「遺言執行者」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。遺言執行者は遺言内容をスムーズに実現させるために、非常に重要な存在です。そして、
この記事では、分かりづらい遺言執行者の復任権、執行者の代理人について、「三匹のこぶた」に例えながら解説します。
三匹のこぶたに遺言書を残そうとした母ぶたに、悪いオオカミが近づき、間違った遺言書を残させようと悪だくみを考えました。しかし、隣村の赤ずきんちゃんと、赤ずきんちゃんの仲良しの漁師さんが悪だくみを見破り、オオカミをやっつけました。母ぶたは、赤ずきんちゃんと漁師さんから無事、横浜市港南区の行政書士を紹介してもらい、遺言書を書くことができたのでした。
赤ずきん「母ぶたさん、こんにちは」
母ぶた「おや、赤ずきんちゃん。この前はありがとうね。あら漁師さんもご一緒なのね」
漁師「もう悪いオオカミは来てないずらか?」
母ぶた「おかげさまでね。さあさ、おあがり。ちょうどクッキーが焼けたんですよ。それにちょうどよかった。相談したいことがあったの」
赤ずきん「わあ、クッキー大好き! でも、相談って、何かあったの?」
母ぶた「この前、2人のおかげで無事に遺言書を書いたでしょ。書けたのはいいけど、気になることがでてきてね」
漁師「気になることって、どんなことずら?」
母ぶた「相続人は子ども達だけれど、誰か一人の負担になりゃしないかってね。特に兄ぶたはしっかりものだけど、きちんとできるか、やっぱり不安でねえ」
漁師「なるほどずら。確かに、遺言を執行するとき、兄ぶたは不動産である石の家の所有権をお母さんぶたから長男に移転する登記手続きをしなくちゃいけないずら。手間がかかったり、複雑なものにならないか、親心として心配になってもおかしくないずら」
赤ずきん「だったら、遺言執行者を指定しておいたらどうかしら?」
漁師「そうずら! それがいいずら!」
目次
遺言執行者とは
母ぶた「そういえば、花咲かじいさんのところのシロが、『ナントカ執行者になりたい!』って駆け回ってたねぇ」
赤ずきん「あの口が悪いシロね。まあ行政書士を目指している仲間ではあるけど…あいつなんかに負けやしないわ!」
母ぶた「それで、ナントカ執行者というのは、いったいどういうものだい?」
赤ずきん「遺言執行者は、遺言者が亡くなった後に、遺言の手続きをする人のことよ」
母ぶた「ああ、そうそう! それなのよ。遺言執行者に指定されたら、何がなんでも指定された本人が遺言を執行しなくちゃいけないのかい?」
赤ずきん「まずは遺言執行者の概要から説明しておくわね。ポイントをまとめるとこんな感じね」
《赤ずきんメモ:遺言執行者とは》
- 遺言執行者は通常遺言によって指定されるが、家庭裁判所に申立てをし、選任してもらうこともできる
- 遺言執行者は弁護士・行政書士などの専門家である必要はない
- 遺言執行者は未成年や破産者以外であれば誰でもなることができる
- 遺言執行者は独立した中立・公正な立場であり、相続人との利害に反しても遺言内容を執行する
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遺言執行者の義務
漁師「遺言執行者は遺言者にかわって遺言を実現することが求められているから、いろんな義務もあるずら」
- 任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(民法1007条2項)
- 遅滞なく、財産目録を作成して、相続人に交付しなければならない(民法1011条1項)
- 遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条1項)
赤ずきん「このほか、民法644条から647条、650条における委任規定の準用があるのよ」
- 受任者の注意義務
- 受任者による報告
- 受任者による受取物の引渡し等
- 受任者の金銭の消費についての責任
- 受任者による費用等の償還請求等
漁師「遺言執行者はこれらの義務を守りながら、遺言を実行するための手続きを行うずら」
遺言書で与えられる遺言執行者の代表的な権限
遺言書に記載することで、遺言執行者にはさまざまな権限を与えられます。代表的な権限は次のとおりです。
- 遺言執行者の権限の具体例
- 相続人調査・相続財産調査
- 財産目録の作成
- 不動産の登記申請手続き
- 保険金の受取人の変更
- 預貯金の払い出し、分配
- 株式の名義変更、換金
- 自動車の名義変更
- 貸金庫の解錠、解約、取り出し
母ぶた「もう、何がなんやら…」
赤ずきん「そうよね、ちょっと一気に説明しすぎちゃった。ごめんね」
漁師「確かに普通に暮らしていたらなかなか携わることがないことも多いずら」
母ぶた「兄ぶたはとてもいい子だけど、これだけの遺言執行をやりきれるか、やっぱり心配だわ…」
遺言執行者の復任権(代理人)
赤ずきん「母ぶたさんの気持ちはとてもよくわかるわ。遺言執行者が職務を遂行することは、なかなか大変なことなのよね。兄ぶたさんにも自分の生活があるし、生活に加えて、遺言執行者の義務をこなすのはしんどいでしょうね」
漁師「そういうときにこそ、遺言執行者の復任権を使うといいずら」
母ぶた「それはなんなんだい?」
赤ずきん「遺言執行者は、指定されたからと言って必ず引き受けなければならないものではないの。でも、母ぶたさんから指名されたなら、兄ぶたさんとしてはできる限り引き受けたいと思うんじゃないかしら」
母ぶた「そうなのよねえ、あの子はそういう子だから」
赤ずきん「そこで、専門家に執行をお願いすることで対応ができるというのが遺言執行者の復任権なの」
《赤ずきんメモ:復任権の内容》
- 遺言執行者第三者に任務を行わせることができる
- ただし、遺言者が遺言で復任権を制限している場合は、遺言者の意思が優先される
- 第三者に任せた場合、遺言執行者の自己責任となる
赤ずきん「遺言で制限されていなければ、第三者に遺言執行者としての任務を行ってもらうのも自由なのね。ただし、第三者が問題を起こしちゃったら、遺言執行者…つまり兄ぶたさんが責任を負うことになるわ」
母ぶた「ということは、本当に信頼できる人じゃないとダメってことね」
遺言執行者の復任権は遺言書の日付に注意
漁師「念のため、母ぶたさんが遺言書に記した日付はいつになっているずらか?」
母ぶた「ええっと、2020年の1月1日ね」
漁師「それなら問題ないずら」
母ぶた「日付が何か関係あるのかい?」
赤ずきん「実は2019年7月1日に民法が改正されているの。旧法では復任権は認められにくかったのね」
※厳密に言うと、遺言者が遺言書上で復任権を認めていれば旧法でも復任権は可能
母ぶた「まあ、そうなのかい?」
赤ずきん「2019年7月1日以前の日付の場合は、旧法があてはまるので、日付の確認が不可欠なのよ。母ぶたさんの場合は、改正後で新法が適用されるから、遺言執行者の復任権も認められるの」
漁師「旧法が適用される日付の場合は、必ず行政書士に相談して細かい確認をとったほうがいいずら。気を付けたいのが、確認するのは相続が開始された日(=遺言者が亡くなった日)ではないということずら」
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赤ずきん「どう? 復任権があるなら、兄ぶたさんの負担も軽くなると思わない?」
母ぶた「今日は本当にいいことを聞けたわ。兄ぶたにも相談をしなくてはいけないけど、あとは復任権を誰に任せるかよね」
赤ずきん「大丈夫! 私のお師匠さんがいるから安心して。親切・丁寧・迅速対応がモットーなのよ。頼りになると思うわ」
母ぶた「ありがとうね。ささ、クッキーが冷めないうちに皆で召し上がりましょう」
赤ずきん・漁師「わーい、いただきます(ずら)!」
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