時折、登場してくる遺言執行者。この遺言執行者は遺言の内容を実現するにあたり、様々な義務をやっていく必要があります。その中の一つに遺言執行者から相続人への通知義務というものがあります。ではその通知義務とはどんなものでしょうか?
この記事では遺言執行者の通知義務について「三匹のこぶた」風に解説します。遺言執行者の通知義務ついて分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
むかしむかし、あるところに三匹のこぶたがいました。
石の家、木の家、ワラの家をそれぞれ作って育った兄弟ぶたたちは、今日も母ぶたのお手伝いで感心感心。
家族そろって仲良く暮らしていました。
たまに隣村に住む行政書士見習いである赤ずきんちゃんと漁師さんが遊びに来るなど、最近は友だちも増えてきているようです。
ある日、赤ずきんちゃんたちと遊んでいる兄弟ぶたのもとに、山から一匹のイノシシが下りてきて、相談を持ち掛けました。
「ここに遺言に詳しい赤ずきんちゃんがいると聞いたんだけど…」
イノシシは、あの悪いオオカミにそそのかされて、どうも間違ったことを教えられてしまったようで、不安に思って兄弟ぶたや赤ずきんちゃんたちを訪ねたのでした。
目次
遺言執行者の行う通知義務とは?
遺言執行者に選任されると相続人に対して通知義務がありますが、遺留分を有していない人に対しても通知する必要があるのかどうかについては誤解も多くあるようです。通知をせず、相手方に損害が生じてしまった場合、損害賠償を請求される可能性もあるため、しっかりと知識をつけておきましょう。
遺言執行者の通知義務
イノ吉「イノシシのイノ吉といいます。実は先日、おとっつあんが亡くなっちゃったんだ」
赤ずきん「まあ…それはお気の毒でしたね…」
イノ吉「それで、長男であるおいらが遺言執行者として指名されたんだけど、おいら、今までずっと山で走り回ってばかりだったから難しいことよくわかんなくって」
兄ぶた「そうか。で、どんなことがわからないんだい?」
イノ吉「そもそも遺言執行者ってことがわかんないんだ。それに加えて、相続人って人に、おとっつあんの遺言の内容や遺言執行者になったことをお知らせしなきゃいけないって…」
弟ぶた「そうだね」
イノ吉「おとっつあんが死んじまって、まだ小さい弟たちの世話もしないといけないし、おいら、とっても忙しいんだ。そんなときオオカミがやってきてさ、相続人全員に知らせる必要はないって言うんだよ」
末っ子ぶた「でたよ、またあいつだ!」
イノ吉「でもオオカミって悪い奴だって、おいら知ってるから、みんなに相談したかったんだ」
赤ずきん「わかったわ。オオカミの言うことなんて信じちゃダメ。偉いね、イノ吉くん」
イノ吉「へへへ」
赤ずきんたちも混乱していますね。
オオカミの言っていたことは本当でしょうか?ストーリー戻る前に通知義務の条文を見てみましょう。
遺言執行者の通知義務の根拠はこちら
民法 第1007条2項 遺言執行者の任務の開始
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しないければならない。
遺言執行者には遺言内容実現の義務がある
兄ぶた「まずイノ吉は、遺言執行者から勉強しないとな」
赤ずきん「遺言執行者というのはね、遺言に書かれた内容を果たす人のことなのよ」
イノ吉「おとっつあんの言うことをきくってことだろ?」
赤ずきん「そういうことだね。遺言者が遺言書で指示したことを忠実に執り行うことを任務とするの。ちょっと大人っぽい言い方だけどわかるよね?」
イノ吉「おいら、大人だぞ。おとっつあんがいないから、おいらが家族を守る大人になるんだ」
末っ子ぶた「偉いなあ、イノ吉は。ぼくも兄さんたちに甘えてばかりじゃいけないな」
赤ずきん「うふふ、その調子よ、ふたりとも。遺言執行者の任務は、財産目録の作成や預貯金の払い戻し、相続人へ財産を分配することや不動産の名義変更など、遺言の内容に従っていろんな任務があるのね。そしてちゃんと内容を実現させる義務もあるのよ」
イノ吉「うん。その義務ってどんなものなんだい?」
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相続人に対して通知する義務
赤ずきん「まずは一定の内容を相続人に通知する義務ね」
弟ぶた「一定の内容って?」
赤ずきん「平成30年より前には、遺言執行者に通知義務がなかったの。つまり、遺言執行者が行なったことが、相続人に何も知らされなくてもよかったのね」
イノ吉「つまり、残されたおいらたちは、いま何がどうなってるのかわかんなくなってたってことだよね?」
赤ずきん「そう。何も知らされないまま相続の手続きが進められるから、後からトラブルになるケースも多かったみたい」
兄ぶた「そういうときに、あのオオカミみたいなやつが悪知恵を働かすこともありそうだ」
赤ずきん「だから、遺言執行者がいつ・誰に・何を、通知するべきかという点について、民法できちんとまとめられているのよ」
いつ →遺言執行者に就任したときに通知が必要
誰に →相続人に対して通知が必要
何を →遺言の内容を通知が必要
遺言執行者に就任したらできるだけ早く通知が必要
赤ずきん「民法1007条2項には、通知が必要な時期について、遺言執行者が任務を開始した場合、遅滞なく通知する義務がある旨が記載されているわ」
イノ吉「チタイって?」
赤ずきん「要するに、できるだけ早くってことね。といっても、何ヶ月以内とか決まってるわけじゃないんだけど」
弟ぶた「時間にルーズな人だったら、困っちゃうね」
末っ子ぶた「ねえねえ、赤ずきんちゃん。2番目の相続人に対して通知がされなかったら、どんな問題が起こるの?」
赤ずきん「もし遺留分を侵害された場合、請求できなくなっちゃうからよ。ちょっと難しいかな?」
兄ぶた「あ、イノ吉の頭から煙が出てきたぞ」
イノ吉「お、お、おいら、わかってるもんね…!」
赤ずきん「いいのよ、無理しなくても。遺留分というのはね、一定の相続人に対して相続が確保された割合のことなのよ。つまり、遺産のうち必ずもらえる割合があるのに、もらえなくなっちゃうと嫌でしょ?」
イノ吉「そんなの嫌だ! ようし、遺留分覚えておくぞ」
弟ぶた「あとは、遺言の内容を通知することについてだね。これは、遺言書に書かれたことを間違いなく伝えるってことで合ってるかな?」
赤ずきん「そうよ。遺言の内容については、遺言書のコピーを添付することが一般的なの。それをもとに、「私がここに書かれている通り遺言執行者になりました」って知らせるのね」
イノ吉「ようし、おいら、知らせるよ!」
赤ずきん「がんばってね! そのときに、相続財産の目録もちゃんと送るようにね」
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遺言執行者は遺留分がない人に対しても通知義務を負う
兄ぶた「ねえ、赤ずきんちゃん。たとえ兄弟でも、遺留分を請求する権利を持っていないことってあるの?」
赤ずきん「そういう場合もあるわね。でも遺留分を持っていない人にもちゃんと知らせないといけないのよ」
遺留分がない人に対しても通知義務がある理由
遺言の内容を知る法的な利益を有しているため
遺留分を有していなくても、遺言書が有効でなければ相続できる可能性があり、自らに関係ある部分については知る権利があります。
遺言書に記載されていない財産については相続できるため
遺言書が存在しても、遺言書に記載されていない財産があれば、遺留分がなくても相続は発生します。遺言書から漏れている財産がある場合には、知らない間に相続している可能性があり、相続状態を確認するためにも通知が必要であると考えられています。
法律に遺留分のない人には通知不要という規定はないため
民法1007条の通知義務の内容には、”相続人に対して通知が必要”としか規定がありませんが、”条文には遺留分を有しているかどうかによる区別はない”ということから遺留分がなくとも相続人である以上、通知が必要であると考えられています。
通知義務違反の場合は遺言執行者解任の可能性
末っ子ぶた「へえ、なるほど。やっぱり正直者が一番ってことだね」
弟ぶた「もし通知しなかったら、何か罰則があるのかい?」
赤ずきん「相続人が損害を被れば、相続人から債務不履行または損害賠償請求を請求される可能性があるわ。あと、利害関係人からの請求で家庭裁判所に遺言執行者を解任されてしまうこともあるのよ」
遺言執行者に就任したら遅滞なく相続人に通知をする
イノ吉「なんだか怖いぞ…」
赤ずきん「あくまで一例だけどね。真面目にちゃんとやっていれば大丈夫よ」
イノ吉「赤ずきんちゃん。おいら、死んだおとっつあんのぶんまでがんばるんだ!」
兄ぶた「その意気だ! 今度は兄弟やおかっつあんも連れて遊びに来てくれよ」
イノ吉「そうする! ありがとう!」
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