「遺言書で相続方法を指定することができる?」
「子どもたちには遺産相続で揉めてほしくないから、あらかじめ相続の分割方法まで指定しておきたい。」
「遺産相続について分割方法は何種類かあると聞いた。詳しく知りたい。」
遺言書はご本人の最後の意思表示となりますので、ご家族はもちろん、仲の良いご友人に対して財産を譲りたいなど、様々な指定をすることができます。
ご自身の財産をどのように処分するかはある程度自由です。
「この財産は誰に承継してほしい」ということはもちろん、「自分の財産のことで家族が揉めてほしくない。だから、どのように分けてほしい」なんてことを伝えることももちろん可能です。
今回は、遺言書で指定する遺産を分割する方法や、分割方法についてご説明していきたいと思います。
目次
遺言書の書き方は2パターン
まず、遺言書の書き方には『相続分の指定』という方法と『遺産分割方法の指定』という方法があります。
相続分の指定とは?
相続分の指定とは、法定相続分(※1)とは異なる割合の相続分を遺言で指定することです。
○例
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相続分の指定について、民法902条1項に定めがあります。
民法 902条1項 被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
この法律では、
- 共同相続人の相続分を定めること
- 相続分を定めることを第三者に委託すること
この2点をすることができるというものですが、いずれの場合も遺言によって行うことが必要ですので注意してください。
このような遺言が残されている場合、相続人は遺言で指定された割合で遺産を相続することになります。
※1 法定相続分とは・・・
遺言によって相続分の指定がない場合に適用される法律で定められた相続分のことを指します。
- 配偶者と子が相続人の場合 ・・・・ 各2分の1
- 配偶者と父母が相続人の場合 ・・・ 配偶者が3分の2、父母が3分の1
- 配偶者と兄弟が相続人の場合 ・・・ 配偶者が4分の3、兄弟が4分の1
また、子や兄弟が複数いる場合には上記の相続分を子や兄弟の人数で均等割りをすることとなります。
遺産分割方法の指定とは?
遺産分割方法の指定とは、相続人に対して相続の方法を遺言で指定する方法です。
○例 「妻Cに下記不動産を相続させる。長男Dに下記預貯金を相続させる。」 |
遺産分割方法の指定について、民法908条に定めがあります。
民法908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
この法律では、
- 遺産の分割の方法を定めること
- 遺産の分割の方法を第三者に委託すること
- 相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産の分割を禁止すること
この3点を遺言ですることができるというものですが、いずれの場合も遺言によって行うことが必要ですので注意してください。
このような遺言が残されている場合、相続人は遺言で指定された方法で遺産を相続することになります。
遺産分割の方式には、『現物分割』・『代償分割』・『換価分割』といった方法があります。
これらのうち、どの方法を選択するのかを指定するのが本来的な遺産分割方法の指定です。
遺言書の書き方注意点
『相続分の指定』も、『遺産分割方法の指定』も、第三者に委託した場合、委託された第三者は相続分の指定を引き受けないことも自由であるとされています。
第三者が相続分を指定することを拒否した場合、法定相続分による遺産分割が行われることになります。
したがって、明白なご希望がある場合には誰かに頼るのではなく、確実な遺産相続のためにご自身でしっかりと遺言書に相続分の指定を書き残しましょう。
『相続分の指定』と『遺産分割方法の指定』の違いを解説
『相続分の指定』の場合には、相続分の割合のみを遺言で定め、具体的な相続財産の分け方は相続人による協議に委ねることになります。
つまり、『相続分の指定』は相続開始後の『遺産分割協議』が必要となります。
したがって、相続財産に不動産や預貯金が含まれる場合、遺言によって抽象的に「2分の1」と定めがあったとしても、具体的に「どの財産をどの相続人が相続するか」ということについては、遺産分割協議を行わなければ決まりません。
『遺産分割方法の指定』の場合には、遺言者が相続財産の全てについて遺産分割方法の指定を行う場合、相続財産は全て遺言の指定によって分割されます。
つまり、『遺産分割方法の指定』の場合には、相続人は『遺産分割協議』を行う必要はありません。
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遺産分割の方法または種類
相続人は、法定相続分あるいは、遺言で指定された相続分の割合で遺産を相続します。
もし、遺産がお金など、物理的に分けることのできるものだけであれば、各相続分で割ることができるのでわかりやすいです。
しかし、現実に遺産分割の場面になると、不動産や自動車、貴金属などの遺産などもあるため、物理的に割ることが難しいということが多々あります。
そこで、それらの『割ることのできない財産』について、どのような方法で分けるか決めなければなりません。
この、遺産をどのような方法で分けるか決めることを『遺産分割』といい、その方法のことを『現物分割』・『代償分割』・『換価分割』といいます。
現物分割
現物分割とは、各財産をそのまま各相続人が相続する方法です。
○例
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代償分割
代償分割とは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、他の相続人に対して金銭などを対価として支払うような方法です。
○例
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相続財産が不動産などの物理的に分割しにくいものが多く、現物分割など分割しにくい場合に利用されることが多いです。
換価分割
換価分割とは、相続財産を売却して、売却代金を分割する方法です。
○例
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相続財産に自宅などの不動産があるけれど、相続人が誰も住む予定がないというような場合に利用されることが多いです。
遺産分割方法の指定をする場合の文例
相続分の指定、『現物分割』・『代償分割』・『換価分割』それぞれの方法によって相続分を指定する場合の遺言書の文例を紹介します。
現物分割の場合
第1条 遺言者は所有する次の不動産を遺言者の妻A(生年月日)に次の相続分させる。
記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略)
第2条 遺言者は、所有する下記の株式(〇〇証券〇〇支店に預託)を長男B(生年月日)に相続させる。
記 ①横浜自動車株式会社の株式全部 ②神奈川商事株式会社の株式全部
第3条 遺言者は、次の預貯金の全部を長女C(生年月日)に相続させる。
記 ①きゅうり銀行〇〇支店 口座番号1234の遺言者名義の普通預金 ②キャベツ銀行〇〇支店 口座番号5678の遺言者名義の定期預金
令和○年○月○日 氏名 印 |
代償分割の場合
第1条 遺言者が所有する次の不動産を含む下記の財産は、遺言者の長男A(生年月日)に相続させる。
記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略)
第2条 長男A(生年月日)は、前条の遺産を取得する代償として、次男B(生年月日)に対して、金〇〇万円を支払う。
令和○年○月○日 氏名 印 |
換価分割の場合
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を換価処分させ、その換価金から、遺言者の葬儀費用、未払いの債務等、不動産登記費用等の諸費用を控除して支出させ、その残余金を遺言者の長女A(生年月日)に相続させる。
記 土地 所在、番地、地目、地積、持分を記載(ここでは省略) 建物 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分を記載(ここでは省略)
令和○年○月○日 氏名 印
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指定分割と協議分割はどちらが優先?
遺言で遺産分割方法を指定している場合であっても、遺産分割協議がなされた場合、どちらが優先されるのでしょうか?
基本的に、有効な遺言書がある場合には、法定相続よりも優先されます。
つまり、「遺言書があれば、遺産分割協議による分割をすることなく、遺言書に従って遺産分割すべき」ということです。
この意味では、「指定分割は遺産分割協議による遺産分割に優先する」と言えます。
ただし、相続人全員が同意する場合、遺言書とは異なる方法での遺産分割も可能です。
つまり、指定分割が優先するとはいっても絶対的ではないのです。
相続人全員の合意があれば遺産分割協議を行なった上での遺産分割を進めることができるので、この場合には「遺産分割協議による遺産分割が指定分割よりも優先される」ということになります。
「相続させる」旨の遺言の意味について
遺言書には、よく特定の相続財産を「Aに相続させる」という言葉が使われます。
しかし、「相続させる」という言葉の法的意味について、『遺贈(※2)』にあたるのか、『遺産分割方法の指定』にあたるのか争いがありました。
なぜ、このような解釈が問題となるかというと、『遺贈』と『遺産分割方法の指定』とでは、登録免許税(※3)の額が異なっていたのです。
相続させる旨の遺言についての最高裁見解
この点について最高裁判所は、遺言で特定の財産について「相続させる」という趣旨の定めがある場合について、以下のように見解を示しています。
- 特定の遺産を相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかでない限り、遺産分割方法を指定した遺言である。
- 「相続させる」旨の遺言は、他の共同相続人にも効力が及ぶため、遺言の内容と異なる遺産分割の協議や審判はできない。
- 特段の事情がない限り、当該相続人は何らの行為を要せず、被相続人の死亡時に直ちにその遺産を当然に承継される。
つまり、現在では「相続させる」旨の遺言は、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定をした遺言であると解釈されています。
また、この「相続させる」旨の遺言が発見された場合、遺言の内容と異なる遺産相続や遺産分割協議をすることもできず、当然に当該相続人に承継されると考えられています。
このような「相続させる」旨の遺言について、平成30年の民法改正によって『特定財産承継遺言』という名前が与えられています。
※2 遺贈とは
遺言者が死亡した場合に、遺産の全部または一部について、特定の者に対して贈与することを生前の意思表示として遺言に残すことを指します。
※3登録免許税とは
不動産登記にかかる登記手数料のことを指します。
遺言書で分割方法を指定する際のポイント
- 遺言でどのような分割をしてほしいという分割方法を指定することができる。
- 希望がある場合には遺言を作成して指定することが有効。
- 分割方法には『現物分割』・『代償分割』・『換価分割』の3パターンがある。
- 指定をしていても相続人全員の同意で指定方法とは違う相続が可能。
将来、遺産相続に備えるには、遺言書を作成しておくことが有効であると考えられます。
その中でどのような相続をしてほしいと記載することはご本人のご希望に添った遺産相続が可能となりますので、遺産分割方法なども指定しておくことをおすすめします。
しかし、遺言で指定された分け方が元で相続トラブルになるケースもあります。
遺言書はご本人の希望が何よりも優先されるべきものですので、秘匿性は重要であると思いますが、トラブルを避けることはもちろん、ご本人のご希望に沿った遺産相続のために相続人全員が納得しやすい内容の指定をすることが大切です。
そのためにも、可能であれば相続人を交えてあらかじめ話し合いの機会を持ってみてはいかがでしょうか?
<参考文献>
・新井誠・岡伸浩 編 日本評論社 『民法講義録』
・潮見佳男著 有斐閣 『民法(全) 第3版』
・常岡史子 著 新世社 『今日の法学ライブラリ 家族法』
・神余博史 著 自由国民社 『国家試験受験のための よくわかる民法 第9版』