
「自宅と預貯金を、子ども3人に平等に遺したい」と思い遺言書を書く場合、困ってしまうことがあります。
現金なら数字できれいに割り切れても、不動産はそのままでは平等に分けられないためです。
このような場合、「現物分割」「代償分割」「換価分割」といった分割手法を活用することになるのですが、何が違うのか、よく分からないという方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、遺言書作成時に知っておくべき現物分割・代償分割・換価分割について解説します。書き方の例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺言書の書き方は2パターン
まず、遺言書の書き方には『相続分の指定』という方法と『遺産分割方法の指定』という方法があります。
現物分割・代償分割・換価分割を遺言書で指定する際は、この違いについて知っておく必要があるため、それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続分の指定とは?
相続分の指定とは、法定相続分とは異なる割合の相続分を遺言で指定することです。
法定相続分とは、遺言によって相続分の指定がない場合に適用される法律で定められた相続分のことです。
- 配偶者と子が相続人の場合 ・・・・ 各2分の1
- 配偶者と父母が相続人の場合 ・・・ 配偶者が3分の2、父母が3分の1
- 配偶者と兄弟が相続人の場合 ・・・ 配偶者が4分の3、兄弟が4分の1
また、子や兄弟が複数いる場合には上記の相続分を子や兄弟の人数で均等割りをすることとなります。
| 例 「長女Aの相続分は3分の1、長男Bの相続分は3分の2とする。」 |
相続分の指定について、民法902条1項に定めがあります。
民法 902条1項 被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
この法律は、「共同相続人の相続分を定めること」「相続分を定めることを第三者に委託すること」ができるというものですが、いずれの場合も遺言によって行う必要があります。
このような遺言が残されている場合、相続人は遺言で指定された割合で遺産を相続することになります。
遺産分割方法の指定とは?
遺産分割方法の指定とは、相続人に対して相続の方法を遺言で指定する方法です。
| 例 「妻Cに下記不動産を相続させる。長男Dに下記預貯金を相続させる。」 |
遺産分割方法の指定について、民法908条に定めがあります。
民法908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
この法律は、「遺産の分割の方法を定めること」「遺産の分割の方法を第三者に委託すること」「相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産の分割を禁止すること」ができるというものですが、いずれの場合も遺言によって行うことが必要です。
このような遺言が残されている場合、相続人は遺言で指定された方法で遺産を相続することになります。
そして、この遺産分割の方式に、『現物分割』『代償分割』『換価分割』といった方法があるのです。
これらのうち、どの方法を選択するのかを指定するのが、本来的な遺産分割方法の指定です。
『相続分の指定』と『遺産分割方法の指定』の違い
『相続分の指定』と『遺産分割方法の指定』の違いについて、改めてまとめます。
『相続分の指定』の場合には、相続分の割合のみを遺言で定め、具体的な相続財産の分け方は相続人による協議に委ねることになります。
つまり、『相続分の指定』は相続開始後の『遺産分割協議』が必要となります。
したがって、相続財産に不動産や預貯金が含まれる場合、遺言によって抽象的に「2分の1」と定めがあったとしても、具体的に「どの財産をどの相続人が相続するか」ということについては、遺産分割協議を行わなければ決まりません。
よく「遺言書があると遺産分割協議書をしなくていい」といいますが、実は『相続分の指定』しかされていない場合は、遺産分割協議が必要になってしまうのです。
一方、『遺産分割方法の指定』がされており、遺言者が相続財産の全てについて遺産分割方法の指定している場合、相続財産は全て遺言の指定によって分割されます。
つまり、『遺産分割方法の指定』の場合には、相続人は『遺産分割協議』を行う必要はありません。
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そのため、相続人が遺産分割協議をしなくて済むように遺言書を書きたい場合は、しっかり遺産分割方法を指定しておく必要があるのです。
遺産分割の種類ごとの遺言書の書き方
もし、遺産がお金など、物理的に分けることのできるものだけであれば、各相続分で割ることができるのでわかりやすいですよね。
しかし実際には、不動産や自動車、貴金属などの遺産などもあるため、物理的に割ることが難しいということが多々あります。
そこで、それらの『割ることのできない財産』について、どのような方法で分けるか決めなければなりません。
この、遺産をどのような方法で分けるか決めることを『遺産分割』といい、その方法のことを『現物分割』『代償分割』『換価分割』といいます。
ここからは、これら分割方法ごとの特徴と、それぞれを指定したい場合の遺言書の書き方について見ていきましょう。
現物分割
現物分割とは、各財産をそのまま各相続人が相続する方法です。
例
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遺言書の例は次のとおりです。
| 第1条 遺言者は所有する次の不動産を遺言者の妻A(生年月日)に次の相続分させる。 記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略) 第2条 遺言者は、所有する下記の株式(〇〇証券〇〇支店に預託)を長男B(生年月日)に相続させる。 記 ①横浜自動車株式会社の株式全部 ②神奈川商事株式会社の株式全部 第3条 遺言者は、次の預貯金の全部を長女C(生年月日)に相続させる。 記 ①きゅうり銀行〇〇支店 口座番号1234の遺言者名義の普通預金 ②キャベツ銀行〇〇支店 口座番号5678の遺言者名義の定期預金 令和○年○月○日 氏名 印 |
代償分割
代償分割とは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、他の相続人に対して金銭などを対価として支払うような方法です。
| 例 長男が土地(3000万円相当)を相続する代わりに、他の相続人に対して3000万円を支払う。 |
相続財産が不動産などの物理的に分割しにくいものが多く、現物分割など分割しにくい場合に利用されることが多いです。
遺言書の例を見てみましょう。
| 第1条 遺言者が所有する次の不動産を含む下記の財産は、遺言者の長男A(生年月日)に相続させる。 記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略) 第2条 長男A(生年月日)は、前条の遺産を取得する代償として、次男B(生年月日)に対して、金〇〇万円を支払う。 令和○年○月○日 氏名 印 |
換価分割
換価分割とは、相続財産を売却して、売却代金を分割する方法です。
| 例 相続財産である土地と家屋を売却したら5000万円で売れた。土地と家屋の売却で得た5000万円を各相続人で分割する。 |
相続財産に自宅などの不動産があるけれど、相続人が誰も住む予定がないというような場合に利用されることが多いです。
関連記事:遺言書で不動産を売却できる?相続人で売却金を分配する流れについて行政書士が解説!
遺言書の例を見てみましょう。
| 第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を換価処分させ、その換価金から、遺言者の葬儀費用、未払いの債務等、不動産登記費用等の諸費用を控除して支出させ、その残余金を遺言者の長女A(生年月日)に相続させる。 記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略) 令和○年○月○日 氏名 印 |
指定分割と協議分割はどちらが優先?
さて、遺言で遺産分割方法を指定している場合であっても、遺産分割協議がなされた場合、どちらが優先されるのでしょうか?
基本的に、有効な遺言書がある場合には、法定相続よりも優先されます。
つまり、「遺言書があれば、遺産分割協議による分割をすることなく、遺言書に従って遺産分割すべき」ということです。
この意味では、「指定分割は遺産分割協議による遺産分割に優先する」と言えます。
ただし、相続人全員が同意する場合、遺言書とは異なる方法での遺産分割も可能です。
つまり、指定分割が優先するとはいっても絶対的ではないのです。
相続人全員の合意があれば遺産分割協議を行なった上での遺産分割を進めることができるので、この場合には「遺産分割協議による遺産分割が指定分割よりも優先される」ということになります。
参考:遺言がある場合の遺産分割協議はどうすればいい?手続き方法や注意点を行政書士が解説
遺言書で分割方法を指定する際は行政書士に相談!
今回の記事の要点をまとめます。
- 遺言でどのような分割をしてほしいか、分割方法を指定することができる。
- 分割方法には『現物分割』『代償分割』『換価分割』の3パターンがある。
「現物分割」「代償分割」「換価分割」の特徴は記事内で紹介したとおりですが、どの方法が最適かは、遺産の内容や相続人それぞれの事情によって大きく変わります。
不動産をそのまま残したいのか、相続人間の公平さを優先したいのか、あるいは売却して現金で分けるのが現実的なのか。同じ財産構成でも、家族の状況が異なれば「正解」は変わってきます。
そのため、実際のところ、どの分割方法なら自分の希望を叶えられるのか知りたい場合は、遺言書作成に詳しい行政書士へ相談してみてください。もちろん、当事務所へのご相談も歓迎しております。これまで数多くの遺言書作成をサポートしてきた経験を活かし、アドバイスさせていただきます。
<参考文献>
・新井誠・岡伸浩 編 日本評論社 『民法講義録』
・潮見佳男著 有斐閣 『民法(全) 第3版』
・常岡史子 著 新世社 『今日の法学ライブラリ 家族法』
・神余博史 著 自由国民社 『国家試験受験のための よくわかる民法 第9版』









