「今使っているスマートフォン、自分が亡くなったらどうなるのだろう。」
「今は現金決済せず、ほとんどスマホで決済しているけれど、自分に何かあったらどうなるのか。」
「パソコンやスマホにタブレット、自宅に色々な機器があるけれど、誰がどの程度使っているのか知らない。」
今現在、みなさんの日常生活において、スマートフォン(以下、スマホと記載)などのいわゆるデジタル機器はどの程度浸透しているでしょうか。普段の生活を振り返ってみてください。
ほとんど使っていない、という方も中にはいらっしゃるかと思いますが、多くの方が、スマホを持ち歩き、連絡手段として使ったり、写真や動画を撮ったり、調べ物をするときに使ったりしているのではないでしょうか。
これらのデジタル機器は、持ち主が亡くなると 「デジタル遺品」となります。
今回は、この「デジタル遺品」について概要を説明していきたいと思いますので、みなさんにはぜひこの機会に、デジタル遺品というものが現代社会に存在することを知っていただきたいと思います。
目次
デジタル遺品とは何か
まず初めに、そもそも「デジタル遺品」とはどのようなものなのでしょうか。
実は、「デジタル遺品」が何であるのかについて、法的な定義はないのです。
しかし一般的には、「デジタル遺品」とは「パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウント等」を指すものと考えられています。
スマホは持ち歩きに便利な大きさで、様々なことができる非常に便利なツールです。
現代社会ではすっかり人々の生活に浸透し、日常生活になくてはならないものであると言っても過言ではありません。
スマホやパソコンなどのデジタル機器が発展して普及する前は、「目に見える遺品」がほとんどでしたので、相続の際、遺産を調べるのはそこまで分かりにくいものではなかったと言えます。
しかし、デジタル機器が普及した現代社会では、デジタル機器の中にある、あるいはデジタル機器による「目に見えない遺品」が登場しました。それが「デジタル遺品」です。
デジタル機器に保存されているということは、デジタル遺品は、「デジタル環境を通してしか実態がつかめない遺品」ということになります。
例えば、夏休みに家族旅行に行って写真を撮ったとします。
以前からあるフィルム式のカメラで撮影して現像した写真であれば、誰が見てもそれは写真であり、家族が見ればいつの旅行の写真か、ということも分かります。
しかし、例えばUSBメモリで「12345.jpg」のようなファイル名で保存されていたらどうでしょうか。
USBメモリという媒体を見ただけでは、そこに写真データが入っていることはわかりません。また、USBメモリをパソコンに差し込んだとしても、表示されるのはその「12345.jpg」のファイル名です。
ファイル名だけでは、それが何であるのかわかりません。
このようにデジタル遺品は、誰が見てもそれが何であるのかが分かるものではなく、そもそもその遺品が存在するのかどうかも、デジタル機器を通さなければ分からないという性質をもったものなのです。
デジタル遺品の例
前述のような性質をもつデジタル遺品ですが、では、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
デジタル遺品の具体例を考えるときに必要となる視点が、大きく分けて「デジタル機器」「オフライン」「オンライン」の3種類になります。これら3種類のデジタル遺品はどのようなものであるのか、それぞれを身近な「家」に例えて説明していきたいと思います。
デジタル機器
デジタル機器そのものについては、「家」をイメージしてください。
デジタル機器はデジタルデータを収納するものであり、様々な家具などを収納する家に例えることができます。
例えば、スマホやパソコン、タブレット、USBメモリなどが該当します。
これらのデジタル機器は、電源を入れ、起動させ、場合によってはログインという作業をしなければ中身を確かめることができません。パスワードなどを解くにしても、デジタル環境の中でしかできません。
デジタル機器そのものについては、カメラなどの他の機器と同様に処理ができるため、あえてデジタル遺品として処理する必要性に乏しく、デジタル遺品には含まれないと考えられます。
しかし、以下で説明するオンライン・オフラインのデジタル遺品が存在するうえで欠かせないものですので、デジタル遺品と合わせて考察していきます。
合わせて読みたい>>故人のスマートフォンは相続する?確認事項や契約解除について解説
オフラインのデジタル遺品
オフラインのデジタル遺品については、「家の中にあるもの」をイメージしてください。上記の「家そのもの」であるスマホやパソコン、メモリーカードなどに保存されたデータが該当します。
具体的には、デジタル機器に保存された以下のようなデータがオフラインのデジタル遺品として挙げられます。
- 写真や動画、音楽ファイル
- ワードやエクセルなどの文書ファイル
- インストールしたアプリや操作履歴、送受信済みのメールなど
これらのデータは、デジタルでのみ存在するという意味では、デジタル遺品の典型といえます。
このオフラインのデジタル遺品は、基本的には複製が簡単にでき、あえて削除しない限り、いつまでも存在し続けます。
そのため、長期間使用したデジタル機器の中には膨大で複雑なデータが知らないうちに残されることもあります。
また、デジタル機器の所有者自身がその機器内で操作するものですので、第三者の存在を前提としない点も特徴です。
第三者の存在を前提としないため、相続の場面においては、基本的には相続人間の間で処理をすることになります。
オンラインのデジタル遺品
オンラインのデジタル遺品については、「家の外(そと)」にあるものをイメージしてください。
デジタル機器という家の外には、インターネットという社会があります。その外の社会であるインターネットを通じて存在するものになります。
オンラインのデジタル遺品は、インターネットという「家(=デジタル機器)の外」にある社会の中に存在しますので、インターネットにつながった状況を前提としたデジタル遺品になります。
オンラインのデジタル遺品の具体例としては、以下のようなものが該当します。
- フェイスブック、ツイッター、ブログなどのSNSに投稿したデータ
- オンラインストレージに保存された画像や動画のデータ、ファイル
- ネット銀行やオンライン証券会社の口座などの電子口座
- 電子マネー
- 上記を使うための権利(アカウント)そのもの
またオンラインのデジタル遺品は、オフラインと違い、サービス提供者の存在を前提としています。
サービス提供者の存在を前提としますので、相続の場面においては、基本的には相続人の間だけで処理することはできず、第三者であるサービス提供者との間で処理をしていくことが必要となります。
デジタル遺品の相続
これまでの説明で、デジタル遺品が具体的にどのようなものか、イメージはついたでしょうか。
ここからは、相続の場面においてデジタル遺品はどのように処理されるのか、デジタル遺品の相続について説明していきましょう。
デジタル遺品の相続については、大きく次の2点が問題になります。
- デジタル遺品を相続できるのか
- どのように引継ぎを行うのか
これら2点の問題について、それぞれみていきましょう。
なお、「デジタル遺品を相続できるのか」については、オフライン・オンライン遺品はそれぞれ性質が異なりますので、それぞれ分けて説明します。
オフラインのデジタル遺品の相続
パソコンやスマホに保存されているデータなどのオフラインのデジタル遺品については、実は所有権が認められていません。
民法上の所有権の対象となる「物」については、「空間の一部を占める有形的存在である有体物」に限定されているため、データ(無体物)であるオフラインのデジタル遺品は、所有権の対象とはならないと解されているのです。(東京地裁判決平成27年8月5日)
したがって、オフラインのデジタル遺品は、所有権自体を相続することはできません。
デジタルデータに所有権は想定できないわけですが、無体物であるデータについて検討されるのは、知的財産権(特に著作権)になります。
デジタルデータが「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)として著作物に該当する場合には、著作権の対象であるため、その知的財産権を相続することは可能となります。
オフラインのデジタル遺品についてまとめると、前述したように所有権を相続することはできません
しかし、パソコンやスマホ、タブレットといったデジタル機器そのものについては、有体物ですので所有権が存在します。
オフラインのデジタル遺品は、それらデジタル機器そのものの中に保存されているデータですから、各デジタル機器の所有権を相続した際、機器と共にデータを引き継ぎ、その相続人が機器やデータの処分を行うことになります。
オンラインのデジタル遺品の相続
オンラインのデジタル遺品について注意が必要なのは、故人の「一身に専属したもの(一身専属)」に該当し、相続できない場合があるということです。
「一身専属」とは、権利や義務が個人に専属し、第三者に移転しない性質をいいます。
例えば、LINEがそのひとつです。
LINEの利用規約には、「本サービスのアカウントは、お客様に一身専属的に帰属します。(中略)第三者に・・・相続させることはできません。」と明記されています。
したがって、LINEは本人以外には引き継ぐことができません。
相続では、故人の財産に属した一切の権利義務が対象となるのが原則ですが、この一身専属性のある権利義務については、例外として相続の対象とはなりません(民法896条)。
したがってオンラインのデジタル遺品については、それが一身専属性を有するかどうかの確認することが必要となりますが、サービスの種類で判断することは難しいといえます。
それぞれのサービスについて、個別に利用規約やサポートページのQ&Aなどを調べていくことになりますが、規約に見あたらなかったり判断が難しい場合には、サービス提供者に直接確認をとることで確実になります。
オンラインのデジタル遺品は、フェイスブック、LINE、ツイッター、そのほか様々なものがありますので、それらについて個別に引き継ぎ方法を確認することが必要です。
デジタル遺品を放置することのリスク
デジタル遺品の世界は、対象が目に見える「物」ではありません。
そのため、デジタルデータの処分や各サービスの引継ぎ、削除や解約等の手続きは複雑そうでなかなか手につかず、放置をしてしまう場合が考えられます。
しかし、デジタル遺品の放置には以下のようなリスクが考えられますので、相続の際にはデジタル遺品を放置せず、適切な処理をすることが大切となります。
■オフライン遺品
デジタル機器そのものを放置していた場合、デジタル機器内部にあるオフライン遺品(=デジタルデータ)が第三者に盗まれてしまうリスクが生じます。
デジタルデータには個人的な情報も多く含まれますから、第三者に盗まれることを防ぐ必要があります。
デジタル機器及びオフライン遺品は放置せずに、相続の際に適切な処理をすることが大切です。
■オンライン遺品
オンライン遺品の放置は、オフライン遺品の放置に比べると、様々なリスクが発生することが考えられます。
なぜならオンラインのサービスは多岐にわたっていますから、故人が様々なサービスを利用していた場合、それらサービスに関係した放置リスクが発生する可能性があるからです。
(具体例)
- 定期課金タイプのインターネットサービスの課金が継続され続ける。
- アフィリエイト広告等(※1)のようにサービス利用者の義務が存在するインターネット上のサービスについて、それらの義務の履行が放置され、後に損害賠償の対象となってしまう。
- SNSアカウントについて、アカウント乗っ取り(※2)の被害にあう可能性がある。
- 暗号資産(※3)の放置は税務申告上の問題につながる(暗号資産は相続税の対象となる。)
このようにオンライン遺品については、放置によるリスクの種類も多く多岐にわたりますので、オフライン遺品よりもより一層適切な処理が大切であると考えられます。
(※1)アフィリエイト広告
ブログで企業の商品やサービスを紹介することで得る成果報酬型広告のこと。
(※2)アカウント乗っ取り
アカウントのログインを許可していない第三者に無断でログインされ、アカウント操作をされること。
(※3)暗号資産
電子データのみでやりとりされる通貨。法定通貨のように国家による強制通用力を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。
デジタル遺品の相続についても準備が必要
今回のコラムでは、現代社会に新たに登場した「デジタル遺品」の概要について解説しました。
実際の相続の際には、オフライン・オンライン遺品それぞれについて、個別にデータの見つけ方や引き継ぎ方、しまい方(解約、消去方法等)を知って対応することが必要になりますが、まずは大まかな概要を知ることが重要です。
ご自身の日常生活でデジタル遺品に該当するものを利用する際には、将来それらがデジタル遺品となることを知って意識して生活するだけでも、身近な方が亡くなり、デジタル遺品を処理する必要が生じた際に役立つことと思います。
今回のコラムを参考に、デジタル遺品に目を向け、将来発生する相続に備えていただきたいと願います。