門家などの割合が増えています。
成年後見人に専門家が選ばれた場合でも人によっては親族と話し合いの姿勢をみせてくれたりする可能性はありますが、あくまでも成年後見人は本人の利益を守るべき存在なので親族の希望が通らない事があります。
例として、遺産分割協議において認知症の本人は高齢なのでもうお金も使わず、また十分に資産があるので子に多く残してほしいとの要望が他の相続人から出てきても、成年後見人は本人の利益を最優先で守るため法定相続分の遺産額を主張することになります。
本人が健在であれば子の為に多めに譲ってくれるのではと考えられる状況でも、成年後見人は職務としてそのような融通をきかせることはできないのです。
合わせて読みたい:委任契約、任意後見制度と遺言執行者とは?生前から死亡後まで安心の制度について解説!
成年後見人には報酬が発生する
専門家が後見人に選任されると報酬が発生します。
あくまでも目安ですが、月2万円から財産額によっては月5~6万円になることもあります
また、成年後見制度は原則として途中で中止することができないので、後見を受ける本人が亡くなるまで報酬が発生します。
長い目で見ると親族にとって経済的な負担となる可能性があります。
遺産分割協議でなく法定相続にしても問題は残る
遺言がない場合のもう一つの分け方である法定相続を採用した場合は、民法が示している通りに遺産を相続人ごとに分割すればいいので遺産分割協議は必要ありません。
よって認知症の家族が話し合いに参加する必要はなく、成年後見制度を使わなくても相続を進めることができるようにも思えます。また、不動産の相続登記などの相続手続きを行う際にも遺産分割協議書を提出する必要はありません。
ここまで読むとでは認知症の家族がいた場合は法定相続ですすめればいいのではと思われるかもしれませんが、法定相続では実際に問題があります。
まず、銀行によっては預貯金解約や一部払い戻しの際に遺産分割協議書を求めてくるところがあります。たとえ遺産分割協議書が求められなくても、相続人全員の印鑑証明書を提出しなければなりませんから、認知症の人を除外して手続きするのは事実上困難です。
また不動産に関しては、法定相続で分けるという事は一つの土地や家を相続人で共有することになります。遺産分割協議書が必要なく相続登記ができたとしても、不動産が共有状態であれば単独で売却や賃貸を行うことができず、資産として活用することができません。
更に「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」といった相続税を抑える特例も、遺産分割協議ができなければ利用できません。
遺言を遺すことが一番有効な対処法である!
このように、認知症の家族がいる場合は遺産分割協議や法定相続といった方法で相続を進めることができますが、どちらも故人の気持ちや相続人の利益に完全に寄り添ったものとは言えません。
遺言を作成しておけば、認知症の家族がいてその人に遺産を遺したい場合でも、遺産分割協議や法定相続をせず相続手続きを進めることができます。
ただ気をつけなくてはいけないことが、遺言による財産分割の内容に納得がいかない相続人が「故人は遺言を作成する時には、認知症と診断されていて、遺言を作成する判断能力がなかった。よって、その遺言は無効である」という主張をしてくるかもしれません。
そのため、遺言作成時に故人に意思能力があったことを証明するためにも、自筆証書遺言ではなく公証人に遺言を作成してもらう公正証書遺言を利用したり、遺言などを作る意思能力があることを証明する診断書を医師からもらったりしておけば、より安心だと言えます。
長岡行政書士事務所は相続の経験が豊富にあり、状況に応じたご提案をすることが可能です。
相続に不安や疑問点がある場合は、是非お気軽にご相談ください。
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