「なにやら、遺言書の種類で特別なものがあると聞いたけど」
「遺言書を作らなければと思っていたのに、大病発覚!即入院!どうしよう?」
「船旅に出たら船が座礁・・・遺言を残したいのにどうしたらいいの?」
日々、「あれをやらなければ・・・」、「これやらなければ・・・」と思いつつ、つい遺言作成が後回しになってしまうことは多くありますね。
遺言はとても大切なものですが、自分はすぐに亡くなるわけではないと考えて、そのうちに・・・と考えている場合もあると思います。
ただ、人生何が起こるか誰にもわかりません。
昨日まで元気だったのに突然大病発覚!
海外旅行に出かけたのに飛行機の中でハイジャックに遭遇!
なんてこともあるかもしれません。
遺言を作成しようと思っていたにもかかわらず遺言書を作成する余裕もなくなってしまった!でもどうしても作成したい!
大事なことだからこそ緊急事態であっても諦めなくても良い方法を知っておきたいですね。
今回は、どんな緊急な状況であっても生きている限り遺言を残す方法についてお話しします。
目次
遺言には『普通方式の遺言書』と『特別方式の遺言書』がある
『遺言』といっても遺言にはいくつかの種類があります。
遺言は大きく分けて2種類の遺言の形式に分かれます。
『普通方式の遺言書』と『特別方式の遺言書』です。
普通方式の遺言と特別方式の遺言は、必要となる要件や状況など、さまざまな違いがあります。
普通方式の遺言は、ゆっくり時間をかけて内容を検討して作成することができます。
また、特別方式の遺言書と大きく違う点は、普通方式の遺言には有効期限がないことです。
一方、特別方式の遺言は命の危機が迫っている状況で、緊急の場合に作成することができます。
特別方式の遺言は遺言者が普通方式の遺言ができるようになってから6ヶ月間生存している時は、特別方式の遺言は効力を失うことが特徴です。
普通方式の遺言は3種類
普通方式の遺言は3種類あります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
一般的に利用されるのは『自筆証書遺言』と『公正証書遺言』の2種類です。
遺言書は遺言者の最後の意思表示であるため、作成には厳格な要件が要求されます。
それぞれの要件を満たしていないと原則として有効な遺言書と認めてもらえない可能性があることは覚えておきましょう。
自筆証書遺言
遺言書の全文、作成の日付け、氏名を遺言者が自書し、捺印する方式
合わせて読みたい>>自筆証書遺言書の正しい書き方|失敗例から注意点を学ぼう!
公正証書遺言
証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、それを公証人が筆記し、遺言者と証人に読み聞かせをして遺言者と証人が各自、署名押印する方式
合わせて読みたい>>公正証書遺言は自分で作れる!実際の作成方法や流れを行政書士事務所が解説
秘密証書遺言
遺言者が、その証書に署名押印したうえ、証書に封をし、その証書に用いた印章で証書に封印をし、これを公証人と2人以上の証人の前に提出し、自分の遺言書であることを申述
公証人が提出年月日と遺言者の申述を封書に記載して遺言者、証人、公証人が各自署名押印する方式
※秘密証書遺言の要件を欠く場合であっても、自筆証書遺言の要件を満たしていれば自筆証書遺言として有効な遺言となります。
遺言書は遺言者の最後の意思表示であるため、作成には厳格な要件が要求されます。
それぞれの要件を満たしていないと原則として有効な遺言書と認めてもらえない可能性があります。
特別方式の遺言は4種類
特別方式の遺言は、緊急状態において普通方式よりも緩和された要件で遺言の作成を認めるものです。
- 死亡危急者遺言
- 伝染病隔離者遺言
- 在船者遺言
- 船舶遭難者遺言
それぞれの特徴について解説します。
死亡危急者遺言
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫られた人が、3人以上の証人の立ち会いを得て、その一人に遺言の趣旨を伝えることで遺言をする方式が死亡危急者遺言です。
<死亡危急者遺言の要件>
遺言の趣旨を伝えられた人は、それを筆記して遺言者と他の証人に読み聞かせ又は閲覧してもらい、各証人が筆記の正確なこと承認した後、これに署名押印します。
この方式は自筆でも代筆でも構いません。
死亡危急者遺言が作成された場合、20日以内に家庭裁判所で検認手続きを受けなければなりません。
家庭裁判所で行われる検認手続きとは、提出された遺言が遺言を残す人の真意であると確認するための手続きです。家庭裁判所による確認を要件とすることで、口頭で行った遺言について遺言者の真意を確保し、遺言書の偽造や変造を防ぐことを目的としています。
参考:家庭裁判所HP
期間内に手続きを受けなければ無効となる可能性がありますので注意してください。
伝染病隔離者遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にいる人が遺言をしようとする場合、警察官一人、及び証人一人以上の立ち会いのもとに遺言書を作る方式です。
<伝染病隔離者遺言の要件>
作成した遺言書に遺言者、筆者、立会人及び証人が各自署名し、押印します。
署名又は押印ができない場合には、立会人又は証人がその事由を付記しなければなりません。
伝染病隔離者遺言の方式では自筆で遺言書を作成しなければならないので注意が必要です。
しかし、本人が作成しているため家庭裁判所での検認手続きは不要となっています。
伝染病隔離者遺言の形式は、『伝染病隔離者』に関するものとして民法977条に規定されています。
しかし、この方式の趣旨は、外の人との交流を遮断された人は公証人の関与による公正証書遺言や秘密証書遺言を作成することができないことを考慮されたものと言えます。
そのため、伝染病隔離者遺言は、公正証書遺言や秘密証書遺言に代わる特別方式としての遺言として、隔絶地遺言として規定されています。
したがって、地震洪水などの災害によって交通が遮断された場所にいる人もこの形式によって遺言を残すことができます。
特別方式の遺言は死期が迫るなど緊急の状況において認められることが多いですが、伝染病隔離者遺言の形式による遺言は、遺言者が死亡の危急に迫っていることは要しません。
在船者遺言
船舶中に居る場合、船長または事務員一人及び証人二人以上の立ち会いによって遺言書を作る方式が在船者遺言です。
<在船者遺言の要件>
作成された遺言書に、遺言者、筆者、立会人及び証人の署名と押印が必要となります。
この在船者遺言は自筆である必要があります。
しかし、本人が作成しているため後日家庭裁判所での検認手続きは不要です。
この方式は在船中のため交通を遮断されている人のためのもので、伝染病隔離者と同様の趣旨から規定されたものです。
この形式も遺言者が死亡の危急に迫っていることは要しません。
船舶遭難者遺言
在船中の船舶が遭難し、当該船舶中で死亡の危険が迫っている場合に、証人二人以上の立ち会いにより口頭で遺言をする方式が船舶遭難者遺言です。
<船舶遭難者遺言の要件>
本人か証人が遺言の内容を筆記し、これに署名押印することを要します。
自筆できない場合には証人による代筆も可能です。
さらに、家庭裁判所の検認手続を得る必要があります。
この場合も家庭裁判所の検認手続を得なければ、その遺言は効力を生じません(979条3項)。
ただ、死亡危急者遺言とは異なり、すぐに家庭裁判所で手続きができないケースが多く、期限は設定されていません。
危機が去って速やかに手続きを行えば、遺言の効果は維持できます。
名前は「船舶遭難者遺言」となっていますが、航空機の遭難の場合にもこの船舶遭難者遺言が利用できると考えられています。
遺言書の証人や立会人の指定について
遺言書の作成には、自筆遺言証書を除く6種類の遺言は証人の立ち会いを必要とします。
また、以下の場合にはそれぞれ証人の指定があります。
<必要となる証人> |
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成年後見人とは精神上の障害により、事理弁識能力を欠いている人です。家庭裁判所の後見開始の審判を受けることで成年被後見人となります。
※立会人とは、単に立ち会う人のことを指します。
以下の人は、証人及び立会人にはなれません。
<証人と立会人になれない人> |
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公証人の関係者や相続人など、利害関係人が証人や立会人になってしまうと、不備や不正を見逃してしまう可能性や、公平性に欠ける可能性があることから証人や立会人になることができないとされています。
証人や立会人になれない人の指定はあります。
しかし、遺言の作成に際してこれらの人たちが同席していたとしても遺言の内容が左右されたり、遺言者の真意に基づく遺言の作成を妨げるような特段の事情がない限り、遺言は無効となるわけではありません。
特別方式の遺言書の有効期間に注意
特別方式の遺言をした遺言者が普通方式の遺言を行うことが可能となった場合、その時から6ヶ月間生存している場合には、特別方式によってなされた遺言は効力を失います。
遺言書を作成するためには、本来厳格な要件を必要とします。
遺言書の効力は遺言者が亡くなった後に効力を発生するものなので、遺言者の真意は遺言書の内容で判断する以外に方法がないからです。
特別方式の遺言は、緊急の場合を考慮して本来規定されている遺言書の要件を緩和した要件で遺言を可能とするものです。
遺言者が普通方式の遺言をすることが可能となったにもかかわらず特別方式の遺言の効力を維持することは後の紛争につながりかねないという考慮から有効期限を設けています。
一度作っているからといって安心することはできませんね。
危険が去った場合、まずは安心して体を休め終えたら、先延ばしにするのではなくこの機会に遺言の作成をし直すことをおすすめします。
遺言はいざというときに備えてお早めに
遺言書は遺言者の最後の意思表示となるもので、ご自身にとっても、ご家族にとっても、とても大切なものなのです。
人生は何が起こるかわかりません。
いずれやろうと思っているうちに書けない状況に陥るなんてこともあり得ます。
そんなときでも遺言を残すことは可能です。諦める必要はありません。
ただ、緊急の際であってもこのように遺言を残すことは可能ですが、有効期限があることや、証人や立会人を必要とすることなど、さまざまな難点もあります。
早く作成しすぎて事情が変わったなんてこともあるかもしれませんが、遺言書は何度でも書き直すことはできます。
むしろ、生活の変化に合わせて見直していくことが望ましいとされています。
遺言書はとても大切なものですので後回しにすることなく、早めに準備して万全な遺言を用意することをおすすめします。
遺言書の作成についてご心配なことや不明点がある場合には一度長岡行政書士事務所へご相談にいらしてみませんか?
相談者様の意思に添えるように、ご安心いただけるように、精一杯ご協力させていただきます。
<参考文献>
・常岡史子著 新世社 『家族法』
・潮見佳男著 有斐閣 『民法(全)』