30代なのでまだ若いのになんで相続の事を、と思われるかもしれませんね。
最近大病を患い、幸い回復したものの自分の死後の事を考えるようになったのです。
妻と子がおりますが、実は私は再婚をしてまして、前妻との間に子がおります。
前妻と別れるときに感情のもつれがあり、現在の妻に前妻とはあまりかかわってほしくないと思っています。また、離婚した時に十分な資産を渡しているので、できれば現在の妻と子に多くの資産を遺したいと考えています。
なにかいい方法はないでしょうか、また、このまま何もしないと私の死後、相続はどうなるのでしょうか?
ご事情理解いたしました。
仮に何もしないまま相談者様が亡くなられた場合は、前妻との子にも相続権が発生しますので遺産を渡す必要が出てきます。
このような事態を防ぐためには遺言書を書いていただくのが一番効果的ですが、気を付けるべきポイントが何点かありますので、それを今から解説させていただきます。
目次
前妻の子にも相続する権利はある
遺言書がない場合は故人の遺産分割の遺志が不明なので、法律に則って遺産を分割していくことになります。これを法定相続と言います。
そして、法定相続では相続をする順番とその相続割合が定められています。
民法の条文を見てみましょう。
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
わかりやすくまとめると以下の通りになります。
法定相続割合 | |
---|---|
第1順位(子) | 配偶者2分の1 子 2分の1 |
第2順位(被相続人の父母) | 配偶者3分の2 父母3分の1 |
第3順位(被相続人の兄弟姉妹)
| 配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1 |
さて、ここで気をつけてほしいのは前妻の子も現在の妻の子も法律上は同等の権利を有する、ということです。
なので相談者様の場合ですと現在の妻に遺産の2分の1、子が二人いる扱いと同じになるので現在の妻の子に4分の1、前妻の妻の子に4分の1、を相続することになります。
前妻本人はもう離婚して婚姻関係がなくなっているので相続権が認められません。
遺産分割協議は全員の参加が必要
法定相続の割合に沿って遺産を分割しなくても、相続人全員が同意した場合は自由に決めることができます。これを遺産分割協議といいます。
合わせて読みたい:遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
ただ、この遺産分割協議は全員参加しなければ無効です。
前妻の子と話し合い合意を取り付けて署名捺印してもらう必要があります。
さらに、この前妻の子が未成年者の場合には本人が遺産分割協議に参加することはできません。
そのため、子どもの法定代理人(親権者あるいは未成年後見人)が子どもに代わって遺産分割協議に参加して協議書等にサインをする必要があります。
つまり前妻が子の法定代理人として前妻が遺産分割協議に出席し、この前妻から合意を取り付ける必要が生じる可能性があります。
前の妻、今の妻、今の妻の子の全員で話し合う必要があるということです。
前妻の子に相続させない方法
前妻の子に相続させない方法としては、次のような例が挙げられます。
- 遺言書
- 生前贈与
- 死因贈与
- 相続放棄
- 相続廃除
結論としては遺言書がもっともおすすめですが、それぞれの選択肢についても知っておきましょう。
遺言書
遺言書があれば遺産分割協議は不要で、基本的には遺言内容に沿って遺産を譲れます。
しかし前妻の子には遺留分という権利があるため、その点には注意しなければなりません。
具体的な書き方や遺留分対策については後述します。
生前贈与
自分が亡くなる前に、今の妻・今の妻の子に生前贈与する方法も挙げられます。
亡くなる前に財産を譲れば、その財産は相続対象から外れるためです。
しかし全財産を贈与した場合には、後述する遺留分の対象となる可能性もあるため注意しなければなりません。
死因贈与
「被相続人」と「財産を受け取る人」が「Aが亡くなったら財産XをBに贈与する」と約束することを死因贈与といいます。
遺言書による遺贈と似ていますが、遺贈は遺言者が一方的に指定するのに対し、死因贈与は「譲る人」と「譲られる人」の間で約束が交わされることで成立することがポイントです。
なお、死因贈与も遺贈・生前贈与と同じく遺留分の対象に含まれるため、注意しなければなりません。
あわせて読みたい>>死因贈与契約と遺言書はどちらが優先?いつ財産を渡すかによって手続きが違う!
相続放棄
前妻の子に相続放棄をしてもらう方法も存在します。相続放棄すれば、相続人ではなくなるため、当然財産を譲る必要はありません。
しかし相続放棄は、相続人である前妻の子の判断で行うものです。強制することはできないため、あまり現実的ではないでしょう。
あわせて読みたい>>相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説!
相続廃除
相続人の廃除(相続廃除)とは、被相続人の意思を尊重し、遺留分を有する推定相続人の相続を受ける権利を、家庭裁判所により奪う制度です。
あわせて読みたい>>相続廃除とは?特定の相続人に相続させない方法を行政書士が解説
一切財産を渡さないようにすることが可能ですが、家庭裁判所から認められるためには、相続廃除したい相続人が次の条件を満たす必要があります。
- 被相続人に対して『虐待』、または『重大な侮辱』をした場合
- その他『著しい非行』があった場合
前妻の子がこのような言動を取っていない限り、実現は難しいでしょう。
前妻の子に相続させない遺言書を残す方法
ここまでは理解できました。
色々な選択肢を考慮すると、生前贈与をしていない限り、基本的には法定相続で前妻との子が現在の妻の子と同等の遺産の取り分になるか、もしくは前妻の子を交えた遺産分割協議が開かれる必要がある、という事ですね。
どちらも私の希望するところではありません。
遺言書を書けばもっと私の遺志が反映されるのでしょうか。
はい、もしも遺言書があれば遺産分割協議は不要で、遺言者の遺志を反映した遺産分割が可能です。
しかしそのために、まずは有効な遺言書を書かないといけません。
せっかく遺言書を書いても無効だともう本人は死後なのでどうすることもできず、結局法定相続か遺産分割協議によることになります。
前妻の子への相続分を減らし、今の家族への相続分を増やすためには、次の2つを意識するといいでしょう。
- 公正証書遺言を活用する
- 遺留分に配慮する
それぞれ詳しく解説します。
公正証書遺言を活用する
遺言書があれば、その指示に沿って財産の分割ができます。
そして、遺言書には公正証書遺言と自筆証書遺言という2タイプがあります。
公正証書遺言は公証人が作成する文書ですので誤りがなく、偽造・変造等の心配もありませんが、公証人に作成を依頼したり証人を揃える必要があるので費用と手間がかかります。
一方、自筆証書遺言は文字通り自分で書くのでそういった費用はかからず手軽に作成できますが、形式不備(例:日付の書き忘れ)などにより遺言書自体が無効になるおそれがありますし、、自宅などに保管された場合は偽造・変造等の可能性があります。
たとえば「前妻の子」への相続分が少ない遺言書を残していると、納得のいかない前妻の子が、遺言書の無効を訴える可能性もゼロではありません。
遺言書は安心かつ確実であるべきという観点からすると、ご費用はかかりますが、形式不備が起きやすい自筆証書遺言より公正証書遺言を作成することをお勧めします。
遺留分に配慮する
すでに何度か触れていますが、前妻の子に相続させない遺言書を残す場合には遺留分に注意しなければなりません。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される、遺言よっても奪う事のできない遺産の一定割合の事です。
民法によりますと、遺留分は次のように定められています。
第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
相談者様のケースですと、前妻との子も法定相続人である以上、遺産の4分の1の更に2分の1、つまり全財産の8分の1の遺留分を持っていることになります。
遺言によりこの前妻との子に全く遺産を遺さないことも可能ですが、この前妻との子には自分の遺留分に対し侵害されたと請求する権利が残ります。
そして仮に将来請求された場合は金銭により給付をせねばならず、手持ちの現金がないと遺留分侵害に対し十分に対応できない可能性があります。
将来起こりうる相続のトラブルを回避するためにも、のような点を意識してみてください。
- 生命保険をご本人様、受取人を現在の妻にし、遺留分侵害請求に備えるための現金を用意しておく。生命保険金は遺産に含まれないので、遺留分請求時に備える原資になりうる。
- 前妻の子にもあらかじめ遺言書の中で遺留分の遺産を譲り、将来のトラブルの芽を摘み取っておく。
- 前妻や前妻の子と、現在の妻や子とのやりとりを防ぐため、遺言の内容を執行してくれる遺言執行者を遺言書の中で指定しておく。(参考記事:遺言執行者とは?実行する内容・権限の書き方を行政書士が分かりやすく解説)
なお、遺留分を侵害する遺言書であっても、遺言書の要件さえ守っていれば、きちんと有効なものとして扱われます。
合わせて読みたい>>遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説
前妻の子に相続させたくないときは公正証書遺言で遺言執行者を指定するのがおすすめ
相続に関し、前妻との子も現在の妻との子と同じ権利があります。
遺言を遺さないと法定相続や遺産分割協議になり残された現在の妻と子が困った境遇に陥る可能性がありますので、より安心できる相続の為には遺言書を作成し自身の遺志をしっかりと示しておくべきです。
遺言書に2タイプありますが、より安全性の高い公正証書遺言を作られることをお勧めします。
また、遺留分を請求するが前妻との子にはありますので、最初からその分を前妻との子に譲る遺言書を作りトラブルの芽をとっておくか、生命保険を有効に使い請求に対応できる原資を現在の妻に遺しておきましょう。
さらにスムーズに遺言内容を実現するため、遺言執行者を指定しておくと安心です。
横浜市の長岡行政書士事務所では、遺留分を配慮した遺言書作成のサポートも行っています。公正証書遺言の作成サポートも可能で、公証役場との調整もすべてお任せください。遺言執行者としての実績も多数あります。
もし少しでも不安や不明点があった場合は、相続の経験豊かな長岡行政書士事務所に是非ご相談ください。初回相談は無料で対応しています。