たまに銀行で借りている貸金庫の存在。実はこちらも遺産なのをご存じでしょうか。実は貸金庫を借りている権利が遺産の対象となります。そしてその借りている貸金庫を開けるにも相続人間の合意が必要となります。そうなると何となくイメージできるのが貸金庫のことを遺言書に書けるの?書いた場合はどうなるの?ってところだと思います。
この記事では貸金庫と遺言書の記載について「推理小説風」に解説します。貸金庫と遺言書の記載について分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
こんにちは。ぼくは名探偵として知られる明智小五郎先生の助手、小林です。
実は今日、大変な連絡が届きました…!
なんとあの怪人三十面相から明智先生に挑戦状が届いたのです!
あるお金持ちの、銀行の貸金庫を狙っており、不届きにも明智先生に犯行を止めたくば止めてみろという内容でした。
天下の明智小五郎にこんな大胆不敵な挑み方をするのは、怪人三十面相をおいてほかにありません。
あ、ちなみにかの乱歩先生の描く怪人二十面相よりすごいということをアピールしたいので、三十にしたとかどうとか。
でもそれだけ、この大怪盗は油断ならぬ宿敵なのです!
ということで、今日はそのお金持ちのご令嬢と執事の方がご相談に来ているんですが…なぜか明智先生がいません…。
こんな大事なときに、いったいどこで道草をくっているんですかね、まったく!
目次
遺産相続における遺言書と貸金庫の関係
貸金庫といってもなにか特別なことを遺言書に書く必要があるのかと思われるかもしれませんが、大事なのは遺言書が無効にならないこと。書き方を間違えて無効になってしまっては元も子もありません。「しまった、知らなかった!」とならないためにも、安心して貸金庫の中味を相続させる方法をお伝えできればと思います。
遺言執行者でも貸金庫を開けられないことも
執事「小林様、本日は貴重なお時間をいただき、恐悦至極に存じます。こちら当家令嬢の麗華様にございます」
麗華「小林様、どうぞお力をお貸しください…。父も先日他界いたしまして、私はもう心細くて心細くて…。ときに、明智先生はどちらでございましょう?」
小林「あ、明智先生は…その、いまちょっと、どうしても手が離せない秘密の調査に出かけておりまして…」
麗華「もう動いてくださっているとは、さすが明智先生ですわ。きっととても優秀で、凛々しいお顔立ちの殿方でいらっしゃるのでしょうね」
小林「あ、あはは…はいー」
執事「小林様、貸金庫の問題でございますが、先日亡くなりました麗華様のお父様、つまり東京都渋谷区にございます当家の109代目当主が遺した遺言が見つかりました」
小林「その情報はとても重要です。遺言の中で遺言執行者は指定されていましたか?」
麗華「遺言執行者?」
小林「ええ、遺言執行のための、多くの権限が与えられている人のことです。遺言執行者は遺言の中で指定されていることが多いのですが、遺言書の書き方によってはその多くの権限を与えられている遺言執行者でさえも開扉できないこともあります。」
執事「それが、遺言執行者は明智小五郎様と…」
小林「えっ、うちの先生? そんなこと一言も言ってなかったけど…? と、とにかく…話を先に進めましょう」
貸金庫を開扉する時は相続人全員の同意が必要
小林「まずは貸金庫に関して全体のルール的なところからご説明しますね。少し遠回りになりますが、そのほうがきちんと理解できるでしょうから」
麗華「お優しいのですね、小林様」
小林「あ、は、えへへ。いや、えへへじゃなくて! 仮に遺言がなかった場合は遺産分割協議や法定相続といった手続きにより相続を進めることになります。これらの場合は原則相続人全員の同意がなければ貸金庫を開けることができません」
執事「その点は、当家の場合は遺言がございますので問題ございませんね」
小林「ええ、遺言がない場合、相続人が生前、貸金庫の契約の中でを貸金庫を開けるための代理人を定めている場合もあります。でも、この代理人の権限は貸金庫の名義人が生きているときのみなので、相続人死亡の時からこの代理人は貸金庫を開けることができなくなるのですね」
麗華「そんなことになったら、皆様お困りになってしまいますわ…」
小林「相続人全員が同じ日に集まって貸金庫の開扉に立ち会うのが難しい場合は、相続人全員から同意書をもらうことで貸金庫を開けてもらうことができます。でも、この方法では銀行によっては貸金庫の中身を確認するだけで、中身をそのまま持ち帰ることができない場合もあるんです」
麗華「厳しいのですね。でも大切な財産を預かる銀行からすると、当然の対応でございますわね」
小林「実は、このような相続人全員の立ち合いや同意書が求められるのは、遺言があって遺言執行者が定められている場合でも起こることがあるんです」
執事「遺言があっても?」
遺言書の書き方次第で貸金庫の開扉可否が決まる
小林「銀行によっては、貸金庫の内容物が分からないですよね。遺言で財産分けの対象とされた特定の財産がその貸金庫内にあるのか無いのかも不明です」
麗華「それえで遺言執行者による貸金庫の開扉に難色を示すことがある…?」
執事「さすがは麗華お嬢様、先代のご聡明さを色濃く受け継いでおられます」
麗華「小林様の前で、お恥ずかしくってよ」
小林「…えへへ。あ、いや、ぼくが照れてる場合じゃないや…。一部の相続人からのリクエストに応じて開扉した結果、内容物の紛失、滅失、損傷などの事態が生じたらどうするか? 銀行に損害賠償責任が発生する可能性があります」
麗華「当家も数多ある事業の一つとして、銀行を営んでおりますので、その点には注意が必要ですわ。執事、頭取に再注意を呼び掛けてくださるかしら?」
執事「御意。つかぬことですが、小林様。仮に相続人の一部が同意をしてくれない、もしくは認知症等で有効な意思表示ができず同意ができない場合は相続人全員の同意がとれないこともございましょう。その場合はどうなるのでしょうか?」
小林「相続を進める上での障害となり、おいそれといかないでしょうね」
遺言書の中で開扉の権利も遺言執行者に与えておく
小林「貸金庫の開扉に関する課題は、遺言書に貸金庫について遺言者が明確に開扉の権限を遺言執行者に与えていることを示しておけば、解決できます。遺言書が無効なものでない限り、遺言執行者は単独で貸金庫を開扉することが可能となります」
麗華「貸金庫の開扉は相続手続きをする中で避けては通れない…。でも一般的には遺言者も遺言作成時に貸金庫のことまでは気がまわりにくい…。もしくは遺言執行者を指定しておけば当然に開扉できるものと勘違いして対策が疎かになってしまう…。だからこそ、きちんと遺言に書くことを意識しなくてはいけないのですね」
小林「まったくもってその通りです。うちの明智先生より理解力高いや…」
執事「ちなみに、遺言書にはこのように書いてございました」
遺言書の貸金庫開扉の記載例
第○○条 遺言者はこの遺言を執行するものとして明智小五郎を指定する。
第△△条 遺言者はこの遺言を執行するため、遺言執行者に対して次の権限を与える。
(1)遺言者名義の預貯金その他の相続財産の名義変更、解約及び払い戻し
(2)遺言者が契約する貸金庫の開扉、解約および内容の取り出し
(3)その他この遺言の執行に必要な一切の行為をすること
小林「ええ、これなら問題ないでしょうね。確かに明智先生が遺言執行者と書いてある。生前の先代とどのような関係が…?」
麗華「小林様。私の推理では、遺言執行者である明智先生に変装した三十面相が、言葉巧みに銀行に近づき、金庫をまんまと開閉させるのかと…」
小林「確かに、その可能性はありま…待てよ! もしかしてそのために三十面相が明智先生をさらい、今日、ここに来れないのだとしたら…?」
遺言書には貸金庫の開扉権限を明記する
麗華「えっ、さらわれた…?」
執事「なんということでしょうか…!」
小林「くそっ、ぼくとしたことが盲点だった! あの卑劣な三十面相のことだ、何を仕掛けてくるか…明智先生、無事でいてください!」
明智「呼んだか?」
小林・麗華・執事「……」
明智「おお、麗華くんではないか。前に逢ったときは君がまだ小さかったが…見違えましたな」
小林「先生…、いったいどこへ? 怪人三十面相にさらわれたのでは…?」
明智「私がそのような失態をするわけがなかろう。なあに、奴さんが貸金庫を狙ってくると言うなら、一番貸金庫に近いところに隠れていればいいだけの話だ」
執事「貸金庫に近いところ?」
明智「貸金庫の中そのものだよ」
小林「し、しかし、さすがに中に入り込むというのは…いくら遺言執行者でもそんなこと」
明智「だから地下トンネルを掘って、ドリルで穴をあけて、隠れていたんだよ。案の定、私に化けて銀行に出向いたそうだが、私が金庫からババーンと登場してやったら、三十面相のやつ、泡食って逃げていったぞ。ついでに銀行員もひっくり返ってたけどな」
小林「…先生、それ…金庫を破って勝手に入るの、世間一般でなんていうか知ってます?」
明智「知恵、かな?」
小林「犯罪というんじゃ、このアホー!」
いかがだったでしょうか。
名探偵明智の推理小説風に貸金庫の開扉と遺言書の関係について解説いたしました。
貸金庫は相続人全員の同意があることを前提ですが、遺言書に適切に開扉権限を記載することで出来るようになります。
書き方には注意が必要ですが、遺言書で迅速に貸金庫が開けられるようになればスムーズに遺産相続の手続きができるようになります。
皆様も遺言書作成時にはご注意くださいね。
本日もお読みいただきありがとうございました。
この記事を詳しく読みたい方はこちら:遺言書の貸金庫の開扉に関する文言を解説!遺言書に記載するべき事項とは?