「祖父の相続、遺言の手続きが終わる前に父が亡くなってしまった。相続はどうなるの?」
「祖父の遺言に基づく相続、手続き前に父は亡くなったので遺産分割協議は必要?」
「義父の遺言書、手続き前に夫が亡くなった。子どもが代わりに相続するの?」
遺言書が残されていた場合、相続の手続は遺言書に基づいて行われますが、手続をする前に相続人が亡くなってしまう場合もあります。
遺言書でその亡くなった相続人に遺産を相続させる内容になっていたようなケースでは、その相続手続はどのようになってしまうのでしょうか。
今回のコラムでは、遺言書で手続未了のまま相続人が亡くなった場合について解説していきたいと思います。
長岡:「こんにちは。今日もよろしくお願いします。」
Aさん:「よろしくお願いします!」
長岡:「さて、今回は少しややこしい状況ですが、相続人が遺言書の手続未了のまま亡くなった場合の相続について説明したいと思います。」
Aさん「遺言書の手続未了ということは、相続は開始されているということですか?」
長岡:「そうです。遺言者が亡くなり、相続人が遺言書で相続したものの、具体的な手続きをする前に亡くなってしまった、という状態です。」
Aさん:「相続したのに手続きはしていなかった、それで亡くなってしまったのですね。確かに少しややこしいです。」
長岡:「相続の現場では、相続の手続をする前に相続人が亡くなってしまうことは度々起こり得ることです。今回は、遺言書に基づく相続手続未了のまま相続人が亡くなってしまった場合についてくわしく見ていきましょう。」
Aさん:「相続はただでさえ大変なのに、その状況、知っておかないとややこしくて混乱しそうです。それではよろしくお願いします!」
目次
相続開始前に相続人が亡くなった場合
長岡:「簡潔な状況として、遺言書が書かれたけれども、遺言者よりも前に相続人が亡くなった場合について説明しておきましょう。この場合、相続はまだ開始されていません。遺言書を書いただけの状況であり、遺言者は健在ですので相続は発生していません。」
Aさん:「なるほど!それでその後遺言者が亡くなった場合、どうなるのか、ということですね。」
長岡:「どのようになると思いますか?」
Aさん:「その亡くなった人の子どもなど、亡くなった人の相続人が遺言書で書かれていた遺産を代襲相続するのですか?」
長岡:「そのよう考えがちですが、原則、代襲相続は適用されません。」
代襲相続とは
代襲相続とは、本来相続人となる被相続人(亡くなった人のこと)の子または兄弟姉妹がすでに死亡していた場合等に、その者の子が代わって相続することをいいます。
例えば長男が父親よりも先に死亡した場合、父親の遺産は長男の子(父親から見て孫)が長男の代わりに相続することになります。
これは遺言書が残されていない法定相続のケースであり、代襲相続が法定相続で適用されることは、法律で明確に定められています。
民法887条
第2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当(=相続欠格事由に該当)し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
代襲相続と遺言書の関係
ではこの代襲相続、遺言書による相続による場合にも発生するのかというと、判例では原則的には代襲相続が認められていません。
参考判例:最判平成23年2月22日
参照URL: 裁判所 – Courts in Japan:https://https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81092
代襲相続が認められないとなると、遺言書で指定したその相続人に対する遺産相続はどうなるのでしょうか。
この点、遺言書のその部分は効力を生じず、亡くなった相続人が相続するはずだった財産は法定相続人全員の共有となります。
民法994条1項
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
したがって、法定相続人全員でその財産について遺産分割協議をすることが必要となります。
合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
長岡:「以上が、相続開始前、遺言書があるだけの段階で相続人が亡くなった場合の相続になります。」
Aさん:「すでに色々ややこしいです・・・。」
長岡:「そのように感じるかもしれませんね。代襲相続の話題も出てきましたので、少しややこしく感じたかもしれません。相続開始前に相続人が亡くなった場合は、その遺産について法定相続人で遺産分割協議をすることになる、ということを覚えておきましょう。」
Aさん:「遺言書の亡くなった相続人に対しての遺産分割の指定部分が、無効になるからですね。」
相続開始後に相続人が亡くなった場合
長岡:「さて、相続開始後に相続人が亡くなった場合はどうなるのかもみていきましょう。」
相続は、被相続人が亡くなったときに開始されます。
したがって、相続の手続きを始めていないからといって、相続そのものが開始されていないことにはなりません。
遺言者(被相続人)が亡くなり、相続が開始されてから相続人が亡くなった場合、遺言により相続はしているものの、手続きだけが完了していない、ということになります。
そしてこの場合、相続人が亡くなったことによりそこでも新たに相続が発生しています。
したがって、亡くなった相続人の相続人は、つまり祖父の相続人である父の相続人である孫などは、亡くなった相続人が相続した財産も含めた遺産を相続することになります。
しかし相続手続きが完了せず亡くなっていますので、亡くなった相続人の相続手続と、自分の相続手続きをすることになります。
数次相続とは
もしも遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
そして被相続人が死亡した後、遺産分割協議をしないうちに相続人も亡くなったり、相続登記が完了しない間に次の相続が発生することを「数次相続」と呼びます。
このような数次相続は手続きが煩雑になるため、相続実務に慣れている行政書士などに相談したほうが安心です。
遺言書発動後の相続関係
Aさん:「相続という言葉がたくさん出てきて状況がややこしいです。」
長岡:「そうですね。わかりづらいですので、ここで具体例を挙げてみてみましょう。」
【具体例】
被相続人:父親A(母親はすでに他界)
相続人:長男B、次男C、長女D
長男Bには配偶者(甲)、子(乙、成人)あり。
- 2022年5月1日:被相続人Aが次の遺言を作成
「不動産を長男Bに相続させ、預貯金その他一切の財産を次男C、長女Dに1/2ずつ相続させる。」 - 2022年10月1日:被相続人Aが死亡。
- 2022年10月15日:長男Bが死亡、遺言書は書かれていなかった。
- 上記①で作成してあった遺言書については、手続き未完の状態。
【解説】
この場合、②の被相続人Aの死亡により、遺言に基づき不動産は長男Bが相続しています。
その後、長男Bは亡くなっていますが遺言書がありませんので、被相続人Aから相続した不動産も含めた長男Bの財産を、法定相続人である配偶者甲と子の乙が相続しています(法定相続人については「配偶者と子供の相続方法とは?法定相続や遺言書との関係を行政書士が解説!」で詳しく解説しています)。
したがって、相続手続は以下のようになります。
- 不動産について、被相続人Aから相続人(長男B)への相続手続きをする。
- (不動産も含めた)長男Bの財産について、法定相続人(配偶者甲及び子乙)で遺産分割協議をする。
- 遺産分割協議書を作成し、協議書に基づいて相続手続をする。
相続が起きたら速やかに手続きをすることが望ましい
今回は、手続未了の遺言の相続があり、さらにその相続人が亡くなった場合について解説しました。
相続手続きは煩雑なものや馴染みのないものが多く、それらに日常生活を送りながら対応することはなかなか難しいことです。
特に、今回の記事のように相続がいくつか重なると、手続きはさらに面倒なものになります。
相続手続で分からないことや困ったことがある場合には、弁護士や私たち行政書士などの専門家に相談してみることをお勧めいたします。
横浜市の長岡行政書士事務所では、相続のご相談に親切・丁寧な対応を心がけておりますので、どうぞお気軽にご相談にいらしてください。初回相談は無料で対応しています。