遺言書において全部遺贈したり、一部の財産だけ遺贈したりと違いはあるのでしょうか。制度によって法律上の違いがあるのでは?と悩む方も多いかもしれません。この記事では、遺言書で遺贈した場合の法律関係について、「物語風」に解説します。遺言書により遺贈する種類の違いについて分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんとおばあさんの愛犬、シロが「ここ掘れわんわん」と小判を探り当てるやいなや、なんと2人は大金持ちにて大フィーバー。
神様の粋な取り計らいで人間にしてもらうことができたシロは、おじいさんとおばあさんをしっかり看取り、おじいさんの遺言書を見たことがきっかけとなり、行政書士になりました。
今では「シロ行政書士事務所」とし、近隣の村人たちが次々と遺言がらみの相談をしてくるようになりました。
さてさて、今回は、そんなシロのもとに、またひとり、相談者のおばあさんがやってきましたが…。
目次
遺贈とはどんな行為か?
おばあ「シロや、ちょっと教えてくれんか。こないだ、隣町の竹取のじいさんが、遺贈はするのかと聞いてきたんじゃ。わしゃ、なんのこっちゃわからんでな」
シロ「竹取のじいさん、きっと昨日今日覚えた言葉を見せびらかしたかったんでしょうね」
おばあ「その前は『エビデンス』とか、『DX』とか、しきりに言っておったな」
遺産の一部か全部を相続人や相続人以外に譲ること
シロ「あのじいさん、流行り言葉を使えばモテるとでも思ってるんでしょ。ま、遺贈は流行語じゃないですけどね。遺贈というのはね、遺産の一部か全部を、相続人や、相続人以外の人や団体に無償で譲ることなんです」
おばあ「『イチブトゼンブ』っていったら、わしの好きなB’z様の名曲じゃないか」
シロ「予想外の角度から来たな…あと、一部「か」全部ね…。遺贈は、相続人以外の人へ財産を承継させたい場合に使うことが多いんですよ」
おばあ「ということは、あたしが息子以外の人に財産をあげたいとなったら、遺贈をすればいいってことかい? 息子とはもちろん何もないけど」
シロ「まあ、そうなります」
おばあ「どれくらいかかるんだい、その、遺贈費とか、そういう、ほら、ね?」
シロ「要するに、金かけたくないわけでしょ(笑)」
おばあ「まあの(笑) 日々是節約じゃ」
シロ「心配しなくても、遺贈するのにお金はかかりませんよ。有効な遺言書によって遺贈がなされると、効力は遺言者の死亡時から発生します。で、遺贈の対象となっている権利は遺贈の効力発生と同時に受遺者に移転。受遺者ってのは、財産を受け取る人のことね」
おばあ「じゃ、あたしが死ねば、効力が生まれるのか…それって、なんだか死者の呪いみたいだねえ…」
シロ「こええええよ! むしろ意味的には逆だよ!」
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遺贈の種類や分類はある?
シロ「遺贈は大きく分けて2種類。特定遺贈と包括遺贈ってのがあってね」
おばあ「なんだか難しそうじゃの…話途中で寝たらすまん」
特定遺贈と包括遺贈の2種類がある
シロ「そんときはそんときで(笑) 特定遺贈ってのは、ざっくり言うと、遺贈したい財産を具体的に指定する遺贈ね。つまり、Aさんにはこの土地、Bさんには預貯金、Cさんにはばあさん愛用のB’zさんのポスター全部とか」
おばあ「B’z様のポスターは絶対やらん! イチブたりともやらん!」
シロ「目…バッキバキやぞ…。で、包括遺贈ってのは、割合を指定して遺贈することね。例えば、Aさんには財産の半分、Bさんには財産の1/3とか」
おばあ「…ふうむ、要するに特定遺贈は種類で、包括遺贈は割合という違いってことじゃの」
シロ「ま、わかりやすく言えばそうですね。ちょっとまとめるとこんな感じね」
特定遺贈の特徴
特定遺贈では遺贈する財産を具体的に指定する
遺言書に書かれた財産がそのまま受遺者に承継される
遺言者が指定しない限りはマイナスの財産が引き継がれることはない
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包括遺贈の特徴
包括受遺者はプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も承継してしまう
財産内容が変わっても遺贈は無効とはならない
遺産分割協議に参加する必要がある
包括遺贈の放棄をする場合、原則として3ヶ月以内にしなければならない
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おばあ「おや、包括遺贈だと、問答無用で借金とかも承継してしまうということかい?」
シロ「そこ、けっこう大事なとこでね。包括遺贈をするときは、借金などのマイナスの財産がないかどうか、しっかりと確かめておかないと相手に迷惑をかけちゃうんですよ。もっとも、相手方にも放棄という選択肢があるのはありますけどね」
財産内容が変わったら包括遺贈は無効になってしまう?
おばあ「じゃあさ、例えばよ。財産の内容が変わったとしたら、どうなるんじゃ? 例えばわしの預貯金が1億だと遺言書に書いていて、死んだときにそれが8000万になったとかしたら」
シロ「けっこうため込んでるんですね…しかも、この先2000万も何に使うんです?」
おばあ「いや、だってこの前知り合ったホストが新しい外車ほしいって…」
財産内容が変わっても無効とはならない
シロ「すぐに縁を切れ…。ともかく、財産の内容が変わっても無効にはなりませんよ。包括遺贈は、『死亡時における全資産のうちの何割』っていう指定ができるわけですから。一方、特定遺贈の場合、例えば指定していた不動産を生前に売ってしまったと言う場合、対象が消滅しちゃってますので、受遺者は財産を承継できないんです」
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シロ「話を包括遺贈に戻しますが、包括遺贈を放棄したいときは3ヶ月以内にしなければならない決まりもあるので、そういう点を理解して行ったほうがいいですね」
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おばあ「いまいちわからんのじゃが、だったら包括遺贈はどういう場合に利用したら便利なんじゃ?」
シロ「包括遺贈のお勧めなケースはこんな感じですね。同時に注意点もお伝えしておきますよ」
包括遺贈がおすすめなケース
- 全ての財産を一人の人に承継して欲しい場合
- 遺言書の作成後、財産内容に変更が生じる可能性が高い場合
- 借金がなく、将来的にも借金をするつもりがない場合
- 受遺者にも遺産分割協議に参加して欲しい場合
包括遺贈の注意点
- 遺留分を考慮した遺言書を作成する必要がある
- 受遺者が亡くなった場合の対策が必要となる
- より安心できる遺贈にするには、遺言執行者を指定しておくと安心
- 遺留分を考慮した遺言書を作成する必要がある
受遺者が先に亡くなった場合の対策は?
おばあ「受遺者が亡くなるってのは、なかなかに盲点じゃな」
シロ「ですよね。本来であれば法定相続人になるはずなのに、亡くなっている…そんなときは、相続人であれば子供に相続権が発生し、代襲相続をすることができます。でも、遺贈を受け取る受遺者の場合、代襲相続は発生しないんですよ」
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予備的遺言をして受遺者が先に死亡した場合に備える
おばあ「相続権がないということは、包括遺贈そのものが無効となってしまうわけかの?」
シロ「そうですね。なので、予備的に遺言を遺しておくのがいいんです。例えば、先に受贈者が亡くなってしまった場合には、その受遺者の子供であるAに対して遺贈する…とかね」
おばあ「そういうのを、ちゃんと面倒見てくれる誰かがいたら安心なんじゃがのう。うちの息子はどうもそういうところが弱いでな」
シロ「なので、遺言執行者の選任をお勧めしますよ。遺言書に記載された内容を実現するための代理人ですね。遺言執行者を選任しておくことで、遺言執行者に相続手続きを任せることができるんです」
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遺言書で遺贈する場合は行政書士にご相談ください
おばあ「シロや、お前さんに任せることはできるのかい?」
シロ「行政書士ですから、できますよ、もちろん。いずれにせよ、個別の事案ごとによく検討してから特定遺贈か包括遺贈を選択しなくちゃいけません。そういう時に相談はやっぱり専門家が一番です。だから、おばあさんが今日僕のところに来てくれたのは、結果いいことだったんです」
おばあ「そうかそうか、それじゃあ、ひとつシロにお願いするとしよう。報酬はドッグフードでよかったのかの…?」
シロ「…そこについても、協議しましょう」