遺言書を故意に破棄したり隠したりした場合はどうなるの?意外と気になることですよね。
民法ではこのような場合に備えて、相続欠格という制度がありあります。
そこで今回は、遺言書を故意に破棄した場合の相続人の問題を行政書士の監修のもと、探偵物語風の形式で解説します。
こんにちは、あるいは、こんばんは。
名探偵として知られる明智小五郎先生の事務所で働く、助手の小林です。
最近、先生が「探偵たるものスパイにも学ばなくてはいけない」と言い出して、最近話題の人気スパイアニメばっかり見ているので、ついぼくにも主人公の挨拶グセが移ってしまいました。
さて、探偵とスパイには共通するところがありましてね。まあ、かいつまんで言うと、隠しごとを暴くというものです。
なんでこんな話をしているかというと、今日の相談者の方からの相談テーマがまさに隠しごとについてだからなんです。
なんでも「遺言書を遺したいが、家族が隠したり捨ててしまったらどうなるの?」というご不安をお持ちなのだとか。
まあ、間違って捨ててしまうということは想像しやすいですが、家族が遺言を隠すなんて…と思われるでしょう?
でもこれも、あながちない話じゃないんです。ということで、そろそろお越しになる頃合いですが…あ、いらっしゃいましたよ、明智先生。
目次
遺言書にまつわる悪質な行為とは?
相談者「恐れ入ります。突然このような相談をしてしまって…」
小林「いえいえ、遺言書を遺したいが、家族が隠したり捨てたりしないかご不安とのことでしたよね」
相談者「ええ。杞憂かもしれないですが、私が遺言を遺したことで、トラブルが起きないか心配になってしまって」
明智「なぜそう思うようになったのかね? もしかして映画「八つ墓村」でも見たかね?」
小林「あのね、先生。そんな単純なわけないじゃな…」
相談者「はい」
小林「それかい!」
明智「うむ。あれは名作だな。特にスケキヨが現れたときの…」
小林「先生、話が先に進みませんよ。まあ、遺言書の中身が必ずしも発見した相続人などにとって、有利な内容とは限りませんから、大きく分けて3つの悪質な行為が考えられるんです」
- 遺言書を故意に隠匿
- 遺言書を故意に破棄
- 遺言書を偽造する行為
遺言書を故意に隠匿
本来自筆証書遺言が見つかったら、遅延なく家庭裁判所に提出しなくてはならない。遺言書の存在を相続人に知らせ、家庭裁判所にて中身をチェックする検認する必要があるから。こうした手続きをせずに、遺言書を隠匿するケースもある。
遺言書を故意に破棄
遺言書の存在を知られたくない人が、遺言書を捨てたり燃やしたりしてしまう。遺言書を隠滅する行為。
遺言書を偽造する行為
相続人にとって不都合な内容があったり、都合の良い内容にしたい場合は、偽造されるケースもある。また、被相続人を装い、偽造遺言書を作成して相続財産を独占したり、特定の相続人に財産が渡されないよう画策されるケースも。
小林「人間の世ですから、悲しいかな、欲望に負けてしまうこともないとは言い切れないですよね…」
明智「ふん。そんなものは、この明智が一目見ればすぐに看破できるがな」
相談者「そういう悪いことをする人に罰則のようなものはないんですか?
遺言書の隠匿や破棄にペナルティはある?
小林「遺言書を隠匿したり破棄、偽造をするような行為は非常に悪質ですから、それなりの処罰はあります。相続欠格になってしまうんです」
相談者「どういうものでしょうか?」
相続欠格となり相続人の地位を失う
小林「例えば相続財産の承継を目論んで家族を殺害しようとしたり、詐欺・強迫などの行為で遺言書を無理に作成・取消などをさせた場合に、相続人としての権利を失うわけです」
相談者「つまり本来相続権を持っているはずなのに、相続できなくなるわけですね。そりゃ妥当だな」
小林「ただし、すべての遺言書の隠匿や破棄が相続欠格につながるわけではないんです」
相談者「えっ、逃げ道があるってことですか?」
遺言書を過失で破棄や偽造した場合は相続欠格にならない場合もある
小林「逃げ道ではなく、「パパは生前に相続をこうしてほしいと言っていた。でも遺言書は違う内容だからパパの言っていた通りにした」などの理由で悪意なく偽造してしまったなどの行為ですね。この場合は、相続欠格とまではならないという判例もあるんです」
相談者「難しいところですね」
小林「でも基本的には隠匿・破棄・偽造はタブーであることは間違いないですからね。刑事事件に発展することだってあるんですから」
相談者「罪に問われるということですね」
遺言書を破棄したり改ざんしたりした場合は別の罪に問われる可能性
小林「はい。法的な効力がある遺言書に悪質ないたずらをするような行為は、「有印私文書偽造罪」や「私用文書等毀棄罪」などに該当します。被害届や刑事告訴を行うことで、警察による捜査が行われる可能性があります」
明智「そして、警察でも手に負えない厄介な事件は、名探偵であるこの私に…」
小林「来ないです。警察の捜査力はすごいんですから」
相談者「もしも、ですよ? 偽造された遺言書が使われてしまったらどうなるんです?」
小林「別の方が偽造した遺言書は効力を持ちません。もしも行使される事態となったら、「遺言無効確認の訴え」を提起することも考えられます」
明智「もしくはこの私が犯人をとっ捕まえてフルボッコに…」
小林「それこそ刑事事件じゃないですか! ダメですよ! …ともかく、おかしなことをされないように、しっかりと保管しておくに越したことはないですね」
自筆証書遺言を隠匿や破棄されないための保管方法
小林「ちなみに、もう遺言は書かれたんですか?」
相談者「いえ、まだです。自筆証書遺言と公正証書遺言どちらがいいか迷ってて」
小林「遺言書を残したいご本人がすべて作成を行う自筆証書遺言は、自宅保管が多いですが、そのぶん隠匿や破棄のリスクは高まりますね。しかも、自分しか保管先を知らないと、見つからないまま遺産分割協議が終わる可能性もあります」
合わせて読みたい:遺言書を作成する場合は、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを選べばよいのか?
相談者「自筆証書遺言の保管方法は他にどんなものがあるのでしょう?」
小林「メモにしてみました。このあたりでしょうかね」
自筆証書遺言の保管方法
- 自分で保管又は貸金庫で保管
- 自分以外の人(相続人となる可能性がある方など)に預ける
- 遺言書保管制度の利用(法務局で管理・保管)
- 行政書士などの士業に預ける
相談者「なるほど。行政書士など専門家に預けるのがよさそうですね。公正証書遺言のほうはどうですか?」
小林「ご存じの通り、公正証書遺言は公証役場にて証人2名が同席し、遺言内容を公証人が確認した上で、遺言書作成も公証人が筆記する方法です。公証人が作成を行うため、信頼性が高いのが特長ですね。保管という点でも安心できます」
遺言書作成の際は改ざん等されないように公正証書遺言がベスト
相談者「となると、やはり公正証書遺言ですかね。でも、できれば人生の締めくくりとなる遺言書は自分で書き、死後に明かしたいという思いもあるんです」
小林「それであれば、秘密証書遺言という方法も考えられますよ」
明智「うむ。秘密のアッコちゃんだな」
小林「あえて拾いません。秘密証書遺言は、自分で作成・封印までを完了させた遺言書を、公証役場で署名押印した上で保管してもらう方法です。内容を誰にも知られることなく、遺言書の存在だけを公証役場に知らせることができます。偽造の防止には特に効果的でしょうね。ただし隠匿などのリスクを避けるために、保管は遺言書保管制度などを使ったほうがいいでしょうけども」
相談者「なるほど。ここまでわかれば対策も見えてきますね。ありがとうございます」
明智「まあ、もしよからぬ輩が出てきたとしても、この明智がいれば、すぐに解決するから。そういう意味でも安心したまえ」
小林「だから事件になる前に防止したいんですってば。ともかく、しっかり検討してみてくださいね」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:遺言書を隠したり破棄した場合はどうなるの?相続欠格について行政書士が解説!