むかしむかし、あるところに竹取の翁ありけり。
翁がふと竹藪で見つけた光る竹。そこから出てきたのは、「絶対、配信したらバズりまくるわ、このコ」と思えるほどのかわいい女の子、かぐや姫でした。
「これはきっと子供がいない我が家に、神様が授けてくれた子に違いない」
翁と嫗が愛情込めて、「目の中に本当に入れたらやっぱり痛いけど、痛いとは思いたくない我が娘」として育てたかぐや姫でしたが、やがて大きくなると結婚申し込みがわんさかと来るようになりました。
しかし、SNSブロックに等しいほどの無理難題を、結婚条件に出された公家の婿候補たちは、けちょんけちょんにあしらわれて全滅。
やがてかぐや姫は、イー●ン・マ●ク似の月からの使者とともに、月へと返っていってしまいました。
それから数年がたち、翁は体調を崩してしまいました。
そして、かつての公家からぶんどった…じゃなくて、かぐや姫へと貢がれた金銀財宝(私財)の相続について悩んでいたのでした。
翁は、花咲かじいさんが飼っていた犬であり、人間の姿になって新人行政書士になったばかりのシロに相談することにしました。
目次
子どものいない夫婦には遺言書は必要ない?
翁「シロや、どうもかぐや姫からは、その後音沙汰がなくてな。仕方がないので、もう娘はおらんものだと思いたいのだよ」
シロ「お気持ちわかります。寂しいですよね。でも実際、自分の娘といっても、そもそも役所に届け出てなかったんでしょ?」
翁「まあ、そりゃ昔話的に役所とか出てきたらややこしいからのう」
シロ「ですから言うなれば、かぐやさんは赤の他人のエイリアンですよね」
翁「いきなり昔話の世界観をぶちこわして都市伝説に走ったな…」
シロ「何が言いたいかというとね。翁には子供がいない。その前提で相続を考えないといけないってわけです」
遺言書が無い場合は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)
翁「まあのう…。それはわしも薄々わかっておったんじゃ。でも子供がいないわけじゃから、相続もへったくれもないんじゃないかえ?」
シロ「いえいえ、子どものいない夫婦だからこそ、遺言で相続に触れておくのは必要なんですよ。法定相続ってわかります? 法律では相続人になる範囲と、相続人が財産をどの割合で引き継ぐことができるのかを定めているんです」
翁「なんとなくは」
シロ「遺言書が残されていない場合は法律に則った遺産分割が行われるわけです。子どもがいない場合でも、相続人になれる人はいるんです。例えば配偶者、父母、兄弟姉妹、兄弟姉妹が相続開始時に亡くなっているならその子、ですかね」
翁「だとしたら、うちのばあさんと、松取の翁という兄、そして梅取の翁という弟が相続人になるかのう」
シロ「松竹梅とはめでたい兄弟ですね。ということは、相続人が3人いるわけです。遺言書を書いてないと、こりゃ血で血を洗ういくさになりますね」
翁「な、なんじゃと!」
シロ「もちろん遺言書がないからといって、必ず法定相続によらなければならない、ということではありません。相続人全員で協議し、遺産について「何を誰にどれだけ」分けるのか決めることができます」
翁「それなら普通に話し合ってもらえれば…」
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遺産分割協議の負担を考えると遺言書はあるべき
シロ「甘い。シロップをかけすぎたかき氷よりも甘い! 内容について相続人全員が合意することが必要で、そのことを証明するものとして相続人全員が署名して実印を押印する遺産分割協議書を作成しなくちゃいけないんです。特にかぐやさんがらみの遺産は大きい。遺産が相続されることに残されたおばあさんが納得していれば問題はありませんが、遺産分割協議となった場合に紛糾しない保証がどこにあります?」
翁「ない、とは言い切れん…松取の翁も梅取の翁もがめついからのう…ばあさんがうまいこと言いくるめられないか心配じゃ」
シロ「どんな兄弟だよ…。でも、それなら間違いなく遺言書を書くべきですね」
財産を配偶者に相続させたい場合には?
シロ「とりあえずは、配偶者であるおばあさんにすべての財産を相続してもらうための遺言書の書き方からお伝えしましょうか」
翁「うむ、それこそわしの真意じゃからのう」
シロ「こんなふうに記載するのがいいでしょう」
全財産を残せる遺言書の書き方
《全財産を相続させたい場合の記載例》
遺言者は、遺言者の有する不動産、動産、預貯金、現金その他一切の財産を、妻〇〇〇(生年月日)に相続させる。
シロ「次に特定の財産を配偶者に相続させたい場合ですね」
翁「特定のとはどういうことじゃろう?」
シロ「例えば不動産だけとか、『この財産を除いた全部』とかですね。その場合の書き方はこんな感じですね」
特定の財産だけを残す遺言書の書き方
《特定の財産を相続させたい場合の記載例》
・遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、妻〇〇〇(生年月日)に相続させる。
・遺言者は、遺言者の有する預貯金について、弟〇〇〇(生年月日)に相続させる。
シロ「ちなみに、遺留分は知ってますか?」
翁「なんじゃろう?」
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遺言書を書く場合は遺留分にも注意が必要
シロ「ある一定の法定相続人が遺言書によって遺産を取得できない場合、遺産について受け取ることのできる最低限の割合のことです。法律で認められている権利でしてね。要するに、『遺言書には自分への相続内容が書かれてないけど、自分も受け取る権利があるから、その権利分だけの財産をおくれ』というものです」
翁「ありゃ。そんなのがあるんか? あいつら、言いそうじゃのう」
シロ「でも遺留分が認められるのは子どもなどの直系卑属と、両親などの直系尊属になりますから、兄弟姉妹は含まれないんですよ」
翁「それなら後顧の憂いなしじゃ。ようし、じゃあさっそく遺言書を、と。サラサラサラ…できたぞい」
シロ「早えええな! ちょ、待てよ」
翁「おっ、往年のキム●クの名ゼリフかえ?」
シロ「じゃなくて、自筆証書遺言…要するに、おじいさんが今自分で書いた遺言書もいいんですけど、公正証書遺言のほうがおすすめですから」
翁「違うのかえ?」
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遺言は公正証書遺言で作成したほうがよい?
シロ「一応、遺言書には形式があるんですよ。ちょっと見せてください…あちゃー、思った通りだ」
翁「何が行かんのじゃ?」
シロ「いろいろダメなんですけど、特に冒頭の『チャオ、愛しのばあさんへ♡』が形式どうこうじゃなくても、なんかイラッとします」
翁「10代のころの気持ちを思い出して書いたんじゃ。村祭りのとき、少しはずれた竹やぶで、ばあさんとこっそり待ち合わせて…」
形式不備等で無効にならないよう公正証書遺言がおすすめ
シロ「聞いてないから。とにかく、遺言が有効とされるには形式等に要件があり、それらを確実に守って作成する必要があるんです。ですから、法律の専門家である公証人が作成し、公証役場で原本が保管される公正証書遺言はより確実な遺言の実現が期待できるんです」
翁「わかったわかった、じゃ、それで」
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遺言書作成時は遺言執行者も指定しておく
シロ「軽いな。あと覚えておいてほしいのが遺言執行者です」
翁「遺言の内容を執行する人って意味かのう?」
シロ「そう。遺言執行者を指定しなかった場合、受益相続人自身が相続手続きを行っていくことになります。要するに、今回で言えば、おばあさんと松取の翁、梅取の翁が協力して、遺言を執行することになるわけです」
翁「仲良きことは美しきかな、ではないか。何がいかんのじゃ?」
シロ「ざっくり言うと、遺言の内容によって、不利な内容にある相続人も手続きに協力しなくちゃいけないわけです。ってことは、『そんな遺言実現させたくねえ!』って非協力的になったら?」
翁「…えらいこっちゃ」
シロ「遺言執行者は、遺言の内容を実現するための権限が法律で認められていますから、ビシバシ内容を執行できるんです。遺言執行者は未成年・破産者以外であれば誰でも指定できますけど、相続手続きは手間暇がかかり負担が大きいものですから、弁護士や行政書士のような専門家を指定してもいいと思います。例えば僕のような」
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子どもがいない場合は遺言書の作成を検討
翁「ふうん、じゃ隣町の弁護士に聞いてみようかのう」
シロ「…わざと言ってんな…。まあどなたに依頼するかは自由ですが、今回説明したようなことを注意して遺言書はちゃんと残しておいてくださいね」
翁「シロや、冗談じゃよ。ちゃんとおぬしにお願いしようと思っておったわい。じゃあ早速その『強制勝者遺言』について教えておくれな」
シロ「どんな遺言だよ!」
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