「遺言書で遺言執行者を指定しようと考えているが、一人に絞らなければならいのか?」」
「手続きの内容に向き不向きがあり、遺言執行者を複数にしたい。」
「遺言執行者が複数の場合、執行はどうするのか?」
遺言書では、遺言の実行をより確実にするために遺言の執行をしてほしい者を指定することができ、この指定された者のことを「遺言執行者」と言います。
誰に執行者になってもらいたいのか、一人に絞れる場合はそれで問題ないのですが、遺言の内容は様々ですので、一人に負担させるのが憚れる場合や、手続き内容によって執行者を変えたい場合、複数の執行者を指定することが考えられます。
今回のコラムでは、そのように遺言執行者を複数指定した場合、遺言の執行はどのようになされるのか、説明していきたいと思います。
目次
遺言執行者は一人でも複数でも良い
遺言執行者が複数いる場合の執行について説明する前に、まずそもそも、遺言執行者は一人でなくても良いのか?という点に触れておきたいと思います。
この点、結論から申し上げますと、遺言執行者の人数に決まりはなく、「一人でも複数でも良い。」が答えになります。遺言執行者の人数については、法律でも明確に定められています。
(民法第1006条)
「遺言者は、遺言で、一人または数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。」
したがって、例えば以下のような指定も可能です。
- 預貯金の続きは長女Aに、不動産の手続きは長男Bにしてもらう。
- 専門職の人と子どもを遺言執行者に指定する。
しかし実際には、遺言で遺言執行者が複数指定されていた場合、その書かれ方は様々です。
どのように書かれていたかで、遺言執行者の職務の行い方も異なってきますので、次項以下で、遺言執行者が複数いる場合の執行方法について具体的に説明していきましょう。
遺言執行者について詳しくはこちら
参考リンク:行政書士が解説!遺言執行者の権限を遺言書に明記するポイントについて
遺言執行者が複数の場合~遺言に職務分担の定め有り~
複数の遺言執行者が遺言書で指定されていた場合、誰がどの手続きを行うのか、執行者の職務の分担について具体的に書かれているときがあります。
例えば、次のような内容の遺言が書かれている場合です。
≪例≫
遺言者は、遺言執行者A及びBの職務の執行方法を次の通り定める。
- 遺言執行者Aは、不動産に関する一切の執行行為
- 遺言執行者Bは、預貯金に関する一切の執行行為
このように役割分担を記載しておくと、遺言執行者が複数人いた場合でも、それぞれが定められた職務の執行を単独で行うことになります(民法1017条但書)。
ただし上記の例の場合、遺産が不動産と預貯金だけであれば問題ありませんが、その他に財産があった場合、その他の財産について職務を行う権限を有した遺言執行者が明記されていないため、それについては遺言執行者がいないことになってしまいます。
そのような場合に備えて、例えば2.預貯金に関する一切の執行行為」の文言を、以下3のように記載して対応することも可能です。
3.遺言執行者Bは、その余の財産に関する一切の執行行為
このように記載した場合、Bは預貯金だけではなく1で定めたAの不動産に関する一切の執行行為以外、すべての財産について執行することが可能になります。
なお、3のような記載がなくその他の財産があった場合には、追加で家庭裁判所に遺言執行者の選任申立てをし、新たな遺言執行者を選任してもらうことになります。
遺言執行者が複数の場合~遺言に職務分担の定め無し~
以上が遺言書に職務の定めがある場合の対応ですが、遺言書には、具体的に職務が記載されていないときもあります。
例えば、遺言書に以下のような記載がされていた場合です。
「この遺言の執行者に、AとBを指定する。」
これでは、遺言書に関してAとBどちらがどの職務をすべきか分かりません。このようなとき、遺言の執行はどうなるのでしょうか。
次項で、遺言で複数の遺言執行者が指定されているものの、それぞれの職務の分担が定められていない場合の対応について説明しましょう。
職務分担を過半数で決定する
複数の遺言執行者がいる場合、民法では以下のように定めがあります。
(民法第1017条)
「遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。」
この規定により、複数の遺言執行者がいる場合には、任務の執行は過半数で決めることが分かります。
例えば遺言執行者が3人いる場合、2人以上の賛成を得られれば遺言の執行をすることができることになります。
しかし遺言執行者が偶数人いる場合は可否同数となることがあり、この場合の決定方法については定めがありません。
したがって可否同数の場合は遺言の執行が進まなくなり、スムーズな遺言の執行ができない可能性がありますので注意が必要です。
このような事態を避けるために、遺言書で以下のように記載しておくことも有効です。
≪例≫
「各遺言執行者は、単独で本遺言の執行業務を行うことができる。」
遺言書で複数の遺言執行者を指定して上記のような文言を記載した場合、それぞれの遺言執行者の職務が明確に記載されていなくても、遺言執行者は単独で執行業務を行うことが可能になります。
保存行為については単独で可能
上記で説明した通り、職務の定めのない複数の遺言執行者がいる場合、職務の執行にあたっては過半数による賛成を必要としますが、すべての執行について必要となるわけではありません。
前述した民法1017条の第2項に、次のような定めがあります。
(民法第1017条2項)
「遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。」
この規定により、「保存行為」については、遺言執行者が複数人いる場合でも他の遺言執行者の賛成を得ることなく一人の遺言執行者が単独ですることができます。
「保存行為」とは、遺産の価値を現状のまま維持するための保存行為のことで、例えば以下のような行為が該当します。
≪例≫
- 家屋の修繕(但し、家全体を修繕するような大規模修繕は、保存行為になりません。)
- 第三者が不動産を不法に占拠している場合、その者への明け渡し請求
- 不動産を権利のない者が勝手に名義にしている場合の抹消登記請求
- 時効の保全行為(債権の消滅時効の更新など)
遺言を執行する前後で財産の状態が変わってしまっては、遺言の内容が実現できないことになってしまいます。
保存行為は財産の状態を維持するために必要な行為ですので、過半数の賛成を得なくても単独でできるとされるのです。
複数の遺言執行者の場合、職務分担も決めておく
今回のコラムでは、遺言執行者が複数いる場合の執行の方法について解説しました。
一人の遺言執行者にすべての執行を委ねることが負担になりそうな場合、複数の遺言執行者を指定しておくことはスムーズな遺言の実現に有効です。
しかし単に複数人を指定しただけでは、誰がどの職務を行うのかを決めなければならず、その話し合いがまとまらなければかえって遺言の執行が妨げられてしまう結果になってしまいます。
そのような事態を防ぐためにも、遺言執行者を複数指定する場合には、誰にどの職務を行ってもらうのかを明記しておくか、あるいはそれぞれに単独で職務を執行する権限を与えるのかを遺言書に明確に記載しておくことをお勧めいたします。
長岡行政書士事務所では、遺言の作成について親切・丁寧な対応を心がけております。
遺言執行者の指定や遺言書の作成でお悩みの方は、ぜひ一度相談にいらして下さい。
あとがき
実務上は、遺言執行者を複数にすることも多く、その方が将来的なリスクを減らすことができます。
将来的なリスクとは、遺言執行者が遺言者より先に死亡し、執行不能に陥るリスクがあることです。
当然、執行者は若い方がいいかと思いますが、それでも何があるかわかりませんので、複数にしておくことで執行不能になることを防ぎます。
また、複数いる場合の職務分担については、「それぞれ単独で」執行できるようにすることが多いです。
職務分担を明確にしてしまうと、どちらか一方が死亡して執行不能になってしまっては元も子もありません。したがって、それぞれが単独でできるようにしておくことが大事です。
本日もお読みいただきありがとうございました。