死後の財産の分け方も重要ですが、お墓の管理について気にしている方も多いのではないでしょうか。じつはお墓の管理についても、遺言書に記載できます。
お墓について心配事がある方は、ぜひ遺言書を使うこともご検討ください。この記事ではお墓を管理する人、すなわち祭祀承継者の概要や、遺言書への記載方法について解説します。
難しい法律用語も登場しますが、なるべく分かりやすいように物語調でお送りします。
むかしむかし、おじいさんとおばあさんがかわいがっていた犬、シロが「ここ掘れわんわん」と小判を探り当て、おじいさんとおばあさんは大金持ちになりました。
たっぷりの愛情を注がれて人間になれたシロは、おじいさんの遺言書を見たことがきっかけとなり、行政書士を目指すようになりました。
無事、行政書士試験に合格したシロは、おじいさんとおばあさんと暮らした思い出の家を「シロ行政書士事務所」とし、近隣の村人たちの相談に乗っていたのです。
村人たちの間では、すっかり立派になったシロの話でもちきり。
「シロが、『ここ大事わんわん』と教えてくれたら、見事に問題が解決するのう! ただ、言葉遣いが玉に瑕なところもあるけど…」
さてさて、今回は、そんなシロのもとに、隣村から死後のお墓の管理について相談にやってきているおばあさんがいるようです。
目次
被相続人は生前に墓を引き継いでくれる相続人を指定できる
おばあさん「私ももう歳じゃから、死んだあとのお墓のことが気になってのう。私が死んだ後もご先祖様代々のお墓を子どもたちに守っていってほしいんじゃ。じゃが、長男は遠い都へと行ってしもうたから、近くに住んでいる次男に管理を任せたいんじゃ。じゃが、次男は迷うておってな。私がなんとかお願いして次男に墓を継いでもらうことはできんじゃろうか?」
シロ「あ、令和の現代ならできますよ。全然余裕すね」
おばあさん「そんなにあっさり返事をされると、このコラムの流れを作りにくいんじゃが…」
シロ「へ? なんのことです?」
おばあさん「あ、いやこちらのことで」
シロ「被相続人、つまりおばあさんですね、その意思が一番に尊重される制度となっていますから、法的には問題ないんですよ。ただし、意思表示があればの話です」
おばあさん「石?つけもの石かい?」
シロ「それはお笑い的なボケですか? 認知症的なボケですか? 行政書士ですからどちらにも対応しますが」
おばあさん「ちょっと言ってみたかっただけじゃん…」
お墓は相続ではなく承継する
法律的な観点から開設すると、お墓は相続ではなく承継するものです。ここからは、お墓の引き継ぎにまつわる法制度について解説します。
承継と継承の違い
シロ「細かいことを言うと、お墓は相続ではなく、引き継いでもらうものなのです。「承継」と「継承」の違いはわかりますか?」
おばあさん「あの元陸上選手だった俳優の?」
シロ「それ照英さんね」
おばあさん「少し前に亡くなった笑福亭…」
シロ「笑瓶師匠ね。話し続ける気あります?」
おばあさん「もちろんじゃ…」
シロ「お墓を引き継ぐことについては一般的に承継と継承のどちらも使われているようですが、実務の現場では承継が多いです。とりあえず、これ覚えておいてくださいね」
承継は無形財産、継承は有形財産を受け継ぐこと
おばあさん「はい」
お墓は相続財産ではなく祭祀財産
シロ「お墓だけじゃなく、お仏壇、位牌など、先祖の祭祀に使うための財産は、法律上『祭祀財産(さいしざいさん)』と呼ばれます。この祭祀財産は、預貯金や不動産など通常の財産とは違って、相続財産には含まれず、遺産分割の対象にならないと考えられているんです」
おばあさん「じゃ、次男にお願いするのは無理ということかい?」
シロ「結論早すぎ、何Gの通信速度だよ! 無理なのではなく、遺産分割の対象とならず、別ルートで承継されるんです」
おばあさん「闇のルートかい?」
シロ「そうそう、ボルサリーノを粋にキメた次男さんが、深夜の波止場でコルトを片手に闇ルートを支配するボスと最後の対決…って、おい、アンダルシアに憧れている場合じゃないよ!」
おばあさん「なんだか、話が全然先に進まんのぅ。このコラム、長くなるかえ?」
シロ「なんか、ムカつく…じゃ、どんどん進めますからね! お墓やお仏壇などは相続ではなく、先祖の祭祀を主宰する人が受け継ぐものとして扱われます。例えば法事などを主宰する人ですね」
おばあさん「それ最近は次男の役目じゃのう」
シロ「ちなみに、お墓そのものだけでなく土地など、お墓と不可分な部分についても承継の対象となります。土地というと相続財産じゃないのかと考えられがちですが、この場合は相続した財産として総額から祭祀財産は差し引かれません」
おばあさん「ちんぷんかんぷん、てへぺろ」
シロ「てへぺろって、ウゼーし古いし。ま、要するに遺産の配分割合が減らないし、相続税を気にしなくていいってこと」
おばあさん「ひーはー! そりゃ助かりますじゃ」
お墓の承継に伴う習慣と法律上の規定
シロ「もうひとつ、この近隣の村々には昔からの習慣がありますよね。でも法律を無視して村の習慣を最優先しちゃいけませんよ。お墓の承継については法律で定められていますから」
(民法 第897条1項)系譜、祭具及び墳墓の所有権は、習慣に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
(同上2項)前項本文の場合において習慣が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
おばあさん「本当に法律の文書って、難しい…」
シロ「わかりやすく言うと、法律で定めているお墓の承継については習慣や遺言などで指定された人が承継するというわけですよ。必ずしも『この人でなければ承継できん』という法律じゃないと理解できればOKです」
おばあさん「でも見方を変えると、誰なら承継することができることになるんじゃ?」
シロ「誰でも継げるってわけ。明治時代までは家督制度のもと、お墓は長男が受け継ぐのが一般的でしたよね。でも現在では旧民法などにみられた家督制度は廃止されています」
おばあさん「時代は変わるのぅ…。中島みゆきさんの『時代』を歌ってもええか?」
シロ「歌うな!」
祭祀承継者の優先順位
シロ「最近だったら、おばあさんの家のように次男がお墓を受け継ぐパターンも大丈夫ですし、事実婚や同性婚のパートナーでも祭祀承継者としてお墓を引き継げるんです。多様化社会ですよね」
おばあさん「今回、私は次男に決めておるが、自由過ぎても誰を選んでいいかわからなくなりそうなもんじゃのう?」
シロ「おっ、そこ大事なんですよ」
シロ「祭祀主宰者については以下のように優先順位があります。
《祭祀承継者の承継優先順位》
①被相続人が指定
⇩<被相続人の指定がない場合>
②慣習
⇩<指定もなく、習慣もわからない場合>
③家庭裁判所の審判
シロ「被相続人の指定が優先され、指定がない場合には家庭裁判所の審判に委ねるのが優先順位の流れですね。一番に尊重されるのは被相続人である故人の意思なので、相続人ではない内縁配偶者や共同生活のパートナーなど血縁関係になくとも信頼のおける相手であれば指定することができるんです」
おばあさん「でも気になるのが、もし次男がその気になったタイミングで、長男が自分も祭祀承継者になると言い出してしまったらどうなるんじゃ?墓を巡って血で血を洗う対立に…」
シロ「なるかい! お墓の承継人となる祭祀主宰者は本来特定の1人であるべきですが、祭祀財産はシェアもできます。ただ、複数人で祭祀財産をシェアすると後々管理しきれなくなるリスクもあります」
おばあさん「承継人を指定するためには、どういう方法があるんじゃ?」
シロ「法律には特段の規定はないですけど、伝わらないと意味がないですよね。なので口頭で「墓をよろしく」と伝えてもいいですし、書面でもいいです」
おばあさん「テレパシーは?」
シロ「お前…能力者かッ! って、やれるもんならやってみなさいよ…」
遺言書で祭祀主宰者を指定する方法
シロ「遺言書でお墓の承継について記載するときには、2つのポイントを守るようにしてください」
- 必要となるお金なども細かく指定する
- 指定する人の氏名・続柄など明確に記載
必要となるお金なども細かく指定する
通常は遺産の分配について記載した後に祭祀主宰者などについて記載がなされます。このとき祭祀主宰者だけではなく、必要となるお金について、誰に引き継いでほしいのかなどは細かく書いておくと後で承継する人が困りません。
指定する人の氏名・続柄など明確に記載
指定する人の氏名・続柄などを明確に記載しないと混乱を招きます。誰に祭祀主宰者を任せたいか、祭祀財産の管理など誰に承継したいかをしっかり明記します。「誰」を特定しやすいよう、続柄や氏名、生年月日なども加えておくとよいでしょう。間違っても「娘に任せる」などの曖昧な書き方はいけません(2人姉妹だったらどちらかわからないため)。
おばあさん「なるほどのう。要するにどこの誰に何をどうお願いしてどれくらいのお金を残しておくかということを、きっちりかっちり書き漏らすなということじゃな」
シロ「そゆこと。」
祭祀主宰者の指定については遺言の方式を欠いたものも有効
シロ「あと、本来遺言書は、法律で規定された遺言の方式に沿ったものでなければ有効な遺言として扱ってもらえませんが、祭祀主宰者の指定については遺言の方式を欠いたものであっても通用はします」
おばあさん「どうしてじゃ? 急に難易度が下がったのう」
シロ「祭祀主宰者の指定については、相続人の意思が認められることが何より重要だからですよ」
おばあさん「何はともあれ、承継については、周囲の人に伝わるようにひとまず一筆残しておけばよいわけじゃな」
シロ「そうですね。お墓を承継してほしい人はいる。でも揉めたら嫌だからなんとなく伝えづらいから伝えたくない。でも遺言書って難しそうだから…とウダウダせず、さくさく一筆書くなり、行政書士に相談したほうが気が楽になるってわけです」
横浜市の長岡行政書士事務所では、お墓の承継にまつわることにも対応しています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
祭祀財産の承継は放棄できない
おばあさん「あと最後に。祭祀主宰者に指定された場合、基本的には拒否することはできるのかえ?」
シロ「無理すね。同時に、お墓などの祭祀財産の承継については手段がないですから、承継を放棄することもできません」
おばあさん「そりゃプレッシャーじゃのう」
シロ「もっとも祭祀を執り行う法的な義務を負わせるという法律もないですから、祭祀を確実に執り行う義務を負ってもいません。早い話が、おばあさんの法事とか、やってもやらなくてもどっちでもいいと認められているんです」
おばあさん「やってよお~、さみしいよお~」
シロ「あと祭祀主宰者には祭祀財産を処分する権利も与えられるため、墓じまいなどもできます」
おばあさん「やだよお~、お墓にいたいよお~」
祭祀承継者の遺言書記載例
祭祀承継者を遺言書で指定する文章例を紹介します。
第1条 遺言者は所有する下記不動産を含め一切の不動産を夫A(生年月日)に相続させる 記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略)
第2条 遺言者は、所有する下記の株式(〇〇証券〇〇支店に預託)を長男B(生年月日)に相続させる。 記 ①横浜自動車株式会社の株式全部 ②神奈川商事株式会社の株式全部
第3条 遺言者は祖先の祭祀を主宰する者として長女C(生年月日)を指定する。
2 長女C(生年月日)には墓地を含む〇〇家代々の墓及び仏壇等、祭祀に必要な財産の一切を相続させる。
3 長女C(生年月日)には祭祀に必要な費用に充てるため、次の預貯金の全部を相続させる。 記 ①きゅうり銀行〇〇支店 口座番号1234の遺言者名義の普通預金 ②キャベツ銀行〇〇支店 口座番号5678の遺言者名義の定期預金
令和5年1月1日 神奈川県横浜市港南区港南○丁目○番◯号 遺言者 家永 ひまり 印 |
合わせて読みたい>>お墓の相続(継承)はどうなる?遺言書でお墓の承継人を指定する方法
墓じまいも遺言書で対応できる
さて、お墓を承継させるのではなく、自分が死んだら墓じまいしてほしいと考えることもあるかもしれません。
墓じまいを遺言書で対応するには、次の2通りの方法が考えられます。
- 付言事項
- 負担付遺贈
それぞれ詳しく解説します。
付言事項で墓じまいをお願いする
遺言として法的な効力が与えられる事項(財産や認知、遺言執行者の指定など)は法律で定められており、これを「法定遺言事項」といいます。
これに対して、遺言者の気持ち・メッセージは「付言事項」とよばれており、残された人へ自分の願いを伝えられる事項です。
合わせて読みたい>>遺言書の「付言事項」について行政書士が解説!遺言者の想いを込める
付言事項には法的効力はありませんが、墓じまいをお願いする旨を書いておくことは可能です。
負担付遺贈で墓じまいを条件にする
墓じまい(墓の処分)を義務としたい場合には、負担付遺贈の活用も検討できます。
負担付遺贈とは、財産を受ける人(受遺者)に義務負担(条件)をつけて財産を譲ることです。
例えば、妻やペットの世話を条件に預貯金を遺贈する、という使われ方をします。
この負担付遺贈によって「長男Aは遺言者の財産○○を相続する、その負担として墓じまいを行う」などと記載しておけば、付言事項よりは強制力を持たせて墓じまいを指定できます。
ただし、指定される側の負担にもなりますから、生前のうちに話し合ってから記載した方がいいでしょう。また、墓じまいすることができるのは祭祀承継者ですので、前述した通り祭祀承継者の指定も必ず入れるようにしましょう。
遺言による祭祀承継者の指定は確実に守ってくれる人を指定
シロ「上記のようにならないために、承継者となる人と話をして、『大切に守っていくつもりがある』ということをしっかりと確認することが大切です。押し付けもできなくはないですが、結局は、コミュニケーションなんですよ」
おばあさん「わかりましたわい。今度長男が久しぶりに返ってくるから、
昔よく作った我が家のふるさとの味、ポテトチップスの磯部焼きでもふるまいながら次男と一緒に話そうかのう」
シロ「ビミョーな料理…うん、はい…応援してます…」
祭祀承継者の指定は、被相続人(本人)の意思がもっとも尊重されます。しかし、指定される側の負担を考えることも忘れてはいけません。
また、遺言書で承継人を決める場合、遺言書の要件を満たすことにも注意しましょう。承継人の指定は遺言書の要件を満たしていなくても有効ですが、その他財産の譲り方など法定事項については遺言書の要件が守られていないと無効となってしまいます。
長岡行政書士事務所では、お墓の承継人を指定することはもちろん、スムーズに相続手続きするための遺言書作成もサポートしています。死後の手続きについて少しでも不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。