遺言書を書いて特定の人に財産を渡したい、そんなことはよくあると思います。しかし、遺言書で財産を渡す時は曖昧な言い方をすると効力が生じないこともあります。
そんな中、遺言書で「委託します」というような曖昧な言葉で書いた場合はどうなるでしょうか。
今回はこの曖昧な言葉で書いた場合の遺言書の効力を「童話風」に解説していきます。これから遺言書を作成しようと思う方は、ぜひ最後までご覧ください。
むかしむかし、あるところに三匹のこぶたがいました。石の家、木の家、ワラの家をそれぞれ作って育った兄弟ぶたたち。
隣村に住む赤ずきんちゃんと漁師さんの協力もあり、自分たちを罠にはめようとしたオオカミを見事に撃退!
その後、行政書士の資格を取得した赤ずきんちゃんたちに、遺言のさまざまなことを教えてもらいながら、幸せに暮らしていました。
そんなある日のこと。
兄ぶた「ねえねえ、赤ずきんちゃん。ひとつ質問していいかな?」
赤ずきん「もちろん」
兄ぶた「遺言書の言い方があいまいで、いくつかの意味に解釈できるような場合はどうなるんだい?」
赤ずきん「それではまず遺言書のおさらいからしていきましょう」
目次
遺言書は遺言者の最終意思の効果として優先される
遺言書は、亡くなる方の最終の意思表示の効果として、遺産相続で一番優先されるものになります。
赤ずきん「遺言書は遺言者の最終の意思の効果。これはみんな知ってるわよね?」
弟ぶた「そうだよね。じゃないと書く意味なくなっちゃうし」
末っ子ぶた「それこそ仁義もへったくれもねえってもんでさあ」
兄ぶた「赤ずきんちゃん、ごめんね。末っ子はこないだ『清水の次郎長』の映画を見て、感化されてんだよね…」
赤ずきん「シブ(笑) まあ、仁義どうこうより、遺言書がないと遺産分割協議をすることになるから、なかなか大変なのよ」
弟ぶた「それ、確か、相続人が全員参加して遺産の分け方について話し合うって協議だよね」
赤ずきん「そう。全員の合意が必要になるから、ひとりでも欠けたらアウトね」
合わせて読みたい:遺産分割協議が対立してしまう理由とは?行政書士が対策も含めて解説!
末っ子ぶた「だったら、みんなが揃うまで、のんびり昼寝でもして待っていればいいじゃないか」
赤ずきん「そういうわけにはいかないのよ。期限があるものとして相続税の申告・納税は死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に終わらせなきゃいけないの」
兄ぶた「そんな期限があるんだね」
赤ずきん「皆忙しい合間を縫って協議することになるし、そもそも遠くに住んでいる相続人がいたら、予定を合わせるだけで時間がかかっちゃうこともあるわ」
末っ子ぶた「こいつァ、てえへんでえ!」
遺言の内容が不明瞭だと争いの原因に
遺言書が残されていても、文言が不明瞭だと逆効果になることも。文言の解釈をめぐって争いがおき、せっかく遺してくれた遺言の意味がなくなってしまうかもしれません。
自筆証書遺言で、「任せる」とか「委託する」などのあいまいな言い方をしてしまうケースはよくあります。でもこれは避けなくてはトラブルに発展する恐れもあるのです。
遺言文言が曖昧な場合はトラブルに発展の恐れ
赤ずきん「もうひとつ、てえへんなことがあるわ」
末っ子ぶた「なんでえ? 姐さん?」
兄ぶた「誰が姐さんや」
赤ずきん「それこそ解釈が違うと、争いになってしまうこともあるの…」
末っ子ぶた「出入りですかい、姐さん?」
赤ずきん「めったなことを言うもんじゃないよ、森の石松。これ以上、ホトケさんを増やしてどうするってんだい」
弟ぶた「赤ずきんちゃんまでノリノリになってきたよ…」
兄ぶた「ふたりとももういいから…」
赤ずきん「ごめんね、ちょっと楽しくなっちゃった(笑)でもまあ、争いは起こしたくないわよね。遺言は本人の死亡によって発効するから、遺言書の文言の意味を本人に聞くこともできないからね」
兄ぶた「文言が不明瞭って、例えばどんなケースがあるんだい?」
遺言文言で任せますや委託しますは使わない
赤ずきん「よくあるのは、「任せる」とか「委託する」と書いちゃうことね」
弟ぶた「任せると書いたのなら、任せた結果を尊重するってことじゃないのかい?」
赤ずきん「でもね。遺産をあげるという意味なのか、それとも遺産分割の手続きを任せるという意味なのか、文面だけでは判断できないでしょ」
弟ぶた「確かに」
赤ずきん「当然遺産をもらえると思っている相続人がいたら、これは遺産をあげるという意味だと主張するよね」
兄ぶた「でもそうではない人は、単に遺産分割の手続きを任されただけと解釈してもおかしくない」
赤ずきん「そう。どう分けるかは話し合いによるべきだと主張するでしょうね」
末っ子ぶた「でも最終的には、話し合いでうまく決着がつけられればいいじゃないか。なんだか大げさだなあ」
赤ずきん「でも実はこれにはもうひとつ落とし穴があるのよ」
兄ぶた「…なんだい、こわいな」
赤ずきん「争いがあったり、争いになりそうな遺言書の場合は、後々のトラブルを恐れて金融機関が本人名義の預金を解約してくれないかもしれないの」
弟ぶた「ひゃー、それ大問題じゃん!」
遺言に「委託する」という文言で争いになったケース
不明瞭な遺言により争いになり当事者間で解決が難しい場合は、裁判所に判断を仰ぐことになります。過去には、遺言書の文言のみで判断せず、前後の文との関係や遺言書作成当時の本人の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を総合的に判断すべきとの判例が出ています。
赤ずきん「例えばこんなケースが想定できるわ。あくまでフィクションだけどね」
- 兄ぶたが「預貯金を弟ぶたにすべて委託する」という内容の自筆証書遺言を作成した
- 兄ぶたの死後、弟ぶたは遺言書をもって兄ぶたの預金口座がある銀行で預金解約しようとした
- しかし、銀行の判断は「解約、NONONO!」、「ちょ、待てよ」と頭を抱える弟ぶた
- 銀行は他の相続人から「何でこの遺言でBに預金を支払ってしまったのか」とクレームが来て紛争に巻き込まれることを恐れた
- 「そんなの関係ねえ!」と弟ぶたは、「預金を支払え」という判決を求めて裁判所に訴えを起こした
弟ぶた「なんだか、ぼく、どんなイメージなの…?」
赤ずきん「フィクションだから、フィクション(笑)」
兄ぶた「で、裁判ではどうなったの?」
赤ずきん「そもそも委託って、一般的には人に頼んで代わりにやってもらうことという定義だよね。ってことは、預貯金の清算をやってもらうという解釈もできれば、預貯金を自分で取得してもよいと解釈もできる」
末っ子ぶた「言葉って難しいよね」
赤ずきん「遺言書の中には具体的にどういう事をやってもらいたいかの記載はないので「代わりにやってもらう」だけだと解釈するのは強引でしょ」
兄ぶた「そうだね」
裁判所は遺言者の状況を考慮して預金払い出しを命じた
赤ずきん「ここで、兄ぶたさんと弟ぶたさんの関係性が問題になってくるのね。遺言書作成当時、兄ぶたさんは弟ぶたさん以外の相続人と疎遠だった。え、弟ぶたさんに生活の面倒を見てもらっていたから、「弟ぶたに財産を残したい」と話していた」
末っ子ぶた「おいらだって、そばにいるぞ!」
赤ずきん「本当はね、たとえ話よ」
兄ぶた「裁判所はその関係性も考慮して判決を出したということだね?」
赤ずきん「そう。裁判所は、兄ぶたさんの真意は、弟ぶたさんに預貯金を遺贈することだとわかると判断して、銀行に預金支払いを命じたの」
弟ぶた「じゃ、任せると書いたケースでも、似たような解釈違いが起きることもあるわけだね」
遺言書はトラブルが少ない公正証書で作成する
赤ずきん「そうね。相続人の関係性にもよるけど、遺言書の文言が不明瞭だと、どんなトラブルが起きるかわからないわ。だから、ちゃんと書かなくちゃいけないの」
兄ぶた「ちゃんと書くといっても、言葉選びを間違えないようにするのも大変だなあ」
赤ずきん「そうならないように、社会的な信用も高く、公証人が作成してくれる公正証書遺言が安心ね。文言が問題になることもないから」
末っ子ぶた「それがいいね」
赤ずきん「あと大事なのは、事前に専門家に相談すること。遺言書の草案を作ってから公証役場に持ち込むようにすれば自分の意思がしっかり反映されているかの確認もできるでしょ」
兄ぶた「だったら、赤ずきんちゃんにお願いするのが一番だね! 行政書士になったんでしょ?」
赤ずきん「そうよ。任せてくれたら最高のものを書いてあげる!」
末っ子ぶた「目指せ、芥川賞だね!」
兄ぶた「お前は何を書かせようとしてんだ?」
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